読書のいずみ

読書マラソン二十選!

第7回全国読書マラソン・コメント大賞応募作品のなかから、『読書のいずみ』編集部が読書の秋におすすめの作品を20点選びました。この秋もみなさんの読書の楽しみがまた一層広がりますように。

『ひとりでは生きられないのも芸のうち』
内田樹/文春文庫

『ひとりでは生きられないのも芸のうち』

「どんな仕事をしたいですか?」「やりがいのある仕事をしたいです」 このように、仕事を通じて「自己実現」に取り組むことは当然であるように語られる。しかし著者は、「労働は義務である」と、このような労働観を一蹴する。著者はさらに述べる。「やりがい」を求める若者の増加によって労働条件は不可逆的に劣化し、モジュール化することになっている。そのためさらに労働のモチベーションは下がり、仕事は苦役になっている、と。「就職」の二文字は重い。悩んだ時は、本書を手に取ってみるのもいいのではないか。

(東京学芸大学/せん)

『ぼっちーズ』
入間人間/アスキー・メディアワークス

『ぼっちーズ』

「友達のいない大学生活」 想像してみよう。もしも、そんな大学生活を送ることになったなら。そんな青春を、過ごすことになったなら。つらい? さびしい? つまらない? 正直、私はそんな大学生活はゴメンだ。でもこれは、友達のいない「ぼっち」の物語。時を越えて紡がれる、「ぼっち達」の物語なのだ。そんな話なんて……と思う人もいるかもしれない。けれど、ぜひ一度読んでみてほしい。そして読み終えたら振り返ってみてほしい。「ぼっち達」の青春を。――こんな青春もありかな、なんて思う自分がいませんか?

(茨城大学/よっしー)

『ニシノユキヒコの恋と冒険』
川上弘美/新潮文庫

『ニシノユキヒコの恋と冒険』

これは、ニシノユキヒコという愛を求めて彷徨った一人の男の人生を辿る物語である。…なんてお堅い言葉でまとめてみたけれども、私は結局ニシノユキヒコを解せぬまま終わった気がする。西野くん、ニシノさん、ニシノ、ユキヒコ、幸彦…彼と縁のあった様々な女達から語られるニシノユキヒコ。私が分かったことは、彼は近くにいるようで遠く、手が届きそうなのに決してつかまえられない、そんな人だということくらい。冷静に考えてみれば、彼の行動はただの“女たらし”なのかもしれない。賢い女達は皆そのことに気付いている。そして許す(又は気付かぬふりをする)。ここが私の一番共感できたところだと思う。だめ男なのに何故か許せてしまう。彼にひかれてしまうのだ。そして最後に女達は去ってゆく。彼の人生は果たして幸せだったのだろうか?

(京都大学/れもん)

『或る女』
有島武郎/新潮文庫

『或る女』

とにかく鮮烈な印象。これしかない。美貌を利用し、考えをめぐらせ、男社会で成功するために突き進んでいく主人公、早月葉子。最初、私はこの女が嫌いだった。自分とは全く違う人間だと思ったからだ。しかし、読み進めていくうちに、私の考えはどんどん変化していった。様々な男たちを利用しているつもりが、思い通りにいかずどんどん壊れていく葉子。そんな彼女に、女の理想を追い求める多くの女性の一つの末路を見た。自分の自信と現実のはざまで揺れる彼女をすごく身近に感じた。毎日が退屈だと思っているあなたに薦めたい。

(茨城大学/かーや)

『コンスタンティノープルの陥落』
塩野七生/新潮文庫

『コンスタンティノープルの陥落』

まるで一本の映画を観ているようだった。尊敬すべき皇帝であったコンスタンティヌス11世、忠臣のフランゼズ、野心に燃えるマホメッド2世、美しいトルサン、賢いニコロ…。この出来事に関わった一人一人の人生、それらが織り成した壮大な絵巻が歴史上の重大な出来事。実際はおそろしく悲しく、はかない出来事だったのだろうが、この現場証人たちの命の輝きが美しくてならなかった。決して抗う事のできない運命の流れに命がけで立ち向かう姿、とても胸を打つ。

(慶應義塾大学/さっち)

『ラブ・ケミストリー』
喜多喜久/宝島社文庫

『ラブ・ケミストリー』

物質Aと物質Bを混ぜると、物質Cが出来る。方程式にすればとても簡単だ。しかし、実際はそうはいかない。いつ混ぜるのか、どうやって混ぜるのか。方法が違えば、結果も違う。人生も同じ。幾重にもある選択肢の中から一体何を選ぶのか。どんな結果になっても、なかったことには出来ない。ただ、何度でもチャレンジすることは出来る。無駄だと思っても、無理だと思っても、くり返すからこそ先に進んでいける。天才的化学センスがなくても、死神じゃなくても、今の自分に疑問を抱いていても、進むからこそ、必死だからこそ、ハッピーエンドが待っている。今を全力で生きる勇気と、大切な仲間と協力するやる気、これを混ぜると未来が出来る。「ラブコメ」×「ミステリー」の方程式、気になりませんか?

