読書のいずみ

読書マラソン二十選!

~第10回全国読書マラソン・コメント大賞受賞作品~

★2014年6月1日~10月10日まで開催されたコメント大賞の応募数は6,015点、例年以上にレベルアップしたコメントが多数寄せられました。今回の二十選では、選考会で選ばれた、金賞・銀賞・銅賞・アカデミック賞と奨励賞、そしてナイスランナー賞の一部のコメントをご紹介します。

主催:全国大学生活協同組合連合会
協力:朝日新聞社・出版文化産業振興財団(JPIC)

『キケン』

『蝶々の纏足/風葬の教室』

山田詠美/新潮文庫

少女は純粋無垢なものだと誰が決めたのだろう。本作に登場する“子ども”は皆、自分勝手な身体をもつ“人間”であり、それは、親切の裏に憎しみを、笑いの声の裏に残酷さを隠しもっては日常を生き抜いてきた“子ども”だった私たちを浮き彫りにする。
けれども私はむしろ、その生々しさに呼吸が楽になるのだ。それはまるで、一枚一枚丁寧に服を脱がされるような、美しさと潔さをもった真実の暴き方だから。牢獄のような教室のなかで、“子ども”を演じていた全ての人へ、私はこの本を贈りたい。

(千葉大学大学院/m・f)

銀賞

『すみれの花の砂糖づけ』

『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』

江國香織/新潮文庫

詩なんて、読んだってわからないと思っていた。
読書は孤独な趣味だと誰かが言っていた。
でも、この本を読んで、私はそんな考えを捨てた。 私たちの世界や1人ひとりの心のなかには、辞書に載っている言葉では表現しきれないことがたくさんある。普段はそれを、さみしさとか衝動とか呼んでごまかしているだけで、それは確かにそこにある。詩はただの言葉の羅列じゃなくて、言葉にできないものを表現するための言語だ。詩を通して、私たちは、同じ詩に共鳴する人たちと、つながることができる。

(神戸薬科大学/ChocoHolic)

銀賞

『あなたの人生の物語』

『たんぽるぽる』

テッド・チャン(浅倉久志=訳)/ハヤカワ文庫

朝起きて窓を開け、目に飛び込んできた、いちめんの銀世界。難しい数学の問題が解けた時の、あの快感。赤ん坊が仔犬に出会って、驚いて、それから上がった笑い声。
それは喜びだ。無情の喜びだ。見たことのないものを見ること。知らなかったことを知ること。出会ったことのないものに出会うこと。私が物語に望むのは、そんな、喜びだ。
だから、「あなたの人生の物語」は私の人生のかけがえのない一部になった。知らないもの。見たことも、出会ったこともないもの。この物語の中には全部、あったから。 さあ、あなたの人生にとっては、どうだろう?

(帯広畜産大学/阿部屠龍)

銅賞

『キップをなくして』

『パンとスープとネコ日和』

池澤夏樹/角川文庫

こんな経験、ありませんか?
出かけるために電車に乗って駅に着き、ポケットを探ると……キップがない!!! こんなとき、どうすればいいのか知っていますか?
答えはこの本の中にあります。
切符をなくしてしまったときの対処法を知らなかった主人公を待ち受けていたのは、駅で働くという運命でした。これって不運? それとも……。
うっかり切符をなくしてしまった憂鬱な日も、この本を思い出せばワクワク気分に早変わり!
だけど、切符は大切に。

(東北大学/ヒツジ)

銅賞

『思い出トランプ』

『四畳半神話大系』

向田邦子/新潮文庫

「これを読むのはまだ早い!」……というのが、読み終えて最初に思ったことである。
丁寧に描かれた心のひだを追っていくと、どうも途中で「あ、このシーン面白いけど実感が湧かない」という壁にぶち当たる。そこには常に、社会や人間関係の波に揉まれた主人公達の諦めや虚無感が付きまとう。 その一方で、何気ない日常のワンシーンから人生の回想へ広げていく著者の手法は実に見事であり、えぐるような観察眼とは裏腹に、優しさのまなざしも感じとれる。上記の「壁」も相まって何とも不思議な読後感だ。
あなたはこの「壁」を感じるか。本書を読み、自らの成熟度を測ってみてほしい。

