全国大学生協連の研究会報告

大学で取り組まれる入試改革〜どのような学生に育ってほしいのか〜

7月12日、全国大学生協連が後援し報道関係者が参加する第35回「学生の意識と行動に関する研究会」が、「入試制度改革〜どのような学生に育ってほしいのか」をテーマに、東京大学正門前のフォーレスト本郷で開催されました。この研究会の概要をお伝えいたします。

グローバル化の進展、社会に求められる人材育成、18歳人口のさらなる減少などの状況下で、大学をめぐる環境はこれまでになく厳しい時代を迎えています。若者の将来を見据えた教育改革が中教審でも議論され、センター試験の見直し、大学ごとの入試改革の実践も進んでいます。今研究会では2大学より特色ある入試改革のご報告をいただき、そのねらいと学生の変化を探りました。

主体的に学ぶ意欲を促すアサーティブプログラム・アサーティブ入試

2013年、私が追手門学院大学に着任した当初、本学の学生たちに非公式のヒアリングを実施しました。自らを不本意入学者だと言ったり、大学進学の動機が曖昧なため、学ぶ目的を見出せずにいる学生が印象的でした。

追手門学院大学
入試部アサーティブ課課長 志村 知美

追手門学院大学 志村 知美氏
追手門学院大学 志村 知美氏

アサーティブのねらい

このような実情のもと、入学前に学ぶ意欲を育て、受験へと導くため、アサーティブプログラム、アサーティブ入試の仕組みを考案しました。それは、高校と大学が一人の生徒を挟んで成長を促すという点で高大接続にもつながり、幸いにも文科省の「平成26年度大学教育再生加速プログラム」のテーマⅢ(入試改革)で採択を受けることとなります。

このとりくみの大きなねらいとして、受験者像と入学予定者像を設けました。私どもは、①本学で学びたいという気持ちを描き、その思いを伝えられる人。②今は確かな希望や理念がなくとも、知的な事柄への興味や活動を通じ、何のために学ぶのかを問い続け、努力する人。③高校までの基礎的な知識や技能の習得を見直し、向上しようと努力する人に受験をしてもらいたいと願いました。そういう子たちが入学すれば、シラバスをしっかり活用して時間割作成ができ、授業や活動に積極的に参加してくれるはずだと考えました。

アサーティブプログラム

これは目指す受験者像を育てるための教育プログラムで、自分の人生と向き合うための一歩を踏み出す場所です。その課程のすべてに職員が関わることで、必然的にSD効果にもつながりました。プログラムには、三つの特徴があります。

一つ目は個別面談です。本学の専任職員が生徒と一対一で話をし、進路について一緒に考えます。本学への受験を希望するしないに関わりなく、なにか一つ行動のきっかけを与えられるような場として、個別面談は大事な位置を占めています。

二つ目は、インターネットを利用した本学独自開発の「MANABOSS」(マナボス)システムです。基礎学力の見直しと自学自習の習慣を身につけ、自分の意見を発信する練習ができるように設計しています。基礎学力には、言語能力と非言語能力の問題が搭載されています。

三つ目の自己成長を促す「アサーティブノート」も本学が独自開発しました。自らを理解し、自分が何を思い何を感じたかを書き留めることで振り返ることができ、自分の成長を感じることを目的としています。

MANABOSSもノートも、使う使わないは任意です。大学に進学するしないに始まるすべての選択権が生徒本人にあるということです。また、本プログラム自体には、追手門学院大学を受験しなくてはいけないという縛りは一切ありません。アサーティブプログラムの目的は、あくまでも自分の人生と向き合い、大学で学ぶ目的を考えさせ、大学で学ぶ姿勢と意欲を持つことができるように育てることです。

アサーティブ入試

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アサーティブのねらい

※〝アサーティブ〟とは「自分の意見や考えを主張する」と直訳できますが、
本学ではもう一歩踏み込んで、自分を知り表現することが大切になると解釈し、この名称を使っております。

