今回、大学院生の実態をお知らせするにあたり、座談会を行いまず進学の動機から、研究生活、日常生活、そして将来などについて、大学院生自ら語っていただきました。
メンバーは、関東甲信越地区の大学生協の院生が集まって活動している、東京ブロック院生ミーティングの方々です。
樋浦純矢さん
(司会)東京工業大学 総合理工学研究科
加藤金男さん
東京工業大学 総合理工学研究科
木村将大さん
埼玉大学 教育学研究科
桑田知佳さん
お茶の水女子大学 人間文化創成科学研究科
澤田容子さん
お茶の水女子大学 人間文化創成科学研究科
武田愛実さん
東京大学 農学生命科学研究科
田中千鶴さん
早稲田大学 創造理工学研究科
山本正道さん
東京大学 薬学研究科※
※山本さんのみ博士課程後期1年、他の方は修士課程2年もしくは博士前期課程2年です
樋浦 まず院進学の動機を伺います。
田中 私は、学部時代は体育会馬術部と勉強の両方に力を入れていましたが、勉強に集中したい、新たな体験をしたいと思い、大学院に行きました。
桑田 研究者になりたいけれど、理系は修士に行かないと技術職につけないと聞いて、行きました。
澤田 私も研究職に就職するなら院に行く、というコースだと思って。
木村 学部は理系で、教員になりたくて実習に行ったとき、もっと教育についてしっかり勉強した上で教員になりたいと思い、文転で教育学研究科に行きました。
加藤 自分の適応性を高めるために、学部と違う理系の専攻に進みました。社会に出るといろいろな環境に適応する必要があるので、他大学でゼロから人間関係を構築する経験、自分の中の新たな専門性を身につける経験をするため、進学を選びました。
武田 学部3年の時、最初は就職するつもりでしたが、レポートを書いたり友達と勉強する中で、まだ何も知らない、もっと勉強したい、勉強が楽しい、と思って進学しました。
樋浦 山本さんは何故ドクターに? 山本 最初は修士で就職するつもりで、就活する中で、インターン先にお世話になろうと思いました。しかし、医療に未練があり、研究ももっとやりたいと思っていて、ドクターに不安がありつつも、インターン先の方に相談したら、それなら続けたら良いのでは、と言われて踏ん切りがついて、ドクターに進みました。社会人の方を見ていると、大学なら自由に研究ができるとも思いました。
樋浦 そういう想いで進んだ大学院ですが、入学前とのギャップを感じることはありますか?
桑田 内部進学で同じ研究室なので感じていません。あえて言えば、研究室に入るとコアタイムといって必ずいなければいけない時間が長時間なので、そこがギャップと言えばギャップかな、という感じです。
加藤 外部進学で自分の視野を広げる為に進学しましたが、人間関係が研究室という狭い範囲に限定されてしまうことが、ギャップです。もっと人と人とのつながりが持てる機会があれば、と思っています。
武田 私も内部進学で、学部の卒業研究でお世話になったのが今の研究室なので、特にギャップはなかったです。難しいのは、私の研究室はコアタイムが無く、これから初めての学会を控えて、研究との両立を図らなければならないので、スケジュール管理が自分の課題です。
澤田 内部進学の私も、研究環境に関するギャップは特にありません。研究生活のギャップとしては、研究室がとても忙しく、いなければならない時間も長いのですが、逆に自分で時間を自由に組み立てて、空き時間を含めて自分で使えるので、有意義に時間が使えることが、いい意味でのギャップでした。
木村 自分は理系から文系になって研究のスタンスが変わったことが、一番のギャップでした。理系ですと、「こういう理由で実験して結果がこう、それに対してこうする」という研究ですが、文系ですと、文献を読んで、「こういう意見がありますが自分はこういう意見です」という理論的なことが難しいです。「結局それは誰の意見なの」、「自分のです」、「違うでしょ」などと突っ込まれる、それもまだ慣れていません。 またコアタイムも無く、基本的に一人で自分と戦っている状況が辛く感じます。大学院は研究する場なのですが、自分はもっと学びたい、身に付けたいと思って来ていて、研究だけに焦点を絞れず、先生にも叱られ、そこも難しいなと思っています。
樋浦 そのような研究生活とは別の、キャンパスライフなどの日常生活はどのように送っていますか? 学部との違いなども含めて教えて下さい。
田中 部活がなくなり、自由な時間が取れるので、新しいことにチャレンジしたい想いもあって、研究時間も確保できるように、朝の短時間の駅員のアルバイトを通じて、他の人との交流を図るようにしました。また大学は同じでしたが、研究室が変わり、友達ができなくて苦労しましたので、ほかの研究室の人とご飯に行ったり、話に行ったりと、自分の世界を広げたので、充実しています。
山本 学部の時は、授業に出たり空き時間もあったり、サークルなどの日常生活が中心でしたが、4年生からは、研究室の生活が一日の半分以上を占めているので、学生ですが就職したような感じが、日常生活で変わったところです。研究室での研究中心の生活なので、自由な時間は少し減ったように感じます。
ただ、院生は研究室に束縛されるように受け止められますが、そこまで拘束される訳でもなく、土日はたまにOBとしてサークルに参加したり、休んだりもしていて、私生活に重きを置いて、充実しています。
樋浦 院生は社会人感が強いのでしょうかね。
桑田 私もそう感じます。学部より大学にいる時間がはるかに長いので。
土日は休みを取るようにしています。研究室に入ると平日は、同じ研究室の人や同じ棟の学科の人としか話さず、視野が狭くなってしまうと思いまして、土日はいろいろな人と話すようにしています。
