大学・社会24時

『大学ランキング』小林哲夫が追う『大学改革』 第4回 高知工科大学

先駆的な改革で『人が育つ大学』創りを 進める高知工科大学のとりくみ

このシリーズは、朝日新聞出版『大学ランキング』編集部の小林哲夫氏が 大学改革とそれを通して学生が成長する姿をインタビュー記事により紹介することを狙いとしています。 第4弾の今回は、オープンな環境のもと、全国でもいち早く4学期制を導入し 実力ある学生が育つ高知工科大学ならではの狙いと取り組みについて 佐久間健人学長と2人の学生の方に伺いました。

佐久間 健人 学長

佐久間 健人 学長

高知工科大学 学長・副理事長
東北大学工学部卒業
東京大学教授、大学評価・学位授与機構教授を経て、2005年より高知工科大学勤務、東京大学名誉教授

出席者

  • 佐久間 健人 学長
  • 中村真也さん 情報学群3年
  • 安藤良樹さん 情報学群3年

インタビュアー

  • 小林哲夫氏 『大学ランキング』編集部

サブインタビュアー

  • 毎田伸一氏  全国大学生協連常務理事

「日本にない大学」 「人が育つ大学」

『大学ランキング』編集部
小林哲夫氏

情報学群3年
中村真也さん

情報学群3年
安藤良樹さん

 高知工科大学が掲げるキャッチフレーズである。これらを象徴する教育システムがクォーター制だ。

日本の大学は通年制が主流である。一つの科目を1年間通して学ぶ制度だ。ところが、1990年代に入ってから、年間を2学期に分けるセメスター制を導入する大学が増えた。1年を2期制(半年)に分け、週1回の授業を行うもので、集中的に学ぶことによって知識や技術を修得できるというメリットがある。これを、さらにもう半分短くしたのが、1年を4期制(約3カ月)に分けた、クォーター制である。

高知工科大学は1997年の開学当初からクォーター制を取り入れた。今でこそ、早稲田大学、東京大学などが掲げるようになったが、90年代、日本の大学でクォーター制を採用した大学はほとんどない。そういう意味で、高知工科大学は先駆けとなり、「日本にない大学」だった。

クォーター制によって、一つの科目を8週間(週2回の授業)で完結させることで、より集中度を高めた授業を行う。このような短期集中型は学生にハードな勉強を課し、もちろん、試験も厳しい。これをこなすことによって、学生は相当な実力がつく。教員の面倒味の良さとも相まって、高い就職実績につながっている。「人が育つ大学」とアピールする根拠である。

佐久間健人学長が話す。

「クォーター制のほか全科目選択制など、他大学にないシステムをたくさん取り入れました。学生からすれば、クォーター制は短い期間で集中して特定分野の学問を学べる。教員にとっては、うまく期間を調整すれば、たとえば外国に出かけて最先端の研究に取り組めるなどのメリットがあります」

問われる教員の教育力

「人が育つ大学」を作るためには、教員に高い教育力が求められる。教える技術も大切だが、教員の姿勢が問われる。佐久間学長が続ける。

「学生の能力を引き出す。そのための教え方に、画一的な方法はありません。いろいろな方法があります。大切なのは、教員が自分の講義にどれくらい情熱を注いでいるかです。一生懸命教えようとする姿勢が、学生に伝わらなければなりません」

一般論として、大学の中には退屈してしまう講義もある。その多くは学生とのコミュニケーションがうまく取れないことだ。そこで、佐久間学長は双方向講義の重要性、それによって教員と学生が近い距離にあることの意義について、こう訴える。

「90分、教員が一方的にしゃべったまま講義が終わるのは、いい方法とは思えません。教えている最中、学生がどのくらいこっちを見ているかは、教員は気をつけるべきです。そして、大切なのは、学生の意見を聞くことです。学生との対話がまったくないまま講義が終わってしまう。学生は本当に講義を聞いているかわからない。学生が寝ていても、教員がただ話しているだけ。これは教育ではありません。教員の話が、学生にどれだけ伝わったか。そのためには学生とのディスカッションが大切になります。つまり、学生の積極的な授業参加が求められるわけです」