(北海道大学/うご)

銅賞

『ビリー・バッド』

『桐島、部活やめるってよ』

ハーマン・メルヴィル(飯野友幸=訳)/光文社古典新訳文庫

「法律はこの善を罰せざるを得ないのである―。」
かつてドイツの思想家のハンナ・アレントが述べたように、法の問題において正義や善の入り込む余地はない。価値が多元化した時代にあっても、絶対的無垢の存在であるビリー・バッドは罪から解放されることなく死刑を自ら受け入れる。メルヴィルの描く雄大な海と、人の生み出した法という秩序の織り成す、美しくも残酷な世界に触れ、「正しさ」とは何か、自問する1冊であった。

(津田塾大学/Cotton)

アカデミック賞

『現代語訳 文明論之概略』

『文明が衰亡するとき』

福沢諭吉/ちくま文庫

原著はまるで古文で情けないことに字面を見るだけで尻込みしてしまいました。ところが、現代語訳を手にとってみれば、多彩な例示がちりばめられているわ、西洋史から日本史、科学、経済とあらゆる学問がさらりと登場してくるわで「おもしろい!」とページを繰る手が止まらないのです。福澤諭吉という人物が生きた「いま」、その時代の日本という国に対する危機感、それを超えた「文明」への想い、そして後世の私たちの「いま」に託したかったことがひしひしと伝わってきます。福澤の示唆とは異なり挙国一致での戦を経験する一方で、福澤の指摘どおり国体と血統の混同を捨て去ることができず、今もって「自国の独立」に悩む現代日本は果たして、福澤の時代よりも進んだ文明の段階にあるのでしょうか。他国に遜色ない智徳を手にしたのは確かです。では、私たちは「いま」、何を文明の目的とすればよいのでしょうか。

(立命館大学/まつこ)

アカデミック賞

『自由論』

『暇と退屈の倫理学』

J.S.ミル(斉藤悦則=訳)/光文社古典新訳文庫

「どうして多数決に従わないといけないの?」「みんなと同じじゃないっていうのは本当におかしいことなの?」といった疑問は誰しも幼少期から持っていたはずだ。その疑問を解決するためのヒントを与えてくれるのが、この本である。  自由とはいったいどういうことか、また、自由を守るためにはどうしたらいいのか、なぜ個性は尊重されるべきなのか、なぜ反対意見・少数意見は尊重されるべきなのか、という人類が今日に到るまでずっと抱えていた問題について詳細に、かつ丁寧に述べられている。150年以上昔に書かれた本なのに現在でもこの本の輝きは、全くといっていいほど失われていない。

(北海学園大学/みも。)

アカデミック賞

『カラスの教科書』

『悲劇の誕生』

松原始/雷鳥社

カラスというと一般的には、ゴミをあさったり、たまに人をおそったりと問題児のイメージが強い。しかし、私は、カラスはかしこくて、かっこいい!鳥だと思っていた。この違いは何なのか、私がおかしいのか?(笑)そんなときこんな帯が目に入った。「え? カラスはお嫌いですか?」
カラスにはいろんな種類がいる。人から見たら黒くて全部一緒じゃないか!と思うかもしれないが、よく見ると、口ばしの形、鳴き声、好んで食べるエサなど全然 違うのだ。人をおそうのにも理由がある。なるほど!と思う知識だけじゃなく、カラスってマヨラー? カラスのフンは食べられる? カラスは死を意識する? などおもしろい質問・回答がいっぱいだ。せっかく一番近くにいる野生動物なのだから、この本を読んで、見つけたら、足を止めてみませんか? きっと、今までとは違う感覚が芽生えると思います。

(帯広畜産大学/きんかく)

