読書のいずみ「座・対談」

アイドルは時代を映し出す!?

朝井リョウさん(小説家) VS

高橋果琳さん (法政大学キャリアデザイン学部4年)
麻生麗子さん (早稲田大学文化構想学部3年)

1. 「アイドル」の価値観

麻生 4月に発売された『武道館』を中心にお話を伺っていこうと思います。まず、この作品を書こうと思った動機をお聞かせください。

朝井 作家生活も5周年を迎え、またこれまでに9冊の本を出してきて、次の10冊目ではこれまでの集大成的な話を書きたいと思ったんです。いままで出してきた作品の中で特に人の目に触れる機会が多かったのは、デビュー作の『桐島、部活やめるってよ』(以下、『桐島』)と直木賞をいただいた『何者』で、どちらも現代的なものを書いたと言われた作品だったんですね。

高橋 『桐島』はスクール・カースト、『何者』は学生の就活とSNSについて書かれていましたね。

朝井 最初はスクール・カーストを書いたつもりはなかったのですが、あとからスクール・カーストという言葉が社会学的な用語として出てきたんですよね。この流れでもし自分に求められる役割があるとしたら、それはやはり「現代を生きる若者」を書くことなのかなと思ったんです。それで今回、現代をいちばん反映しているものは……といろいろ考えていたときに浮かんだのが、「アイドル」。アイドルは現代のいろんな人の感情、喜怒哀楽の「怒」を反映しているような気がします。アイドルの周りには怒っている人がたくさんいますよね。ファンでもアンチでも。それがすごく気になっていたんです。アイドルを書くことはつまりアイドルを取り囲む現代消費者の内面を書けるんじゃないかなと思って、今回のテーマに選びました。

もうひとつは、僕自身がもともと「ASAYAN」(1995-2001年に放映されたオーディション番組)という番組がすごく好きで、そこからつんく♂さんが手がける人たちをずっと追いかけてきたのですが……。

高橋 モーニング娘。などですね。

朝井 そうです。今から2年ほど前にね、モーニング娘。のOGが「ドリーム・モーニング娘。」を結成してライブをしました。彼女たちのなかには結婚や出産など人としての幸せを掴んだ人もいて、それでさらにアイドルとしても輝いているんですね。その姿を見たときに、「アイドルの解放」みたいなものを感じたんですよ。

麻生 アイドルの解放ですか。

朝井 アイドルって恋愛禁止だとか、できるだけ人間的な欲を抑えて生きるべき、みたいなイメージがあったんです。でも、あのライブで別のフェイズを見たような気がしてそれが私には幸せに感じたので、あのライブで感じたアイドルの解放感みたいなものを表現したくて、『武道館』のラストをまず決めました。

麻生 物語のなかには国民的アイドルを思わせる描写が結構ありましたね。アイドルの坊主の話とか握手会の襲撃の話とか、そこまで書いていいのだろうかとハラハラしながら読みました。

朝井 まず、坊主の事件は理解できなかったんです。スキャンダルが出た当初、ファンはすごく怒っていましたよね。それなのに、坊主の動画を見た途端「そこまでしなくても」と言い始めました。あそこで、ファンのわがままな部分が表に出た気がするんです。それで、現代のアイドルをめぐるいびつな部分の標本として登場させました。それからもうひとつの握手会襲撃事件ですが、わたしたちの上の世代にとってアイドルは遠い存在だったんですね。気軽に握手なんてできないし、ツイッターやブログもないし、私生活もわからなかった。それがわたしたちの世代では「アイドルは近い」という感覚がスタンダードの価値観に代わりました。そこで僕はいろんなことが歪んだような気がします。

麻生 歪み、ですか。

朝井 遠いからこそきれいに見えるものってたくさんあるんですね。たとえば富士山は写真ではすごく綺麗に見えるのに、実際に登ったらゴミがたくさん落ちているしトイレも汚い。それはしょうがないですよね。でも、それと同じようなことをアイドルにも求めている気がするんです。遠くで見ているときと同じ美しさを、握手会やプライベートのときにも求めている気がします。アイドルが近くなったことによる歪みの一番の象徴が、襲撃事件だったのではないでしょうか。だからこの事件が起きた時に、僕は「近さが大切な価値観」がやっと終わって、なにか新しい価値観が生まれるんじゃないかと期待したんです。握手会がなくなって再び遠い存在になるのでもいいし、ライブ中心になるのでもいいと。

麻生 でも現実は変わりませんでしたね。

朝井 そうなんですよね。だから小説のなかだけでも変えてみたくて。SF的な雰囲気が出てもいいからと、ラストでは世間の価値観についてかなり大きな変革が起きています。その価値観の変化を描くためにも、握手会の襲撃事件というのはとてもわかり易くて、必要なトピックだったんです。

 

