読書のいずみ

読書マラソン二十選!

『izumi』で読書マラソンを応援し、コメントの掲載を始めたのは、100号よりも少し前の97号(2003年冬号)からでした。
あれからもう13年。その間にどれだけのコメントをこの誌面でご紹介したでしょうか。読書マラソンはまだまだ続きます。
今年も素敵な本との出会いがありますように。

和書編

『沈黙の春』

表紙

レイチェル・カーソン(青樹簗一=訳)/新潮文庫

読んで、ため息が出た。それは感動でも感心でもなく、嘆きに近いため息だった。人間は自然を支配しようとするあまり、これまで多くの農薬や殺虫剤をばらまいてきた。その結果、川では目の見えないニジマスが泳ぎ、森では瀕死のキツネがぐるぐると弧を描きながら歩きまわり、大学の構内では平衡感覚を失ったツグミが次々とふるえ出し、死んでいった。そして、アメリカの一部の森では、春が来ても動物の鳴き声やものおとが一つもしなくなってしまった。日々、農薬や殺虫剤は進歩している。新しく作られて君の手に渡った殺虫剤は、本当に安全なものなのだろうか。私たちはもう一度考え直さなければならない。沈黙の春が、私たちのところに来てしまう前に。

(早稲田大学/内村佳保)

『読書について』

表紙

ショーペンハウアー(鈴木芳子=訳)/光文社古典新訳文庫

学びたければ本を読め。知識を身に付けたければ本を読め。大人は口をそろえてそう言う。そのようにして、私も読書に魅せられた。しかし、読書をしているときは、頭が働いていないらしい。一方的に情報を享受するばかりだ。単に本を読むだけ、字を目で追うだけでは得られるものは乏しい。読書のあり方を見つめ直すために必須の一冊。

(愛媛大学/ 03)

『吉田松陰』

表紙

桐原健真/ちくま新書

私の地元山口県では吉田松陰は「松陰先生」である。確かに松下村塾で多くの志士たちを教育した点は「先生」であったかもしれないが、過激な尊攘思想、数度の下獄、私にはどうしても松陰は「先生」でなかった。そんな彼の思想の変化を読み解いた一冊。この本に現れた松陰は決して偏狭な原理主義者などではない。世界における日本の自己像を獲得した、あの時代もっとも海外を注視していた思想家であった。彼が「松陰先生」と呼ばれるわけをやっと理解できたのである。

(愛媛大学/なつ)

『予想どおりに不合理』

表紙

ダン・アリエリー(熊谷淳子=訳)/ハヤカワ・ノンフィクション文庫

一度手にしたものに所有意識が芽生え、いらないのに手放せなくなる、同じ食べ物でも場所や雰囲気でおいしさが変わる……人間の不合理な行動を、経済学に心理学の要素を取り入れた「行動経済学」で解き明かす。この本を読んだら、ものの見方が変わるかも?

(名古屋大学/K)

『お茶の時間』

表紙

益田ミリ/講談社

「お茶する」って一体何をしているのだろう。おひとりさまで、旧友と、仕事の合間に、時間つぶしに、等いろいろな場合があるが、二度としてまったく同じ「お茶」はないのではないか。それは、まったく同じ道を二度と歩くことがない、ということに似ている。そう、私たちは自分の人生という道の途中途中に「お茶して」いるのだろう。まるで「一時停止」の標識に従うかのごとく。道の先へ行く人のために「お茶の時間」はある。少し止まって周りを見渡せば、進む先は少しだけクリアになるかもしれない。

(信州大学/ soybean)

『フランケンシュタイン』

表紙

メアリ・シェリー(森下弓子=訳)/創元推理文庫

「人間らしさとは何なのか」己の創造物を非道に扱うヴィクターと、あたたかい心をもちながらその外見ゆえ忌み嫌われた怪物を比較させ、その問いの答えを考えさせるのがこの本である。当時の宗教観に挑む設定となっている本書は一方で、創造物に対する科学者の責任や人が抱える孤独についても扱っている。自分の行動の責任が問われたときそれをきちんと果たせるか、理不尽な仕打ちに理性的に対処できるか、そういった現代につながる諸問題の解答のヒントがこの本には詰まっている。この時代にこそ、読まれるべき作品であると感じた。

(東京外国語大学/委員長)

『花束のように抱かれてみたく』

表紙

俵万智・稲越功一/角川文庫

ヒマワリ、ジャスミン、ホウセンカ。私の好きな花たち。ちっとも熱心な園芸家じゃないけれど……。好きな花は、人それぞれ。花たちのこと、人間が名づけたんだけど、そうなんだけれど、やっぱりあなたにはその名前がぴったりだよ、と思ってみたり思わなかったりする。花の名前に立ちつくして、花にまつわる思い出も、人それぞれである。ここでは、四季の花を紹介しながら、少しセンチメンタルに花の名が詠まれていく。この中から自分の誕生日の花言葉を探そう。そして気になるあの人の花言葉を探すのも、楽しいだろう。さて、あなたの一番好きな一首は何?