(帯広畜産大学/和み抹茶)

『ラ・パティスリー』
上田早夕里/ハルキ文庫

『ラ・パティスリー』

職業ものの小説を読む楽しみは、仕事の裏側、普段は見えないところが分かることだ。本書の主人公はフランス菓子のパティシエ見習いである。華やかそうに思えるが、朝は誰よりも早く来て下準備、すぐに菓子作りはさせてもらえない、などの苦労がある。少し前に和菓子をテーマにした小説を読んで、季節を感じさせるのが和菓子の魅力だと思っていた。フランス菓子もまた季節に応じた材料を使って作られていると知った。菓子を代表する食べ物が、人々の生活と共にあるということの表れだと思う。

(東京学芸大学/風野薫)

『焼きそばうえだ』
さくらももこ/小学館文庫

『焼きそばうえだ』

「くだらない」、そう言ってしまえばおしまいだけど、私はそんなくだらない本を2回も読んだ。1回目は初めて帰省した後の帰りの新幹線の中で泣きながら(本の内容にではなく、ホームシックで)。そして2回目はそれから3年後、病気で引きこもっていた時(帯状疱疹で)に何だか無性に読みたくなって。「くだらない」、わかってるけど、笑っちゃう。私はまた何年か後、無性にこの本が読みたくなる気がする。そういう本って、本棚に1冊くらいあってもいいよね。

(同志社女子大学/カシューナッツ)

『エンデュミオンと叡智の書』
マシュー・スケルトン(大久保寛=訳)/新潮文庫

『エンデュミオンと叡智の書』

昔から大好きだったエンデの「はてしない物語」をどことなく彷彿とさせる雰囲気に誘われ、扉を開いた。「本」が果たす役割も、主人公の性格も似て非なる物語に久々に心踊らせ、冒険後の何とも言えない充足した疲労感、とでも言おうか。鎮まらぬ動悸に浸りながら童心に返った己を顧みた。最近、レポートやらゼミやら、サークルの仕事やらに追われて余裕を失っていた心に、本書は潤いを与えてくれたようだ。堅苦しい専門書や、小難しい新書ばかり読んでいては、さすがの私も活字拒否反応を起こしかねない。たまにはこうして児童文学の世界に遊ぶのも必要かも…。

(横浜国立大学/笙)

『オーシティ』
木下半太/新潮社

『オーシティ』

「うわ…ありえないでしょ…」読みながらこんなツッコミをする自分がいた。今の日本より少し時代が進んで、外国が良い感じに日本を支えてくれて…。こう言えば良く聞こえるけど、外国人が日本に集まり、カジノでボロ儲けできる大阪を、この時を生きる彼らは「オーシティ」と呼ぶ。作中に出てくる人物は、みな濃い。むしろ、「主人公が一番影薄くね!?」と思ってしまう。完全なるフィクションのはずなのに、どうしてか真実味がある…不思議なSTORYです。

(東京外国語大学/蒼の風)

『パラレルワールド・ラブストーリー』
東野圭吾/講談社文庫

『パラレルワールド・ラブストーリー』

東野圭吾の作品を読んだあと最近思うのは、“もしかしたら本当にあり得る話かもしれない…”ということ。医療技術が進み、科学技術も進み、何が起こっても不思議でない今の世の中。ここにある「記憶の改編」もできてしまうのではないかと思ってしまった。でもそれはとても悲しいこと。自分の記憶が本当の自分の過去でないとわかったら、今の自分の存在まで信じられなくなってしまうような気がする。忘れてしまいたい記憶はある。でもそれに人の手を加えて無いことにしようとするのは、間違っている。

(清泉女学院大学/こりん)

『鬼の跫音』
道尾秀介/角川文庫

『鬼の跫音』

怖いなぁ、グロテスクだなぁと思いつつ少しずつ読んで、暗澹とした気持ちになって、本を閉じて、けれど眠れなくて。ついつい無意識に開いてしまう。こんな本寝る前に読んだら夢に見るぞと思いつつ、けれど一番「怖い」シーンを開いてしまう。ホラーではなくミステリーの、しかも短編集なのに、この表紙の子どもと同じくぞぞっと背筋を粟立たせるものが胸に張りついて離れない。眠れぬ夜にぜひどうぞ、聞こえてきますよ心音に似た跫音が。どうか追いつかれませんように。心臓の数だけ人間がいるように、人間の数だけ鬼はいるのですから。

(帯広畜産大学/ウラル)

『彼女のこんだて帖』
角田光代/講談社文庫

『彼女のこんだて帖』

私は普段料理をしない。作る手間を考えれば、出来合いのものを買ってきた方が安上がりだし、何よりも自分で作るよりはおいしいと思っていたからだ。そんな私が、この本を読み終わったあと、1人でいそいそとスイートポテトを作り始めた。はっきり言って、むかつくほどまずかったけど、後悔はしなかった。料理をするということは、人によっていろんな意味があって、私にとっては、自立のきっかけなのかもしれないと思うようになった。人によって、料理なんて苦業だという人もいるかもしれないけど、この本には料理が恋しくなる魔法がかかっている。

