学長・総長インタビュー

大阪公立大学

辰巳砂 昌弘 学長

統合を誰にとっても価値あるものにすることが最大のホスピタリティ

違いを最大の強みとして、
多様な価値観を生み出す大学へ。

辻:大阪公立大学は、大阪市立大学と大阪府立大学の統合によって誕生した公立総合大学ですが、誕生から1年が経過した今、先生はどのような感想をお持ちですか?

辰巳砂:コロナ禍でもありましたから、統合の実現以来、1年間何とかやってこられたことへの安堵の気持ちがありますね。そもそも市立大学は1880年に設立された「大阪商業講習所」を、府立大学は1883年に設立された「獣医学講習所」を源流としており、約140年という歴史の中でそれぞれが異なる文化を築いてきました。ただ、この違いこそが私たちの最大の強みであり、統合をさらなる進歩の機会と捉えれば、ここから多様な価値観が創造されると確信していました。特に研究面では非常に相互補完的な関係で、フルラインアップの学問分野がそろっており、多くの分野でシナジー効果を発揮できるはずです。そういう意味では、医工連携や防災、エネルギー関連をはじめとして、あらゆる分野における世界レベルの高度研究型大学を目指すべく、取りあえずは順調な船出をしたと言えるでしょう。

辻:新型コロナウイルスというのは、統合にはあまり大きな影響をもたらさなかったということでしょうか?

辰巳砂:統合ということについていえばそうですが、構成員の交流という点ではまだまだかなと思っています。とはいえ、学生たちが大学祭を協力して開催するとか、これまで異なる大学のサークルだったものも統合して一緒に活動するなど、うまくいっているところも多々あるのでよかったです。

辻:先生は大学について語られる際に、よく「学生ファースト」という言葉を使っておられますよね。どのような思いでその言葉を発信していらっしゃるのか教えていただけますか?

辰巳砂:市立大学や府立大学の時代に入学した学生は、構成員の中においてはいまだマジョリティですが、正直、彼らには何とも言えない複雑な思いがあるのではないかと思っています。それは、自分の大学がなくなってしまうという喪失感です。私としては、そんな思いをできる限りさせたくない。そのためには、この統合を誰にとっても価値のあるものとしなければなりません。そのキーになるのが多様性であり、さまざまなバックボーンを持つ学生同士が互いに思いやり、認め合い、高め合えることが重要です。それこそが学生ファーストであり、大学にとってのお客さまである学生をもてなす最大のホスピタリティと考えているのです。

大学のあるところにまちが築かれ、
企業が集積し、イノベーションが生まれる。

辻:現在、大阪公立大学には中百舌鳥キャンパス、杉本キャンパスと2つのキャンパスを中心に、阿倍野キャンパス、りんくうキャンパス、羽曳野キャンパス、2025年秋以降には森之宮キャンパスが3つ目のメインキャンパスとして誕生します。森之宮キャンパスを新たにメインキャンパスとする、この辺りの狙いについてお聞かせください。

辰巳砂:森之宮キャンパスでは学生の基幹教育が行われ、入学したすべての学生がまずはここに通うことになります。「ミナミ」とか「キタ」と呼ばれるように、これまでの大阪の発展は南北軸でなされてきたわけですけれども、私たちは森之宮キャンパスを東の「知の拠点」と位置づけ、2025年開催の万博会場のある西と併せて東西軸で大阪のこれからの発展を支えていこうと考えています。基本的には大阪城東部地区まちづくり検討会という組織を中心に、JR、大阪メトロ、URなどとも協力して将来的なスマートシティ構想を進めています。今はまだ何もないエリアかもしれませんが、5年後、10年後、20年後には、ここに活気あふれる最先端のまちができてくるはずです。そんなまちづくりのダイナミズムを森之宮キャンパスに通う学生たちは目の当たりにし、そこから生まれるさまざまなイノベーションを自ら体験する。これは長いスパンをかけた、エキサイティングで壮大なイベントと見ることもできるのではないでしょうか。

辻:欧米ではよくあることですが、大学ができると、そこにまちが築かれ、さまざまな企業が集まってくる。そうした産学連携の中で新しいインベンションが生まれ、イノベーションが創出されるという流れを描いていらっしゃるわけですね。

辰巳砂:研究という意味では、2022年度初めに「イノベーションアカデミー構想」を打ち上げました。これは産学官民が共創でイノベーションエコシステム拠点を各キャンパスにつくり、さまざまな社会課題を解決するための実証実験を行っていこうとするものです。そのヘッドクォーターとしての役割を果たすのが、森之宮キャンパスというわけです。

辻:産業界との共創によって進められる旨お伺いしましたが、その進捗というのはどうなっていくのでしょうか?

