読書のいずみ

読書マラソン二十選!

今年は本を読もう! と心新たに考えているあなたのために、『読書のいずみ』編集部が和書・洋書を20点ピックアップしました。和書は第9回全国読書マラソン・コメント大賞に寄せられたコメントから、洋書は福岡県立大学でIRCに参加されている学生の皆様のコメントからご紹介します。

『銀の匙』
中勘助/岩波文庫

『銀の匙』

初めて読んだとき、この本をつまらなく思う人があるかもしれない。二度目に読んだとき、多感な少年期を過ごし、思考する力を得た子どもの姿を見出すだろう。三度目に読んだとき、今更のようにこの本の描写の卓越したことに気づく。過去形の文章からは、子ども時代への懐かしさと一種の郷愁めいたものを感じることができる。そこに丑紅の牛や肉桂棒、ほ-れ草といったディテールが色を添えている。ストーリーによって読み手の目を引くのではない。言葉そのものの素朴な味わいが嬉しくなる作品だ。

(早稲田大学/あんずあめ)

『風立ちぬ』
堀辰雄/角川文庫

『風立ちぬ』

これは、ただの愛の物語である。二人に与えられた時間は残り幾許も無い。そんな中で、「生きよう」と二人は言う。限りある生にしがみつくのでも、避けられぬ死に甘んじるものでもない。ただ己の命と向き合うことが「生きる」ことだったのだ。二人は愛する人の、そして己の終焉という現実を突きつけられることで、それを悟る。しかし、そこに絶望の影は見えない。二人は風を受けて、静かに「生きよう」と微笑みあう。皮肉ではない。諦めでもない。そこにあるのは、純然たる愛だけだ。やはり、これは、ただの愛の物語である。

(金城学院大学/天衣)

『みんなのうた』
重松清/角川文庫

『みんなのうた』

田舎と都会ってどっちで生きていくのがいいんだろうか。読みながら考えていたけれど、まだ答えは出ていない。主人公のレイコさんが感じている田舎から出て行きたいという気持ちや、弟のタカツグに感じている「どうして田舎から出て行きたいと思わないの?」という気持ちは私の中にも存在していたような気がする。でも、やっぱり、「ここにいていいよ」と自分の存在を肯定してもらえるのなら場所なんて関係ないのかもしれない。振り返れる時がきたら、どこにいたってこれでよかったと思えるだろう。物語の終盤、模試の最中に絶叫したタカツグの言葉にグッときた。

(早稲田大学/スザク)

『大きな音が聞こえるか』
坂木司/角川書店

『左京区七夕通東入ル』

世界が180度変わる瞬間を見てしまった。といっても、きっと大げさなことじゃないんだ。泳を地球の裏側・ブラジルに連れていったのは、小さな一歩の積み重ねとほんの少しの思い切り。 世界が急に広がる瞬間を見てしまった。といっても、きっと大げさなことじゃないんだ。泳の世界を広げたのは、自分と違う誰かを、文化を認める強さと優しさ。踏み出してしまえば、あとは波に乗るだけ。気づけばまだ見たことのない、カラフルな世界にたどり着いているはず。
次に終わらない波に乗るのは、私だ。

(法政大学/大森郁枝)

『河岸忘日抄』
堀江敏幸/新潮文庫

『河岸忘日抄』

船の上に住むなんてとても楽しそう。まるで秘密基地みたいだ。河の上で揺れる小さな船の上でご飯を食べ、本を読み、人と話す。社会からワンクッションをおいたゆるゆるとした時間。なんと羨ましいのだろう。そう思ってから気がついた。社会に出て働いている大人たちからは、今のこの、私たちの大学生活こそ、秘密基地にいるように見えるのではないだろうか? のんびりとした時間をまさに今、満喫していることに気がついたら、「今、現在」の貴重さが見えた。

(山梨県立大学/UGE)

『あのとき始まったことのすべて』
中村航/角川文庫

『あのとき始まったことのすべて』

私は記憶は信用のならない創造物だと思っていた。人は時間がたつと、記憶を美化したり、自分に都合よく作り変えたりしてしまう。だから私はそれを信じないし、覚えておきたい大切なものは必ず形にして残していた。だが、本書を読んで、たとえ自分が忘れてしまっても、自分以外の誰かに覚えていてもらえるなら、それもアリなのではないかと思い始めた。思い出は、どこかで今も、生き続ける。そう考えると、少し心が軽くなった。

(お茶の水女子大学/ぷう)