武田 東大ではシェアサイクリングが実験的に行われているので、自転車に乗って、農学部や病院など学内を移動したり、学外を探検したりしています。土日はサークルをやったり、研究室にいて、平日にできないデスクトップやファイルの整理に時間をあてていたりします。
樋浦 大学院生活を踏まえての将来や現在行っている就職活動について教えて下さい。
加藤 自分の視野や可能性を広げたいと考えていたので、就職する業界も自分の専攻を問わず、金融系を受けました。考え方、進め方は、エントリー数が多少少ないぐらいで、学部生と同じです。
金融系の営業の仕事は文系の方もやるので、技術に対する理解、親和性など自分が理系として持っている価値を出しました。企業の方が技術に持っているプライドなどを、自分も共有できる立場にあることを伝えながら、学部から大学院へは専攻を変え、環境を変えて来て、社会での適応性の高さもアピールしました。
樋浦 院生の就活は、学部生に比べスムーズにいったのですね。
加藤 私は、文系理系ではなく人間を見て下さい、というスタンスでしたが、企業の方は理系院生の専門性があるのでは、という見方をされていました。
澤田 私はとても普通で、12月にプレエントリーにたくさん登録して、1、2月はエントリーシートを書いて、2月末から順次面接が始まりました。特に2月はESを書いたと思ったら面接が入り、同時にESを書いて終わったら一日に面接も三つ入り、非常に忙しかったです。
学部が食関連の学科で、将来そちらに就職したいので、院もそういう研究をしていましたが、就活では業界などは幅広く、また文系職なども見ていましたが、結局は食関連が良く、そちらに決めました。
樋浦 自分は苦労しました。最初東京でバリバリ働く気満々で大手中心に進めていましたが、正月新潟の実家に帰って、地元の良さを感じて、地元就職を決意しました。
専門性も評価され、地元で四つぐらいの会社に絞って活動していましたが、院生である自分の年代では、地元で就活を行っている友人が少なく、業界などの情報も少ないのでとても苦労しました。
就活に関連してインターンに行った人は?
加藤 自分は2社行きました。企業を知りたいということもありましたが、せっかく行くのなら優秀な人と話して考え方を聞いて、今の大学や研究室では得られないものを身に付けたいと思って行きました。文系の人が多く、理系である自分と違う人と知り合えて良かったのと、何か考え事や悩み事があったときに、相談できる社会人の人とつながりができたことが、一番良かったなと思っています。
樋浦 終わった後も関係が続いていて、インターンシップはなかなか大事なのですね。
樋浦 大学や生協に、大学院生をサポートしてほしい、あったら助かったなあ、ということを教えて下さい。
木村 自分は学部から生協の活動をしていて、院が外部進学でも生協のつながりで、今の大学にも友達や生協職員さんなど知り合いができたのが大きいと思います。院生ミーティングにも参加して、コミュニティが狭くならなかったのも良かった、生協があって関わって良かったです。
その上で、学部に比べると院生のサポートがあまりやられていない。特に理系は朝から夜遅くまでと、大学の滞在時間がとても長いので、生協も大学が入れている企業も、そういうサポートが欲しいし、また院生向け企画があると嬉しいです。
桑田 生協も大学側も、院生としてあったらいいなということは、割と実現していると思います。ただそれが伝わってないようです。インターンシップや就職活動に関するとりくみも意外と知られていなくて、終わった後に、「ああ、あったんだ」、ということが結構あります。アンテナを常に張っていて初めて気がつく、そうでないと気がつかない。
樋浦 告知をちゃんとして欲しい?
桑田 DMでは忙しくて開けられない場合も多いので、メールで案内してくれると見ると思います。
樋浦 学内掲示板が生協と大学とでは別々です。組織が別なので難しいのでしょうが、関連あることは両方に載っていると、片方しか見ない人もいるので、告知は進むと思います。
あとは自分としては、院生の就職活動支援を強めて欲しいと思います。
武田 私は公務員志望です。民間就職に比べると支援が手薄なので、面接対策など含めて強めて欲しいです。 生協食堂は、新しいメニューが非常に出て来て、頑張っているなと思います。昼夜と食べるので、メニューが豊富だと嬉しいです。
山本 食堂のメニューが日替わりで、行かないと分からないので、自分が食べたいと思ったメニューが出ていない時のショックが大きいです。ホームページで掲載されていると嬉しい。
木村 院生生活実態調査でも出ていますが、文系の院生も公務員志望の人が多いので、まとまった公務員の情報があると、院生をターゲットにするなら嬉しいなと思います。
澤田 就活の合同説明会に行きたいと思っていても、終わった後に知ることがとても多く、情弱の私でも、事前に分かる工夫が欲しいです。
山本 奨学金のお金は充実して欲しいです。大学の医薬系や工学系で貰えるものもありますが、貰えない人が結構います。TAやRAで月数万円貰えますが、アルバイトをする時間は院生にはないので。もっと自立できるように支給されるものがあると良いです。
樋浦 先輩から「院生はお金と時間の勝負だ」と言われましたが、その通りです。忙しいので、食事も自分で時間をかけて作るよりも、お金をかけて生協で買う方が良い時もあります。
桑田 研究室には、生協の営業時間一覧が貼ってあります。行って閉まっていたらショックなので。
同じように、食堂のメニュー一覧、日替わりやフェアなどの期間も載せた、スーパーのチラシのようなものがあると便利です。研究室に貼っておけるので。
編集部 本日はいろいろとありがとうございました。
(編集部)
『Campus Life vol.39』より転載