辰巳砂:具体的に決まっているのは、森之宮キャンパスをヘッドクォーター、中百舌鳥キャンパスをハブ、阿倍野キャンパス等をウイングと位置づけ、それぞれのキャンパスで特徴的な研究が進められている分野についてリビングラボの整備を進めています。例えば、中百舌鳥キャンパスはエネルギーや環境、農学などに関する研究、阿倍野キャンパスであれば創薬や医工に関する研究といった具合です。

辻:森之宮キャンパスを中心に、各キャンパスがイノベーションを起こす人材の集結する重要な拠点になるということですね。

辰巳砂:特に森之宮キャンパスの予定地にはまだ何もありません。ただ、何もないからこそ、これからへの期待感も大きいものがあります。大阪城公園駅を挟んで大阪城の天守閣が西側にあって、ちょうど対称の位置に森之宮キャンパスができるわけです。とにかく大阪城が近いっていいですよね。大阪城の天守閣に本部を置いてもいいかなと思っているぐらいですけど(笑)。

2025大阪・関西万博では、
初の企業・大学の共同出展。

辻:2025年に開催される大阪・関西万博をどのように活かしていくか、大阪公立大学のこれからを占う上でも大きな意味を持つと思いますが…具体的にどのような取り組みをされ、どんな効果を期待しておられますか?

辰巳砂:前回の大阪万博が開催されたとき、私は中学生でした。それ以来の一大イベントなので、何らかの形で大阪公立大学もその開催に関わっていきたいと考えていました。もともとボランティア活動が熱心に行われてきた大学なので、万博の開催にあたっては学生たちをボランティアリーダーとして育成するボランティアリーダー育成講座を2022年11月から開催しました。

辻:ボランティアとして参加するのではなく、ボランティアリーダーとして参加するというのがこのプログラムのポイントですね。それ以外に、パビリオンを出展するというお話もお聞きしました。

辰巳砂:飯田グループホールディングスと大阪公立大学が共同パビリオンを出展することが決まっています。具体的な中身についてはまだ発表段階ではありませんが、飯田グループホールディングスは住宅メーカーなのでスマートハウスとか、スマートエネルギー、ウエルネス・ハウスなど、そういった視点からの展示をされるのではないかと思っています。

辻:パビリオンに大学名が冠されるというのはすごいことですよね?

辰巳砂:実は大学内に「Honaikude」という学生団体がありまして、私が学長になる前から学生たちが話し合って「万博にパビリオンを出そう!」という機運が盛り上がっていたようなのです。飯田グループホールディングスとの話が決まって「Honaikude」とも連携しようという運びになったのですが、このように学生と協力して万博で何かを発表するケースはこれまでになかったので、非常に画期的なことだと思います。

辻:また万博といえば世界中から人が集まってくる国際的なイベントですが、これからを生きる大学としてはそういった視点も必要になってくると思います。

辰巳砂:多様性と国際性というのは、大学にとってはものすごく大きなテーマです。ただ、これがなかなか一朝一夕になせるものではありません。今やれるのは、そのための種をたくさんまいておくことだと考えています。もちろん大阪・関西万博への参加もそんな種の一つです。

大学生協と大学の情報共有で、
学生へのホスピタリティに磨きをかける。

辻:最後に私たち大学生協と大学との関係について、少しお話を伺います。私としては大学生協という組織は、大学のエコシステムの一つというか、同窓会や後援会と近い位置づけでもっと大学と関わっていける存在でありたいと思っているのですが…

辰巳砂:そうですね。少なくとも、もっと互いに情報を共有していかなくてはいけないと思います。もちろん、これまでにもさまざまな面でご協力いただいていることは確かなのですが、先日も入試の時に食堂を受験生のために開放してくださって。あれはありがたかったですし、評判も大変良かったと聞いています。

辻:情報共有という点では、大学生協では毎年、学生生活実態調査というものを実施しています。調査結果の共有というのはできていないわけではありませんが、もっと活用することができるものかもしれません。全国組織ということもあって、大学がやりたいと思う調査を大学生協と共同で行うことだって考えられます。

辰巳砂:もちろん、情報の共有は、医師や看護師、カウンセラー、栄養士などのさまざまな専門家たちとも密に行って、お客さまである学生たちへのホスピタリティにもっともっと磨きをかけていけたらと思います。

辻:本日はどうもありがとうございました。