学長・総長インタビュー

岐阜大学

吉田 和弘 学長

地域から世界へ。世界から地域へ。日本トップクラスの地域中核大学へ

学生がイキイキと未来を語れる大学へ価値創造モデル「ミ・ラ・イ・エ構想」

石田:先生は岐阜大学における価値創造モデルとして「ミ・ラ・イ・エ構想」を掲げられ、「若者の夢を実現する岐阜大学づくり」「若者が夢を実現できる地域づくり」に言及されています。まずは、そこに込められた思いについてお聞かせください。

吉田:今は若者が夢を描いたり、明るい将来について語ることがなかなか難しい時代です。私にはそういった危惧が常にあって、大学というのはそれを実現してあげるのが本来の役割であろうと考えています。そのためには岐阜大学だけでなく、岐阜県の未来をいかに活性化していくかが重要です。それを実現する岐阜大学の強みが、産業・まちづくり、ものづくり・食づくり、医療づくり、人づくりの分野で、教育学部、地域科学部、医学部、工学部、応用生物科学部、社会システム経営学環などがステークホルダーとの共創のもと、地域社会への貢献を果たしていること。さらに2020年4月の名古屋大学との法人統合により、これまで築いてきた岐阜大学の強みがさらに強化され、地方創生に貢献するという目的を一段と明確にできたことが挙げられます。
4つの分野にわたる強みをさらに高め、この地域に新たな産業を興すことで地域全体の改革と発展に貢献し、そこから大きな人の流れを起こそうと考えています。人の流れが起きれば新たな若い住民が増え、地域全体の教育の発展につながっていくと考えています。優れた研究から生まれる成果が地域を変えていくこの循環を、私は「ミ・ラ・イ・エ構想」(Migration, Laboratory, Innovation, Education)と名づけ、岐阜大学の価値創造のモデルとして位置づけています。

石田:岐阜大学は、日本でトップクラスの地域の中核大学を目指しているとのことですが …

吉田:バブル崩壊以降の30年間の遅れを取り戻すべく、国では国際卓越大学と地域中核大学という大きな2つのカテゴリーに分けて、科学技術の進歩によって国立大学の研究力を高めようという試みをしています。もちろん、名古屋大学は国際卓越大学であり、岐阜大学は地域中核大学です。
名古屋大学が世界を目指し、岐阜大学は地域に貢献するというのが建前ではありますが、岐阜県内だけでなく、愛知県、日本全国へ、やがてグローバルへとつながる高度な研究分野を育成していきたいと考えています。そうすることで初めて、真に地域に貢献することのできる日本でトップクラスの地域中核大学になることができると確信しています。

世界で活躍する人材を輩出することが、地域の発展につながる地域中核大学

石田:先にグローバルへとつながる高度な研究分野のお話がありましたが、大学の国際展開という点についてはいかがお考えでしょうか。

吉田:コロナ禍がもたらしたIoTの進化という恩恵によって、今や世界はグッと狭くなりました。地域を活性化することで、「地域で活躍する=世界と通じる」ということもより身近になったと言えます。そういう意味では、岐阜大学の学生もローカルとグローバルを同時に考えていく必要があると思っています。世界で活躍できる人材こそ、地域で活躍できる人材になれる。つまり、世界で通用する人材でなければ地域を活性化させる人材にはなり得ないとの観点から、教員と学生の国際交流をさらに強力に展開していく考えです。多くの優れた教員や学生を岐阜大学に迎え、キャンパスの国際化を図るとともに、岐阜大学から多くの学生、教職員も海外に羽ばたいてほしいと思いますね。

石田:海外の大学ともさまざまな国際協定を結んでいますが、今後、国際交流を推進する環境整備としてどのようなことをお考えですか。

吉田:すでに大学間では世界49大学、部局間では世界63大学と協定を締結していますが、今後はさらに増やしていきたいと考えています。
最も力を注いでいるのは、提携大学と一つの学位を共同で授与するジョイント・ディグリー・プログラムです。現在は国際化と教育研究力のさらなる向上を図るため、協定校のインド工科大学グワハティ校(IITG)およびマレーシア国民大学(UKM)と4つの国際連携専攻を開設しています。今後は、東南アジアの協定校とジョイント・ディグリー・プログラムの開設を検討するとともに、産学連携を推進して地域まるごと国際交流を推進するプロジェクトも展開していく予定です。

