読書のいずみ「座・対談」

書けるときは、必ず来る

海堂 尊さん(医師・小説家) VS 

西尾夏央里さん (広島大学大学院生物圏科学研究科M2)
加藤日菜子さん (東京学芸大学教育学部3年)

1.医療と学園物語!?

西尾 7月に発売された『アクアマリンの神殿』を早速読ませていただきました。海堂さんの作品は医療モノというイメージが強く今回も最初は“コールドスリープ(凍眠)”など医療ネタが出てきますが、それだけでなく学園的な要素もあり主人公が成長していく様子も合間に挟んでいきながらの展開でしたね。主人公と世代が近い私には読みやすく、考えさせられる作品でした。後半はページを捲る手が止まらなかったです。

海堂 ありがとうございます。楽しんでいただくのが何よりなので、そういっていただけると嬉しいです。

加藤 私は、前作の『モルフェウスの領域』では大人の恋愛の要素が強い作品だなと思っていましたが、今回は学生が出てきたので青春を感じながら、そして彼らがそこから成長していく姿がとても面白かったです。いままでの医療が主体の物語とは違う新しい形だったので、すごく楽しく読みました。

海堂 確かに前作は大人の女性の愛で、正直なところ書くのがきつかったんですけど、今度は若い男の子なので書くのが楽でしたね。昔を思い出しながらね。

西尾 やはりご自身が投影される部分はあったのですか?

海堂 多少はありますね。

西尾 すごく楽しい学生生活を送ってこられたのかなぁと感じました。学園祭のシーンとか。

海堂 そうですね。楽しく読んでもらうのが大きな目標なので、その辺は自分が楽しくないと他の人も楽しくないだろうと思ったので、楽しんで書きました。

西尾 『モルフェウスの領域』や『アクアマリンの神殿』は、凄く描きにくいテーマを採用されているなという印象を受けました。いままではAiなどある種明快な問題に切りこんでいたと思うのですが、今回のようなテーマにされたのは、何かあったのですか?

海堂 これは未来時制なので、もともと少しSFっぽいものにしようと思ったんです。そしてもうひとつは、そもそも『モルフェウスの領域』を書いた理由というのが、破たんしたこれまでの物語のつじつまを合わせるため。アツシの年齢が『医学の卵』と合わなくて、5年おかしいんですよ。「5年、落第? それなのに飛び級?」と思って。落第でもよかったんですけど、飛び級だとおかしい。もうどうすることもできなくて、この際眠らせてしまおうと。『野性時代』で海堂尊特集をやってもらったときに短編を入れたんですが、短編ならアツシが「眠っていた」といえばつじつまが合うと思って、それで書いたんです。それがまさかあんなふうになるとは思わず、こんなものが出ると思わず(笑)。

加藤 実際に凍眠ってできないんですか?

海堂 いまのところ、そういう技術は無いですね。技術的に可能だとは思うんですけど、凍眠をするときに心拍停止をさせるのかさせないのか、させた場合は栄養補給が大変だし、心拍をとめても状態を維持できるような技術、たとえば「血しょう全交換」とか……などと具体的に考えていくと結局難しいですね。その辺はフィクションでいいなと思います。

インタビュアーによる海堂 尊さん 著書紹介

『終点のあの子』

『チ-ム・バチスタの栄光 上・下』

宝島社文庫/本体(各)476円+税
奇跡のチームと言われたバチスタ手術で起きた死亡事例。一体誰が? 何のために? 言わずもがな、海堂尊のデビュー作。物語はこの本から始まっていると言っても過言ではありません。(加)

『あまからカルテット』

『医学のたまご』

理論社/本体1,300円+税
中学生の主人公・薫がひょんなことから医学部で研究をすることに。本文が横書きで中学生にも読みやすくわかりやすく、なにより面白い本。章題を読むだけでドキドキ。展開にハラハラ。(西)

『嘆きの美女』

『夢見る黄金地球儀』

創元推理文庫/本体640円+税
医療は置いておいて海堂尊のコンゲーム小説。平凡な日常に転がり込んだ非日常は市全体を熱くさせる! 桜宮市で起こる全てのことが海堂作品一つひとつと繋がっていくのを感じる一冊。(加)

『けむたい後輩』

『ジーン・ワルツ』

新潮文庫/本体520円+税
人が産まれるということは神秘的なことである。しかし、医学の発展により様々な出産の問題が登場するようになった。そのことと真正面から向かい合い、私たちに「産まれる」ということを問う問題作。(加)

『早稲女、女、男』

『ブラックペアン1988』

講談社文庫/本体695円+税
三者三様の外科医とその間で翻弄される研修医の話。真っ黒な装丁がとても重厚感が有り、ストーリーもかなり骨太。手術のシーンなど緊迫感に満ちていて、脳裏に映像が浮かんでくる。(西)

『私にふさわしいホテル』

『モルフェウスの領域』

角川文庫/本体552円+税
大人の女性の愛を描いた静謐で詩的な作品。コールドスリープはSFでもよく扱われるが、海堂さんにかかると少し趣が変わる。何度も読み返して、主人公涼子の選択を吟味していきたい。(西)

『王妃の帰還』

『極北クレイマー』

朝日文庫/本体760円+税
当たり前のように私たちは病気になったら病院に行き、病気を治してもらう。そして対価を払う。そのはずなのに、現場はこうも認識と違うのか……と思わず唸ってしまった。(西)

『ランチのアッコちゃん』

『ケルベロスの肖像』

宝島社文庫/本体743円+税
海堂作品の登場人物が集結する本作。東城大学病院で起きたことすべてが内包されラストまで駆け抜けます。この作品と背中合わせとも取れる『輝天炎上』も併せて読むと更に楽しめます。(加)