(慶應義塾大学/菫)

『名作童話 北原白秋100選』

表紙

北原白秋・上田信道/春陽堂書店

大人になれば、子どもの頃に感じた気持ちなんて、忘れてしまう。学校帰り、夕日を背に友達と別れた時の寂しさを、親の留守をひとりで耐える孤独感を、雨の日に家の中で過ごす所在なさを……。そんな子どものころに感じた気持ちなんて、忘れてしまう。北原白秋は、大人の言葉で、子どもの日常をリズムにのせて詠み上げる。しかし、そのリズムは軽快というよりかは、どこか物悲しさをともなっている。白秋が見る子どもは、大人が思っている以上に弱く、繊細ではかないのだ。

(早稲田大学/内村佳保)

『徒然草REMIX』

表紙

酒井順子/新潮文庫

兼好法師ってどんなイメージですか? 私は兼好法師といえば徒然草しかなくて、人としての彼にはイメージすらありませんでした。けれど、この本を読んで、いまでは「結構おもしろい友達」みたいな感覚。それぐらい、この本が彼との距離をぐぐっと近づけてくれます。たとえば、彼が徒然草を書いた心理をこの本ではSNSに思いを吐露せずにはいられない今どきの人々の心理と似ていると分析しています。「よしなし事(どうでもよい事)」とか言いつつ、兼好さんはちゃっかり「いいね!」をねらってるんです。どうですか? どこか憎めなくてかわいい兼好さんと友達になりませんか?

(愛媛大学/がわ)

『仰臥漫録』

表紙

正岡子規/岩波文庫

「何か美味しいものが食べたい」と言って、どうしても食べたいものがあって、いつもは使わないぐらいの金を払って食事をしても、2、3日すれば食べたいものなんて覚えていないから不思議である。子規のように記録を付けたら忘れないだろうか。子規は食べることが好きな人で、本にも食事の記録だけではなくて食についてあれやこれやと綴っている。子規は病床にあったから格別食にこだわっていたのかもしれないが、誰しも病床でなくとも食を考えている。好みがあって、気分もある。一日3食加えておやつ、生きるために食べているだけでなく、食べ方は生き方なのである。辛いことを忘れたくて食べる、食べて楽しくて幸せになる、あるいは食べられず苦しいのである。すべては子規が彼の日記に残したように。今、何が食べたいだろうか。私は今晩柿が食べたいなと思う。

(立命館大学/もりあんぬ)

『有頂天家族』

表紙

森見登美彦/幻冬舎文庫

ぽーん。そんな腹鼓の音が聴こえたら、あなたの傍には狸がいるかも。バカバカしいと思うかもしれないが、これはそんな狸たちの話だ。人間を化かしながら楽しく暮らす彼らも、後継者を争ったり、一目ぼれしたり、狸鍋の具にされそうになったりで、まあ大変。そんな狸たちの日常を、詳細な京都の描写とともに追いかけると、昨日の悩みごとなんて吹き飛んでって、気づけばこの世界観に引きこまれていた。相手は狸なのに、メチャクチャ感情移入してしまうではないか。ファンタジーだけどちょっとリアルであったかい。ああ、どこかで「ぽーん」が聴こえないかな……。

(東京学芸大学/GYUMI)

『活版印刷三日月堂 星たちの栞』

表紙

ほしおさなえ/ポプラ文庫

活字を拾う。考えれば考えるほど素敵な言葉です。文字には実体がある。重さがある。活字の母型を彫った人も、文章を紡いだ人も、活字を拾った人も、いなくなっても紙に刷られた文字が実体となって私たちの心に響く。活版印刷は時を超えて人と人を繋ぐことができる魔法なのかもしれない。心がぎゅっとなって温まる物語は、活版印刷の持つ温かさそのものです。たった一文の言葉にはっと胸を打たれるのは、文字が本来持っている圧倒的な物量を無意識のうちに感じているからなのでしょう。

(横浜国立大学/七月セラ)