奨励賞

『数の悪魔――算数・数学が楽しくなる12夜』

『長いお別れ』

エンツェンスベルガー(丘沢静也=訳)/晶文社

自分は数学が好きな部類である。しかし、好きだからといってなんでもかんでもひょいひょい理解できるわけではない。時には理解できずにうんうん唸り、ジャンルによっては楽しくないと突っぱねてしまうことだってある。素数、三角数、フィボナッチ数、パスカルの三角形、オイラーの公式……高1の自分でもオイラーの公式は聞いたことがない。ましてや10歳の子どもにこれらが理解できるのか?  それは、できる。しかも実に簡単に、楽しく、理解できてしまうのである。算数や数学が好きか嫌いかなんて関係ない。読めば分かる。きっとあなたも『数』が好きになる。もとから好きな人も、きっともっと好きになる。自分がそうだったから。数の楽しさを改めて感じられる、そんな本。

(奈良高専/山下茉利乃)

奨励賞

『「少年A」この子を生んで…』

『あのとき始まったことのすべて』

「少年A」の父母/文春文庫

Aの母親の手記を読んで、私は目をふさぎたくなった。Aの母親は、Aがまだ生きていることを被害者の家族に謝っている。確かにAは人を殺した。だから、償っていかなければならないと思う。しかし、命の大切さを教えなければいけないはずのAの母親が、Aが生きていること、つまりAの命があることを謝罪している。この矛盾は余計にAを苦しめるだろう。愛情をうけている自分の幸せを実感できる一冊だ。

(立命館守山中学/山下莉采)

奨励賞

『いのちをはぐくむ農と食』

『長いお別れ』

小泉武夫/岩波ジュニア新書

最近、輸入食品に関わるニュースをよく耳にするけど、この本を読んで、日本の「食」の問題がどれほど危ないところまできているのかということを知って、とてもショックを受けました。この問題を知らないまま、このままにしていたら本当に怖いことになるかもしれません。これからこの国で生きていくために、自分達ができることについて教えてくれるこの本をぜひみんなで読みましょう。この国がなくならないように。

(立命館守山中学/有本朱里)

ナイスランナー賞

『幼年期の終り』

『長いお別れ』

アーサー・C・クラーク(福島正実=訳)/ハヤカワ文庫

幼年期はいずれ終る。終らない幼年期などありはしない。人は皆、今とは少し違う自分になり、新たな世界へ羽ばたいていく。私も同じ。学生という幼年期は終り、社会人へと成長していく。その変化は素晴らしいものであるはずなのに、どこかさみしく、そして切なくもあるのは何故だろう。本書に登場する人間たちの姿が、変化という波にとまどい、焦り、されど押し流されていく今の自分にどこか重なる。いつの日か私も完全に変わり、幼年期は終りを迎えることとなるだろう。ならばせめて、幼年期が自分にもあったのだということを。そして、そこで得ることの出来た幾つものかけがえのない思い出を、これから先もただ忘れないようにしたい。

(立命館大学/猫鍋)

ナイスランナー賞

『ぼくは怖くない』

『あのとき始まったことのすべて』

ニコロ・アンマニーティ(荒瀬ゆみこ=訳)/ハヤカワepi文庫

子どものころ、自分はヒーローや魔法使いになる素質をもっていると思っていた。そして、対決や対話の相手である魔物や妖精は、たしかに目の前にいた。彼らが見えなくなり、魔法が使えなくなったのは、いったいいつからだったろう。この小説は、まさにそんな過渡期にある少年の目線で描かれている。「少年時代との決別」。それは、決してあるときを境に訪れるものではない。自分が大人になったと感じるようになってから、見えなくなった彼らへのレクイエムとともに、心に去来するものなのだ。

(早稲田大学/朱智あすか)

ナイスランナー賞

『働かないアリに意義がある!』

『幻想郵便局』

長谷川英祐/メディアファクトリー

本の題名からして私たちの「アリは働きもの」という概念をくつがえしています。でも、本を読み進めていくうちに、なぜ働かないアリが存在するのか、アリの巣の中での組織の仕組みに思わず納得してしまいます。生物学に関わる身としては、とっても面白いです。著者の長谷川さんは、そんなアリの社会とヒトの社会を比べてアリの社会を説明しています。アリの社会は、ヒトとは違っていて、上手くできています。ヒトの社会もこんな風に上手くできてたらいいのにと思いますが、そこは感情をもつヒトともたないアリの決定的な違いなのかなと思いました。

