読書のいずみ「座・対談」

「伊坂幸太郎」というジャンルを紐解く

伊坂幸太郎さん(小説家)
 VS 
母里 真奈美さん(東北学院大学教養学部2年) 
北岸 靖子さん(奈良女子大学博士研究員)

1.『チルドレン』からふたたび

北岸
まずは昨年出された『サブマリン』についてお聞きしたいと思います。『チルドレン』(2004 年)のあと『サブマリン』(2016 年)までだいぶ間が空きましたが、いずれシリーズで長編小説を書こうと考えていらっしゃったのですか。
伊坂
いえ、それはなかったんですよ。僕はもともとシリーズもので書くのは得意ではないんです。毎回新しい物語を書きたいと思っているので。『チルドレン』はデビュー直後に編集さんから「短編を書きませんか」と声をかけられて雑誌に載せてもらったのが最初で、そうやって何度か続けて書いていった短編をまとめた本でした。今回は 10 年ぶりに編集さんと「また何かやりましょう」ということで、初めは別の話を書くつもりだったんです。でも、二人で打ち合わせをするうちに少年犯罪の話になって、それをやりたいなと思って、それで『チルドレン』に出てきた陣内君を登場させて長編の話を書くことにしました。
母里
『サブマリン』が『チルドレン』の続編ということだったので鴨居君が主人公だと思って読み始めたのですが、最初に武藤さんが出てきたので、ああ武藤さんが中心なんだと。
伊坂
少年犯罪を書きたかったので、家裁調査官の武藤君に出てもらって、そこに編集さんのアドバイスで永瀬君にも登場してもらいました。初めはみんなが集合してくると都合が良すぎるのであまり書くつもりはなかったんですが、まあそれもいいかと。
母里
少年犯罪って世間的な印象はよくありませんが、『サブマリン』を読むと、少年犯罪のなかにも好きで起こしたわけじゃないケースもあるのかなと思いました。
伊坂
そうなんですよね。僕も単純なので、少年犯罪の事件を見ると「許せない」「もっと厳罰を」と安易に思ってしまうんだけど、実際のところ加害者側の事情はわかりませんよね。僕にも子どもがいるから、どうしても被害者側の立場で考えてしまうけど、交通事故だったら自分も加害者になり得る。その時のことを想像すると、やっぱりケースバイケースかもしれないと思いますね。答えがわからないことを小説に書くんです。読者に「みんなもわからないよね」って問いかける感じで。「少年犯罪も見方によっていろいろあるんだ」と読者を導くことを目的に書いているわけではないんです。
母里
難しい問題だなと思いました。
伊坂
「これはこうすればいいんだよ」とか、「少年はダメだ」とか、「少年は純粋だからいい」とか、そういうことを簡単に言い切ってしまう人は楽でいいけど、そうじゃないと思うんです。
母里
「これはダメだ」と言い切れる人は、深く考えていないんじゃないかなと思うんですが。
伊坂
同じような犯罪に対する世論ということで、『ゴールデンスランバー』は主人公が濡れ衣を着せられて逃げる話でしたが、あれを書く前に冤罪、とくに痴漢の冤罪にすごく興味があったんですよ。ある冤罪事件について「本当にやっていないなら、やっていると自白するわけがない」と断言する上司がいまして。本当のところはわからないですよね。でも、そう思う人は世の中にたくさんいると思うんです。そんな中で違う視点もあるのではないだろうかという反論も出てきたので、『ゴールデンスランバー』ではそんなことを書いたりしています。
北岸
『サブマリン』の若林青年が、故意に交通事故を起こしたわけではないけども人を死なせてしまいますよね。彼はその罪の意識をずっと引きずっていて、この後どうなっていくのかとても気になって切なかったです。
伊坂
そうですか。読者がどう感じるのかが少し気になっていたんですよ。「彼にも未来がある」みたいな書き方をしたので、そこに反感を持たれるかなと心配していたのですが、意外に彼の未来も気にしてくれたんですね。
北岸
すごくいい人として描かれているのに、その彼がずっと重いものを背負っていくんだなと思ったら切ないなと。
伊坂
まあ、作り話だから(笑)。事件の加害者の立場にいる人はどこかにいるかもしれないし、自分がそうなるかもしれないというたとえ話を毎回作っている感じがします。目的じゃないけど、結果的にそうなりますよね。
北岸
『チルドレン』の頃はスマホも SNSも普及していませんでしたが、10 年以上の間に社会の環境はガラリと変化しています。『サブマリン』で同じ登場人物を使おうとしたとき、書き難くなかったですか。
伊坂
確かに。でも今回は 10 年以上も時間が空いているので、お話が飛んでいてもうまくいっているんですね。『チルドレン』の頃だとSNSはないから、もしもその時代設定で今回も書けと言われたら、そちらのほうが大変だったかもしれません。ただね、自分では『サブマリン』を書くために『チルドレン』を読み返してないんですよ。
北岸
本当ですか。私は先に『チルドレン』を読み返しました。
伊坂
恥ずかしくなかったですか? 大丈夫でした? 面倒くさいわけじゃないんですけど、自分の文章を読むのって恥ずかしいんですよね。でも編集さんは読み返してくれていたので、彼に確認しながら書いていましたよ。
僕は演劇のように、昔、『チルドレン』に出演してくれた陣内君たちに声をかけて「ちょっとこれをやってくれる?」と言って動いてもらう感じなんです。そうやって書いたときの印象が記憶に残っていたということですよね。辻褄が合っていなかったら怖いなとは思いましたが。
北岸
辻褄もキャラクターもはまっていて、違和感はなかったです。
伊坂
実はこれ、素人時代に書いた長編があって、陣内君とか永瀬君はそこに出てきた人たちなんですよ。彼らが脇役で鴨居君が主人公なんです。そこから「バンク」(『チルドレン』に収録)ができたんですが。
北岸
素人時代のお話も読んでみたいですね。
伊坂
そんなに面白くないですよ(笑)。そちらの小説では鴨居君がちょっと可哀そうなことになっちゃうんです。死んじゃうというか。だから、鴨居君を『サブマリン』には出さないほうがいいと思っているんです。僕の中では辻褄が合わなくなるから。ただ、死んじゃっていると寂しいので、どちらともとれるような感じで描いているんですよね。
母里
なんだかあいまいだなと感じていました。鴨居君はどこに行ったんだろうって。
伊坂
そうですよね。まあ、一応、頭の中には書いていないことも、いろいろあるということで(笑)。