『溺レる』
川上弘美/文春文庫

『待ってる 橘屋草子』

揶揄するような言い方だった。揶揄であるがゆえに、なぐさめられた。 溺れる。わたしたちはいつしか、何かに溺れてしまっている。何に。仕事。勉強。恋愛。人生。わたしもまた、溺れていた。ねえ、死ぬよりも、死んだつもりでどこかに逃げたらどうかしら。いったい、わたしたちはいつ、どの季節にいるのだろうか、溺れることはどうだろうか、死んでゆくそのときまでわからない。そう考えていた。わたしもまた、溺れている。

(宇都宮大学/いちのえ)

『渋谷に里帰り』
山本幸久/新潮文庫

『おさがしの本は』

中小規模の会社が舞台。完璧な人は出てこない。完璧な人になりもしない。起承転結の転になるような大事件もない。ただある社員がゆっくりとほんのちょっぴり成長するだけの話。だけど面白い、だから面白い。天井を見てしまったキャリアウーマン、成り行きでなった社長、いつのまにか噛みつかれる上司になった元噛みつく若手、そして「最近の若者」の代表格のような主人公・稔。それぞれが欠けた部分を持っていて、それでいて自分にしかない輝かしい美点を持っている。会社、クラス、サークル……なぜ人は集団行動をするか。その答えがほんのちょっぴり分かった気がする。

(北海道大学/かたつむり)

『太陽の坐る場所』
辻村深月/文春文庫

『太陽の坐る場所』

人生の主人公は自分である。他人に自分の人生を語ることができても、人生に名前をつけられるのは、道を切りひらくことができるのはたった一人、あなた自身だ。高校の小さな教室の中で生まれた不安や恐怖や嫉妬は、消したい意志に反して簡単にはなくならない。誰しも心に大きな爆弾を抱えるみたいに、一瞬ですべてを吹き飛ばされそうになるくらい、私たちは危うい。一度心に鍵をかけると、もう出られなくなりそうになる。だけど目を背けないで。太陽はどこにあっても明るい。囚われないで。縛らないで。扉は開いた。いや開いていたんだ、初めから。

(小樽商科大学/K.A)

『フリーター、家を買う。』
有川浩/幻冬舎文庫

『ナラタージュ』

いつの間にか社会から滑り落ちてしまっていた。仕事を辞め、適当にバイトをしながら親の脛をかじる主人公。いつの間にか家族が壊れかけていた。様々なストレスを抱え込み、重度のうつ病となった母。病気への理解がまるでない父。果たしてこれは特別な家の話だろうか。何かのきっかけで、自分にも起こりうることだというと大袈裟だが、決して特殊な話ではない気がする。このリアルな感じ。加えて物語に引き込む力。序盤は少々重いが、それでもどんどん読み進めてしまう。主人公の成長する様子は気持ちがいいし、これから社会に出る自分も頑張らないとと思える。やっぱりうまいなあ。

(千葉大学/凛)

『失敗学のすすめ』
畑村洋太郎/講談社文庫

『失敗学のすすめ』

「失敗した!」実験をしていると、そんなことは日常茶飯事である。しかし、点から線や面へ、そして空間へと広がっていくように、その失敗はいろいろな原因と可能性を内包している。現在の失敗は、過去にも未来にも繋がっている。地方大学の研究科棟の実験室で起こった失敗は、日本全体、果ては世界にも繋がっている……のかもしれない。それを成功の種にするのか、ただのゴミにしてしまうのかは、その失敗を目の当たりにした私にかかっている。失敗を受け止め、それをくまなく考察・理解し、次へのステップアップに繋げることが、自分の生活や研究、果ては日本、世界を成功に導く……のかもしれない。

(岡山大学/まよ)

『武器としての決断思考』
瀧本哲史/星海社新書

『武器としての決断思考』

どのサークルに入るか、就活をすべきか、大学院に進学すべきか。私たちの生活は日々選択、決断の連続で、そのたびにベストな結論を出そうとするものの、何がベストなのか分からない。そんな私たちに最善の決断の手順を教えてくれるのがこの一冊。ディベートの思考法をもとに、決断の思考法や会議の仕方などを教えてくれる。論理的に考えること、メリットとデメリットを比較することなど、客観的に物事を判断せよと言いつつ、「最後の最後は『主観で決める』」というオチ。これから様々な選択を迫られる大学生にぜひ読んでほしい一冊。

(徳島大学/中島健太)