(帯広畜産大学/ぴえろ)

ナイスランナー賞

『世界から猫が消えたなら』

『有頂天家族』

川村元気/小学館文庫

“死ぬまでにしたい10のこと”を書けと言われたら、私は何を書くのだろう。見たかった映画、会いたかった人、そんなことのいくつかを、その中に並べるのだろうか。主人公の大切なものと引き換えに、悪魔が与える1日の命。一つひとつが消えていくたび、胸が小さく痛む。無くても生きていけるモノ、忘れてもいい思い出、結局そんなものは、生きていく中で出会ってしまったら一つだってないのだと気づく。楽しい、嬉しい、爽やか。最後には、ボロボロと涙をこぼしながら、「生きたい」と叫びたくなる、切なさと温かさのつまった一冊だ。

(愛知教育大学/碧海)

ナイスランナー賞

『人間失格』

『神様のカルテ』

太宰治/集英社文庫

「恥の多い生涯を送ってきました」―大庭葉蔵の自己分析である。このことばに興味を持ち読みはじめた私は、彼の彼による彼のための批評が謙遜でもなければ、あまりに的を射た事実であることに気づかされる。
それなのに、どうしてだろうか。嫌いになれないのである。小説の主人公にあるまじきダメっぷり、それなのに。酒に溺れ麻薬中毒に陥り女にすがる葉蔵は内省し続けている。
一生懸命に自分を客観視しようと努め、冷静であろうとしながらも、彼は結局自己愛を乗り越えることはない。それが彼にとって盲点で、かつ愛される理由なのだろう。

(琉球大学/ぼおろ)

ナイスランナー賞

『スロウハイツの神様』

『デミアン』

辻村深月/講談社文庫

<才能>というものが存在する。<才能>をもつ人間が存在する。この世界にそれは、残酷なほど確かなものとしてある。唯一無二の<才能>をわたしたちは時に神様とも呼んで崇め、死にもの狂いで追いかける。だけど、いつだって、どこまで行ったって、遠くて高くて、怖くなるくらい深い闇の向こうなのだ。苦しくて、もどかしくて、情けなくて、自分の無力に絶望して、それでも繰り返した感情をみんな抱きしめて、いつか。「あなたがわたしの神様でした」と、「あなたを目指してここまで来ました」と、胸を張って伝えることができるように。わたしもまだ、あきらめるつもりはない。

(金沢大学/水無月)

ナイスランナー賞

『柿の種』

『さようなら、私』

寺田寅彦/岩波文庫

大学に入ると、否が応でも意識させられる、「文系」「理系」という言葉、そんな「文系」「理系」のバイリンガルだったのが、寺田寅彦という人だ。俳句をX軸Y軸に置きかえて考えたり、目は閉じられるのに耳は閉じられないのは何故だろうと考えたり、と、その独特な視点に思わずうならされる。文系だから、と理系分野を毛嫌いしていた私に、時に鋭い、時におもしろおかしい、時に美しい言葉で、理系的視点の面白さを教えてくれる。
文学を読むのが苦手な理系学生も、物理が苦手だった文系学生も、この本で新しい「面白さ」を知ってみてはいかがだろうか。

(福島大学/野下弥生子)

ナイスランナー賞

『錦繍』

『乱反射』

宮本輝/新潮文庫

「生きていることと、死んでいることは、もしかしたら同じことなのかもしれない」
この文章を初めて目にしたとき、正直、私は理解できなかった。だって、そうでしょう? 生きている人にはまた会えるけど、亡くなった人にはもう二度と会えないから。
それでも、私は何かの折に触れ、ふとこの一文を思い出すのだ。悲しみにくれているとき、信号が青になるのを待っているとき、お風呂に入っているとき……。
何故かはわからないが、この言葉は私を掴んで放してはくれないのだ。

(東北学院大学/kobato)