なぜ、勉強するのかという、根源的に問いかけについてはこう話す。

「勉強の基本は知的好奇心です。知的好奇心を刺激しないメニューを投げかけたところで、学生は単位を取るためにお付き合いでしか勉強しません。大学ではそんな教育はやめましょう、彼らが学びたいように教育を変えていきましょうと、そして、さまざまな能力を持った学生の能力をつぶさないように講義しましょうと、教員に話しています」

今進めている教育改革

高知工科大学は1年半前から教育改革をすすめてきた。

その一つとして、今年4月から、すべての講義をビデオで撮影して、それを学内で見られるようになった。教員がほかの教員の講義を見て、ファカルティ・ディベロップメントとして活用するわけだ。「教員にすれば、自分がいちばん良い講義をしていると思うものです。ところが、他の教員も講義を見ると、『こんなに良い方法があるんだ』と、新しい教え方を発見することができます」 多くの大学で、自分の講義を他人に見られることに抵抗を覚える教員が少なからずいる。だが、高知工科大学は、開学以来、教員評価をさんざん行ってきたので、講義内容のオープンはスムーズに行われている。

これまで、大学では工学部基礎科目とし材料力学、電子回路、電磁学など、古典的な工学系科目が1年時からの履修となっていたが、いま、教育改革の一つとして、その見直しもはかられている。

たとえばシステム工学群を卒業して、将来、企業などでの研究施設において材料力学、あるいは電子回路の分野で、仕事に役立たせる人は少ない。大学では、このような専門科目を1年から4年まで教えるより、研究者、技術者にとって、もっと大切なことを教えるべき、というのが佐久間学長の考え方だ。

「科学、技術が社会にどのような影響を与えてきたかを学ぶ。科学史、技術史をとおして、さまざまな分野でどのような科学、技術が成功して、なにが失敗したのか。その原因、背景を知ることが、科学者、技術者にすればものすごい力になります。こうした歴史も知らないで、技術開発のような仕事に就いたら、過去に起こった失敗を繰り返します」

科学者、技術者はそれぞれの専門分野を極めるだけではだめだ。社会との関わりを考えなければならない。技術者の意識が低く、小さなミスの積み重ねで大きな事故が起こることもある。東日本大震災による原子力発電所の事故では、原子力分野の技術者のあり方が問われた。一方で、せっかくの新しい技術も多くの人に伝わらなければ、宝の持ちぐされとなる。いわば経営センスが必要だ。佐久間学長が説明する。

「技術者倫理の講義を行うようになりました。技術者が持つべき倫理をしっかり身につけ、環境破壊など社会にとってマイナスになるようなことを防がなければなりません。そして、経営、経済の基本も勉強すべきだと思います。新しい技術で作られた、すばらしい製品が売れるとは限りません。どのように人々の手に渡るかを学んでほしいものです。技術革新で長い期間をかけて開発して得られる利益と、ヘッジファンドのようなもので得られる利益とは全然違います。このことは、ぜひ、知ってほしいものです」

学生の受けとめは?

高知工科大学のこのような教育理念、方針、制度は学生に伝わっているようだ。

情報学群3年の中村真也さん(岐阜県立大垣商業高校出身)は、クォーター制を次のように捉えている。

「週1回の通年制や2期制(セメスター)に比べると、週2回のほうが、教員と接する機会が増え距離感が近くなる。そして、知識の習得では、以前学んだことをすぐに復習して、その週のうちに学び直して次に進んでいくので、頭にしっかり入る。自分のなかで知識が定着するスピードが速いと感じています」

修得する科目がたくさんあるので、通年制よりも試験の回数は多くなる。

「1回の試験の量は2期制の半分になり、試験の重みが少ない分、短期集中型で勉強でき、理解を深めてくれる。また、もし、ここで単位を落としても、通年制、2期制よりも、再チャレンジする機会が多いので不安を感じることなく、頑張れる。それがメリットだと思います」

