全国大学生協連の研究会報告

学生の就職活動に見る理想的な親子関係とは?

第23回「学生の意識と行動に関する研究会」より

親との「ほどよい距離」が子どもの自立を促す

東洋大学 学生相談室相談員/臨床心理士・大学カウンセラー  中村家子氏

東洋大学 学生相談室相談員/臨床心理士・大学カウンセラー 中村家子氏

学生相談の現状

東洋大学には、五つのキャンパスにそれぞれ学生相談室があり、個人面接以外にコミュニケーションと自己表現能力を身に付けるさまざまなグループワークや「心の居場所」を用意しています。2011年度に学生相談を利用した学生は、実数806人、延べ人数7321人で、利用者は増加する傾向にあります(5キャンパスで学生総数3万人)。相談内容の9割は、学生生活や対人関係の不適応に関する心理相談です。

また、近年、保護者からの相談も増え、不登校・発達障害・精神障害の子どもを抱える保護者が我が子の対応に悩み、学生相談室に電話相談や直接来談するようになりました。単位不足、休・退学、留年などの問題で各部署の窓口から紹介されて来る学生も増えており、これらの学生は、就職活動にも苦悩しています。

就職活動における親子関係の事例

学生が社会に出て職業を選択する際に重要なのは、どれだけ人とかかわる能力が身に付いているか、つまり、主体的にコミュニケーション・行動がとれるかどうかです。就職活動をするにあたって、今一度、親子の関わり方を見直すことが必要となってきます。

親子間のコミュニケーションがうまくいっている場合、就職や社会に出ていくことに前向きな学生は、就職活動中に社会通例上の常識や判断に迷った時に、身近な大人としての親に多く相談しているようです。また親の働く姿が、自分の職業観のベースとなっていることも多いようです。

逆に親子のコミュニケーションがうまくいっていない場合、就職活動の進み具合が思わしくない学生は、友人や教職員、親にさえも就活の悩みや不安を伝えられず、行き詰まって学生相談室に来ています。3年の9月末に新学期が始まり、どうしていいのかわからないまま大学に行くと、「周りの人たちが活き活きと見えて」つらくて大学に行けなくなった学生がいます。学生相談で心を整えて一緒にやっていこうというはたらきかけをすると、少し勇気を得て通学できるようになったというケースがありました。

親との距離が近すぎて依存心が強く、親の期待・価値観に沿った進路を選択する学生は、進路選択において自己決定ができず、自分が本当に就きたい仕事が何なのかわからずにいます。「内定が取れない、行きたくない会社ばかり残っている」と言う学生に「自分が就きたいところと自分に合っているところとは違うんじゃないの?」と話をすると、自分が何に適応しているか、ということを考える糸口になったことがありました。

 

親との会話がマイナスにはたらくことも…

本学の海外の留学者数は、長期留学は年間約1090人、短期を含めておおよそ1800人が毎年留学に出ており、その数は年々微増しています。受け入れている海外からの留学生が約4000人おり、これは日本で最多です。

秋入学は、早くから取り入れている研究科や学部がありますし、グローバル30開始を機に導入した学部もあり、計7学部14研究科が実施しています。

日本にいながらにして海外にいるのとあまり変わらないような、机を並べて海外の留学生と勉強できるような環境を整えていきたいと考えております。

家庭は子どもの安全基地

学生は、就職を機に、以後は自分で生きていかなければなりません。安定を優先する親と、仕事の面白さなどを優先する子では、就職先を決める際の判断基準も違ってきます。親は、過去の古い価値観を押し付けないで、新しい情報を仕入れた上で、子どもに適切なアドバイスをすることが望ましいといえます。

そのためには、就職活動以前から、親と子が心理的にほどよい距離感覚でコミュニケーションができる環境を整え、子どもが自立と依存の間で葛藤しながらもそれを乗り越えていく力を培うために、いざという時には戻れる安全基地のような家庭であってほしいと思います。