アサーティブプログラムで培ってきた力を発揮できる場所として、アサーティブ入試を実施しています。

一次試験はグループディスカッションです。志望学部関係なく1グループ5〜6名で約30分間、与えられたテーマで議論をしてもらいます。アサーティブな態度と主体性や協調性、論理性等を判定しますが、これには評価シートがあり、そのシートを持った職員が2名1組で評価をしていきます。当初は高校生が30分もディスカッションできるのかという不安な声もありましたが、素晴らしい議論に発展したグループもあり、評価者が感心したこともありました。

一次試験に合格すると二次試験へと進みます。基礎学力適性検査はMANABOSSの言語能力と非言語能力問題と同等レベルで同じ出題形式となります。個別面接は、希望する学部学科の教員1名とアサーティブ面談職員1名と大学で学ぶ意欲の確認をします。

アサーティブ入試の結果

2014年度、初めてのアサーティブプログラム参加者数は、190名。受験対象となる高校3年生は、185名でした。そのうち91名がアサーティブ入試に出願し、53名が合格となりました。2015年度には、557名のうち高校3年生は538名となりました。そのうち290名が出願し、130名が合格となりました。最終的に、アサーティブプログラムを受け、アサーティブ入試以外での入学者も数多くいることがわかりました。

アサーティバーへの成長

私どもにとって、高校時代からアサーティブプログラムで面談していた子たちが入学してくると、その成長した姿に何とも言えない感動を覚えます。これは、ほかの入試で味わえないものです。

今年3月、一期生(2015年度入学者)の女子2名が、「アサーティブ一期生として、二期生を温かく迎えたいから、何かしたい」と相談に来ました。結局、新学期を迎え、一期生が5人、二期生が10人ほどで、これから何ができるのか、ちょこちょこ集まっては「アサーティバーの活動」について話し合っています。私たちは、場所とお金の相談にのっています。

今年4月からは、ベネッセと学生たちの成長を可視化できるように共同研究を始めました。今後の調査・研究に期待したいです。


東京大学の入試改革と国の入試改革プラン

東京大学 理事 副学長 南風原 朝和

南風原 朝和氏
東京大学 南風原 朝和氏

東京大学の入試改革

*後期日程試験の廃止

本学の後期日程試験のねらいは、学生のさらなる多様性を求めて、前期日程入学者層とは異なるタイプ、具体的には学問を俯瞰的に捉えることができる学生の確保を目指していました。

後期日程合格者は希望した科類に進めます。最後の後期日程試験(H27年)の入学者100名の選択は理科一類と理科二類合わせて78名で、かなり理系に偏りました。前期日程以上に女子が少なく、理系の男子が後期で補充されたという感じでした。

*推薦入試の導入

本学では後期日程試験の状況もふまえ、H28年入試よりこれまでの後期日程試験で実現できていたよりもさらに多様な学生構成を実現するために、ペーパーテストの制約を越えて書類選考、面接等に入試センター試験の結果を組み合わせて行う推薦入試を導入しました。100名を学部ごとの募集とし、合格者はその学部に進めるという形に変えました。医学部医学科にも出願可能ということは後期日程試験にはなかった点で、そこも新たな試みです。

推薦入試を受けられるのは日本国内の高等学校卒業予定もしくは卒業した者で、各学校から男女1人ずつ、男子校・女子校は1人です。推薦要件に合致することを具体的に証明する書類例には、在学中に書いた論文、受賞歴、外国語の語学力証明、国際的な資格試験の結果などですが、これは例示であり、オールラウンダーを求めているわけではありません。

入試の流れは、11月に出願受付、そして第1次選考に合格した受験生対象に12月中下旬に面接等を行います。1月の大学入試センター試験を受験してもらい、8割以上の得点を目安とします。

初年度の結果はこれから追跡調査を行っていきますが、推薦入試合格者の声を聞くと、入学してすぐの段階で大変意欲的なことを言っています。後で進路を決めたい受験生は一般入試の方が向いていますが、やりたいことが決まっており、自分の一番高いところを見てほしい者は推薦入試を選ぶ。このように複数のアドミッションの方法を示して、多様性やニーズに応えるかたちをとっています。

