全国大学生協連の研究会報告

飽情報社会で良好な人間関係に努めながら確実な将来を望む〝今〟の学生

9月14日、全国大学生協連が後援し報道関係者が参加する第32回「学生の意識と行動に関する研究会」が、「『内向き』は本当か? 大学生の意識調査報告」と題して、大学生協渋谷会議室で開催されました。この研究会の概要をお伝えいたします。

全国大学生協連は、例年行っている「学生の消費生活に関する実態調査」が50回を迎えた昨秋、あらためて現代の学生の意識を探る「大学生の意識調査」を別途実施しました。その調査データを今研究会の報告者2名の先生に分析していただき、今年6月に『「内向き」は本当か? 2014年大学生の意識調査』として報告書を発行しています。お二人の先生には、バブル経済崩壊以降に育ち「内向き」「ゆとり」「さとり」などと表現されることの多い〝今〟の学生を多角的な視点から捉え直した分析のご報告とともに、そうした一括りの言葉では表せ得ない現代若者像についてもお話しいただきました。

【調査概要】

  • 実施時期:2014年11月〜12月
  • 方法:スマートフォンを前提としたWeb調査
  • 対象: 全国の国公立および私立大学の学部学生
  • 回答数:3583(回答率 32.6%)

個々の家庭環境や経済状況のもと満足度の高い学生生活を送る

同志社大学 学習支援・教育開発センター 准教授 浜島 幸司氏

同志社大学 浜島 幸司氏
同志社大学 浜島 幸司氏

大学生の経験と実態

アルバイトやサークル活動をしている学生は全体の73・6%で、非常に多いといえます。一方、ボランティア(40・4%)・海外経験(26・6%)・インターンシップ(15・7%)については経験者が半分を割っており、特に海外経験やインターンシップはまだすべての学生に浸透してはいない様子が分かります。

平均的な友人の数は14・61人、加入しているLINEのグループは平均20・03です。1日のスマホ利用時間は171・90分、1日の読書時間は0分の学生も含めて平均39・01分です。

親の学歴との相関関係

今調査では学生の出身背景と意識との関連についても聞いています。具体的には父親と母親の最終学歴を四つのタイプに分け、学生の状況に差異があるか調べました。違いが分かりやすいのは、両親とも高校までの学歴(タイプ1)と両親とも高学歴(タイプ4)との比較です。

「大学入学後に海外旅行に行ったことがある」は、タイプ4の親を持つ学生の回答が一番多く、「留学希望」や「大学院進学希望」でも同様の傾向がみられます。これに対して「生活のためにアルバイトをしている」「将来は地元で暮らしたい」はタイプ1の親を持つ学生が一番多く回答しました。一方で「家族との関係」はどのタイプも9割以上が良好で差異はみられませんでしたが、出身背景は学生の考え方に深く影響を与えていると考えられ、学生の意識を明らかにするうえで重要な視点となることが分かりました(図表1)。

図表1

満足度・意欲高いが「生徒化」する傾向も

学生の8割が友人関係や学生生活全般に満足し、自分の大学が好きだと答えています。学内施設についても4分の3の学生が満足しており、ポジティブで良好な大学生活を送る学生の姿がうかがえます。

学業の面では、学生の92・3%が履修した授業の成績を非常に重視しており、良い成績を取りたいと望んでいることが推察されます。その傾向は、特に女子学生や1年生に顕著です。一方で、「先生に質問や相談をする」(36・7%)は低く、教員とはそれほどフラットな関係を築けていないのではと思われます。

学生は「就職に役立つ授業を履修したい」(85・5%)と望み、「履修した授業は必ず出席」(87・4%)しています。その反面、「卒業単位にならない授業は履修しない」(60・5%)と答え、〝大学は自分の学びたいことを自由に学ぶ場〟と言われた時代に比べると非常に堅実で現実的です。「先生はもっと学生を指導すべきだ」(54・1%)という回答には、高校時代をそのまま継続し、よりきめ細やかな指導を望む受け身の姿勢がうかがえ、大学生というよりも「生徒」の延長に非常に近い様子がみられました。

こうした「生徒化」の傾向は大学への愛着とも関連があり、大学に愛着を持つ学生はよりポジティブに学習に取り組み、大学への思い入れが薄い学生はより「生徒化」している傾向がみられました。