インタビュアーによる 朝井リョウさん 著書紹介

『はるがいったら』

『武道館』

文藝春秋/本体1,300 円+ 税

私たちがアイドルに求めるものとは、いったい何なのだろう。彼女ら(彼ら)にどうなって欲しいのだろう。現代のアイドルを取り巻く矛盾、価値観を見つめ直し、改めて考えさせられる作品。(高)

『はるがいったら』

『何者』

新潮文庫/本体590 円+ 税

就職活動を題材にした作品でありながら、主眼となるのは人間がどこかにモヤっと忍ばせている、 黒い感情。就活生でなくても、読んだら誰もがドキッとするはず。(高)

『はるがいったら』

『少女は卒業しない』

集英社文庫/本体540 円+ 税

もしかしたら、すでに大学生になってしまったあなたには「共感」は出来ないかもしれません。それでも、読んでみたらきっと高校生の自分がよみがえるはず。高校生活最後のあの日、あなたがみたこと、感じていたこと、そして、あの人が胸に秘めていたこと。それらの全てを、この本を通じて、知ることができるかも。(麻)

『はるがいったら』

『時をかけるゆとり』

文春文庫/本体550 円+ 税

朝井さん初のエッセイ集。 大学時代のエピソードを中心に綴られており、持ち前の観察力、表現力を 遺憾無く発揮して読者を笑わせに来る。読めば元気がもらえることうけあい。(高)

『はるがいったら』

『星やどりの声』

角川文庫/本体560 円+ 税

亡き父が残した純喫茶「ほしやどり」。ビーフシチューの香りで満たされた日常に、あるとき少しずつ変化が起き始めます。人が生まれ、人が成長し、誰かとつながり、死んでいくこと。ぐるぐると星のようにめぐりめぐって、また人がつながっていく。それは、とても弱いものだけれど、強くもある。これは、ある家族が巡り合い、卒業するまでの物語。(麻)

『はるがいったら』

『もういちど生まれる』

幻冬舎文庫/本体540 円+ 税

何か上手くいかないことがあったり、自分の限界を感じたり、きっと生きている限りはどこかで何度も傷つく事でしょう。でも、そんな時、この本に登場する人物のように、一度死ぬつもりで跳んでみたら良い。その場所から見えるのは、絶望だけではないと気付く事がきっとできるはず。(麻)

『はるがいったら』

『スペードの3』

講談社/本体1,500 円+ 税

代表作『何者』が誰かに選んでもらいたがる人たちの物語であるなら、この一冊は、(ある意味では)それを否定する物語かもしれません。「革命」は待っていても起きない。人生を変えるには、自分からそれまでのルールをひっくり返してみせなきゃいけないことがあるのだと、突きつけられる一冊。あなたのそばにも、その切り札があるはずです。(麻)

『はるがいったら』

『世界地図の下書き』

集英社/本体1,400 円+ 税

子供時代、あなたはどんな願い事をしましたか? それは、今よりも、純粋で、切実で、ほんとうに強く願っていたことではないでしょうか。でも、その願いが叶おうと叶わなくても、あなたも物語の少年たちも生きていかなければならない。それでも、生きるために願いを飛ばしましょう。最後の一文まで、著者が込めた想いをどうぞ読みとってください。(麻)

『はるがいったら』

『チア男子!!』

集英社文庫/本体760 円+ 税

チアリーディングを通してつながる7人の物語。思い切り青春を味わうことが出来るだけでなく、メンバーそれぞれが抱える背景も読みごたえあり。特に、ラストの2分30秒間の演技に、登場人物の想いが重なる場面は鳥肌もの! オススメ。(高)

『学校のセンセイ』

『桐島、部活やめるってよ』

集英社文庫/本体476 円+ 税

立場の違う17歳の高校生のそれぞれの心の機微が丁寧に拾われ、繋げられている作品。登場人物と同じ目線でこの世界を見ることのできる今のうちに、絶対に読んでおくべき作品だと感じた。(高)

2. アイドル好きを逆手に取る

高橋 主人公の愛子はクールでまわりの状況を客観的に見ることのできる子です。この子にモデルはいるのですか。

朝井 参考になる人は実は誰もいません。愛子はとくに外見の描写もあまりなくて、あくまでも「語り手として生きる子」という形で書いています。周りのメンバーはバラエティー担当やミステリアスな言葉数の少ない子、大人な子がいて子供がいて、みたいに、アイドルグループにいそうな平均的な子たちで構成しました。

高橋 つんく♂さんが作り上げているアイドル像を参考にされているのですか。

朝井 エッセンスはあるかもしれません。僕は、つんく♂さんのファンを甘やかさないところが好きなんです。つんく♂さんの曲って主語に女性が多くて、「僕」という主語はほぼ出てこないんですよ。松浦亜弥さんは歌の中ですんげえ水着ですんげえバトルに臨むし、とにかく歌詞に出てくる女の子は皆、アイドルファンを脅かすんですよね。何もない僕に振り向いてくれた君、なんていう、弱者の頭を撫でてあげるような、簡単に味方を増やせるような曲をつんく♂さんは書きません。