情報学群3年の安藤良樹さん(岐阜県立大垣商業高校出身)はこう話す。

「週2回では授業を受ける間隔が短いので、前に学んだ内容はだいたい覚えている。特に数学の高度な分野は毎回毎回つながりが出てくるので、1週間空くと忘れてしまうことがある。でも、その週のうちに授業を受けていれば、ノートを少し見るだけで思い返せます。これが私にとって一番大きい」

試験の内容や範囲は、通年制に比べて盛りだくさんにはならない。それゆえ、試験勉強に対応しやすく、知識の修得も進むという受け止め方である。

佐久間学長が、高知工科大学の特徴とする教職員と学生の近しい距離について、安藤さんはこう説明する。

「たとえば、英語の授業で、教員がリーディングで、学生一人ひとりの横に、『どんな感じですか』と、語学力の進捗状況を確認してきてくれる。わからないことがあったら、一対一で教えてくれる。工学系の授業でも、面倒見が良い教員がたくさんいます」

中村さんは進路指導で距離の近さを感じる。

「教員、就職支援課の職員がインターンシップや就職活動に必要なことをきめ細かくアドバイスしてくれる。面接を受けるにあたっての心構えなどは、とても参考になります」

大学の研究室はガラス張りになっている。それゆえ、学生は教員の様子をうかがうことができる。オフィス・アワーでは声をかけやすい。なかには、研究室に在室時はいつでも質問OK、という教員もいる。

佐久間学長が次のように誇る。

「ガラス張りに象徴されるように、大学の大きな売りは、オープンということでしょうか。教員と学生の垣根はありません。建物の設計上、教員が学生と話し合える小さなスペースが研究室以外にいくつもある。学長と教員も、まわりが聞いたら驚くような、ずいぶんフランクな会話をします(笑)」

高知工科大学は公設民営大学として誕生した。当時、県内には工学系の学部がある大学はなかったので、地元からとても歓迎された。機械や電機などものづくりが好きで優秀な高校生が、安心して地元の大学に通えるからだ。

2008年、文系のマネジメント学部を設置したことで、キャンパスに女子学生が多く見られるようになった。

そして、2009年、高知県が設置者となる公立大学法人となる。

公立大学になってから新たな学生層が生まれた。こうした学生が「世界一」に育つ、「日本にない」大学として、教育改革に挑戦し続けている。

(『大学ランキング』小林哲夫)

インタビューを終えて

インタビューの中で印象に残っているのは、学長ご自身が担当されている教養科目についてのお話です。もともとのご専門は材料工学系だそうですが、「教育というのは、ものすごく難しい。だから私はね、今は教養の講義をやっているけれど、教養の講義をやっているのは、年取ったからだと思います」「(その講義の最後に)1時間の自由ディスカッションの時間を設け、学生に〝アメリカと日本〟というテーマならば何を聞いてくれてもいいと言いました。どんな質問が出たと思います? 『TPP交渉は是か非か』。厳しいですよね、質問が。『どうしてアメリカは日本みたいに国民皆保険制度が定着しないのか』『全米ライフル協会の政治的影響力はどのくらいか』『なぜ兵器は減らないのか 』『今の日本の状況は、ワイマール憲法下のドイツと似ている面はないか』。すごいでしょ?」と、教養教育の重要性についても熱く語られていました。 また、学生にこの大学について聞くと、「通期の授業もあるが、クォーターの科目のほうが先生との距離が近く感じる」「高校時代は人と話す機会が少なかったと思うのは、大学に入ってから関わる人が増えたからだと思います。先生方ともそうですし、生協学生委員会もそうですね」という話が返ってきました。 高知工科大学は、高知県には工学部を持つ大学が国公私立含めてなかったことから、県が主導した公設民営大学として出発し、2009年に公立大学法人となりました。特色ある大学づくりの、一つの形ではないかと感じたインタビューでした。

(全国大学生協連常務理事 毎田伸一)

『Campus Life vol.40』より転載


ページトップへ