読書のいずみ

読書マラソン二十選!

第7回全国読書マラソン・コメント大賞に応募のあった作品(コメント)のなかから、『読書のいずみ』編集部が、この夏、読者の皆さんに読んでほしい作品を20点選びました。節電の夏……、そして、ながーい夏休み、ここはがっつりと読書を楽しみましょう!!

『吉野北高校図書委員会 2』
山本渚/メディアファクトリー

『吉野北高校図書委員会 2』

僕たち人間誰しも、実は本当の自分がいるのに、他人からの期待に合わせたり、イメージを壊さないようにしたりして生きていると思う。そうしないと人に嫌われたり、人を裏切ってしまうと思っているからだ。だが、たまには本当の自分を思いっきりさらけ出すことが、自分を信じて生きていくためには大切なのだと思った。自分のことを決めるのは自分でなくてはいけない。他人の言われたようにするのは利口かもしれない。しかし、それでも自分の意志を貫いて生きていきたいと、この本の登場人物たちを見て思った。

(桜美林大学/フータ)

『夏が僕を抱く』
豊島ミホ/祥伝社

『夏が僕を抱く』

今、自分の置かれている現状に嫌気がさして、少し前の楽しげな自分に戻りたくなる。原因の分からない気だるさが続いて、早く何とかならないかな……と誰かの推しの力を期待してしまう。そんなモヤモヤした気持ちの流れが夏の暑さに似ていると感じてしまう。
何も起きていないけれど、何かが変わっている。世の中の流れに逆らって生きる自分に嫌気がさして。でも、それでも何かに頑張りたいと思える自分に驚いて。
夏は確かに平均すると暑い。たまに降る大雨や新鮮な風に癒されて、焦らず夏を楽しむのも悪くない。

(東京外国語大学/蒼の風)

『永遠の出口』
森絵都/集英社文庫

『永遠の出口』

女の子はいつだって、一生懸命だ。親友と好きな男の子が仲良くなっていくのをただ見守ることしかできなかったあの日。不良になってみたり、アルバイトをしてみたり。もはや恋に恋していたあの日。家族には気を遣ってみたり、鬱陶しく思ったり。進路が決められなかったり、遠い未来について考え、具合が悪くなったり。あー、私にもあったあった。些細なことにも、悩んだり文句言ったり憂いだり。もう私は、すっかり過去を苦笑いしながら振り返ることができる、とっても遠いところまで来てしまったんだ。もう少しで女の子が終わる、と予感する。それは寂しいようで、嬉しいようで。これは昔の私に出会えた、卒業アルバムのような一冊。

(千葉大学/ばんび)

『夏休み』
中村航/集英社文庫

『夏休み』

「義理の友達」というのはなんとも奇妙な言葉だけれど、これ以上ないくらい正確にマモルと吉田くんを表している。妻の母と暮らすフツーの男マモルと、その妻でかっこいいユキ、ユキの友だちの舞子さん、その夫でなんとなく後輩キャラな吉田くん。男2人女2人、2組のカップルのひと夏の物語。この物語は、考えてみればどうでもいいことで些細なことだけど、大人になっても日々の小さな戦いを自分の勝負として考えて、そのへんに転がっているモノもいちいち発見できる人生っていいな、と思った。どうでもいいことばかり。でもどこか、面白かった。

(千葉大学/Asumi)

『羊をめぐる冒険 上・下』
村上春樹/講談社文庫

『羊をめぐる冒険 上・下』

主人公は30歳。自分が30歳になったときに、こんな30歳になっていたいと思う一方で、こんな30歳になりたくないとも思う。20歳から30歳にかけて、なにも築いてこなかった主人公は、もはや失うものは何も持たない。それはとても身軽で自由だが、同時に虚無感にも包まれている。本文全体を通して、そうした「大人」の葛藤が、あくまで静かに描かれる。30歳のひとつのカタチを、20歳前後の我々が一度読んで知っておくのもいいかもしれない。自分の30歳への展望と覚悟を獲得するために。

(東京大学/alfoy)

『叫びと祈り』
梓崎優/東京創元社

『叫びと祈り』

最初に印象に残ったのは、ただただ広がる砂漠を渡るラクダの列の姿だった。世界を二分する原色の空と大地、霧に沈む修道院、息苦しいほどの緑あふれるジャングル。鮮烈な世界のイメージは、物語られる人々の痛いほどの思いをくっきり浮かびあがらせている。深い断絶を感じてもがく「叫び」、遠くても相手を想い願う「祈り」。本の5つの物語は、伝えたい分かり合いたいという人の叫びと祈りで繋がっている。折られても祈り続けることを選んだ主人公のように、私も祈り続けたい、そう思えた本だった。

(北海道大学/はしばみ)

