読書のいずみ

座・対談 思いのまま、感じるままに…

1.幼い頃の体験をきっかけに

田口 『リボン』は一羽のインコと人々の人生を絡めた物語ですが、今回、なぜ鳥を物語の核にしようと思われたのですか?

小川 小さい頃に祖母と一緒に鳥を飼っていたことがありました。実はオカメインコの平均寿命が20年だということを今回の本の取材で初めて知ったというくらい、当時は今ほど飼育に関する本が出ていなくて間違った飼い方をしてしまい、長生きをさせてあげられなかったんです。だから『リボン』では、おばあちゃんと孫が大事に大事に命を育んで、最後に一羽の鳥が寿命をまっとうできるようなお話にしたいと思いました。あと、鳥って、色々なところに飛んで行ってしまったりもするんですけど、家族の一つの風景の中に溶け込んで、ペットとしては猫や犬とは違う距離感があるんですよね。それで、生き物の一生を物語にしようとした時に、わたしには鳥が一番ピンとくる感じだったんです。

田口 鳥を物語にする構想は、以前から考えていらっしゃったんですか?

小川 そうですね。そういう物語を書きたいという思いは多分7~8年くらい前から持っていて、一羽の鳥が色々なところに行って間接的に人をつないでいく物語にしたいということを考えていました。実は、最初の第一章、冒頭のすみれとひばりが卵を返すところまでは先に書いていたんですけど、その続きはなかなか書くことができなかったんです。その間に『食堂かたつむり』でデビューさせていただいたりとか、いろいろなことがあって、やっと2年くらい前から書く環境が整って形にすることができました。

上赤 形になったときは、どう思われましたか?

小川 毎回、最初に書きたいと思ったときから、すごく長い道のりなんです。書いている時間はとっても孤独で、登山でいうやっと5合目くらいのところで編集担当の方が合流して一緒に頂上を目指して、最後は装幀の方とか校正の方といった色んな方の力が加わってゴールできる。……という長い道のりなので、形になると感慨深いですね。本を手にした時には、おなかを痛めた子どもをやっと抱いて顔を見た、というそんな気持ちになります。

上赤 『リボン』にはいろいろな人物が出てきます。登場人物を描くときに気をつけていることはありますか?

小川 少しだけ出てくるような脇役の人でも、その人はその人の人生を生きているので、その人の根っこの部分――考え方や趣味、生き方など――をきちんと書いて、一人ひとりに人格を持たせるように気をつけています。

上赤 この物語全体の主役はやはりすみれちゃんですが、その他にも各章に主人公がいますよね。小川さんがこの中で気に入っている人は誰ですか?

小川 そうですね。画家の美歩子さんというおばあさんが登場するんですけど、美歩子さんのような生き方や人生の終わり方は私の理想ですね。同じおばあさんでもすみれさんとはまた対照的な生き方や性格ですが、美歩子さんもすみれさんもどちらも好きです。

上赤 小川さんの作品のおばあさんはとても魅力的だなと思います。それはやはり、ご自身がおばあさまと一緒に過ごされたことが影響されているのでしょうか。

小川 そうですね。祖母と過ごす時間が長かったので祖母に影響を受けている面もあります。でも幼い頃を振り返ると、なかなか思いやりや愛情を彼女に示せなかった後悔があるので、自分が祖母にできなかったことをこの物語の中で実現できるお話にしたいと思っていました。

インタビュアーによる小川糸さん 著書紹介

『リボン』

『リボン』

ポプラ社/1,575円
一羽のオカメインコが様々な人々の間を渡り、絆を紡いでいく物語。出会いや別れ、そして再生を優しく描いています。鳥と人との繋がりに、胸があたたかくなります。(上)

『つばさのおくりもの』

『つばさのおくりもの』

ポプラ社/1,260円
オカメインコのリボンの視点で書かれた装丁も美しい絵本。優しい語り口で、読んでいくうちに心が温まっていく。読んだら宝物にしたくなる一冊です。『リボン』を読んだ後に是非。(田)

