読書のいずみ

『四畳半から、ふたたび』

1.また出していきます

北岸:森見さんは今は奈良にお住まいのようですが、京都にも来られることはあるのですか?

森見:京都には秘密基地があるんですよ。普段は専業作家で奈良の自宅にいますが、しんどくなってくると京都に逃げてくるんです。そこではあまり仕事していないのですけどね。映画を観たり本を読んだりして、遊んでいます。

神田:素敵ですね。

北岸:そこにはやはり、狸とかダルマとか招き猫なんかが置いてあるのですか?

森見:ははは。一応あります。仕事場に自分の本を並べたコーナーを作ったんです。そこにダルマとか招き猫とかを揃えていきました。でも、もともと持っていなかったんですよ、そういうものは。小説で面白がって出していたらファンの人から貰ったりして、段々増えていったんです。そのうち自分でも好きになってきて、このまえ高崎に行った時には、ダルマを小さいものから大きいサイズまでいっぱい買って帰ってきました。いずれベストセラー祈願で使いたいなと。本が出る時に片方の目をいれて、何万部を超えたらもう片方の目を入れようかなと思っています。

北岸:いま、構想されているお話はあるのですか?

森見:一昨年の夏にちょっと体調を崩して、昨年一年間は奈良でのんびりしていました。それで仕事が止まっちゃったので、構想というよりも、いまぐちゃぐちゃになっている仕事をこれから順次整理をして出していこうと思っています。あの時は、あまりに手を広げすぎて、取り掛かっている作品が10個くらいあったので、自分の中で混乱してしまったんですね。

神田:並行して書いていらっしゃった時は、10個のお話が頭の中で一緒に出てくる感じなのですか?

森見:結局、それは無理でしたね。『夜は短し歩けよ乙女』(以下『夜は短し』)と『走れメロス』と『有頂天家族』の3作品は、就職してから同時に始めたものです。これらが交互に雑誌に載って、最後に本にまとめるという一連の作業の流れがありました。そこのサイクルはうまくまわったのですが、同じように2周目、3周目と進めていったら、3周目ぐらいで破たんしたんです。同時進行の小説が増えすぎてしまって、お互いに邪魔をするんです。ぐちゃぐちゃになってしまいました。本当はあまりよくないんですね。

神田:並行することが?

森見:そう、並行することは。最初の頃のようにうまく頭の切り替えができている時には、並行して書いていてもいいんですけどね。かといって、ひとつのお話だけをずっと書くのも、それはそれでしんどい。いま、朝日新聞で連載した「聖なる怠け者の冒険」を頭から書きなおしています。あと少しで終わるところなんですが、それだけを半年間ずっと書いていたら、だんだんしんどくなるんです。そのバランスをどう取っていくかは、これからの課題です。難しいですね。出版社の方の都合もあるし僕の都合もあるし、気分もある。どう書いていくか思考錯誤している最中ですね。

神田:でも、また読めるんですね。それは嬉しいです。

森見:今年中には、出始めると思いますよ。

インタビュアーによる森見登美彦さん 著書紹介

『ペンギン・ハイウェイ』

『ペンギン・ハイウェイ』

角川文庫/660円
小学4年生のぼくが住む郊外の町に突然ペンギンが現れた! この事件に歯科医院のお姉さんの不思議な力が関わっていることを知り、ぼくは真相究明に乗り出すのだが……。ほんのり切なくて美しい、ファンタジー小説。(北)

サイン本プレゼント
森見登美彦さんの著書『ペンギン・ハイウェイ』のサイン本(単行本)を5名の方にプレゼントします。 応募受付は2013年4月30日まで 当選の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。

『宵山万華鏡』

『宵山万華鏡』

集英社文庫/500円
祇園祭前夜の京都で妖しの世界と現実が入り乱れ、不思議な事件が交錯する。万華鏡のように多彩な物語が収められた、全6編の連作短編集。私も万華鏡片手に宵山に繰り出してみようかな。(北)

『森見登美彦の京都ぐるぐる案内』

『森見登美彦の京都ぐるぐる案内』

新潮社/1,470円
写真とキュートなイラストマップで森見作品の名場面をめぐる、ファン必読の京都ガイド。妄想と現実が錯綜する単行本未収録のエッセイも2本収録されていて、旅のお供に最適です☆(北)

『恋文の技術』

『恋文の技術』

ポプラ文庫/651円
京都の大学から遠方の実験所に飛ばされた院生が、文通修行と称して京都に住まう仲間に手紙を書きまくる話。青春の汗と涙と甘酸っぱさがぎゅっと詰まった、ユーモア溢れる書簡体小説。(北)

『有頂天家族』

『ちょちょら』

幻冬舎文庫/720円
時は現代。舞台は京都。主人公は……狸。愛くるしい主人公たち狸四兄弟、美しき半人半天狗の「弁天」、落ちぶれ天狗「赤玉先生」他諸々が集まれば、ほら奇想天外な騒動が!(神)

『新釈 走れメロス 他四篇』

『新釈 走れメロス 他四篇』

祥伝社文庫/590円
捻くれ過ぎて裏返った友情のために、腐れ大学生・芽野は走った(表題作)。走れメロス等々、誰もが知る名作が京都を舞台によみがえる。玲瓏たる美女から桃色ブリーフまで、色々出てきます。(神)

『きつねのはなし』

『きつねのはなし』

新潮文庫/546円
奇妙で仄暗い宴席、得体の知れぬ獣、行方の知れなくなった恋人。古都・京都の路地奥の闇を凝縮させたような短編集。取引を反故にするには、大事なものを差し出さなくちゃあならないよ。(神)