※東洋大学学生相談室では、2008年に保護者のための学生相談ハンドブック『大学生のこころの理解と配慮の仕方』を発行しました

「ゆとり世代」の子どもの就活に親や大学はどうかかわるか

全国大学生協連 福島裕記専務理事

東洋大学 グローバル・キャリアセンター副センター長 理工学部生体医工学科准教授 小島貴子氏

"移行期"は"自立期"

大学の4年間の中には二つの〝移行期〟があります。一つは高校までの「生徒」から「(大)学生」への移行、もう一つは「学生」から「社会人」への移行です。 しかし、今、受験制度も変化し、大学移行時のハードルも下がってきて、学生は大学生になるという自覚がないままに入学してきます。大学での学びが高校の延長的なものになり、主体的な学びの姿勢が見受けられません。大学から社会への移行時も、社会人になる自覚が希薄なままに就活に突入してしまいます。このように、移行期は子どもから大人になるための重要な成長の機会であるにもかかわらず、最近は親も子も〝自立〟という意識が薄れている傾向があるようです。

今の大学生の特徴を一括りにして「ゆとり世代」と言われます。競争が非常に見えにくくなってきた教育の場で、学生が他者との違いにおびえ、失敗することを非常に恐れているのを感じます。〝みんなと一緒〟であることに安堵し、「しゃしゃり出る」ことは嫌う。自分の考えや反対意見はちゃんと持っているのに、最初に手を挙げることへの抵抗感は非常に強い。

しかし、実際に学生の成長を見ていくと、やはりさまざまな挫折や失敗を経験し、自身で新しいことに挑戦している学生は、明確な目的意識を持ち、社会に移行するための行動をとっています。この移行期は自立のタイミングと重なります。

就職活動と親の役割

ベネッセの調査によると、大学生の4割の親が就職活動において何らかの形で手助けをしています。しかし、試験に落ち続ける学生はすべてに過剰になり、だんだんと自分の殻を作っていきます。それは、自分に自信がないからです。自信がない時に自信を付けさせるのは難しいのですが、親のできることの一つは、子どもを認め、子どもが家に帰った時に落ち着く場所をつくることです。

それと、人に対しての感謝の姿勢や、挨拶をきちんとできることは基本的なことですが、日常生活で習得しておいてほしいことです。その学生が組織の中に解け込むことができるのかということを、やはりリクルーター等では見ているのです。

今、日本の社会の中では、大学卒業後に全員が選択できるような就業の場は提供されていません。やはり、親として子どもが悲しんだり苦しんだりするのは見たくないと思うのは本音です。でも、ここを乗り越えれば子どもはぐっと成長するのも確かだということを、親も自覚する必要があります。

また、就職活動で一番重要なことは、モチベーションを維持していくことです。就職活動をする中で、親はともすれば早く内定が出ればいい、大企業に行けばいいと願いますが、大事なことは子どもが選択と決断を日々行っていることを親が知ることなのです。就職活動に奇跡はありません。目的意識を保ち、適度の緊張感の中で活動を持続していけるように子どもを支えることが肝要です。

大学が支援するキャリア教育とは

就職活動は、終わってみると本当に成長を実感することができるので、私たちがサポートする中では、やはりPDSAサイクルを意識させ、実行・振り返り支援をしていこうと思います。

「3年3割」と言われ、大卒の就職者の3割が3年以内に退職していますが、この人たちが再就職するのには、1年近くかかっているようなのです。早期離職をすると、その後の就職活動は大学生の就職活動の比ではありません。大学であれば、キャリアセンターや就職部や学生相談室などが全力で支援できるのですが、孤立してしまうと、そこから社会に繋がることはなかなか難しくなります。

社会の変化に伴い、就業形態も変わっていきます。今後大学で行う就職支援は、会社に長く勤めるためのものではなく、仕事を辞めても次に繋がって働いていける力を付けられるような形の支援に切り替えていく必要があります。この、継続的な就業力を身に付けられるということはとても重要で、自分が生き続けるために働く力を、大学の中でも支援をしていかなくてはいけないと思っています。