『君たちはどう生きるか』
吉野源三郎/岩波文庫

『君たちはどう生きるか』

読み終えて、パッと視界がひらけた気がした。読み終えて、ぐっと胸に迫ってくるものがあった。読み終えて、じっと一人で考えていた、僕はどう生きるか、ということを。この作品について、私は多くを語りたくない。なぜなら、この作品を読んでいる時、私のそばには確かにコペル君と叔父さんが存在しているからだ。ひとつ言えることは、とにかくこの本を読みましょう、ということ。読む者を皆、包み込んでくれるような物語だ。

(東京大学/ひろ)

『ゼロ年代の想像力』
宇野常寛/ハヤカワ文庫

『若きウェルテルの悩み』

漫画もアニメもライトノベルも、楽しむだけのもの、ただ消費するだけのものだった、この本を読むまでは。流行とは時代の流れである。2000年代当時、流行ったものは正しく私たちが求めていたものに他ならないのに、私はあまりにも無自覚だった。気がつかないままに、文化の真っ只中にいた。だからこそ、胸を張ってここに宣言しよう。まだ少し恥ずかしいのだけれど、私はオタクである、と。そして、時代の目撃者であるという自覚とこれからを創る想像力をもって生き抜いていく。

(東北大学/さなり)

『いのちのヴァイオリン』
中澤宗幸/ポプラ社

『いのちのヴァイオリン』

誕生して以来、形がほとんど変わることなく現在まで受け継がれてきたヴァイオリン。馬の尻尾からは弓が、羊の腸からはガットが、本体は木からできていて、すべての部品がかつて命をもった有機物から作られている。そして古いヴァイオリンのほうがいい音が出るという不思議さ。そんなヴァイオリンについて自身の経験を踏まえてヴァイオリンドクターである著者が語っていく作品である。2011年の東日本大震災で著者は津波で流された木材から「震災ヴァイオリン」を作り、震災の悲惨さを演奏を通じて伝えていこうというプロジェクトを行っている。それと同時に著者は一度命を失った木々をヴァイオリンとして新しい命を吹き込んだ。そうすることによって、木がかかわってきた人たちの歴史や思い出も引き継いでいっている、そう感じてしまった。次の世代を担う子たちに読まれるべき本だと思った。

(立命館大学/ぺロ助)

The Precious Present
Spencer Johnson/Exley Publications

The Precious Present

あなたにとって大切なものとは何ですか? 過去? それとも未来? 一度過ぎた過去を変えることは不可能。しかしただ未来を待っていても仕方がない。大切なのは今を生きること。それ以外何でもないのである。私達が生きられるのは過去でも未来でもない。Precious Present かけがえのない今だけなのである。

(福岡県立大学/田津玲那)

THE MISSING PIECE
Shel Silverstein/HarperCollins

THE MISSING PIECE

生きていると、当たり前のことに満足できなくなり、完璧を求め、何でも手に入れようとする。しかし、当たり前が崩れた時、本当の幸せとは何なのかに気づくのだ。私はこの本から、当たり前のことを当たり前にできる、そのこと自体が本当の幸せなんだと教わった。

(福岡県立大学/近藤美妃)

SAD BOOK
Michel Rosen/Candlewick

『国土と日本人』

人は悲しみのどん底に陥った時どうなってしまうのだろう。この絵本には最愛の息子を亡くしたある1人の男の感情や行動が表されています。悲しみという感情は誰にでも、いつでも表れるもの。自分の愛する人がこの世から消えてしまった時、私は何を思うのだろうか。悲しみや死について深く考えさせられる一冊でした。

(福岡県立大学/ひぃ)

SUPERBIRD
Brian Tomlinson/Cambridge Univ. Press

SUPERBIRD

砂漠に宇宙船が墜落した。唯一生き残った乗組員Maryと宇宙人の交流を描く。宇宙人にとって私たち人間は宇宙人で、人間にとっても宇宙人は宇宙人だ。誰とでも、まして異星人同士などもっと分かり合えるまでに時間がかかると思う。しかし、友情は生まれるし、そこから知ることはすごく楽しいものだと感じることができた。

(福岡県立大学/まる)

Once upon a Home upon a Home
平田研也/白泉社

『日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか』

おじいさんが住んでいるのは、家をいくつも積み上げたつみきの家。大切な人と過ごした思い出は海に沈んでしまった。ところがある日海に 潜ったとき、それぞれの階に当時の光景を見る。だからおじいさんはこの家を決して離れようとはしないのだ。海水が上昇し、また新しい家を造るとき がやってきた。Well…I guess it's time to build another new house.

(福岡県立大学/むぎこ)