全国大学生協連の研究会報告

変容する就活日程の中で学生・企業の動きと大学の支援を探る

10月31日、全国大学生協連が後援し報道関係者が参加する第36回「学生の意識と行動に関する研究会」が「就職活動の変容〜学生のとりくみ・経験、企業や大学の動きなど」をテーマに東京都千代田区のアルカディア市ヶ谷(私学会館)で開催されました。この研究会の概要をお伝えいたします。

昨年・今年と就職活動時期が2年連続で変更され、今年は企業の選考活動解禁が8月から6月へと前倒しになったことで、企業側・学生側ともに昨年までとは違った動きが展開されました。
今研究会では、80万人の学生が登録する「マイナビ」よりデータに見る17年卒学生の就職活動の概括的・特徴的な振り返りを、そして近畿大学文系ゼミより具体的な教育や就活サポートの二つのご報告を通じて、変化激しい時代の学生の就職活動の変容を探ります。

2017年卒 就職戦線の中間総括〜就職戦線前半戦の振り返りと今後の展望〜

今年は企業の広報活動期間が3カ月に短縮され、企業が3月以前の段階で学生にPRするために実施した冬期インターンシップは、参加率も高く大変盛り上がりました。学生側も非常に短期間でタイトな就職活動を進めていったということが昨年との大きな違いだと思われます。

株式会社マイナビ
編集長 吉本 隆男

株式会社マイナビ 編集長 吉本 隆男氏

企業は採用意欲高く

学生と接触し情報を提供するために、47・2%の企業が個別企業セミナーの開催回数を増やしました。3月にエントリーの受付けを開始してから一気に個別企業セミナー、あるいは面接段階に入っていった企業もあります。時期的には採用広報開始の3月に68・7%(昨年+18・2㌽)の企業が開始しており、前倒しで採用活動をスタートしたことがうかがわれます。
 面接解禁の6月を待たず、5月以前に面接を行った企業が全体の72・6%ありました。特に今年は事前接触回数の平均が1・9回(昨年+0・2)と、実際には6月前の段階で学生との接点を増やす傾向がありました。

学生は短期決戦

過去3年間を比較すると学生のインターンシップ参加率・平均参加社数は増加傾向にあり、特に今年は冬期に積極的に参加する学生が増えています(最多は2月で43・2%)。

一昨年は平均89・6社だったエントリー数は、昨年日程変更があった中で56・1社に減り、今年は開始5カ月間で45・7社と、過去10年の調査で最も少ない数値になりました。エントリー後にエントリーシート提出・個別企業セミナー参加と短期間で対応を迫られたことの反映と思われます。

個別企業セミナーへの参加割合・参加社数は3月がピークで、5月には一気に減っています。エントリーシートの提出・通過割合のピークは4月で、本格的に就職活動を開始後、一気に進行したという結果になりました。

昨年は広報活動開始が3月でも大手企業の選考開始は8月だったので、エントリーシート提出後、結果通知までに時間がありましたが、今年は企業の採用活動も非常に短期間で進められたので、エントリーシートの結果通知が来るのも早かったようです。

一次面接受験の割合は開始2カ月目の4月が79・7%で最も多く、5月には中堅・中小も含めて半数近い学生が受験していました。最終面接は大手企業の選考が開始される6月がピークになりましたが、開始3カ月目の5月の段階ですでに半数近い学生(45・8%)が最終面接を受けているという実態もありました。

学生のインターンシップ参加状況
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データはマイナビを利用している学生にとったアンケート結果となります。

ご紹介した内容のもととなった調査については、「採用サポネット」に掲載しています。
より詳しい資料に関しては、こちらのサイトをご参照ください。

前年を上回る内々定率入社意思決定に迷いも

エントリー、個別企業セミナー参加、OB・OG訪問、リクルーターとの接触などの企業理解につながるような活動については、時間的な制約もあってか、昨年よりは学生の活動量は減少しました。しかし、内々定率は昨年の8月と比べて非常にいい結果でした。特に理系、中でも院生、それと女子の内定率が非常に高かったのも今年の特徴としてあげられるかと思います。