陣内さん

母里
『チルドレン』と『サブマリン』に登場する陣内さんは滅茶苦茶なキャラクターですが、伊坂さんの身近にも陣内さんのような人はいたりするのですか。
伊坂
いないですが、僕の父に少し似ているかな。滅茶苦茶な部分とか。近所に飼い犬がいるんですけど、おなかが減っているとかわいそうだと言って、父はドッグフードをいつも持ち歩いて、柵から餌を投げていたんですよ。投げた餌が犬に当たるので可哀そうなんです。
母里
ぶつけに行っているみたいですね(笑)。
伊坂
そうなんですよ。優しいのか、そうじゃないのか。ほかにもそういう面倒くさそうな知り合いが(笑)、まざっているかもしれません。
陣内がいい人だとは別に思わないけど、世の中で彼のような人が結果オーライでうまく生きていたら楽しいだろうな、とそんなことを思いながら書きました。

インタビュアーによる 伊坂幸太郎さん 著書紹介

表紙

『首折り男のための協奏曲』

新潮文庫/本体 670 円+税

ある所では謎の首折り事件が多発中、また他の所では泥棒と探偵を生業にする男がいて、またある所では誰かが嘆いている。全てのはなしがどこかでつながっている連想ゲームのような短編集。(母)

表紙

『死神の浮力』

文春文庫/本体 780 円+税

死神の千葉が今回担当するのは子供を殺された夫婦。彼らは無罪放免となった殺人犯への復讐を計画するが、事態は二転三転思わぬ方向へ転んでいく…。生きていくのは大変だと単純に思いました。(母)

表紙

『サブマリン』

講談社/本体 1,500 円+税

法に則って処分を受けると、罪は償われたことになる。でも世間は犯罪者を許さない。たとえそれが過失による事故だったとしても。どうすれば皆幸せになれるのだろうと考えさせられた。(北)

表紙

『ガソリン生活』

朝日文庫/本体 780 円+税

車は人間たちが知らないことを知っている! 「ミステリ× 家族愛 × 車=最高 !!」の方程式がここに爆誕しました。車が主人公だからって敬遠するのはもったいないですよ!(北)

表紙

『残り全部バケーション』

集英社文庫/本体 560 円+税

楽しげなタイトルに反して、登場人物たちは全然バケーションしていない。人生にバケーションなんかあるわけないだろ! 必死に足掻け! と声が聞こえてきそうな連作短編集。(北)

表紙

『仙台ぐらし』

集英社文庫/本体 540 円+税

仙台に暮らす伊坂さんが遭遇した、ちょっとおかしな出来事を面白おかしく描き出しています。遭遇した人が、感じる人が、書く人が、心配性の伊坂さんだからこそ面白いと思えるエッセイ集。(母)

