全国大学生協連の研究会報告

留学生の就職事情〜学生の実状、大学の支援、今後の課題

7月18日、全国大学生協連が後援し報道関係者が参加する「第46回学生の意識と行動に関する研究会」が「留学生の就職事情〜学生の実状、大学の支援」をテーマに、早稲田大学戸山キャンパス学生会館内のキャリアセンターセミナールームにて開催されました。

「留学生30万人計画」が発表された2008年当時、14万人ほどだった外国人留学生数は、2018年には約29万9千人となりました(同年5月1日現在)。大学院生、学部生、短期大学生、高専生合計に限っても、この10年間で12万4千人弱から20万9千人弱に増えています。一方、留学生の卒業後の進路は、この間の日本の大学や社会の変化と相まって、多様であると予想されます。
今回は、毎年多くの留学生を受け入れ、その進路に多様な事例のある早稲田大学と立命館アジア太平洋大学(APU)の現場の方々より、留学生の実情と大学の支援についてご報告いただくとともに、実際の留学生・卒業生の方からも、その就職事情についてお話しいただきました。

早稲田大学における外国人留学生のキャリア支援

早稲田大学キャリアセンター 伊藤 賢(さとし)氏

大学ジャーナリスト 木村 誠氏
早稲田大学 
伊藤 賢氏

学生生活で最も大切な学業や課外活動を通じ、低学年段階から視野や進路を広げる経験を積んでいく場を紹介し、就活の時期には必要なサポートをする――これが本学のキャリア支援の基本理念です。

早大生の進路の特徴

卒業生全体では約2750機関に就職しており、就職者の半数は大手企業220機関に就いています。進路の内訳は大手だけではなく中小企業や国家・地方公務員、特殊法人系、NPO等と非常に多岐にわたっています。
就職率※は学部卒業生97・3%、研究科(大学院生)も含めた全体では95・3%です。

卒業生の活躍度を評価した「QSランキング2019」では、本学は国内私立大第1位で、世界で活躍する多様な人材を輩出していると自負しています。

進路の割合は毎年だいたい7(就職):2(進学):1(その他)で、このその他の中には、外国人留学生で卒業時点では就職が決まっていない学生、まだ活動中という学生も含まれています。

※就職率 文部科学省の通知に基づく、就職希望者に占める就職者の割合。

外国人留学生の進路状況

*外国人学生在籍状況

直近のデータでは通年の在籍者数は約8000人ですが、外国人留学生は正規生だけではなく、いわゆる非正規生として在籍している学生も非常に多く、定点でみると5000〜5500人程度という状況です。「Waseda Vision 150」では、2032年度までに外国人留学生数を1万人に到達させるという目標もあります。

外国人学生の出身国の内訳で最も多いのは中国籍の学生(55・1%)で、韓国、台湾が続き、東アジア圏の国、地域で75%超を占めています。一方で欧米系学生も徐々に増えてきております。

*2018年度 外国人留学生進路状況

外国人留学生だけを抽出した2018年度卒業生の実績は、就職を選ぶ学生は、学部生43%、研究科49%です。在日中に意図的に就職を決めずに母国に帰る学生もおり、それが学部生75・6%、大学院生62・8%という就職率に表れています。

ちなみに入学時オリエンテーションでは入学者数の70%が「日本で就職したい」(複数回答可)との希望を持っているのに対して、実際の卒業/修了時に「日本で就職した」学生は30%にとどまっているのが現状です。

*2018年度 外国人留学生の主な就職先

日本人学生と同様、留学生の就職先も多岐にわたります。多いのはコンサルティング業界・IT系・電機メーカー等で、次いで金融・自動車・小売りです。あとは海外企業に直接就職をしたり、大学院生中心に国際機関への就職実績もあります。

外国人留学生の傾向

卒業後は、まずは日本で就職を希望する学生が非常に多いのですが、一方で5〜10年後までには転職して母国や第三国で働くというキャリアイメージを持つ学生が多いという傾向があります。

業界や企業という観点では、日本の法人でも外資系企業やグローバルに活躍できる企業に興味を持つ傾向があります。業界としては、コンサル・金融・メーカー・商社と、多分野に広がっています。

私どもではOECD(経済開発協力機構)等、複数の国際機関とインターンシップの協定を結んでおり、毎年1回学生を推薦して各機関のインターンシップに派遣しております。また、例えばOECDの担当者が来日する際に実施していただいているキャリアセミナーは非常に人気が高く、国際機関への興味の高まりは、日本人学生にも見られますが、外国人留学生の場合は特に強く感じます。