推薦入試の入学者の表面的な属性として、一般入試に比べて関東圏以外の地域からの生徒が増え、女子の比率も、推薦入試の方が倍以上になっています。

3000名強の入学者のうち推薦は100名ということで、残りの3000名近くを入学させる一般入試については、これまでのやり方を大きく変えることは現時点では議論されておりません。

*理科三類における面接試験の再導入

2018年度入試より本学理科三類(ほぼ全員が医学部医学科に進学)において面接試験を再導入します。このねらいは、将来医療や医学研究に従事するのにふさわしい資質をもった学生を、学力試験の成績のみでなく多面的・総合的に選抜するためです。

推薦入試合格者の声

  • 総合点ではなく、自分の能力の一番高い部分を見てもらえる。推薦で選ばれたからには東大に刺激を与えられるような人間でいたい。
    (文科三類文学部男子)
  • 最初からやりたいことが決まっていて、そのやりたいことが東京大学にあるから推薦入学というかたちを選んだ。
    (理科一類工学部女子)
  • 初年次ゼミではディスカッションを引っ張っていけた。周りにとって良い影響になることを意識している。推薦入試で書いた日本語の論文をこれから英語でまとめてみたいと思っている。
    (理科二類農学部女子)
推薦入試の流れ

国の入試改革に関して

*中教審の答申を受けて

2014年12月に出された中教審答申の基本的枠組みは、「共通テストは結果を段階別表示し、大学ごとに応募条件として必要な段階を提示、そして複数回受験可能な資格試験的に利用する」という前段、プラス「個別大学による多面的総合的な評価」ということでした。しかし、高大接続システム改革会議を経て前段は実質上消滅しました。枠組みが大きく変わったのでシステム全体を見直すべきですが、それがないまま、次の議論に移っています。

*国の入試改革作業の現状

現在は、新テスト「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」を「思考力・判断力・表現力」を中心に評価するものとして構想し、それを測るために記述式問題を導入することに注力しているという状態です。これは、選抜方式全体として、いわゆる「学力の3要素」と言われる、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・協働性」の評価を重視することを謳うものです。

しかし、「思考力・判断力・表現力」はそもそも一つの要素なのか、3要素ははたしてベストなのか、この三つがどう結び付くのか、他に必要な力はないのか等、関係者の間ではさまざまな疑問や批判があり、「学力の3要素」は改革プランの基盤とするには理論的に脆弱すぎる枠組みのように思えます。

*新テスト構想から予期されること

新テストは思考力・判断力・表現力を中心に評価すると言っています。具体的に「天体の動きが分かっていない」「英語の構文が分かっていない」などと言われれば努力の方向が分かりますが、「判断力が弱い」「思考力が不十分だ」と評価されても、学生はすべきことが分からない。努力の方向性、具体的な目標が見えにくくなるという問題があります。

それから、実質的にはテストが難しくなることが予想されます。センター試験で上位の成績をとっている人たちをさらに区分けするにはいいのかもしれませんが、それは二次試験で行っていることなので、共通テスト自体を難しくするのは意味がないだろうと思います。

最後に、記述式については、コスト・日程の問題はもちろんですが、それ以上に測りたいものが測れているのかという採点結果の妥当性の問題があります。

*新テスト構想に求められること

やはり適切な方向に受験生の努力を促し、努力が報われるテストになるように、見直しをすることです。かつてセンター試験の導入時にはもっと大学も高校も大きな議論に加わっていたはずです。広く納得と協力が得られるように、オープンな議論がなされることが強く望まれます。


学生の方たちからの意見
大学は学生の意欲を入学後につなげ育む場であってほしい

研究会には大学生4人と、全国大学生協連の全国学生委員会2人が参加し、自身の受験経験と報告内容の感想を述べました。

学びへの意欲を育むアサーティブ

学びへの意欲を育むアサーティブ

佐藤敬一さん(追手門学院大学2年)は、アサーティブ入試の一期生です。受験を振り返り、「個別面談でコミュニケーション能力が鍛えられ、グループディスカッションでは価値観が違う人たちの意見を聞いて自分の考えも広がり、自分自身入試を楽しむことができて良かった」との感想を持ちました。

