全国大学生協連の研究会報告

学生スポーツの置かれている現状と体育会系学生の今を探る

去る11月26日、全国大学生協連が後援し、報道関係者が参加する 第29回「学生の意識と行動に関する研究会」が、「体育会系学生の今を探る」をテーマに、 東京大学駒場コミュニケーションプラザで開催されました。 この研究会の概要をお伝えいたします。 

今どきの体育会系学生は、一昔前と違って小ざっぱりとした身なりをして授業にきちんと出ています。

今回、お二人の大学教職員の方のご報告や体育会系学生との情報交換を通じて、体育会ではない学生との一致点や相違点、昔の学生との相違点など、さまざまな実態を明らかにし、体育会活動を通じて培われるもの、現代教育の特徴点などを探りました。

大学スポーツは、学生を成長させて社会に送り出す場であるべき

立命館大学薬学部事務長、関西ラグビー協会大学委員長 
元立命館大学ラグビー部監督  高見澤 篤

立命館大学薬学部事務長、関西ラグビー協会大学委員長
元立命館大学ラグビー部監督 高見澤 篤

私は、立命館大学在学当時はラグビー部に所属しました。卒業後8年程企業で働いた後、縁あって母校でコーチを務めることになり、現在はラグビー部の副部長として、部長を助け監督コーチをサポートしております。本日は現役選手として、大学を離れ社会人として、大学に戻りチームの一員として、それぞれの立場で考え感じたことを報告します。

学生を取り巻く 環境の変化

大学の入学条件は、少子化進行により大きく変わりました。定員未充足の大学が増え、特に多くの私立大学ではスポーツや芸術等、特定の領域を強化し、推薦入学の枠を広げて定員充足率を上げようとする動きが起きました。

スポーツにおいては、一つの事例として早稲田大学スポーツ科学部の開設に端を発するスポーツ・健康関連の学部学科が急増し、授業料免除、寮費免除、特別奨学金の設置などで推薦の条件を広げました。アスリート獲得競争が過熱していった結果、かつて学生が文武両道を目指し課外活動としてスポーツに取り組んだというイメージは崩れ、一部ではスポーツを正課授業として取り入れる大学が増加しました。

多くの大学で学生の基礎学力の低下が課題となり、文部科学省は現状を鑑みて、授業出席を重視し1セメスターの望ましい授業回数の指針を出すなど、学士力の強化を前面に押し出す方針を取りました。大学は認証評価を受ける義務があり、このような形式要件を守るよう努めると、学生の課外活動の時間はどんどん減少していってしまいます。

私が立命館大学でプレイしていた30何年前は、1~3時から始まる練習のために午後の授業を休まねばならず、単位を膨大に落とすこともありました。現在は授業出席が厳格化された結果、練習時間が改善されて練習は夕方から夜までに変わりました。しかし、朝の9時から授業に出て5時頃から8時頃まで厳しい練習をこなし、食事をして帰宅すると、大学での滞留時間が非常に長くなります。これが毎日続くと学生は大変疲労していき、それは学生の集中力にも影響するので、本当に練習に集中しきるには非常に厳しい環境になっていると感じます。

卒業後の人生設計

多くのアスリートは引退後、指導者の道を希望します。しかし、指導者の枠は狭く、多くは社業に専念するか、第二の人生を歩んでいきます。企業別にいろいろな事例を見ると、歴史的に鉄鋼・メーカー・自動車などという業種は、社員をその後も上手に使っているといえます。

一方、グローバル化進展の中で、日本企業は世界を相手に互角に戦えるような人材にもっと早い時期から経験を積ませ、社内で育成するべきだという考え方があります。それでは、大学4年間をスポーツに打ち込み、入社後に一から社員教育を受けるアスリートがそのラインに乗ろうとしたら、将来の自分の出世に関して非常に不利な状況になるのではという懸念があります。

また、プロ選手となり華々しく活躍しても、戦力外通告を受けることがあります。引退後も会社に残れる社員選手ばかりというわけではありません。子どもの頃からスポーツだけをやってきたのでほかに生活の手立てを考えられず、引退後に不安を感じている選手も多いのです。 

一般に現役でいられるのは30代前半までと言われ、引退後の50年近くにも及ぶ人生の設計は自分で考えなくてはなりません。こうしたアスリートのセカンドキャリアを現役時から啓発するような動きが見られるようになりました。

誰のための何のための 学生スポーツか

今後、ワールドカップやオリンピックを控えて、強化は絶対必要です。勝てばいいのだという風潮がもっと厳しくなって、実際の競技団体が結果を出さなければいけない中に、大学生が飲み込まれる可能性があります。しかし私は、学生であることと強化の主体であることとの兼ね合いをぎりぎりのところでつけなくてはいけないと思っています。勝てばいいのだという強化ではなくて、学生を鍛えて勝利という目標に向かって頑張らせる、学生の成長が勝利とつながっている強化は、私は意味があると思っています。