外国人留学生支援における課題

以上のことも踏まえて、私どもが日々感じているいくつかの課題があります。

*日本語能力

企業から留学生に求められている日本語能力と、留学生自身が大学生活4年間、あるいは院生生活2年間を含めた実際の日本語能力とのギャップが就活における壁になっているという事実があります。

本学では〝英語学位プログラム〟といって、英語の授業のみで学位が取れるシステムを複数の学部で導入しております。ここに在籍する学生は、基本的には学業・大学生活で日本語が求められない学生です。

ただこういう学生が日本で就職したいとなると、日本語の面で非常に苦労します。企業から求められる要件は、一般的にはN1とかビジネスレベルといわれます。優秀な留学生でも日本語力が原因となって一次スクリーニングで受かることができないという現状があり、私どもとしてはなるべく低学年のうちから日本語学習は非常に大事だと意識付けをするようにしています。そのために、まずは日本人学生が多く集まるコミュニティと積極的に関わって、そこで言葉や文化を吸収するというようなことをオリエンテーションの際には促すようにしております。

*就活文化・実践スキル

やはり多いのは、日本の企業の探し方が分からないという学生です。日本人学生がよく使うリクナビやマイナビという、アクセスしやすいリソースの存在自体を知らない。また、就活の情報をやり取りするほど大きいコミュニティで活動しないので、日本の就活の情報が十分に共有されないという状況があります。

同様に日本企業の採用プロセスや、エントリーシート、グループディスカッション、面接の対策等、非常に基本的なことが分からないというのが留学生からの相談では多いです。新卒一括採用やポテンシャル採用等を理解できないという声もあります。インターンシップについても、外国人留学生は実務の経験を積むという明確な意図で参加するものと考えている場合が多いので、日本企業の現状とズレがある場合があります。

我々の対応としては日本語と同様、なるべく低学年次から情報提供をして理解促進を促し、日本の就活の概要を教えていくという状況です。

*外資/海外企業・英語求人の開拓

学業優先ということを考えたときに、外資系企業の採用スケジュールと、いわゆる就活ガイドラインの日程に大きなズレがあり、企業と大学とのニーズのミスマッチが生じているという問題があります。有体に言うと、外資系企業は早い時期からマッチングをしたいという意向がありますが、大学としてはやはりある程度の時期までは大学生は学業あるいは課外活動に専念して、その上で就職先や進路を決めてほしいという想いがあります。

他方、英語の求人やインターンシップの開拓も今後進めていきたいことの一つです。英語合同企業説明会に参加する企業は増えてはいますが、採用にあたってはやはり日本語が必要というのが現状なので、これも課題の一つです。

先ほど申し上げました通り、現在、OECDに加えてIDB(米州開発銀行)、ERIA(東アジア・ASEAN経済研究所)等、海外の国際機関へのインターンシップも実現して学生を派遣しており、特にIDBに関しては、インターンシップで参加した学生がそのまま採用までつながったというケースもみられています。

グラフ

私どもキャリアセンターは外国人留学生に対しても、主体生を重視し、様々な経験を経た後に自主的に進路を決めてもらうという支援を、継続して行っていきたいと思っています。

そのためには外国人留学生のニーズをより正確に把握し、それにかなうような支援をしていく必要があります。入学時点で日本での就職を希望する学生が7割と確認できていますが、それがどのように変遷していき、実際の進路選択の際に何を考えているのかについて、今後も精度を高めて調査し、適切な支援をしていければと思います。


留学生のキャリア支援 Career Support at APU

立命館アジア太平洋大学(APU) 事務局部長兼学長室室長 村上 健(たけし)氏

教育ジャーナリスト 玉川大学教育学部教授 中西 茂氏
立命館アジア太平洋大学 
村上 健氏

APUの留学生事情

APUは社会科学系の2学部を有し、在籍生約6000人の内訳は、留学生と日本人学生が半々です。

世界91カ国・地域からの留学生はほとんどが正規の学部生で、高校卒業後18歳で入学してきます。海外の高校から留学生が集まるのは、APUが入学時点で日本語ができなくても英語ができれば受け入れていることと、学生が受験のために日本に来なくても、海外の高校から直接出願し、現地で面接を行う仕組みをつくったことが大きな要因です。春秋の年2回入学の実施も、秋入学が多い留学生にとっては留学しやすい仕組みになっています。これらの取り組みは、2000年の開学時から実施しています。