表紙

『火星に住むつもりかい?』

光文社/本体 1,600 円+税

伊坂幸太郎史上最恐の長編小説。中世ヨーロッパで行われた魔女裁判のような制度が現代の日本で施行されたら、そしてあなたや身近な人が魔女として捕えられたら、あなたはいったいどうする?(北)

表紙

『アイネクライネナハトムジーク』

幻冬舎/本体 1,400 円+税

あの人は恋を探してて、ある人は失恋して、あの子はモテモテで、またある謎の人は訪れる人に音楽を届ける。小夜曲を聴きながら読みたい、小さな世界の日常をのぞき見ている気持ちになる作品。(母)

表紙

『チルドレン』

講談社文庫/本体 600 円+税

子供は複数になるとチャイルズではなく、チルドレンに、別物になる。伊坂作品の登場人物たちも複数になると超やばい。常識では考えられないようなことをしでかす。つまり、とても面白い!(北)

表紙

『オーデュボンの祈り』

新潮文庫/本体 670 円+税

気がつくと不思議な人々が住む島に、伊藤はいた。強盗に失敗した彼はいつの間にか居た島で、未来が見えるかかし、優午に出会う。ファンタジーでも SF でもなく、ちょっぴりミステリーな話。(母)

その他の著書

表紙
祥伝社/本体 840円+税

表紙
文藝春秋/本体 1,800円+税

表紙
中公文庫/本体 629円+税

表紙
新潮文庫/本体 940円+税

表紙
講談社文庫/本体 640円+税

表紙
角川文庫/本体 590円+税

表紙
創元推理文庫/本体 648円+税

表紙
新潮文庫/本体 670円+税

2.作品に込められた思い

伊坂
『サブマリン』に「から揚げを車のフロントガラスに投げる」というシーンが出てきますが、Yahoo! の知恵袋でこれに関係する検索をした人から手紙が届いたんです。自分でも検索をしてみたのですが、本当にあるんですね。洒落なんでしょうけど、「車のフロントガラスにから揚げをぶつけた」という質問があがっていて、ちゃんと『サブマリン』を引用して回答してくれている人がいるんですね。そういう人がいるんだなと思って、嬉しかったです。
母里
伊坂さんの作品について、Yahoo! の知恵袋に質問している人は多いですよ。「このシーンはどういう意味ですか」って。
伊坂
本当に? 僕に聞かないでそこに聞いているんですか(笑)。
母里
結構多いです。「『アイネクライネナハトムジーク』と『首折り男のための協奏曲』はどっち派か」という質問もありました。
伊坂
めっちゃ小さい世界で話をしていますね(笑)。面白いですね。どちらも短編が集まっている話だからでしょうか。
母里
比べ易い部分があるのかもしれませんね。この2作品だと、私は『アイネクライネナハトムジーク』のほうが、伏線を探すのが面白くて好きです。
伊坂
『アイネクライネナハトムジーク』は評判がよくて、読者からの手紙もたくさん来ます。でもね、手紙の内容はみんな伏線のこととか人物相関図のことばかりで、頑張って考えたあらすじには触れられていないんですよね(笑)。
母里
伏線を探すのにたぶんみんな必死になっちゃったんだと思います。
伊坂
僕はどちらかというと『首折り男のための協奏曲』のような、全体がわかり難い話の方が好きなんですよ。『死神の浮力』とか、書き下ろしの『火星に住むつもりかい?』とか、長編はだいたいそうですね。読者が喜んでくれる作品は、出版社からの依頼で書いたものが多いんです。仕事として起承転結をちゃんと組み立てて書いたものは、評判がいいのかな(笑)。『チルドレン』とか「陽気なギャング」シリーズとか。どっちが大事というわけでもないんですが。
北岸
「陽気なギャング」シリーズの続編は出版社からの依頼で書かれたのですか。
伊坂
これは唯一シリーズで書こうと決めていました。だからいい意味で力が入っていない作品です。最初から楽しいという気持ちだけで書いているので。どんどん出そうと思っているのですが、ありがたいことにいろんな依頼をもらっているので、順番に書いていたら2作目から3作目の間が空いちゃったんですね。そろそろ書かなきゃということで、一昨年ようやく3作目を出しました。次はいつになるんでしょうね。
北岸
次もあるんですね。
伊坂
いつになるかわかりませんが。また書けるといいなと思っています。
北岸
「陽気なギャング」シリーズは顔認証システムとか防犯システムがいろいろ進化して出てきますが。
伊坂
これは難しいですよ。『サブマリン』と違って中の時間はそんなに進んでいないので、結構大変です。それから、子どもが生まれてからは、「犯罪はダメ」という気持ちが特に強くなってきてしまいました(笑)。昔は殺し屋の話を平気で書いていたんですが、いまは「絶対に許せない」と気持ちに変わってきてしまって。強盗を辞めたいという雰囲気を成瀬が思っていたりするように、そういう意味でも書きづらいです。
北岸
『ゴールデンスランバー』や『火星に住むつもりかい?』は現実にありうる話だよなと思って、すごく怖くなりました。
伊坂
最初は本当に面白いものを書きたかっただけなんですよ。僕はすごく怖がりなので、こういうことがあったら嫌だなと思ったことを書いているんですけど、出来上がったときに「いまの社会を批判している」とか、「予見していた」と皆から言われることが多くて。もともと深くは考えていないんです。面白いストーリーの中に、怖いこととかを自然と盛り込みたくなっちゃうんですね。最近は、書くことによって自分のカウンセリングをしているんだなということが、わかってきました。
北岸
カウンセリングとはどういうことですか。
伊坂
自分が怖いと思う部分に気づくとか、物語に書くことで怖さを解消して安心するとか。だから、他の人に警鐘を鳴らすという気持ちはまったくないんですね。
母里
私も読んでいると、日常で起こりかねないなと思ってビビっちゃうことがあるんですけど。
伊坂
『魔王』では超能力の話を書いたんですが、この本が出る直前に小泉元総理率いる自民党が選挙で大勝して、その状況が物語の中と似ている、時代が重なったと言われました。本当は違うんだけどな、と思ったんですけどね。民主党が勝った時にも、安倍首相が頑張っていた時にも予言していると言われて。
母里
予言者になっているんですね。
伊坂
後付けで(笑)。たまたま、いつの時代にも起こりうることを僕は昔の話として書いた。要するに、ファシズムを用いて現代のことではないという意味で書いたら、現実的には同じようなことがサイクルで起きていたというだけなんです。だから得しますよ、毎回みんなが注目してくれるので(笑)。