2社以上の内々定を持つ学生の割合は、8月の段階で16年卒37・8%、17年卒44・3%でした。保有社数そのものについては、去年、今年ともに2・1社と、変化がありませんでした。

また、昨年話題になった「オワハラ」(企業が他社の選考の辞退を要請)は、16年卒5・4%に対し17年卒1・5%と減少しました。今年は昨年とは逆に、大手企業の選考が中堅・中小企業より先に行われたことが影響したと思われます。また、複数内定保有者の「サイレント辞退」の割合は1%以下で、大学のキャリアセンターの指導の成果ではないかと思われます。

今年の特徴として、学生の最終的な入社意思決定の時期があります。16年卒では、入社予定先の内々定が出た時期と学生が入社決定企業に承諾の連絡を入れた時期は、ともに8月上旬で重なっています。しかし、17年卒では、入社予定先の内々定が出た時期は6月の上旬がピークですが、企業に入社承諾の連絡を入れた時期は6月下旬となり、タイムラグが生じました。学生は就職活動・企業研究を短期間で進めたので選択・吟味する時間が十分にとれず、複数の内々定を持ちながら最終的な意思決定の軸を決めるのに迷って時間を要したのが理由ではないかと、私どもでは分析しております。

インターンシップとの相関

広報期間短縮の中で非常にインターンシップの重要性が増しています。6月の時点で内々定が出た学生65・3%のうち、インターンシップ経験者の内々定率72・1%、同未経験者54・6%で、文理別・男女別等すべての属性において経験者の内々定率は、未経験者を上回っています。また、参加回数の多い学生ほど内々定獲得率が高まる傾向がみられます。

もちろんインターンシップに積極的に参加する学生は総じて就職活動にも積極的に取り組んでいったと思われます。しかし、インターンシップ参加経験の有無により就職活動において大きな差が生まれていくという状況は、現日程の中では顕著に表れているように思われます。

日程変更に対する学生の意見

選考活動開始時期変更に対する学生側の意見では、「プラスの影響があった+どちらかというとプラスの影響があった」学生が今年は52・4%(昨年20・7%)と、半数以上が今回の日程変更を肯定的に捉えています。特に研究期間との重複が減った理系学生からは、高い評価を得ました。

全体としてプラスにはたらいたと思う理由は、「短期間で就職活動が終わった」「暑い時期に就職活動をする必要がなかった」「落ち着いて夏休みを過ごせた」などが大きな要因でした。

逆にマイナスにはたらいたと思う理由は、「面接・選考時期が集中・重複した」で、短期間に活動が集中したことが大きな負担になったと思われます。「選考前の段階で十分に準備ができなかった」との反省点も聞かれ、「興味のある企業にしか目が向かず、視野が狭くなった」という感想には、就職活動の短縮でエントリー数が減り、中堅・中小を含むほかの企業に目を向けられなかったという学生の実情が反映されていると思います。


就職活動の変容〜〝変わる大学〟・近畿大学のキャリア支援〜

私は前職である経営コンサルティング会社や企業調査会社の経験を生かして企業を訪問・分析し、競争優位性のある企業をゼミ学生に紹介するなどの支援をしています。

近畿大学経営学部キャリアマネジメント学科
准教授 松本 誠一

松本 誠一氏

今年の就活を振り返って

私の研究室を訪れる学生からは、昨年は「良い会社を教えてほしい」との質問が多かったのに対し、今年は「複数内定を取ったがどちらにしたらいいのか」という相談が非常に多く寄せられました。10月に入っても迷っている学生が見られます。超売り手市場と言われる今年ですが、エントリー・企業への理解促進段階で意思決定が十分にできなかった副作用の現れかと思います。

学生・企業ともに二極化現象が進み、同じ業界、同じ規模でも採用がうまく進んだ企業とそうでない企業があるのと同様、学生も内定を二桁取る子もいれば、今の時点でも一つも取れていない子もいます。