留学生の親御さんの日本に対するイメージは安心・安全で公平な国です。国民健康保険の制度等も安心材料になっていて、日本での就職にも魅力を感じています。

留学生の出身国で多いのは韓国・インドネシア・ベトナム・中国・タイで、彼らは母国語に加えハイレベルな英語ができます。入学後は1年次より日本語を集中的に学習するカリキュラムで、中級までは必須ですが、中級終了後は日本での就職希望者はさらに上級日本語やビジネス日本語を学習できます。反対に日本人学生は英語が必須科目として課されています。

具体的な就職・進路状況

APUは別府の山の上にあるので、首都圏で就職活動がしにくいという地理的なハンデがあります。これに対して、一期生の卒業時から17年続いているのはオンキャンパスリクルーティングの取り組みです。年間250〜350社の東京を中心とした企業の人事の方が、APUまで足を運んでくださいます。わざわざ東京から来ていただくことのメリットは、直接多国籍の学生にその場で面接できることで、中には説明会だけでなく、採用活動をして最終面接直前ぐらいまでしていただくような企業もあります。

2018年9月と19年3月の卒業生の就職決定率をみます。留学生の中には国に帰る学生がいるので、キャリアオフィスに登録した就職希望者に占める就職決定報告者の割合になりますが、全体で96・2%、留学生に限ると94・6%です。

APUにはエンジニア系の学部はありませんが、昔から多い就職先はメーカー系の企業です。やはり早くからグローバル展開をしていたメーカーと、最近はサービス業、コンサル業などの採用が増えてきています。

毎年卒業する留学生は学部生で約600人、その中で日本で就職する者が約250人、その約60%は関東圏で働いています。在学中に母国・第三国の企業に内定する者が約100人で、併せると約350人が在学中に仕事を決めています。そして60〜80人、多い時は100人ほどの学生が国内・海外大学院に進学します。卒業後帰国して就職する者は150〜180人です。

グローバル人材としての評価

学生の卒業時満足度はかなり高く、特に「将来、国際的に活躍できる人材になれた」という自己意識や大学への帰属意識は非常に高い傾向がみられます。10カ国以上の外国籍の友人を持つ学生も半分近くです。

APU留学生に対する企業からの評価は、
①異文化理解リテラシーがある
②言語運用能力が高い
③コミュニケーション能力が高い
④国境間の壁の低さが感じられる
⑤卒業生たちのネットワークが期待される

世界中に友人ができるので世界中どこでもタフに生きていける力を持ち、違いに対する寛容さがあります。これは留学生のみならず、日本人学生にも通用します。また、現在91カ国、延べ150の国・地域から来る学生達のネットワークに企業も期待しています。母国と日本の架け橋であるブリッジ人材というよりは、第三国も含めてどこででも活躍できるグローバル人材であるという評価をいただいています。

留学生の日本での就職の課題と今後の方策

*学生のニーズと可能性

英語ができる留学生は欧米への留学も視野に検討しますが、新卒で正社員になれる条件を有する国は少なく、日本企業への就職ニーズは、日本留学決定時点で高いといえます。就労ビザ取得のハードルも高くはなく、起業の要件も緩和されています。

しかし、大企業に関してはそれなりの就職ノウハウが持たれていますが、例えば地方の中小企業が留学生を採用する場合には、まだまだ実態との乖離があり、サポートが必要な状況になっています。

*学生の能力形成プロセス

留学生の転職・離職率は38・7%で、日本全体の平均30%と比較するとやや高めです。日本語運用能力が低いほど離職率が高いということは実際にあり、我々は企業が求める日本語レベルを検討・検証する必要性を感じます。また、グローバル人材として活躍したいという学生が、例えば採用後は翻訳・通訳要員としてしか扱われないなどの実態も企業にはあります。

一方で、仕事への満足度が高ければその会社で転職・離職をせずに働き続けている実態も分かってきています。

*人材育成の考え方

日本企業で働く卒業生からは、自分に何を求められているのかよく分からないという声が聞かれます。外国人人材の活用方針や、研修・異動の目的が明確でない等の内容です。日本なら先輩の「まあそのうち分かるよ」という言葉で解決されてしまうようなところが、言葉で明確に表す文化で生まれ育った人たちにはなかなか理解しづらいということです。キャリアパスの提示、昇進のロールモデル等の情報が明示されていると、外国人留学生は安心して日本企業に就職活動をすることができます。

一方で、日本には大変優良な中小企業がありますが、外国人留学生にはその情報が届きにくいという点があります。中小企業の方は最近よくAPUに来られますが、留学生を採用した経験がない企業もあり、合同説明会やオンキャンパスリクルーティングをしても多分学生達は集まらないのです。だからこそ、やはりインターンシップを通してまずは企業を知ってもらうなどの地道な取り組みが必要になってきます。