『つるかめ助産院』

『つるかめ助産院』

集英社文庫/550円
生きていて辛いこともあるけれど、その経験は無駄にはならない。幸せを与える時に役に立つからだ。この本を読んだ後、誰かに感謝したくなるはず。思い悩んだときに、支えとなってくれる本。(田)

『私の夢は』

『私の夢は』

幻冬舎文庫/560円
カナダのお洒落なカフェやモンゴルの自然など、小川さんが旅先での思い出を綴ったエッセイ。小川さんは旅に出ると観光はせず、その町に溶け込むようにして過ごすらしい。旅の仕方のお手本にもどうぞ。(田)

『ファミリーツリー』

『ファミリーツリー』

ポプラ文庫/693円
ある少年が小学生から大学生にいたるまでの、家族や恋人・リリーとの関係を描いた作品。若々しい主人公の葛藤、青春とともに、駆け抜けるような爽やかな空気を感じられます。(上)

『あつあつを召し上がれ』

『あつあつを召し上がれ』

新潮社/1,365円
様々な「最後の食事」を描いた短編集。心暖まる話から、少し驚いてしまうような話まで盛り沢山です。小川さんの料理を描く力やその食にこめた想いを改めて感じる一冊です。(上)

『喋々喃々』』

『喋々喃々』

ポプラ文庫/693円
下町・谷中でアンティークのきもの屋を営む栞の、優しくあたたかい恋の物語。季節感にあふれ、下町の情緒も魅力的に描かれています。しっとり儚い、大人の恋愛小説です。(上)

『ようこそ、ちきゅう食堂へ』

『ようこそ、ちきゅう食堂へ』

幻冬舎/1,365円
南の島の食堂を営む方、青森のりんご農家など、小川さんの尊敬なさっている料理人や生産者を取り上げた一冊。小川さんや、様々な方の食への思い、信念に心打たれます。(上)

『ペンギンと暮らす』

『ペンギンと暮らす』

幻冬舎文庫/560円
ペンギンとは小川さんの旦那様。お腹がぷっくりとしたかわいらしい方だそうです。時々ケンカもなさると仰っていましたが、この一冊には小川さんと旦那様の素敵な日々が綴られています。(田)

『食堂かたつむり』

『食堂かたつむり』

ポプラ文庫/588円
小川さんを紹介するのに欠かせない本です。命を食べるということ。それがどんなことなのか、この本を読めば分かるはず。美味しい料理がたくさん登場するので、お腹が空くかもしれません。(田)

2.お気に入り

田口 『リボン』を読んでいて、時代設定が気になりました。ひばりが幼い頃の「ベルリンの壁の崩壊」のことや……。

小川 最終的に今の時代で終わろうとすると、逆算をしていくとそうならざるをえなかったのですが……。

ベルリンには、去年と一昨年の夏にそれぞれ2~3か月間滞在していたんです。「ベルリンの壁の崩壊」はニュースで流れた記憶はあるんですけど、ベルリンに行くまでは、一つの街が壁によって西と東に分断されてそれが隣り合ったまま長い間隔たれていたということに、あまり実感はありませんでした。でも、いまもその壁はベルリンに残っていて、実際に行って壁を見ると「この高さだったんだな」ということが分かる。私はその壁近くのアパートに住んでいて、毎日そこにある横断歩道を西から東、東から西と普通に渡れましたが、壁があった当時は人々がこれを越えようとしても越えられなかったんですよね。壁を越えようとして命を落としたり気持ちを患ってしまった人がたくさんいた。そういうことを凄く自分の肌で感じることができたんです。

日本ではちょうど震災もあって、亡くなった人はもちろん無念ですし、生き残った人も幸せかというと、そうとも言い切れない。そこに辛さとか、生きる苦しみとかが浮かんでくると思ったときに、ベルリンと凄く重なる面があったんですね。それで「ベルリンの壁」のことを書いてみたいと思ったんです。

上赤 鳥の生態などは、何か取材をしたり、資料を参考にされたりしたのですか?