『こちらあみ子』
今村夏子/筑摩書房

『こちらあみ子』

こんなにイライラする主人公は初めてだった。グズで、頭が悪くて、いじめられていることにも気づかなくて、していいこととダメなことの判断もできなくて。ただ無垢なだけだと思おうとしても、イライラが抑えられなくて、まるでいじめっこになった気分だった。多分、あみ子は読み手の心の隙間に土足で入ってくるのだと思う。妬み、苛立ち、焦りという普段隠そうとしている部分を引き出そうとしてくる。知りたくない自分を無理やり見せられる。だから、こんなにイライラするのだ。読み終えたとき、私は何かあみ子に酷いことをした気分になって、ひどく反省した。

(法政大学/H.S)

『チルドレン』
伊坂幸太郎/講談社文庫

『チルドレン』

陣内さん。彼は最強最悪にして最高の男である。数多くある伊坂幸太郎作品の登場人物の中でも、陣内さんは私が選ぶ一番好きな登場人物だ。とにかくひたすらに、カッコいいのだ。陣内さんは家庭裁判所で働くれっきとした“成人”だが、同時に題名でもある“チルドレン”と言える気がしてならない。お堅いことが好きな社会人の方々からは到底考えられないような、“チルドレン”的な行動を起こして自由気ままに生きている陣内さん。こんな風にかっこいい大人が、今の日本にどれくらいいるのだろうか。

(慶應義塾大学/さゆり)

『船乗りクプクプの冒険』
北杜夫/集英社文庫

『船乗りクプクプの冒険』

誰にでもきっとこんな経験があるのではないだろうか。ページをめくる度、次のページには一体どんなストーリーが自分を待ち受けているのだろう、とドキドキ、ワクワクするような体験、小さい頃はあらゆる本に胸をときめかせていた、そんな素敵な幼少時代を思い出させてくれる作品だった。物語の中でさらにもう一つの物語が展開してくという奇想天外なファンタジーの中に、私はどんどん引き込まれた。日常生活の中で忘れかけていた何か大切なものを思い出させてくれる、そんな一冊だった。

(慶應義塾大学/chip)

『私たちが星座を盗んだ理由』
北山猛邦/講談社ノベルス

『私たちが星座を盗んだ理由』

正直に言うと、私はこの短編集については何も語りたくない。言葉を尽くしてもおそらくこの一冊のすばらしさを語ることはできないし、何よりなんの先入観もなしに読んでいただきたいからだ。表紙の愛らしさに魅かれて手にとり、裏表紙も見ずに読みはじめて、ほほえましい日常・非日常に心を弛めて、そうして最後にはどん底に突き落とされる。多分、それが一番だ。優しいだけの物語では終わらない。でも、ただ残酷なだけでもない。この作品を読み終えたとき、きっと不思議な心持ちになるだろう。“主人公たちの物語は余白に続く”、著者の言葉が胸に響く。

(法政大学/みわ)

『ランボー詩集』
アルテュール・ランボー(堀口大学=訳)/新潮文庫

『ランボー詩集』

ランボーの書く詩には、青春の苦悩や苦痛がありありと伝わってくるような繊細な表現に満ち溢れている。数年で詩の世界を全うした者とは思えない巧みな言葉遣いで、青春の束の間の出来事、心情を書き表している。この本は堀口大学の訳だが、難しい日本語の中にも抒情的でしっくりくる表現が多い。フランス語で読んでみるとまた違う印象を受けるかもしれない。言語を越えた詩について、興味を持つことが出来た一作である。

(慶應義塾大学/Traum)

『ボトルネック』
米澤穂信/新潮文庫

『ボトルネック』

人々の人生には“岐路”がある。人生の分かれ道を決める大事な分岐点である。しかし、普通、人が後になって振り返ることのできるその道は、一本だけだ。なぜならば、自分は自分一人だけだから。けれども「ぼく」(リョウ)が迷いこんだ世界は、「ぼく」の代わりに姉・サキが生きている世界だった! サキの世界を注意深く観察しながら、彼は自分の人生における岐路を間違えて来たことに気づく。そして、彼は彼の世界に返される。決してサキよりも幸福とは言えない世界に。だが、そこでいかにして、そこからの自分の人生を歩むかは、リョウ次第だ。そう、人生は自分でつくりあげるものなのだ。

(山口大学/ごん)

『からくりからくさ』
梨木香歩/新潮文庫

『からくりからくさ』

芸術家としての生き方、女としての生き方、1人の人間としての生き方……主人公たちが日々を通してそれらを模索し、より強く美しくなっていく様子がひしひしと伝わってきた。人形にまつわる謎が解けていく時のゾクゾク感も、この話の魅力の1つ。でもわたしが一番感じ取ったのは、さまざまな出来事や出会いを通してどんどん強くなる主人公たちの意志の強さ、作品に対するエネルギーである。女性はどんどん強く、美しくなっていく。自分自身を磨き、高めていくことの素晴らしさを主人公たちが伝えてくれた。

(広島大学/潤章)