『ままならないから私とあなた』

表紙

朝井リョウ/文藝春秋

不気味の谷現象、という言葉を知っているだろうか。ロボットなどの非人間が、ある程度以上人間に似すぎていると、人間はそのロボットに対して嫌悪感を覚える、という議論がある。私はこの本を読んで、そのことを思い出した。テクノロジーを用いて、親友の夢を叶えようとする天才少女、薫。自分の手で夢を叶えようとする雪子。二人の関係はまさに “ままならない"。薫の言葉も、雪子の言葉も心に刺さった。この本は、朝井リョウが現代社会に突き刺したナイフのようだ。

(横浜国立大学/なち)

『ネバーランド』

表紙

恩田陸/集英社文庫

「必要以上に他人に踏み込むこともなく、己を深く掘り下げる暇もなく、空気のように暮らしていく」そんな普段の寮生活が、冬休みになり、事情を抱えた4人の少年だけの生活へと一変する。「告白」ゲームによって、彼らが隠していた秘密が明らかになる中で、私は彼らのもろくてこわれやすい一面と、「松籟館」が彼らにとっていかに大切な居場所であるかを知った。少年たちの不安定だけど、一人の人間としての存在を意識している。私も心の奥を見つめなおしたい。

(愛知教育大学/ロシェル)

『コインロッカー・ベイビーズ』

表紙

村上龍/講談社文庫

久々に文学の持つ磁力に引きつけられた。生まれてすぐ、コインロッカーに捨てられたキクとハシ。秘密の呪文は「ダチュラ」。彼らは強く生き続けた。自分を捨てた母への、言い知れぬ憎しみを抱えながら。けれど、運命は常に残酷だ。彼らが求めたも の——それが、胎内で聴いた母の鼓動だったなんて。決して癒えることのない傷を負ってもなお、生き続ける子どもたちがいる。子どもは強くて弱く、そしてたくましい。赤ちゃんポスト、幼児虐待、両親の離婚……我々はきれいごとばかり言って、現実から目を背けていないか。フィクションでは終わらない現実が、我々のすぐ近くで時を刻み続けている。

(東京大学/井川奏)

洋書編

Very Good Lives

表紙

J.K. Rowling / Sphere

私たちは、れっきとしたマグルです。そう、ホグワーツの入学通知は来なかったのだから、魔法使いにはなれません。でもその代わりに、魔法の世界の番人ローリング先生からの贈り物があるそうですよ。どれどれ、「魔法を使わずに世界を変える方法」……? おや、それはなんと興味深い……。どんな呪文よりも、強く、優しい言葉。力を借りて、私たちの物語を創りましょう。

(東京大学/任冬桜)

Paper Towns

表紙

John Green / Speak

卒業間近のクウェンティン。そこそこ勉強もできて、目立たないけど、友達もいる。結構いい大学の内定ももらって、残る高校生活を楽しむだ け——のはずだった。幼馴染のマーゴが、用意した壮大な計画に巻き込まれて、最後の夏、すべてが変わる。「紙のような薄っぺらい町」をめぐる、他者と、自分を知る旅。ただの青春ロードトリップでは終わらせない。

(東京大学/任冬桜)

Ella Enchanted

表紙

Gail Carson Levine/ Harper Collins

母親の死、意地悪な継母と二人の娘、真夜中に解ける魔法、王子様とかぼちゃ——え、知ってるって? シンデ○ラ? いやいや、これはエラっていう女の子の話。生まれた頃に「従順」の呪いをかけられてしまったんだ。だから命令にはなんでも従うんだけど、どうにかして運命を変えようとしているとか……。子供も大人も、エラの勇気を応援したくなるって聞いたぞ。彼女なら、きっとおとぎ話を越えた感動がもたらしてくれるさ。

(東京大学/任冬桜)

Fahrenheit 451

表紙

Ray Bradbury / Flamingo

気付き、それは最大の恐怖だ。暗黙の了解に沿って生きれば苦しいことはない。ただただ流され、あるものを享受せよ。誰も苦しまなくてす む——しかし本当にそうなのか? 本を燃やす男は、違う世界の可能性に気付いてしまった。知識は、考えることは、気付くことは、祝福である。きっともう一度思い出させてくれる、永遠の名著。

(東京大学/任冬桜)

Frantastic Voyage

表紙

Jim Benton / Scholastic

マッドサイエンティストと言えばフラニーでしょ!って、私だけですか? 彼女、可愛いおさげの女の子なんだけど、日々ラボ(寝室)で身もよだつような実験を行う、正真正銘のマッドサイエンティスト(弱点:手に負えない弟)。ドジだけど、愛すべきアシスタントの雑種犬イーゴーもいます。一人と一匹で今日は……「セカイノオワリ」装置を作ったらしいけど、大丈夫? 挿絵もおちゃめな、「フランタスティック」に楽しいシリーズです。

(東京大学/任冬桜)