〝嫌消費〟ではなく〝嫌浪費〟経済状態が健康にも影響

学生の「内向き」を表す事柄として消費を控える傾向があるかと推定しましたが、半数近くの学生が「欲しいものは我慢しないで買う」と回答しました。購入の際にブランドを意識する学生もおり、「多少高額なものであっても必要ならば買う」(60・3%)と答えています。趣味への消費は、男子学生の方が女子学生より高い傾向がみられます。

「将来を考えて情報収集や準備をしている」学生が54・8%おり、商品購入の際には8割の学生が「ネットからの情報を参考」にしています。物の良し悪しを考慮したうえで、必要であり良い物だと判断したら買う。〝嫌消費〟ではなく〝嫌浪費〟の意識がデータからみられました。

実際の学生全体の支出額の平均値は授業料を除くと月約4万円で、1週間1万円程度の支出でやり繰りしており、過ぎた浪費はせず、堅実な姿勢が見受けられます。

半数以上の学生は1日3食で、十分な睡眠をとり、適度な運動をしています。こうした傾向は経済状況によっても差異があり、暮らし向きの良い学生は食事・睡眠・運動に気を遣う生活をしているのに対し、暮らし向きが悪い学生はそうでない様子がみられます。特に睡眠時間にそれが表れ、暮らし向きが悪い学生は過度のアルバイトや生活の不安などからくるストレスでよく眠れていないのではないかと思われます。


身近な人間関係を維持し危なげない将来を描く学生たち

芝浦工業大学 工学部 准教授 谷田川 ルミ氏

芝浦工業大学 谷田川 ルミ氏
芝浦工業大学 谷田川 ルミ氏

人間関係の変化

◆摩擦の少ない家庭環境
特徴的なのは、92・4%の学生が「家族との関係は良好だ」と答えていることです。一般に20歳前後は一番家族と距離をおく年齢と思われますが、現代の大学生は非常に良好な家族関係を築いています。それには親世代からの影響が強いと思われます。

調査対象となる学生の親世代は、かつて〝新人類〟と呼ばれた、現在50代ぐらいの世代です。この世代の親子関係の特徴を表すのが〝友達親子〟という言葉で、物分かりの良い親、素直な子どもの組み合わせです。

〝仲良し家族〟。これは「内向き」を表すキーワードでもあり、非常に閉じているようにも言われますが、学生の心性のみからでなく、世代を取り巻く社会の影響にも考えを広げつつ分析を進める必要があると考えます。

◆積極的に大学に関与する保護者
最近は入学・卒業式は親同伴、一家揃って参加される家庭もあります。本学が全国で実施する父母懇談会も非常に参加率が高く、両親揃って来られるご家庭も多くなっています。少子化という要因のほかに、大卒の親が増えて、大学に通う子どもとの心理的な距離が近くなったのかとも感じます。

そして保護者の関心事は何よりも〝就職〟です。ここ数年、特に理工系学生の就職率は高くなっており、心配ないと思われますが、保護者の頭には2000年前後の就職超氷河期の負の記憶が未だに強く残っているようです。我が子が就職できずニートやフリーターになるのではという危機感があります。大学側はそれを受けてキャリア支援などに力を入れていますが、それは保護者にとっては望ましい大学の姿といえるようです。

◆友人関係が及ぼす影響
学生が4年生の時点で仲良くしているのは「1年生の授業で知り合った友人」(57・0%)で、身近な人間関係を維持する姿勢がうかがわれます。友人の存在は授業や学習に対する意識にも関連がみられ、大学に対する満足度や愛着は大学内における友人の数と照応しています。一例として、友人の数が少ないほど退学や他大学への編入を考えていたり、学習意欲が低くなっていたりする割合が高くなっています。

大学生の友人関係は一見、大学教育の本筋からは外れているように思えますが、大学への満足度や愛着、学習意欲を左右する重要な要因といえます。また、友人数は留学・海外意識にも強い相関を示しています。

◆コミュニケーションツール
スマホは、今では大学の授業のツールとしても積極的に導入されています。今回のウェブ調査に答えたスマホ保有者はほとんどがLINEに加入しており、そのうちの8割が友人とのやり取りにLINEやメールは欠かせないと回答しています。スマホといったツールなしでは友人関係が築きにくくなっているかと思われます。