『リカ』
五十嵐貴久/幻冬舎文庫

『リカ』

リカといえば、“可愛らしい女の子”の代表的な名前の1つだ。この物語にはそんなタイトルがついている。しかし、内容はそんな甘ったれたものではない。衝撃的な現代のリアルホラーである。リカと名乗る女性。本名も年齢も不明な女の、病的なまでのストーキング行為、逃げても逃げても、地の果てまで追いかけてくる。恐怖、恐怖、恐怖。読んでいる私達のもとにも、この二文字がずっと追いかけてくる。しかも、その恐ろしさは、結末まで読んだからといって消えてはくれないのだ。むしろ、読み終わったあとの方がより一層恐怖の感覚に襲われる。どこかでふと「リカ」という文字を目にしたとき、少しゾッとしてしまうのがその証である。

(大阪大学/FAIRWAY)

『ヴォイド・シェイパ』
森博嗣/中央公論新社

『ヴォイド・シェイパ』

芸まず表紙が美しい。煙った山々。その空気。息を胸の奥まで吸いたくなるような、それでいて息が出来なくなるような。内容も、文体も、その空気をあらわしているよう。どの登場人物も美しく、鮮やかに、その明度だけの世界に生き、死ぬ。このように生きられるだろうか? このように世界を感じ、愛おしい人間になれるだろうか? 読むともう少し丁寧に世界を見てみようと思う一冊。

(大阪大学/mibo)

『カレンダーボーイ』
小路幸也/ポプラ文庫

『カレンダーボーイ』

今の記憶や精神を持ったまま、小学五年生の自分にタイムスリップ。夢のような話である。四十八歳の三都と安斎は、ある日自分達が少年時代を過ごした小学校の教室で目覚める。2006年と1968年を交互に行き来する日々。何かを得ると、何かを失う。過去の不幸を未然に防ぐと、別の形で形を変えた不幸が訪れる。大好きだった同級生の命を奪った事件を回避しようと計画を立てた二人は、いったい何を得、何を失うのか?? ラストシーンは、とにかく切なくて、感動すること間違いなし。

(大阪大学/Dreamin’)

『俺俺』
星野智幸/新潮社

『俺俺』

世の中の人すべてが、自分と同じような思考回路ならラクなのに。そう思ったことがある人は、少なくないのではなかろうか。私もその一人だ。相手が自分と同じように考えるなら、無理して気を遣わなくていいし、相手の神経を逆なですることもない。互いに気持ちが分かっているから、自分も嫌な思いをしなくてすむ。それは最高な世界にも思えた、この本を読むまでは。「自分だけの世界」がもし本当に成立したらどうなるのか。決して完全にはわかりあえない、他人。それでも一緒に生きていかなければいけない、他人。自分独りでは生きられないこと、他人と一緒に生きていくこと。今まで散々聞いてきたそんなメッセージを、この作品から強烈に注ぎこまれた気がする。

(大阪大学/渉)

『デンデラ』
佐藤友哉/新潮文庫

『デンデラ』

村のしきたりにより、七十歳になったら山に捨てられる。いや、極楽浄土へと旅立つために、老人たちは「お山」に入る。これは佐藤友哉が描く「姥捨て山」をモチーフとした作品だ。主人公の斎藤カユは、「お山」に入れば輪廻から外れることができる、そう信じていたが、数十人の老婆たちは生き長らえ、集落を作って独自の生活を営んでいた。名前が覚えられないくらいたくさんの老婆たちが登場しては死んでゆくが、私の胸をもっとも熱く焦がしたのは独眼の老女、椎名マサリである。集落を襲う羆との対決で、一騎打ちの末マサリは命を落とすが、私は彼女の生還を強く願っていた。あんなに鮮烈な生き様と美しい魂を持つマサリが死ぬはずがないと、願った。

(帯広畜産大学/鴉丸)

『必要になったら電話をかけて』
レイモンド・カーヴァー(村上春樹=訳)
/中央公論新社

『必要になったら電話をかけて』

時に、私たちは、冷たく透き通った悲しみにとらわれて、今、どこに自分がいるのか分からなくなることがある。レイモンド・カーヴァーはそういう行き場のない存在を、ただ淡々とペンの先からほとばしらせた。数ある名作の中から一つを選ぶなら、私は迷わず「薪割」を選ぶ。愛する妻が去り、"人生の間"に残されたマイヤーズ。彼は自分のたった一つの財産であるスーツケースをかたく握りしめ、海辺の家を間借りする。そこで彼が見出したのは一つの丸太だった。丸太の一本一本を割るごとに、その木の香りのうちに、彼は自分自身を取り戻していく。

(金沢大学/イワン=代助)

『帰ってきた星の王子さま』
ジャン・ピエール・ダヴィッド(矢川澄子=訳)
/メディアファクトリー

『帰ってきた星の王子さま』

サン=テグジュペリ様! 貴方に素敵なお知らせがあります。なんと、あの星の王子様が帰って来たのですよ! 何でも、羊とバラと暮らす星で乱暴なトラが逃げ出し、トラハンターを探しているというのです。王子様が、この星に来るまでに出会った様々な人達。その人達の話を聞いていたら、私は王子様のことが大好きになってきました。なんて透明で、真っ直ぐな人でしょう。貴方の本に劣らず、素敵な王子様がここにはいます。

(早稲田大学/もとみや)