読書のいずみ

読書マラソン二十選!

全国的な猛暑とオリンピックの熱気のなかで過ごした夏も終わりを告げ、過ごしやすい秋がやってきます。バテ気味の心と身体を読書で癒しましょう。今号も第11回全国読書マラソン・コメント大賞に応募のあった作品から、編集部が秋におすすめの20点をピックアップしました。コメントとともにご紹介します。

『BL時代の男子学』
國友万裕/Screen新書

『BL時代の男子学』

「男性がゲイ化している」というといささか衝撃的だろうか。副題にもなっている「ブロマンス」とは、Brother(兄弟)とRomance(ロマンス)を結合させたことばである。男同士の親密な友情を表すことばなのだが、これまでの時代の男性たちは、男同士でストレートに親密さを表現するのを怖がっていた。「ゲイだと思われる」ことを恐れていたからである。しかし、21世紀の男性たちは、男性性が多様化していく中で、そんな恐れを抱かなくなっているという。男性たちが、「男なら泣くな」「責任を持て」という男性性の鎧を脱ぎ去ることができる日は近いのかもしれない。

(京都大学/つむじ風)

『科学者は戦争で何をしたか』
益川敏英/集英社新書

『科学者は戦争で何をしたか』

現在、安保法の問題が騒がれている中で、この本を読まずにはいられなかった。戦時中や戦後に科学者たちがしてきたことを彼らの考えや思いと共に触れ、研究者を目指す自分にとっても「研究者とはどうあるべきか」を深く考えさせられた。また、原発や政治、経済との結びつきなど科学が抱える問題点が書かれており、科学に対する意識に刺激を受けた。科学はもちろん人類、平和を愛する著者の熱い思いを強く感じた。

(名古屋大学/ Bach)

『スティーブ・ジョブズ名語録』
桑原晃弥/ PHP文庫

『スティーブ・ジョブズ名語録』

ジョブズの口から発せられる言葉はみな熱く、心に響くものである。中でも“何かを捨てないと前に進めない" という名語はその時の自分の悩みをあっさり解決してくれた。何かを得るのは大変だが、時には捨てる方が大変で勇気がいることだと感じ、この言葉が私の背中を押してくれた気がする。1ページごとに鳥肌が立つ位の重く力強い言葉が載っており、スティーブ・ジョブズはすごい人だ!ということにとどまらず、自分もこう考えるようにしたいと思える本であった。

(同志社大学/みなみいた)

『芥川賞を取らなかった名作たち』
佐伯一麦/朝日新書

『芥川賞を取らなかった名作たち』

太宰治、吉村昭、村上春樹……。彼らの共通点は著名な作家でありながら“芥川賞をとっていない" ということ。年に2回、有望な純文学の新人作家に贈られる芥川賞の選考は毎回文句なしの満場一致に終わるわけにもいかず、優れた作品でありながら、受賞を逃したものも少なくない。そんな作品を集め、見どころや著者の生涯などの紹介も行なう。この本は読んだ、この本はまだ、この作家は知ってる……というように本作を読むだけでも面白いが、一味違った読書をしたいときのガイドブックとしても活躍間違いなし!

(慶應義塾大学/あるぎにん)

『棒を振る人生』
佐渡裕/ PHP新書

『棒を振る人生』

世界に誇れる日本人指揮者の佐渡裕さん。テレビ越しに見る世界で活躍する日本人は、とても遠くに感じられる。しかし、このおじさんはテレビから飛び出して、あなたの隣に腰かけて、おしゃべりを始める。巨匠といえど人間であり、等身大なのだ。有名なオーケストラを指揮するときは緊張する。久しぶりの友人に会って喜ぶ。仕事に悩む。ゴルフを楽しむ。悲しみで涙を流す。誰よりも人間らしく生きている姿があり、そこに音楽が寄り添っている。
あなたはまっすぐに生きているだろうか。不安で不安で「棒に振る人生」は過ごしたくない。そんな人こそ、「棒を振る人生」のページをめくってみてはどうだろうか。

(慶應義塾大学/シベロウ)

『絹と明察』
三島由紀夫/新潮文庫

『絹と明察』

日本的な思想とは何ですか?そう問われて瞬時に答えられる日本人はいないだろう。伝統や思想はすべてが受け継がれていくわけではないからである。
駒沢紡績の社長、駒沢善次郎は企業運営に「家」制度を取り入れ、会社を一大企業に成長させた。しかし、ハイデッガーに影響され破壊思想を持つ岡野は会社崩壊を目論む。相反する日本主義と西欧主義のぶつかり合い、どちらが勝つのか最後まで展開に目が離せない。日本の名品「絹」をテーマに進むこの物語は、知っているようで知らない「日本」についても考えさせてくれる。

(お茶の水女子大学/ガラスの風景)