こうしたとりくみを通じて成長した学生は、例えば就職活動においても高い評価を得ることができるし、アスリートだった人が企業のトップを務めるという例もあります。私は、そうしたトップクラスの人材は、学生時代に文武両道を本気で追求した人の中から出てきているのではないかと思っています。そういう人たちが出得る競技のあり方というのは大学に課せられた課題で、大学には学生をどのように育て社会に送り出すのかという明確な方針が求められます。

1軍の選手であろうが4軍の選手であろうが、学生が切磋琢磨して勝利を目指し、最後には勝ってほしいわけですが、必ずしもそうとは限らない。その中で成長していく学生の中から、いずれ日本を背負う人材が出てくるだろうと思っております。アスリートとしてかつ学生として日々戦うことをいとわない学生に、政府や大学は、よりチャンスを広げてほしいと思います。

一見頼りなく感じる〝ゆうとーり世代〟だが日々の練習で社会人基礎力が培われていく

筑波大学体育専門学群副学群長 木塚 朝博 氏

私は筑波大学・大学院と進み、博士を取得した後、生命工学工業技術研究所に研究員として7年ほど勤めました。専門分野は体育学・体力学で、大学に戻ってからは運動能力の新しい測定法の開発、特に最近は子どもを中心に研究しております。学生時代は剣道に勤しみ、現在大学では雪上実習などを担当しております。役職は副学群長で、学生生活担当です。

体育専門学群入試の概要

本学体育専門学群の入学要件は基本的に文武両道で、突出した競技力があっても一定の学力がないと入れないというシステムです。

1学年240名の定員のうち、3分の1に当たる約80名が推薦で、全国大会でベスト16以上と一定の文章能力を目安に入学してきます。一般入試では、実技点と学力点の割合がほぼ1対1で、その合計点で判定されるかたちです。したがって、まさに体育と知育の表裏一体化を狙うのが、我々のアドミッションポリシーです。

体育会系学生のイメージの変遷

次ページの表はネットや新聞・雑誌から意見を拾い集めました。私見ですが、体育会系男子のイメージは明らかに変わってきたように思う一方、女子には大きな変化はないように思えます。

男子について、「男らしい」「筋肉質」「打たれ強い」などのイメージは昔より薄くなってきたと思います。「決断力」や「行動力」はもうちょっとあってほしい。また、「面倒見が良い」かというと、先輩後輩の仲が希薄になってきているところがあります。「プライド」は逆に高くなっているようです。それから「柄が悪い」はほとんどなくなり、多くが「爽やか」で小綺麗になりました。部活後のデオドラントにも気を配っているようです。〝体育会系男子の草食系化〟という言葉が浮かびます。しかし、中には〝ロールキャベツ〟(中は肉食系、外は野菜でカモフラージュ)もいるようです。

よくゆとり世代とかさとり世代などと言いますが、教員から見たイメージは〝ゆうとーり(言う通り)世代〟。今の若い人は、言えばやるのですが、言う通りにしかやらない。非常に真面目な反面、自分からあまり発信しようとしないので、我々教員は頼りなさを感じています。悪い言い方をすると、飼い馴らされた感じです。簡単に自分で限界を設定し、そこまで到達したらその先にあまり行こうとしないので、欲深くもっと自らつかみとってほしい。トレーニングも言われた通りにはやりますが、自分で試行錯誤することにもっと熱くなってほしいです。

また、良い意味で破天荒な、型破りな人間が少なくなり、平均的になってチーム内競争にも消極的になりました。フレンドリーではあるが、先輩後輩のけじめがない。あまり統率しなくなって、面倒見よく下を育てるという面が薄らいできているという印象を受けます。

いつも受け身的で反論しない。昔のように、戦術やトレーニング方法を部内で喧嘩腰になって議論し合うということが少なくなりました。  

しかしながら、これらの傾向は社会全体での“教育効果”によって生じており、我々はそれを容認しながら意見を言わなければと思っています。「昨今の若者は〜」と年を取ると批判しますが、若者にとっては“今に適応した結果”なのではないでしょうか。

《体育会系学生のイメージ》

矢印の向きは、学術的な調査結果ではなく、また日本全体の体育会系学生のイメージとは異なるかもしれないが、筑波大学体育専門学群の教員の感想をまとめると…

体育専門学群学生の進路先

本学はもともと教員養成大学ですから、「体育・スポーツ界のリーダーを育成する」ということを体育系ミッションに掲げています。大学卒業後に教員になるのは20%ぐらいですが、全体のおよそ4分の1が大学院に進学し、院進学者のうちの約80%は中高・短大・大学の教職員になるので、トータルでは40%弱が教職関係に就くという特性を持っていることになります。また、最近増えているのが、警察庁・消防庁・自衛隊という公務員系です。

しかし実際に一番多いのは企業で、中でも銀行・証券関係です。体育会系の、体力があって礼儀正しく、夜討ち朝駆けができる人間が銀行・証券系に強いと言われています。

スポーツ関係には選手として行くほかに、営業などで行く場合もあります。健康産業も結構いて、マスコミも最近、増えています。意外なのは交通関係で、新幹線の運転手やパイロットなど、そういう系統もあります。あとは広告関係も最近増えています。