石田:世界で活躍できる人材を育むために、情報デジタル基盤を活用した学習環境整備と学生支援の充実も掲げていらっしゃいますが…

吉田:東海国立大学機構の中で、さまざまな教育コンテンツのデジタル化を推進するデジタルユニバーシティー構想が進められています。そのほかにも中部学院大学、岐阜女子短期大学とともに、地域を活性化すると同時に地域で活躍する人材を育成するSPARC-GIFU(ぎふ地域創発人材育成プログラム)という取り組みを行っています。こうした大学間の連携は、今後も積極的に展開していきたいと考えています。
もう一つ、学生の教育支援という点では、本年度から学生個人のあらゆる情報を学生自身が一括管理できる学生ステータスシステムを稼働。学習の結果として与えられた成績評価に加えて、部活動やボランティアの経験などの自発的活動も就職時などにも提示できるようにしました。

科学技術の進歩ときちんと向き合い、日本人としての美徳・道徳を備えた人材を

石田:先生はDXを積極的に進められると同時に、人徳というか、心の大切さにも言及されています。

吉田:最近は、日本人としての美徳とか、道徳とか、心について考えたり、語られたりすることが少なくなってきたように思います。科学技術の進歩があればもう万能だと思ってしまいがちですが、それをコントロールするのもやはり人なんですよね。ChatGPTをはじめとする生成AIの可能性が語られる一方で、それがもたらす弊害を危惧する声があるのも事実です。だからこそ物事を正しく判断し、利己に走ることなくふるまえる人格の形成が必要であり、学生にはそんな素養を備えた人へと成長していってほしいと願うのです。
ただ、この3年間のコロナ禍が、学生たちから人格形成に欠かすことのできない他者とのコミュニケーション、議論の場を奪ってしまった。学長である私としては、一刻も早く、学生たちにそれを取り戻してあげたいと思っています。

石田:コロナ禍前と後、どちらが良いのか、人々の捉え方はさまざまだと思いますが、先生はこの点については、いかがお考えでしょうか。

吉田:感染拡大真っただ中の頃は、もちろん、早くコロナ禍前に戻れば良いと思っていました。しかし、実際には悪いことばかりでもなかった。そういう意味では、ポストコロナはまったく新しい世界であると感じています。一番大きな変化は、やはりリモートをはじめとするデジタル化の恩恵ですよね。時間の節約ができるようになって、時間の使い方にも変化が現れました。
コロナ禍の前は、とかく時間に追われて自分を見失い、幸せが何かを考えることもできなかった。自粛によって自分を見つめ直す、あるいは生きるか死ぬか、そういう危機的な状況にあって、それを考えることができたということなのでしょう。そういうのがポストコロナの時代じゃないかと思っています。自分たちの危機をもっと真摯に考えれば、戦争なんて起こらないはず。精神的レベルのアップグレードが成された時代に入ってほしいと思います。

大学が取り組むあらゆる施策の一翼を担う存在として

石田:大学生協も学生のために何ができるかを常に考え、腐心しているわけですが、先生は大学生協の活動に対して、どのような印象をお持ちですか。

吉田:私が大学に入学した1978年から、大学生協さんにはずっとお世話になっています。その辺りは今でも変わらないと思いますが、学びに必要なパソコンなどの学習コンテンツや家電をはじめとした一人暮らしに欠かせない品々、大学生活を安心で見守る学生共済まで、実にさまざまな取り組みを通じて学生たちを支援していただいています。

石田:ありがとうございます。そういっていただけると、私たちの思いも報われる気がします。今後への期待ということで、先生から何か大学生協へのリクエストがあればお聞かせいただきたいのですが。

吉田:海外の大学ではよく見かけるのですが、いわゆるウェルネスセンターのようなものを大学生協で運営してもらえたらいいと思うのです。健康管理センターがあって、フィットネスジムがあって、学生が集うラウンジやカフェが併設されている、そんな総合的な学生の健康サポート施設です。もちろん、これを大学生協さんだけで実現するのは酷なので、大学と手を携えて実現できたらと。
岐阜大学には、医学、獣医学、薬学、食物学、農学、工学、バイオに関係する研究者たちが集まって研究できる環境がそろっています。この地域をライフサイエンス拠点という形で発展させていきたいと考えており、その一翼を大学生協さんにも担っていただけるとありがたいと思っています。

石田:大学生協としてもご期待に沿えるよう頑張りたいと思います。本日は、ありがとうございました。