(法政大学/H.S)

『ブレイブ・ストーリー 1 幽霊ビル』
宮部みゆき/角川文庫

『ブレイブ・ストーリー 1 幽霊ビル』

少し厳しいけれど、2人の両親によって何不自由なく育てられた主人公の少年。しかし、ある日突然その日はやって来た。どこかのネジが外れたみたいに、彼の生活の歯車はどんどん狂っていってしまう。そんな中出会った不思議な少年、お化けビル…次第に主人公は壮大なファンタジーの世界へと繰り出していく。彼の繰り広げる冒険の旅に目が離せなくなりそうだ。

(慶應義塾大学/chip)

『ノラや』
内田百閒/中公文庫

『ノラや』

猫好きには有名な本書だが、私はこれを“猫モノ”と見ることには異を唱えたい。ペットショップから買ってきた猫、近所から貰ってきたハムスター、なんでも良いが、それが家にやって来て名前を付けた瞬間、もうそれは猫でもハムスターでもないたった一匹のかけがえのない存在になる。百閒先生は、ノラがノラだから探し回った。クルツがクルツだから、毎日毎日看病した。この気持ち、動物と一緒に過ごしたことがある人なら分かるだろうし、そんな人に是非読んでほしい。猫好きの間だけで読みつがれるには、あまりに勿体無さすぎる本だ。

(早稲田大学/もとみや)

『せんせい。』
重松清/新潮文庫

『せんせい。』

まず思ったのが、「先生は完ぺキ人間ではなく、一人の人間なのだなぁ」。全編を通してそう思った。この本を読み、高校時代に迷惑をかけた先生達に会いに行きたくなった。特に、私の一番印象に残っている先生は、「泣くな赤鬼」に出てくる、赤鬼先生と人柄がよく似ていた。厳しい先生に、何故か私は何度も何度も歯向かった……先生の受け持つ授業の単位を認められず、留年するほど。毎回叱ってくれることを当たり前だと思っていたが、そうじゃないとこの本を読んで思えた。改めて。先生の目に私はどう映っていたのだろう。様々なことを考え、思い出させてくれる本だった。

(静岡大学/みっちゃん)

『「大学時代」自分のために絶対やっておきたいこと』
千田琢哉/三笠書房

『「大学時代」自分のために絶対やっておきたいこと』

「学生時代が一番いい」とか「遊べるのは学生のあいだだけだ」といったことを、学生時代に誰もが一度は大人に諭されたことがあるだろう。確かに学生時代は、社会人のような重い責任を負うことなく、自分の好きなことに取り組める時期である。しかし、なぜかこれらの言葉に私は納得できないでいた。この本の2ページ目を見て、やっとその理由が分かった。学生時代よりも、その後の人生の方が長いのだ。その後の人生こそ、学生時代とは比べる余地もないくらい楽しいものでなければならないのだ。最後まで、こんな発見の連続だった。

(同志社女子大学/ひろなんちゅ)

『終末のフール』
伊坂幸太郎/集英社文庫

『終末のフール』

もしもあと3年で小惑星が地球に落ち、世界が終わってしまうとしたら、残りの日々をどのように過ごしていくのだろうか。愛する人と共にいるのか、それとも夢を叶えるために必死に追い続けるのか……。お金や名誉、地位ではない、「かけがえのないもの」を見出す。それは、今回の大震災でも私たちが再確認した「絆」であり、「思いやり」であり、「生きがい」であった。世界の終末という、一方的でやるせないテーマを通じ、私たちは筆者から、真に大切なものは何か、もう一度考え直すことを求められていたと思う。この本を今この時期に手に取ったことを、運命のように感じる。

(福島大学/デコ)

『マイマイ新子』
高樹のぶ子/新潮文庫

『マイマイ新子』

新子には何だか自分に近いものを感じる。私も新子と同じ長女で、妹がいる。そして妹の方がかわいくて要領が良くて、怒られることも少なくて。「ズルイ」と思うことがよくあった。でも、そんな妹が大好き。だから新子には共感できる。大事なのは、「なんでも自分の目で確かめること」、こういう教えのもと育った新子はとっても魅力的。1つ1つのモノ・出来事を正面からじっと見つめる、いや、感じる――こういうことができる人っていいなと思う。私もそうなりたい。

(同志社女子大学/カシューナッツ)

『数学者の言葉では』
藤原正彦/新潮文庫

『数学者の言葉では』

数学者であり、文学者でもある藤原正彦先生のエッセイ集。数学と文学。似てるようで全く異なる分野を行き来する著者だからこそ書ける話題がたくさん含まれています。自分にとっては数学も文学も遠い世界のことだけど、先生のエッセイを見ていると、なんだか親近感がわいてきます。「実用性がない」と非難される数学。その批判に対して先生は堂々と反論し、自分の意見を述べています。本当に数学者は現実世界では無用なのか? その答えはこの本の中に書かれています。

(帯広畜産大学/春雨)