「アサーティブのとりくみが学生に学びの意欲を与える役割を果たしているのはいい仕組みだと思う」と話す笹木彰さん(明治大学3年/出版甲子園)は高校までの授業に学ぶ意味を見出せず、モチベーションを維持するのに苦労した経験がありました。それらの意見に対して志村課長は「高校の勉強は、大学で役に立つのかと質問されることもあるが、大学入学後にその知識を応用したさまざまなことを知っていく楽しさにつながることに気付いてほしい。受験勉強は無駄だったと言わせないために、あえてアサーティブ入試にはグループディスカッションを入れた」と述べました。

推薦入試は進路決定に有利な面も

宇津木宏治さん(早稲田大学3年/出版甲子園)は、系属校より推薦で早稲田大学に進学しました。やりたいことがあって文系に行きたかったにもかかわらず、文系教科は大の苦手。しかし、「得意の理系教科で上位の成績をあげて推薦を得られたので、推薦入試で受験して良かった」と言いました。

南野健介さん(東京大学2年)は東京大学の推薦入試のメリットについて、「志望した学部学科に進めるという点では有利だと思う。東大では一般入試入学者の場合、2年次に進学選択があるが、自分の属する理科二類は理科一類と選ぶ学部がかぶっている。成績の平均点で振り分けられるので、わずかな点差でも点数が低い方の科類に進路を決めてしまうという雰囲気が学生の間にある」と述べました。

新テスト構想について

新テストに導入される記述式問題については、「書く量も多いし採点する量も多い。そもそも誰が採点するのか。そういった広い意味も含めて実現は難しいという印象を受けた」(南野さん)という意見が出されました。

石塚勇稀さん(全国大学生協連 全国学生委員)は南風原先生の報告を受けて、「新テストに関して、努力の方向性や目標が具体的に見えにくいというのは同感だ。この新テストを進めるのであれば、高校教育でどういうことをすべきかというところから議論する必要がある。高校教育で求められることと大学で求められることとをしっかり整理していく必要があるのではないか」と述べました。

大学に求められること

伊藤樹央さん(全国大学生協連 全国学生委員)は、二つの大学の報告より「この大学に入りたい」「これを学びたい」という想いをもって大学に入った高校生が、入学後に意欲的に学んでいく姿を感じました。

石塚さんも、「入ってから何がしたいのかイメージできるということを、大学がこれから広報していく必要がある」との意見を述べました。

南風原先生は「『学力の3要素』の学習者像には完成形が描かれている。皆が知識・技能があって思考力・判断力・表現力を持ち協調性に富むのなら逆に多様性もないことになる。凹凸のあるのが多様性だ。大学は完成形を求めるのではなく、鍛えるべき能力を専門家が4年間かけて教育していく場でなくてはならない」と述べました。

(編集部)


参考書籍(研究会会員関連著書)のご紹介

『大学入試改革 海外と日本の現場から』(読売新聞教育部)中央公論新社発行 税別1500円

大学入試改革

今回の研究会と前後して7月に発行されたこの本は、実際にアメリカや台湾、韓国の大学を取材し、その国や大学で行われている入試改革の実状が詳しく、分かりやすくレポートされています。日本については、「高大接続システム改革会議」の最終報告、今のセンター入試に代わって2020年度実施される「大学入学希望者学力評価テスト」の概要などを、具体的事例や歴史的流れを交えて報告するとともに、東大、京大や旧七帝大、早稲田大、佐賀大、お茶の水女子大、ICUなどのそれぞれの大学が、試行錯誤を経ながらも、来て欲しい学生像を受験生に示して進めている現場のとりくみも、きわめて具体的に述べられています。諸外国の入試改革の実状や日本の各大学の具体的なとりくみを知ることで、最後の『まとめ』にもあるように、大学入試改革の重要性を多くの人に考えてもらうための入口の本と言えるでしょう。

(編集部)

出版甲子園についてはこちらから→http://spk.picaso.jp/

学生の方のお名前は仮名です。また、学年は2016年3月当時の学年を掲載しました。

『Campus Life vol.48』より転載