『伊藤くんA to E』

『ナニワ・モンスター』

新潮文庫/本体670円+税
新型インフルエンザの発生から始まる話のため医療ものかと思いきや、舞台は司法や政治まで大きく広がっていく。読んでいると、大ほらふきと呼ばれる人物の言葉に翻弄されてしまう。(西)

『その手をにぎりたい』

『アクアマリンの神殿』

角川書店/本体1,600円+税
人工的な眠り「凍眠」から目覚めた僕の物語。最先端医療が抱える問題提起だけでなく、僕の学生生活と成長を描くという多様な側面を持った本作。新しい海堂尊に出会い、そして僕の選択を見守ってみませんか?(加)

2.生き続けるキャラクター

加藤 海堂さんの作品には強くて美しい女性が沢山出てきます。『アクアマリンの神殿』でも夏美ちゃんという学生が出てきました。海堂さんがモデルにされたり、ご自身のなかで思い描いている強くて美しい女性像などはいらっしゃるのですか?

海堂 モデルはいませんが、やはり男というのはいつも最終的なところで女性には勝てないという感覚をどこかに持っていて、だから逆に空威張りをしたりするわけなんですね。そういうときに「どうせかなわないし」と素直に表現してしまえば、わりと楽に書けるんです(笑)。強くてきれいな女性というのは、それは男性の憧れだから、とりたてて特別な感情というわけではない、普遍的な感情だと僕は思います。

西尾 今回は野麦ちゃんという、これはまたちょっと変わった、これまでの作品にはいなかったキャラクターが出てきて面白かったんですけど、野麦ちゃんのような人物像を書くのは大変でしたか?

海堂 野麦は、勝手に出てきたんですよ。

西尾 そうなんですか?

海堂 これは新聞連載だったので3カ月分くらいずつまとめて書いたんです。僕はプロットを立てないので成り行きに任せて書いていたら、野麦がポロっと出てきて勝手にしゃべっていたんですよ。彼女は書くのが一番楽でしたね。ああいう勝手な女性もいますよね。まわりはそれに振り回されて……。

西尾 後半はある種の原動力みたいな存在になっていましたね。大人びていて知識をたくさんもっているアツシくんのところに、野麦ちゃんのような女の子が転がり込んで、また雰囲気ががらりと変わったなと感じました。

海堂 彼女のような子がいたら大変ですよ。無敵ですからね。

加藤 超ポジティブだけど、私は悲しくなりたい、みたいな両極端な気持ちを持って、ひとりで突っ走るタイプですよね。

海堂 不幸になりたいという願いは、実は最強の願いなんです。だって不幸になれば願いが叶うし、願いが叶わなければ幸せになるわけだから。この子ってひょっとしたら頭がいいんじゃないの? と思ったことがありますね。

加藤 主人公のアツシくんや野麦ちゃんたちが活動するドロン同盟というのが出てきましたが、ドロン同盟は今後は継続していくのでしょうか。「解散しない」と言ってアツシくんはドロン同盟の卒業証書を破っていたんですけど、その辺は気になりますね。

海堂 僕の物語は全部つながっているんですが、物語として書いた場面と書かなかった場面があるんですね。書かない場面でも、多分物語は続いているんですよ。彼らはあのあとも何かやっていることは間違いないと思うんです。そこにテーマみたいなものがあって凝集しそうなタイミングがあれば、書けると思うんですね。それをいまの時点では皆さんがご自分で想像するのも楽しいかなと。

西尾 想像の余地というのもありますものね。涼子さんとのその後も気になります。

海堂 それねぇ、読みたいけど同時に読みたくない気持ちもあるんじゃないかなと思うんです。僕も書きたい気持ちと書きたくないという気持ちが併存しているので。 『アクアマリンの神殿』はもともと『モルフェウスの領域』の続編なんです。『モルフェウスの領域』では大人の女性(涼子)が少年(アツシ)の面倒を見る。そして最後にアツシが目覚めて涼子は眠るんですね。それで今度(続編)は、涼子が眠っていてアツシが面倒を見る、という話が書けるんじゃないかと思って始めたんです。まあ、書けたんですが、最初の目論見では涼子が目覚めるところまで書くつもりだったんですね。でもあそこで終わっちゃったんですよ。実際のところは、連載期間が決まっていて、それを大幅に超過してしまったというのが……まあ、そのせいにするのはいけないんですけどね。

加藤 続きを読んだら悲しいのかもしれないので、読みたくない気もしますね。

海堂 展開が分かっていれば書くと思うんですよ。分からないまま書いていて、書いているうちに見えてくるから、なんだか怖いような気もしますね。

(収録日:2014年7月3日)

※海堂尊さんへのインタビューは、まだまだ続きがございます。 続きをご覧になられたい方は、大学生協 各書籍購買にて無料配布致しております。 続きは『読書のいずみ』2014年9月発行NO.140にて、是非ご覧ください。

海堂 尊さん サイン本を5名にプレゼント

『アクアマリンの神殿』

海堂さんのお話はいかがでしたか?
海堂尊さんの著書『アクアマリンの神殿』(角川書店)のサイン本を5名の方にプレゼントします。本誌綴込みハガキに感想とプレゼント応募欄への必要事項をご記入の上、本誌から切り離して編集部へお送りください。

応募は2014年10月31日消印まで有効。
当選の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。

Profile

夏川 草介

海堂 尊(かいどう・たける)

■略歴 
1961年千葉県生まれ。
第4回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』で2006年デビュー。他著に『螺鈿迷宮』『輝天炎上』『ジェネラル・ルージュの凱旋』『ジーン・ワルツ』『ケルベロスの肖像』『モルフェウスの領域』など多数。現在、独立行政法人放射線医学総合研究所・重粒子医科学センター・Ai情報研究推進室室長。


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