LINEのグループ数は、多いと50近くを形成している学生もおり、器用にグループを使い分けてコミュニケーションをとっている姿がみえてきます。

海外への意識の変化

今の学生は「内向き」といわれますが、データをみると外国語学習の必要性を感じており、意欲もあります。海外に興味を持ち、在学中に海外経験を積んでグローバルを意識した感覚を持ち合わせてはいるものの、実際には留学生との交流の機会は少なく、実践の機会には恵まれていないという状況です。そして、留学など海外に目を向けるには金銭的なゆとりも必要で、暮らし向きや親の学歴との関連も強く、階層的な部分も反映されていることにも留意する必要があります。

一方で、経済状況は良好ですが留学はしたくないという学生もいます。「勉強も就職も日本で十分完結するので海外に行く必要はない」と考え、海外に特別な意識を感じていない。右肩上がり経済の世代とは異なる意識を持つ層なのだと思われます。「デジタルネイティブ」と呼ばれる大学生世代は、ネットにアクセスすれば海外の物や情報が手軽に手に入る状況に育ち、海外に対して冷めた印象があります。ただ、一度でも、また短期でも海外留学をすると、海外での経験が国内では得られないものだと気づくことが多い。これは、飽情報社会に生きる若者の特徴なのかとも思います(図表2)。

図表2

現代大学生の将来意識

「将来は地元で暮らしたい」と半数の学生が回答し、7割が結婚後はパートナーと家事育児を分担して一緒に働きたいと希望しています。

ただ、「結婚したら家事や子育てを主にした生活を送る」には、男性が2・6%、女性が17・5%と、相変わらず女性の方に家庭志向が強いという結果です。これには大学差が大きく、特に国立系難関大学では家庭志向の女性の割合は低く、私学の中堅あたりにはその割合が高い傾向がみられます。


学生生活実態調査50年からみる大学生の変化

全国大学生協連 企画室 調査担当 堀内 久美

全国大学生協連 堀内 久美
全国大学生協連 堀内 久美

下宿生を直撃する住居費

1964年には8500円だった自宅生の1カ月の収入が、2014年は6万1120円でほぼ10倍になりました。下宿生については50 年間で食費3・6倍に対して住居費が15 倍に上がり、それを反映して仕送りが6800円から7万140円に増加しました。

奨学金は、64年のデータでは自宅生570円(収入に対し6・7%)、下宿生1900円(同11・0%)に対し、今、自宅生も下宿生も収入の約2割を占めています。これには学費の値上がりも影響しており、64年当時の国立大学の授業料を現在の物価に換算すると8万円程度だったのが、現在約54万円になり、対応して奨学金の構成比も高くなっているということが分かります。

日常生活の移り変わり

日常生活の中で特徴的なものが悩みの相談相手です。「友人」や「恋人」の構成比はそれほど変わらないのですが、2005年に12・9%だった「両親」が14年には21・2%に増加した背景には、親子の仲が非常に密になったこと、また携帯電話を個人で持つようになり、通話・メール・LINEなどの利用でコミュニケーションをとりやすくなったことなどが挙げられます。

読書については、2年前、「読書時間ゼロの学生が4割を超える」ことが社会的にかなり反響がありました。73年には平均読書時間99分だったのに対し2014年は31・7分と、40年間で3分の1になりました。73年の「読書が好きですか」という設問には73・9%が「好き」と答え、「1日の新聞を読む時間」は平均40分でした。この年、学生の3割が新聞を読むために60分以上の時間を割いていました。

目的意識は明確に

学生生活実態調査では2004年・05年・12年に大学進学の理由を聞いています。「専門的な知識や技術を得るため」「大学卒の学歴を得るため」という回答は常に3割前後ありますが、04年、05年に全体の半数近くを占めていた「将来について考える時間が欲しかった」は12年に21・1%と半減しています。

また、「大学生活の重点」も、2000年以前は4分の1を占めた「豊かな人間関係を結ぶ」が14年には半減し、「勉強や研究第一」に主眼を置くようになりました。


学生の方の意見
多くの情報を取捨選択し将来を見据えた人生設計を考える

研究会には3人の大学生が参加し、報告に対する感想や自分の経験を通しての意見を述べました。

留学の必要性は今は実感できない

 