また、今年は6月を守った企業がどれだけあったのかと疑うほど就活が早く終わり、ルールが形骸化されたと感じます。サイレント(落とした学生に連絡をしない)も依然としてあったようで、企業側も内定辞退に備えて学生を落としきってないのだと思われます。

中堅・中小企業に関しては大企業の早期収束を待って長期化し、「採用時期は6、7月には収束する」と言われつつも今も採用枠が埋まらず、採用活動を続けている実態があります。ルール形骸化、サイレントというのは、かなり深刻な問題だったのではないかと思っております。

人財育成で重要なこと

人財育成で重要なこと

「七・五・三現象」とは学生の早期離職を指す言葉ですが、入社前とのイメージギャップがあったことで生じるリアリティ・ショックが主な原因でとされます。

我々大学側は、企業の情報発信不足と学生の情報収集不足によってミスマッチが起こることがないよう、学生に早めに企業を見るように促し、視野を広げさせていく必要があると思います。

企業も採用する〝入り口〟だけではなく定着してもらうことが大切なので、良い面だけではなく悪い面もありのままに伝えた方が、学生も自分の適性が分かり、離職率低下につながります。その一つの機会がインターンシップで、学生にはインターンシップはいくつも行くことで、良い・悪いの選球眼を養うことができると指導しております。

近畿大学のとりくみ

本学のキャリア支援は〝出口〟(卒業・就職)に重点を置き、卒業後も面倒見の良い大学を目指します。具体的にはアクティブラーニングで学生の意識行動を変革するさまざまなとりくみを試みています。

出口戦略の一つは、卒業生50万人を超えるスケールメリットの大きい大学だからこそできることをやろうということで、去年から「近大サミット」を開催しています。

企業サイドと接触できる機会をさらに増やすために、各業界の第一線で活躍する卒業生を大学に招いて業界研究会や合同セミナー、数多い公務員志望学生のための公務研究会等のイベントを実施して、実学教育を行っています。このとりくみで、本学は就職内定率も就職率も上昇したというデータが出ました。

また、学内向けのポータルシステム(UNIPA)を構築し、大学では国内で最大級の企業データベースと卒業生のデータをマッチングするページを作っています。既卒者の採用実績と企業の売上げ利益を一覧で見られるので、それを活用して早くから企業を見るように勧め、名前が知られていなくてもいい会社があると学生に知らせています。

さらにUNIPA上で就活イベントや企業説明会などを情報発信して学生の参加を促し、就活に触れる機会を増やします。真の優良企業を説明するため、外部データを活用してデータベースを見せたり、中小企業ともマッチングさせたりします。

このほかに細やかな支援としては、やはり個人で格差が出てきているのでキャリアアシスタント制度をつくり、進路が決定していない学生にこの秋から本学職員が連絡を取ってキャリアセンターに誘導するというプロジェクトを行っています。また、学生の精神的なサポートも教職員が行います。

実学を通じたPBL

中小企業の採用戦略についてはインターンシップもありますが、本学では産学官協同教育をベースに、企業とコラボしてさまざまなアクティブラーニングやPBLをさせていただいています。インターンシップの期間は1〜2週間くらいですが、ここでは半年ほどかけてたくさんの会社と活動しています。

私のゼミでもゼミ単位で企業とコラボして、商品のプロモーション、マーケティングプロジェクトなどをさせていただいています。学生はそれらの活動の中で自分たちで考えて実践し、失敗もしていますが、これは実は企業のマーケティング活動に他ならないわけです。マーケティングは企業でも行うことで、失敗は当然です。失敗を重ねる中で、「働いてからも強い学生」を育成しながら、企業との接点をつくっていくよう促します。学生にとっては、面白い中堅・中小企業があることを発見するきっかけにもなります。

このような活動は、アクティブラーニングやPBLと言われます。PBLは一定期間に成功するように指導する大学が多いのですが、失敗することによっていろいろな経験をするものですし、面接ではその失敗が多分に評価されると思います。