*大学と社会とのギャップ

外国と日本社会とののシステムのギャップの一つに、日本企業はまだ秋卒業への対応が難しいことがあり、秋卒業の人は次の春の卒業生と同じ採用スケジュールになります。帰国後の就活に対する不安があるので交換留学を躊躇するという意見もあり、日本での通年新卒一括採用から通年採用になっていくのが待たれます。

インターンシップも、海外では1〜6カ月の中長期が一般的です。日本におけるワンデイや短期のインターンは会社見学や説明会レベルが多く、留学生たちが抱くイメージとはかなりかけ離れています。留学生は就職活動の一環というより、学びや経験としてのインターンシップを思い描いているからです。

また、奨学金を取っても生活費のためにアルバイトをするのは日本人以上に切実な問題としてあり、サークル活動やインターンシップに行くような時間的な余裕がないというケースもやはりあります。

*就職後&世界に広がる留学生ネットワーク

これは留学生も日本人の若者も変わらないと思いますが、人間関係の複雑さ、婉曲的表現、働き過ぎ、業務なのかプライベートなのか分かりにくい職場の飲み会などの日本企業独特の企業文化の問題があります。

また、ハラルやベジタリアンへの対応を企業にも理解してもらうと、卒業生も満足し愛社精神を持って長く働けることにつながると思います。

一方で、APUの卒業生には、母国でも日本でもなく第三国で働く者もかなりいます。2018年3月31日時点では37の国、地域に卒業生の活動拠点があり、APU卒業生はそこで先輩に話を聞き、相談することで不安を解消することができます。

グラフ

学生のケアは就職活動で終わらず、就職後に留学生が安心して定着し働いていけるような仕組みをつくっていくことにも目を向けるべきです。APUでは日本人学生・留学生限らず、就職支援と同等のエネルギーを学生の大学院進学支援・起業支援・国際機関への就職支援にも充てるべきであるとの考えで取り組みを始めています。そして、大学の中でもそのようなコミュニティ作りに努力していきます。


学生の方たちからの報告
今後の留学生支援はどうあるべきか

研究会には三つの大学から留学生2人と卒業生3人、それに全国大学生協連全国学生委員長が加わり、自身の経験や報告に対する感想を述べました。

研究会

アジアの発展に尽力したい

馬玉峰さん(中国出身・男性/早稲田大学卒/NPO法人永徳堂・中国人留学生稲門会)

私は大手で有名な会社ぐらいしか日本の企業を知りませんでした。また、企業に自分のことをアピールする方法も分からず、就活にあたってはすごく苦労しました。

キャリアセンターの先生には面接やディスカッションの指導、履歴書の修整をしていただきました。最終的に大手の2社に内定を取れましたが、結果的に辞退して中国の上場企業に就職しました。現在は自分の会社を運営しながら、同じような悩みを持つ多くの留学生の後輩たちにOBとして自分の経験を共有する活動をしています。その目的は、東京以外の地方の企業、特に中小企業の情報を伝え、自分の良さをアピールする方法を知ってもらうことです。この事業はもう3年ほど続けており、今は東京都庁の助成金をいただいて運営しています。

私の指導教諭の言葉、「漢字を使って学問、お箸を使ってご飯を食べるのは、世界で日本と中国だけです。この二つの国は仲良くしていきましょう」を念頭に、私の大好きな日本に来る後輩留学生に地方の企業の情報を伝え、企業側にも外国人の良さを伝えていきたい。それがこれから日本の発展、そしてアジアの発展につながると思っています。

子どもの教育問題に支援を

マイ ホアイ ジャさん(ベトナム出身・女性/APU卒/RAROMA株式会社代表取締役・一般社団法人外国人材支援機構事務局長)

小さい頃から日本とベトナムの懸け橋になり、世界を舞台に活躍したいという想いを持ち、オンキャンパス採用で日本企業に就職しました。結婚・出産を経て5年後に転職し、次の会社では4年間勤めました。2017年に会社の仕事以外のことに挑戦したいと思い、独立して今の会社を立ち上げました。ベトナムのプロモーションと情報交換の場所を運営しています。昨年から人材活用の環境やワークを整える「一般社団法人外国人材支援機構」という団体を設立し、理事、事務局長を務めています。

来日して15年ほど経ちましたが、悩みは子どもの教育問題です。夫も私も外国人で、10歳になる息子の中学受験の勉強になかなか手が回りません。日本に長く残ったら、子どもの教育や今後のキャリアを支援する仕組みがあれば助かると思います。

ロールモデルがあれば不安も解消する

ルイーズ・ピノーさん(フランス出身・女性/名古屋大学工学研究科・M4)