原点

伊坂
読者的にはシリーズもののほうが楽しいんですかね。
北岸
伊坂さんの作品だと思って、読むので。
伊坂
名前で読んでくれるってすごいですよね。僕は学生のころに小説家になりたい、小説を書こうと決めたんですけど、なるなら名前で読んでもらえる人になりたいと思っていたんですよ。そういう意味では夢が叶っているなと思います。ありがたいです。それと、いまの学生が読んでくれているのが嬉しいですね。僕は同年代を意識して書いてきたので、下の世代の人もこんなに読んでくれているんだと思うと、本当に嬉しいです。
北岸
読者の対象は伊坂さんと同年代の方を想定して書かれているのですか。
伊坂
友達に「こんな面白い話を考えたんだ」って話すつもりで、いつも書いているんですよ。思い返すと、子供のころから読んだ漫画や観た映画のあらすじを友達に説明するのが好きだったんですよ。ちょっと話を変えたりしてね。
母里
変えちゃうんですか。
伊坂
オリジナルよりもっと面白くしたくて(笑)。
それが自分に向いていたんでしょうね。あの頃は元のネタがあってそこから思いついたことを書いて(話して)いたけど、それがいまにつながっているなと思います。書いて、それが出来上がっていくのが一番楽しいですね。せっかく書いたからにはみんなに面白いと言ってもらいたいですしね。

※伊坂幸太郎さんへのインタビューは、まだまだ続きがございます。
続きをご覧になられたい方は、大学生協 各書籍購買にて無料配布致しております『読書のいずみ』2017年3月発行NO.150にて、是非ご覧ください。

伊坂幸太郎さん サイン本を5名にプレゼント

『サブマリン』

伊坂幸太郎さんのお話はいかがでしたか?
伊坂さんの著書『サブマリン』(講談社)のサイン本を5名の方にプレゼントします。本誌綴込みハガキに感想とプレゼント応募欄への必要事項をご記入の上、本誌から切り離して編集部へお送りください。

こちらからも応募ができます。

プレゼントの応募は 2017年4月30日消印まで有効。
当選の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。

Profile

伊坂幸太郎(いさか・こうたろう)

■略歴 
1971年千葉県生まれ。東北大学法学部卒業。
2000 年『オーデュボンの祈り』で第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞してデビュー。'04年、『アヒルと鴨のコインロッカー』で第 25 回吉川英治文学新人賞、「死神の精度」で第 57 回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。'08年、『ゴールデンスランバ一』で第5回本屋大賞と第 21 回山本周五郎賞を受賞。近著は、『陽気なギャングは三つ数えろ』、『火星に住むつもりかい?』、『キャプテンサンダーボルト』(阿部和重氏との共著)等。'04年刊行の『チルドレン』に登場した家裁調査官・陣内と武藤が活躍する書き下ろし長編『サブマリン』が、'16年に刊行。『読書のいずみ』には100 号(2004 年秋号)、125号(2010 年冬号)に続く三度目の登場。


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