このように、キャリア教育では就職支援も大切ですが、就職してから(出口)が大切であるということを本学では実学を通して教育しています。学生間で「それな!」という言葉が今はやっていますが、学生を共感させること、つまり企業と組んでいて、「あ、これっていいじゃないか」とか「中堅・中小企業って面白いじゃないか」ということを感じさせるために主体的学習を深め、「就職してから強い学生」を育てたいと思って今、活動を続けています。


学生の方たちからの報告
変化する状況の中で視野を広げて新たな可能性を見つける

軌道修正して意外な展開に

研究会で意見を述べた5人の大学生のうち4年生2人は、就職活動の中でそれまでは考えていなかった方向に進路を変えて内定を得ていました。

大塚敦子さん(法政大学4年)は、3月から連日2、3社の説明会に行き、3業界50社にエントリーしました。しかし、就活を進めていく中で第一志望にしていた業界が自分には向いていないことに気付きました。「冬のインターンシップで参加したIT業界に新たに興味を持った。3月の情報解禁前に企業の情報を知ることができて良かった」。方向転換し、6月下旬に内定を得ました。

加藤宏幸さん(近畿大学4年・松本ゼミ)も本格的に就活を始めたのは3月。短期間で志望業界を絞り、40社ほどエントリーしましたが、「念願だった会社に最終面接まで行った喜びで、ほかに内定を取っていた会社を辞退してしまった」。結局6月中旬の最終面接で希望の会社に合格できなかったのですが、その後キャリアセンターの支援も得て、一つの枠にとらわれず、もっと視野を広げようと思い直しました。「BtoBのメーカーに興味を持ち、そこからシフトチェンジして企業訪問を再開した」ことで、今まで眼を向けなかった中にも面白い企業があるのに気が付けたと言います。ちなみに加藤さんが最終的に内定を取った空気圧機器を取り扱う会社は、松本先生によると「世界シェア4割で財務体質も抜群」とのことです。

就活は不安ばかりだが自分に合う企業を模索中

学びへの意欲を育むアサーティブ

研究会に参加した3年生3人は、それぞれ今後の就職活動に対する思いを語りました。

寺門典子さん(近畿大学3年・同)は、今年の夏に証券会社で5日間のインターンシップに参加しました。業務内容に興味を持って臨んだのですが、なんとなくこの業界が自分には合わないように感じました。「ゼミで企業とコラボした活動に参加して、仲間と企画して自ら作り出す喜びを知ったので」と言う寺門さんに松本先生は、「夏期インターンシップの場合は、自分に一番合う業界を捜すという反面、合わない業界に気付くという点も非常に大切で、企業選択のカギになると思う」との意見を述べました。

「周りには自分で調べてインターンシップに申し込んだり、SPIの勉強をしている意識の高い人もいるが、何もやっていない人もいる」と言うのは小野麗子さん(法政大学3年)。夏に1カ月間、ロサンゼルスの日系企業でインターンシップをしました。「生の声や現場を見られ、その会社のいい面だけでなく悪い面も分かって良かった」と言う反面、報告内容から「インターンシップに行けば優先的に採用される会社があるという話を聞いて、出遅れないか心配」と、不安な気持ちを話しました。

 秋山千波さん(フェリス女学院大学3年/出版甲子園)は、「就活スキルだけでなく、就職してから強い人財に育てる支援が望ましいと思う」との感想を持ちました。インターンシップの経験はありませんが、「自分の希望する業界のことしか調べていなかったので、報告を聞いていろいろな職種を調べてみようと思った」と言いました。

 参加者からの、インターンシップ経験と内定率の良さとの関係について吉本編集長は、「業種にもよると思うが、インターンシップに積極的に参加する学生は総じて前向きに就職活動に取り組み、意識も高い。業界研究も企業研究も進んでいるという点が成果につながっていると思う」と説明しました。

(編集部)


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学生の方のお名前は仮名です。

『Campus Life vol.49』より転載