『ヴィヨンの妻』
太宰治/新潮文庫

『ヴィヨンの妻』

私は彼のことをおさむと呼ぶ。おさむは実に面白い人である。お堅い言葉を遣っているが、よく聴けば、なんてこの人は阿呆なことを言っているのであろうか。しかし、面白おかしく、切れ味よく、おさむは新しい真理を訴える。「義」とは何か。突然やってくる「虚無感」の正体は何か。「覚悟する」とは、どういうことか。一度はちらっと考えたことのある感覚を、おさむは新しい視点から話しかけてくる。……ただ、おさむは途切れることなく、語り続けるのだ。こちらにも話す隙を与えてほしいものである。いえいえ、太宰のおさむさん、あなたのキャラクターには、いささか癖になりそうである。

(神戸大学/つき)

『コレクター 上・下』
ジョン・ファウルズ(小笠原豊樹=訳)/白水Uブックス

『コレクター 上・下』

昆虫標本を作ったことのある方はご存知だろうが、毒瓶というものがある。ガラス瓶の中に酢酸エチルを含ませた脱脂綿を入れて蓋をしたもので、この中に採集した虫を入れ、傷つけずに殺すのだ。この物語はまさに収集された一羽の美しい「蝶」が毒薬に蝕まれていく様を見ているようだ。正直に言う。もどかしく、気持ちが悪い。しかし目が離せない。見届けずにはいられない。何とかして生きよう、自分であろうとする「蝶」の生に対する意識も魅力的だが、そんな彼女を侵食する毒薬も気味は悪いが中毒になりそうなのだ。瓶の中の蝶と毒薬。その様をじっくりと味わってほしい。

(金沢大学/匿名切望)

『夏の裁断』
島本理生/文藝春秋

『夏の裁断』

「裁断」というタイトルの言葉が、読後にじわじわと迫ってくる。残酷な響き、鋭利な痛みを連想させる一方、その作業の中で、彼女は高揚感を感じてもいる。どうしたらいいのかわからない、このままではいけないとわかっているのにやめられない、前に進めない、人に背を向け続けること……こうしたことに別れを告げることを「裁断」という言葉で表せないかともふと思った。また、著者が「自炊」を描き、本の中の言葉たちについて語っているようで、印象深かった。

(東京外国語大学/高月 朝)

『忘れられた巨人』
カズオ・イシグロ(土屋政雄=訳)/早川書房

『忘れられた巨人』

記憶はあてにならないし、どこかを改竄されている。それでもその記憶に縋らざるを得ない。記憶は自分そのものだからだ。それに、思い出なしに生きてゆくことなどできない。それなのに、全ては霧の中に溶けていってしまう。今朝のことも、去年のことも、愛していたはずの家族のことも、過去の自分のことも。目の前から消えた相手を、覚えていられるだろうか? 日々薄れていく記憶を、どう留めておけばいいのだろう。そしてその目の前の相手のことも、いつか忘れてしまうのだとしたら。忘れることの怖さを味わいながら読み進めた。読み終えて、思い出すことはもっと怖いのだと思い知らされた。

(お茶の水女子大学/壁紙の花)

『銀河ヒッチハイク・ガイド』
ダグラス・アダムス(安原和見=訳)/河出文庫

『銀河ヒッチハイク・ガイド』

地球で3番目に知性的な人類の皆さんへ!皆さんはもちろん一度は「地球が銀河バイパス工事で消滅して、自分が宇宙にヒッチハイクする羽目になったらどうしよう」なんて心配をしたことがあるでしょう。ありますよね?あるんです。さて、そんな時もご安心あれ!アーサー・デント氏(男性、30代)はまさにそんな状況に遭遇しましたが、宇宙からもらった「銀河ヒッチハイク・ガイド」片手に無事乗り切っています!やはり先駆者の話を聞くのが一番ですね。残念なことに、この本が1ページに3回は笑うところがある、などと言う人がいました。失敬な!5回は笑えます。さぁ、彼と宇宙人たちのウィットに富んだ珍道中、是非ご一読あれ!えっ、ところで人類が知性で3番目なら1位と2位は何って?2位はイルカ、1位は……。答えは「銀河ヒッチハイク・ガイド」で!

(福島大学/山下)

『ぼくのニセモノをつくるには』
ヨシタケシンスケ/ブロンズ新社

『海炭市叙景』

あぁ、なるほど。私のニセモノを作るのって、きっととても難しい。内容としては、ある男の子が自分がどういう人なのかを説明しているだけ。それなのに、読んでいるうちに自分とその子を比べて、自分がどういう人なのか考えさせられる。書類上の私はこんな感じ。外見の特徴はどんなので、あれが好きでそれが得意で……。私はいろんな自分を知っているなぁと思って、でもこの本はそれで終わりじゃない。これは自分を知る本じゃなくて、自分のニセモノができないことを知る本なんだ。いくら私を真似してもらっても、私らしさは私だけのものなんだと。私は他の人にはなれない。なれるのは、未来の私にだけなんだ。過去の私がいて、今の私があって、未来の私になる。そんな当たり前の使い古された言葉が、とても誇り高く感じた。

(愛知教育大学/よじ)