日本人男性と結婚しており、卒業後も日本で就職したいと思っていますが、就活に関しては不安ばかりです。就活の仕方がよく分からず、日本語のコースに入っていないので日本人学生に行く情報が私には届きません。それで学部のときにインターンシップをしたいと思いました。日本でよくある短期のものではなく、経験を積むために1〜2カ月休みを使って取り組みたかったのですが、詳しい情報が分からず実現できませんでした。秋卒業の学生を、入社前の9月〜4月に日本語学校に通わせてあげるプログラムがあればいいかなと思います。

ロールモデルがないので、就職後も責任ある仕事を任せてもらえるのか、役職に就けるのか、出産後も仕事を続けられるのか、という不安があります。また、私は主人と一緒に暮らしたいので勤務地が限られるのですが、希望の会社で勤務地を選べるのかは分かりません。

食の問題は重要、日本語学習も

カウル・アマンさん(スリランカ出身・女性/名古屋大学法学部1年)

来日してまだ1年に満たないので、周りの人たちの話をします。異なる食の習慣を持つ、様々な国からたくさんの留学生が来ているので、食の問題は大きいと思います。名古屋大学にもハラルやベジタリアン、ビーガンへの対応がありますが、まだまだ十分とはいえません。

また、私は今日本語レベルN3ですが、N2以上に上げないと日本での就職が難しいです。日本語の授業が足りない、日本語を勉強する時間がない、そういう問題が留学生にはたくさんあると思います。

自分のキャリアから得たもの

謝継香さん(中国出身/早稲田大学卒/jobchain株式会社共同創業者)

周りが就職活動に動き始めたころ、私はまだ日本での就職を決めかねていました。日本の社会をもっと知りたく思い、先程報告した弊社の馬玉峰と一緒に留学生支援のNPO法人を立ち上げました。後輩と一緒に日本の文化や社会を体験し、日本への理解を深めてから就職活動を始めたのです。

私はかねてよりヘルスケアに関心があり、自分の研究テーマも高齢化社会だったので、日系ヘルスケアの会社を選びました。小さい会社でしたが斬新な領域で、在籍した2年半で日本企業のビジネスの仕方を勉強しました。しかし、徐々に自分のキャリアアップに壁も感じてきました。自分の価値を実現するために大手の会社に転職したのは重要な一歩だったと思います。

その後、日中間で何かしたいという想いを実現するために、起業して人材開発の会社を立ち上げました。これから来日する後輩達のためにも、多文化共生の社会になるよう、頑張りたいと思います。

海外に出たからこそ学べること

小島望さん(男性/全国大学生協連全国学生委員長・福島大学卒)

私は全国大学生協連で国際交流や国際貢献の活動をしています。在学中に中国に留学したとき、文化や生活スタイルが違う国に行くことに不安を感じていましたが、現地で中国人の友達ができ、親しく語り合ったことでそれが解消しました。この経験から、日本に来る留学生も同じように不安だと分かったので、コミュニケーションをとって力になりたいと思いました。彼らも授業の中で学ぶ日本語だけではなく、友達から教えてもらうことは大きいと思います。

留学生と接し、その能力や高い問題意識に学ぶことは多いので、日本の企業や社会ももっと海外の文化を受け入れる寛容さを持てば、可能性が広がっていくと思います。

留学生や卒業生の報告からは、日本語能力取得の問題、日本の企業(特に中小企業や地方の企業)の情報が留学生にとって入手困難なこと、キャリアパスが曖昧なこと、日本で働き続けるための環境の整備が待たれること等が課題として挙げられました。

このうち企業の情報や日本語の習得については、伊藤氏より「大学としても情報提供や日本語学習などの支援をより手厚く行っていきたいが、留学生が積極的に日本人のコミュニティと関わることで得られるものは大きい」との提案がありました。

毎年2万人以上の留学生が卒業し、その約3割が日本で就職しています。日本政府は卒業生の国内就職を5割にする目標を打ち出しましたが、そのためには解決しなくてはならない様々な問題が残っています。

留学生30万人計画の出口の就職事情は、今後考えていくべき重要な課題です。村上氏は「教育・防災・病院など、社会的に人が定着するインフラ部分での多言語対応はまだまだ遅れている。多文化共生の時代には、どの国の人にも理解できる『やさしい日本語』や、下手でも憶せず主張するプアイングリッシュで歩み寄る寛容な社会になっていく必要があると思う」と述べ、大学から提言すべき課題でもあるとまとめました。

(編集部)

※参加者のうち、学生の方は仮名にしました。

『Campus Life vol.60』より転載