僕がアイドル好きだと知られているので、「アイドルファンの気持ちを代弁する話を書いたんだな」と思われるかなと思って、今回はそれを逆手に取って書いたところがあります。それはつんく♂さんイズムですよね。

麻生 章の合間に出版関係の人とかCD制作の人とかが出てきて、それも私は気に入っています。

朝井 単純に仕事だからアイドルと関わっている人や、全然アイドルのことが好きじゃない人の視線もこの物語には必要だろうなと思っていました。時系列のトリックもあったので、その役割も担わせながら間に挟んでいきました。

麻生 冒頭で「右手で母の手を、左手で父の手を握っていた。」という一文が私は印象に残りました。「手をにぎる」ということはアイドルにとっていろいろな意味を持っていると思うのです。物語には家族と手をつなぐ、ファンと握手をする、彼氏彼女として手をつなぐ、あと愛子と碧が手をつなぐというシーンもありました。「手を握る」、「握手」というモチーフは意識して取り入れていらっしゃったのでしょうか。

朝井 なにかひとつの象徴的なものに託す書き方をしてしまう傾向がありますね。今回のアイドルの時間とプライベートを書き分けるときには前髪の分け目のことを書いていますが、直接的な表現、たとえば美しいものを美しいと書くといった方法ではなくて、別のなにかで表現したいと思っていて。だからアイドルを「かわいい」とは書かずに、それに付随する象徴的な表現を用いて書くということをいろいろと試みた気はします。握手もそうだし、前髪もそう。

麻生 登場人物ひとりひとりのエピソードが満載で、この人たちをそれぞれ主人公にしても物語になりそうですよね。私はスピンオフを期待しながら読んでいました。たとえば、るりかは真面目な性格で典型的なアイドルのイメージを保とうと努力しているのに、メンバーの行動によって彼女の夢や理想が崩れていきます。私も真面目な性格なので、るりかに共感できるところがありました。登場人物に対する思い入れというのは、朝井さんの場合は主人公に寄るタイプですか。それとも、登場人物みんなに対して均等ですか。

朝井 均等でしょうね。これまでのアイドルものだと、主人公にするなら、多分るりかのようなタイプが物語になりやすかったと思います。いろいろなことを犠牲にしてストイックになることの美学みたいなものが、日本人は好きですしね。小説を書いていていつも考えているのは、最後の一行を書いたあともこの人達は生きていくということ。最後の一行でなにもかもが終わる話だったら、るりかが主人公でも全然いけると思うんですけど、そういう話は好きじゃないし、ずるいなと個人的に思うので。スピンオフはね、これが売れたら出るかもしれませんね(笑)。

麻生 物語のなかに歌詞が出てきます。この歌詞は話を書きながら考えたのですか。

朝井 モーニング娘。の「DANCEするのだ!」がすごく好きなんです。これは辻・加護コンビが12〜3歳のときの曲ですが、このなかに“まだ 長い長い人生を少し 駆け出したばかり”、“絶対にゴールするのだ”という歌詞があります。それをいま聴くととてもグッとくるものがある。これまで彼女たちにはいろいろなことがあったので、いまとなっては意味が変わって聞こえるんですよね。物語でもそういう歌になったらいいなと思って、本編中で小出しにした歌詞をラストシーンでは全然意味が変わって聞こえる歌詞にしたくて、そこに細心の注意を払って書きました。

 

(収録日:2015 年7 月6 日)

※朝井リョウさんへのインタビューは、まだまだ続きがございます。 続きをご覧になられたい方は、大学生協 各書籍購買にて無料配布致しております『読書のいずみ』2015年9月発行NO.144にて、是非ご覧ください。

朝井リョウさん サイン本を5名にプレゼント

『その手をにぎりたい』

朝井リョウさんの著書『武道館』(文藝春秋)のサイン本を5名の方にプレゼントします。本誌綴込みハガキに感想とプレゼント応募欄への必要事項をご記入の上、本誌から切り離して編集部へお送りください。

こちらからも応募ができます。

応募は2015年10月31日消印まで有効。
当選の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。

Profile

夏川 草介

■朝井リョウ(あさい・りょう)

■略歴 
1989年生まれ。岐阜県出身。早稲田大学文化構想学部卒業。大学在学中の2009年『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。2012年に同作が映画化され、注目を集める。2013年『何者』で、戦後最年少で第148回直木賞を受賞。2014年『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を受賞。

■著書
最新刊『武道館』(文藝春秋)のほか、『チア男子!!』『少女は卒業しない』(以上、集英社文庫)、『スペードの3』(講談社)、『もういちど生まれる』(幻冬舎文庫)、『星やどりの声』(角川文庫)、『時をかけるゆとり』(文春文庫)がある。


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