※東洋大学では、学生相談室と就職・キャリア支援課の役割は違いますが、連携することにより学生の有用な助けになっています。

学生の方たちからの報告 就職活動を振り返って思うこと

研究会には、都内の三つの大学から、すでに内定を得たり進学を決めた学生7人が参加し、親とのかかわりの中でどのように進路を決定したかということを中心に、自身の経験を述べました。

親との"いい関係"を持つ

河北さん(東洋大学・男子・自宅生)は就職活動において、主に食品メーカーなどを訪問しました。「食品に興味を持つきっかけをくれたのが母で、受けようと思ったメーカーの商品を購入してくれるなどのサポートがあった」。就活の相談については、「一社会人としての父に相談した。社会での働き方、人との接し方などについて教えてくれたが、強制ではなく、私自身の意見を尊重し、適切なアドバイスをもらった」と発言しました。

客室乗務員になりたいという夢を持って就職活動に臨んだ後藤さん(東洋大学・女子・下宿生)。最初はあこがれというだけだったのですが、実家が岩手県の被災地だったので、「父とボランティア活動に参加し、地元の現状を目の当たりにして命の大切さを学び、自分の夢を叶えたいという強い気持ちになった」。親の存在は、「心の支えという点で就職活動においてとても大きなもの」でした。

香山さん(東洋大学・女子・下宿生)は企業調査・信用調査をする会社に内定しました。「経営学部で、個人的に中小企業診断士という国家資格の勉強を進めていたので、業界を横断的に幅広く見られるところに魅力を感じた」。就職活動に親は「まったくというほど関わっていない。それは母親の考え方で、小さい時から自分のことは自分で決めるように言われてきたから」。また、夜間部に通っているので、「周りに社会人がおり、社会をまったく知らず、働くイメージも持たない子だとは親に思われなくて、心配されなかった」と述べました。

中山さん(桜美林大学・女子・自宅生)は、「自宅生だが、親が共働きで生活の時間帯も合わず、就職活動に関してもほとんど相談しなかったので、親からの影響はなかった」が、「親が本当に私を信頼していることを感じていたので、就職活動を続けてこられた」と語りました。

春先からすでに先生と相談して進学の方向に話を進めていた武山さん(桜美林大学・女子・自宅生)は、「両親とは仲が悪くはないが、二人とも大学院に関して何の知識もなければ、私の専門である生物学の知識も持っていないので、進路に関しては私に任せて放っておいてくれた。それでよかったと思う」と述べました。

長野さん(桜美林大学・女子・自宅生)は、6月に文房具の卸をする会社から内定を得ました。「最初一般職を希望していたが、営業職で採用されたので少し悩んでいた。母がちょうど営業に関わる仕事をしていたので意見をもらい、それは大きな影響だった」と振り返りました。

3月下旬にサービス業に内定を得た小池さん(明治学院大学・女子・自宅生)は、家族全員が固い仕事をしているので反対されるかと思いましたが、「家族は、私に合っている仕事と背中を押してくれた」。就職活動中の相談は、内定をもらうまでは母親に、その後は父親に相談しました。「母は公務員で人事に従事し、新卒の採用に携わっているので、面接での受け答えなどいろいろなアドバイスをもらった。内定を2社頂いたが、それに関しては、業種は違うが民間企業に勤めている父に待遇面などを相談した」

就活に有益だったものは

参加した学生に共通していたのは、親は意見を押し付けず、子どもから求められた時にアドバイスする、というスタンスを取っていたということでした。「結果的に親があまり関与していなかったことが、小さい時から自立したいと思うきっかけにもなったので、自分でやれる力が付いたのは親のおかげだと思い、感謝している」(香山さん)

河北さんは就活を終えて、「今、就職活動は氷河期で、就職しにくいとかつらいとか言われていると思うが、やはり就職活動に積極的に取り組むことでさまざまなことが学べるし、学ぶことは新しい発見があってすごく楽しい。私は、就職活動は楽しかったし、就職活動をしていく中で、将来同じ業界に就く同業者の方々とも知り合いになれたので、素晴らしい機会だった」と結びました。

※学生の方のお名前はすべて仮名です。

(編集部)