秋山千波さん(フェリス女学院大学2年)は長期・短期の留学を志望しています。一方で近藤晃さん(明治大学2年)は「大学側は留学には前向きだが、自分自身は時間とお金をかけて海外に行っても実りのある情報を得られるか疑問」と述べました。小川希さん(慶應義塾大学文学部3年)も、「日本にいても海外の情報は得られ、欲しい物も取り寄せられる。わざわざ海外に行く必要性は感じない」と消極的な反面、「友達から『留学して良かった』と聞くと、行ってみようかと気持ちが動く可能性はある」と言いました。近藤さんも「金銭的・経験的な不安に加え、一人だとやはり不安がつのる。知り合いがいれば行く確率は高くなると思う」と言い、経験の浅さや周りの影響から留学志向に至らないという状況も見受けられました。

谷田川先生は「多くの友人と大学生活をエンジョイする、コミュニケーション能力が高い学生に留学志向が強いのではないかという仮説を持っており、友人数と学生の留学志向とは強く相関が出てくると思う」と述べました。

用途や相手によりツールを使い分ける

参加学生は全員スマホを持ち、用途や相手に応じてLINEやメールなどを使い分けていました。

LINEのグループ数について「サークルの集まりやイベントごとにグループを作るので登録グループは68あるが、常時機能しているのは10〜20くらい」と近藤さん。同世代との連絡にはLINE、少人数の連絡にはFacebook のメッセンジャー機能も使っています。携帯メールはほとんど利用せず、大学からのお知らせやメルマガなどにはGメールで対応しているようです。

秋山さんも稼動している登録グループは62で、友人や親との連絡はLINE、社会人や先生との連絡にはGメールと使い分けています。

小川さんは「何かするときにはすぐグループを作るため、登録グループは206。サークルと授業とアルバイトとゼミと家族と中高の友達でそれぞれグループを作るので、報告された平均値20は少ないと思う」と言いました。メールで連絡をもらうと、返信速度が遅くなるようです。

幅広い人間関係から情報を得る

秋山さんは、大学での交遊関係とは主に講義の情報交換などをしています。「必要な情報はアルバイト先やサークルの知り合いからも得られる。親しく交わるのは中高からの友達」。小川さんも「友達が多い方が勉強もはかどり、単位取得がしやすい。友達や先輩を通じて試験の過去問も得られ、授業の情報も入るので、友人関係が広い方が勉学への意識や意欲も高まると思う」と言い、友人の数が大学の満足度や学習意欲と相関関係があるという調査結果には納得できると語りました。

結婚後は分担両立志向

近藤さんは、32・6%の男性が「男性は外で働き、女性は家で家事・育児をするほうがよい」と答えているのに違和感を覚えました。「どちらかが働かなくてはならないのならば男性が働くべきだという考えが根底にあるが、理想は両立型で家事も分担したい」。秋山さん・小川さんら女性の意見も分担両立を支持しており、自身の家庭において母親が働いている影響を指摘しました。

データからも「結婚後はパートナーと家事育児を分担しながら働く」ことを志向するのは男性72・3%、女性63・7%と、世間一般のイメージとは異なる結果となりました。

「内向き」を論じるにあたって

「学生の『内向き』を量る側面の一つに、授業に毎回出席し成績を気にする傾向がある」という報告に対し近藤さんは、「周りの学生は必ずしも出席や良い評価にこだわってはいない」と言い、小川さんも「サークル中心の生活で、それほど成績に重きを置いてはいない」と述べました。ですが、二人とも将来を見据えて資格試験の勉強をしているようです。

浜島先生は「内向き」の概念を、「友人は学内に多いか学外に多いか、海外に出るのか国内に止まるのか、さらに地元志向かなど、個人の軸足の立ち位置を〝内〟と認識してそれを越えるような距離や意識がどこまであるのかを想定して設問を作った」と言い、谷田川先生は「『内向き』は留学志向や海外意識から議論されることが多いが、今回は多方面から総合的に閉じているのか開いているのかを探った。経済低成長期に多くの情報を得ながら育った今の学生は、堅実な生活を送りつつ確実な将来を望んでいる」と述べ、それが右肩上がり経済の世代には「内向き」と感じられるのではないかと結びました。

全国大学生協連の調査担当 堀内は「今調査で学生の意識と親との関係性も強くみられたので、来春の『保護者に聞く新入生調査』ではそういった学生像と保護者の関係が読みとれる報告ができるかもしれない」と述べました。

(編集部)

*学生の方のお名前は仮名です。