小川 具体的な鳥の飼い方については「オカメインコの飼い方」といった本を見たり、オカメインコを飼っている人が、(卵からかえる瞬間などの)映像をネット上にいろいろ上げているので、そういうものも参考にしました。それから物語の中に出てくる「鳥のいえ」という鳥の保護施設は、そういう活動をしている場所が実在するんです。そこでは実際に保護されている鳥と触れ合うことができるので、鳥がつかまってくる感じとか肩に止まったときに耳たぶを甘噛みしているような感じとか、そういう実際に触れたときに感じたことを参考にして書きました。

上赤 実際に鳥に触れられたことは、書くときに生かされたということですね

小川 やはり想像だけでは難しいですよね。インターネット上にも情報はたくさんありますが、やはり鳥のぬくもりは、実際に自分で感じないと説得力のある言葉で表現できないので、自分自身がその場所に足を運んだりすることはすごく大事なことだと思っています。

上赤 私は鳥を飼ったことがないのですが、このお話を読んでリアルに鳥の姿が浮かんできました。

田口 『リボン』と同時に出版された『つばさのおくりもの』は、インコのリボンの視点で書かれていますが、なぜ『リボン』と分けてこの本を書こうと思われたのですか?

小川 最初は、リボンが色々なところに行って、それぞれに色々な人が出てきて、リボンがときには違う名前になって……という話のなかにリボンの目線の話も入れたいなと考えていたんです。ただ、それをやると全体的に物語の世界が変わってしまうんですよね。それで、別の作品として書いた方が伝わりやすいだろうと考えて、2冊に分けました。

田口 『つばさのおくりもの』は装幀も可愛らしくて、大事にしたいなと思う一冊です。

小川 ありがとうございます。この『リボン』は、『asta*』というポプラ社のPR誌に連載していたときから毎回GURIPOPOさんというイラストレーターの方がイラストを描いてくださっていたので、『リボン』の表紙もお願いしました。でももっと皆さんに絵を見て欲しくて、『つばさのおくりもの』ではより多くのイラストを入れていただいたんですよ。

田口 この2冊で小川さんが読者に伝えたいことはどのようなことでしょうか。

小川 書いているときは、ただ物語を紡ぐということだけを考えていたのでそんなことは感じていなかったんですけど、書き終えてからもやはり誰かを励まそうとか勇気づけようということは特にないんですね。これは、リボンがそこにただ存在しているだけで、周りの人が癒されたり優しい気持ちになったりするというお話です。でも、リボンだけじゃなく自分自身も含めて、一人ひとりがリボンのような役目を果たして生きているのではないかなと、そんなことを読み終ったときに皆さんが少しでも感じていただけたら嬉しいです。

(収録日:2013年6月28日)

小川糸さん サイン本を5名にプレゼント

『リボン』

小川さんのお話はいかがでしたか? 小川糸さんの著書『リボン』のサイン本を5名の方にプレゼントします。 本誌綴込みハガキに感想とプレゼント応募欄への必要事項をご記入の上、本誌から切り離して編集部へお送りください。 応募は2013年10月31日消印まで有効。 当選の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。

Profile

『リボン』

小川 糸(おがわ・いと)

■略歴 
1973年生まれ。山形県生まれ。 『食堂かたつむり』が話題になり、デビュー作ながら累計82万部のヒットに。同作は映画化された。小説に『喋々喃々』『ファミリーツリー』『つるかめ助産院』『あつあつを召し上がれ』『さようなら、私』。他、食や旅のエッセイや絵本の翻訳など、精力的な執筆活動を続けている。

※小川 糸さんへのインタビューは、まだまだ続きがございます。 続きをご覧になられたい方は、大学生協 各書籍購買にて無料配布致しております。 続きは「読書のいずみ」2013年9月発行NO.136にて、是非ご覧ください。


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