『夜は短し歩けよ乙女』

『夜は短し歩けよ乙女』

角川文庫/580円
「黒髪の乙女」に一目惚れした「先輩」。彼女を追いかけ夜の先斗町へ、下鴨神社の古本市へ、大学祭へ。愛しい彼女との頻発する“奇遇”には奇奇怪怪な面々が加わって……。(神)

『四畳半神話大系』

『四畳半神話大系』

角川文庫/700円
あの時、あっちを選択していれば!妄想から甚だしい乖離を見せる現実に悶々とした日々を過ごす腐れ大学生の私は、果たして四つの並行世界で桃色のキャンパスライフを手に入れられるのか。(神)

『太陽の塔』

『太陽の塔』

新潮文庫/452円
失恋した京大5回生が妄想を膨らませつつ、研究と称して愛しい水尾さんをつけ回す日々を描いた作品。個性豊かなキャラクターとどこまでも広がり続ける妄想に、抱腹絶倒すること間違いなし!(北)

2.器の上の世界観

北岸:3つのお話を並行して書かれていると、世界観が混ざってしまうことはないのですか?

森見:そうなった場合は、そのままです。なってるでしょう?実際に。同じものが出てきたり、場所が重複していたり。京都ばかりを舞台にしていた最初のころは、逆にそれを利用して、お互いに混じり合うことを止めなかったんです。それはそれで作品同士が変な所で繋がったりして面白いので。でもたとえば『ペンギン・ハイウェイ』(以下『ペンギン』)と『夜は短し』が同時に連載されていたら、これらがお互いに混ざるのは難しいですよね。ここまで世界観が違うと、頑張らなくても混じりにくい。『ペンギン』に『夜は短し』のダルマが入ってくると、すっかり世界が変わってしまうでしょ。

北岸:ちょっと想像できない世界ですね。

森見:だから最初から本筋がはっきりしていれば、世界観が混ざることはないですね。

北岸:独特の世界観は、どこから発想が湧いてくるのですか?

森見:なんでしょうね。いろいろですよ。こういう言葉が書きたいとか、こういう情景が書きたいとか、自分がそれまでに読んだ本とか、日常生活で見たものとか、そういう要素が混ざってくるんですけど、そこに僕の場合は京都というのがあるので。

北岸:京都のことが本当に詳しく書かれていますよね。私は地図を開きながら読みましたが、大体どのあたりが書かれているのか、よくわかりました。

森見:お話の都合で、ところどころ誤魔化しているところもありますけどね。でも、基本的に京都の地理とか地名とかはできるだけ忠実に書こうと思っています。京都という器に、自分の思いついたことをなんとなく集めていくと、そのうち、うまい具合にその器の上でまとまる瞬間があるんです。それが『夜は短し』になったり『四畳半神話大系』(以下、『四畳半』)といった作品になる。それを見つけるまでが大変です。京都が普段の京都とずれて見えて、「この小説はこういう世界観だ」というイメージがはっきりした時に、ああ小説が出来そうだと思う。それが見つかるまでは粘るというか、待つ。そういう感じですね。

神田:京都は、学生時代と現在とでは、また違う世界観で見られていますか?

森見:そう思います。自分も段々歳をとっているので、学生時代に下宿に住んでいた頃とは環境も変わっています。読んでくれる人も増えて、その人たちの意見も返ってくる。自分自身も京都から一時期は東京にもいて、今は奈良にいて、と状況はどんどん変わっているので、京都の見方も変わってきて、また別の世界が見つかればそれで新しい世界の京都を書くのだと思います。

北岸:アイディアはいつ浮かぶのですか?

森見:いろいろです。最初に構想はあるのですが、書いていくと途中で必ずそれが変わっていくんです。でもそのほうが面白いものができるんですね。最初に考えていたものなんて、たかが知れていますよ。それを執筆中にもっと面白くできればいいんです。だから、どこで発想したかは、あとで聞かれても覚えていないことが多いですね。たとえば『ペンギン』は、『ソラリス』(スタニスワフ・レム)という小説をもとにしています。『ソラリス』から小説のつくりを持ってこようと考えた時に、あの結末はもう前提としてあったのだと思います。そういうこともあります。

森見登美彦さん その他の著書

『美女と竹林』
『美女と竹林』
光文社文庫/600円

『四畳半王国見聞録』
『四畳半王国見聞録』
新潮社/1,470円

『四畳半神話体系公式読本』
『四畳半神話体系公式読本』
太田出版/1,365円

Profile

森見登美彦(もりみ・とみひこ)

森見登美彦(もりみ・とみひこ)

■略歴
1979年生まれ。奈良県出身。
京都大学農学部卒業、同大学院農学研究科修士課程修了。
2003年『太陽の塔』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。07年『夜は短し歩けよ乙女』で山本周五郎賞を受賞。同作品は、本屋大賞2位にも選ばれる。10年『ペンギン・ハイウェイ』で日本SF大賞を受賞。

■主な著書
『ペンギン・ハイウェイ』『夜は短し歩けよ乙女』『四畳半神話大系』(角川文庫)、『宵山万華鏡』(集英社文庫)、『森見登美彦の京都ぐるぐる案内』『四畳半王国見聞録』(新潮社)、『きつねのはなし』『太陽の塔』(新潮文庫)、『恋文の技術』(ポプラ文庫)、『美女と竹林』(光文社文庫)、『新釈 走れメロス 他四篇』(祥伝社文庫)、『有頂天家族』(幻冬舎文庫)などがある。

※森見登美彦さんへのインタビューは、まだまだ続きがございます。
続きをご覧になられたい方は、大学生協 各書籍購買にて無料配布致しております。
続きは「読書のいずみ」2013年3月発行NO.134にて、是非ご覧ください。


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