『あの日、マーラーが』
藤谷治/朝日新聞出版

『あの日、マーラーが』

あの日、何があったのか。2011年3月11日、巨大地震が日本を襲った。あなたはそのとき何をしていたか。その日の夜、何をしようとしていたか。あの地震が起きた日に、マーラーが聴ける……。誰が想像できただろうか。この物語には、3.11の地震後に演奏会を聴いた、演奏をした、演奏会を決行するために奮闘した人たちを描いている。フィクションではあるが、事実に基づいている。共通するのはマーラーが、あの日、響いたこと。

(静岡大学/わとそん)

『何者』
朝井リョウ/新潮文庫

『何者』

イタイ!!! 耳もイタイし、心もイタイ!!!とにかく読んでいて恥ずかしくなった。SNSで簡単に個性を表現できるようになった一方で、何か人と違う、誰もが認める個性でないと、不安で不安で仕方がない。友達の不幸でさえも、少し笑ってしまう。そんな誰もが抱える感情。特に就活なんて、自分を評価されて、他人と比較され、現実を突きつけられる。こんな怖いことはない。でも、それを乗り越えた時に、違う世界が見えてくるんじゃないかな。

(同志社大学/ぶぅ)

『どんぐり姉妹』
よしもとばなな/新潮文庫

『どんぐり姉妹』

この本の中には、温かくて少し湿った空気が、ゆっくりと流れていた。前に進むことを決して急がず、身の回りのいろんなことをうんと吸収するぐり子の人生は、豊潤で美しく、もどかしくも羨ましくもあった。たわいもない言葉を紡ぐ幸せを、居場所がある喜びを、私はこの本から教わった。物語を読み終えたとき、私を包む空気も少しだけゆっくりになっていて、頬を撫でる風は柔らかかった。なんだか、いつもより世界が豊かに見えた。

(桜美林大学/なな)

『猫鳴り』
沼田まほかる/双葉文庫

『猫鳴り』

近年、ペットは家族の一員となっている。特に猫は、その仕草や行動から擬人化されやすい。本書は、猫に「何か」を投影した人々が登場する。流れてしまった胎児に仔猫の姿を重ね、亡くなった女房に老猫の姿を重ねる。無くなった「何か」を埋めるために。そして、猫はその短い命を賭して人間に教えてくれる。死とは何か。死を両手で受け入れて生を全力で全うするためにはどうすればいいのかを。猫の最後に涙が止まらなかった。

(東京農業大学/キツネ)

『夜は短し歩けよ乙女』
森見登美彦/角川文庫

『夜は短し歩けよ乙女』

諸賢、役者に満ちたこの世界において、主役の座をもぎ取りたいか?私はこの本を「主役に立つためのプロセスを載せた参考書」として捉える。この本の中で、「黒髪の乙女」は数々の珍事件において輝かしい主役であったが、それはひとえに彼女が好奇心旺盛、純粋可憐であるが故。そんな彼女は言わずもがな魅惑的であり、「先輩」の意中の人である。彼は「ナカメ作戦」により、彼女の外堀に日々土を投げ入れることに多忙を極める愛すべき学生だ。「先輩」を含むその他登場人物は路傍の石ころに甘んじたわけだが、私は彼らも魅力的で黒光りしていると考える。願わくは彼らに声援を。

(法政大学/春町)

『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』み
七月隆文/宝島社文庫

『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』

「今」を大切にすること。これが私がこの本から得た教訓である。タイムリミットが先にあればあるほど私たちは「今」という時間の大切さを見失ってしまいがちである。彼女の秘密は私たちに、今を生きることの喜びを伝え、今を一緒に生きていることがかけがえのない時間であることを教えてくれる。授業、サークル、バイト……といった普段の何気ない毎日であると思っても、その日々も大切な時間だと気づいた。もし、大切な人がいるなら、「今」その人と幸せな時間を過ごしてほしい、そう思える一冊である。

(南山大学/ポラリス)

『女王はかえらない』
降田天/宝島社文庫

『女王はかえらない』

殺意とは「人を殺そうとする心」だという。それは普段は心の内側に潜んでいて、何か小さなきっかけが起こったときに爆発を起こし、崖の上に立つ相手の背中を押すため足を踏み出してしまえる力のことなのだろう。恋愛絡みの嫉妬だったり劣等感だったり、大切な人を助けたいという思いだったり逃れたいという思いだったり中身は千差万別あれども。巧みに紡ぎ出されるミスリードに翻弄され続け、辿り着いた真相に隠れていた殺意は殺意と呼ぶには言葉が強すぎて口にすれば違和感が残った。負の感情が連鎖した惨劇。教室という閉鎖された空間で事件のきっかけが育まれていたことにぞわりと背筋が寒くなる。

(お茶の水女子大学/もっか)

『いなくなれ、群青』
河野裕/新潮文庫nex

The Moonlight Palace

我々は皆“ひと” である。社会に生き、他者と関わりをもち、日々を過ごしている。窮屈を感じたことはないだろうか? 自分がもっと違う個性を持っていたらと、そう思ったことはないだろうか? 本書はあなたの為にある。手にとり、読み始めてほしい。捨てられた島に住む主人公が辿りつくその答えを見届けて欲しい。きっと、あなたを見つめる優しい目に、気づくことが出来るだろう。

(慶應義塾大学/ coys)