スポーツキャリアの価値

スポーツキャリアがなぜ企業に強いのか。

経済産業省が社会人基礎力としてアクション・シンキング・チームワークの三つを掲げています。これらの力は一般には入社後の研修で育てるのですが、課外活動や部活では、例え個人競技であっても、チームワークは絶対に必要です。いわゆる自他共栄の精神です。また、一緒にプレイしたくない相手でも、監督がレギュラーとして選んだら、勝つためにはチームワークを念頭に置きます。そのための戦術も考える必要があります。部活をやっている一つの強みは、わざわざ研修を受けなくてもそうした日々の練習が研修であり、即戦性のある社会人基礎力を培えるという点にあります。

体育会系学生のライフスキルにおける特色として、親和性、リーダーシップ、感受性、対人マナーなどの対人スキル、計画性、自尊心などの個人スキルがあげられます。いわゆる体育会系(運動部所属)の学生と文化系あるいは無所属の学生を比較すると、こうしたスキルが有意に高いという調査も出ています(筑波大学木内敦詞氏提供)。

卒業生の主な進路先(2013年度)

学生の方たちからの報告
一般学生からの視線は時には痛いがもっと幅広く交わりたい

研究会には、三つの大学の学生と全国大学生協連の学生委員の計5人が参加しました。それぞれ低年齢からスポーツに親しみ、複数のスポーツ経験がある方たちです。

〝浮いた存在〟だが主体的で意欲的

現役の体育会系学生からは、昔と違いスマートな印象の学生が増えたというものの、世間一般の体育会系に対する固定イメージを払拭できないという意見が聞かれました。

「うるさい、授業中寝ている、だらしない、という目で見られ悔しかった」と話すのは五藤環さん(筑波大学大学院体育学専攻修士1年・ハンドボール部)。前川充弘さん(同1年・野球部)も自分では普通に生活しているつもりでしたが、体育専門学群のエリアは他学群と離れており、「体専」は〝浮いた存在〟と見られていたと感じていました。

大木裕美さん(東京大学3年・部活マネージャー)は各部活動をサポートする総本部に所属しています。「自分では運動部の学生を特別視してはいないのですが、何々部という集団になったときに、運動部以外の学生に威圧感を与えているのではないかと思うときもあります」  米田誠さん(立命館大学経済学部3年・ラグビー部)は、監督から常々「応援される部活であるためには、それなりの態度や行動を授業や課外活動で示すべきだ」と言われており、「周りの先生や学生に認められる行動ができるよう努力するべきだと思う」と率直に述べました。

全国大学生協連学生委員の中村洋平さん(現全国学生委員長・奈良教育大学卒)は学生時代、野球部と学生委員会で活動していました。「比較すると、学生委員のメンバーは融和的な反面、積極的に前に出るのを躊躇するような人が多かったのに対し、部活のメンバーは主体的で意欲的に行動する人が多かったように感じました」

報告の中の、「体育会系学生の就職先に、企業では銀行・証券関係が多い」という話を受けて五藤さんも、「それは体育の人たちが、人として生きていく力が強いからではないか、と強く思った」と述べました。

一般の学生との接点は少ない

参加者から体育会系以外の一般学生との交流を問われ、「ラグビー部以外の人との関わりは、基本的にはゼミと、1年次の語学や基礎演習の授業で友達になった人ぐらいで、サークルの人に比べたら友達は少ないと感じる」と米田さん。しかし「試合は観に来てくれる」とのことでした。前川さんも「所属する野球部には体育学群以外の人も数名いるので、その人つながりでほかの学群の人と親しくなることもある」と言いました。また、競技の応援に来てくれる応援団やチアリーダーの人と知り合うこともあるようです。

五藤さんは1年生のときに大学の宿舎に住んでいたので、そこで知り合った人とは非常に仲良くなれたとのことでしたが、「価値観の違う人と話すのが好きなので、もう少し交流の場を広げたかった」と残念に思いました。米田さんも「1年次の最初に友達が決まってしまう感じなので、そのときに多くの人と話をしていれば、もっと友達が多かったと思う」と話しました。

見るべき点はパフォーマンスと協調性

「トップ選手と一般の選手とで待遇に差はあるのか」という質問に対し木塚先生は「待遇はまったく平等。チームの采配で見るべき点はパフォーマンスだけでなく協調性も重要」と言いました。例えばチームのレギュラーメンバーを考えたとき、すべて推薦入学組で構成するよりも何人か一般入学者が入っていると、切磋琢磨してチームとして非常に調子が良くなることが伝統的にもあると言います。  高見澤事務長も「原則待遇は同じ。学生の成長を一番のキーワードにしているので、過去の実績や入試の枠などの色眼鏡で見たりはしない。とにかく選手がどれだけ努力してどれだけ伸びるか。そして、勝利に必要なパフォーマンスを発揮できるかできないかというところで、1軍、2軍を決める」との意見を述べました。(編集部)