いずみ委員の 読書日記 158号

特集「本が好き! 〜みんなで読書マラソン〜」記事一覧


『読書のいずみ』委員の読書エッセイ。本と過ごす日々を綴ります。
 

 

 

東京大学4年 任 冬桜

寒く晴れた日

 卒論が終わった。とりあえず行きたいところNo.1に行こうじゃないか。カラオケ? テーマパーク? 海外旅行? いやいや、一番は図書館よ。
 小説に飢えていたんだ。地元の図書館に数ヵ月ぶりに凱旋。やあみんなお久しぶりと心の中で本たちに声をかける。多分そこの村上春樹の本にドン引きされている。しばし我を忘れ、気付いたら手元にはずっしり本の山。部屋に立派な積ん読タワーが形成されているのに、なぜかやめられない図書館奇襲。
 帰宅して、さっそく一冊開く。一番エンタメチックな表紙の『王妃の帰還』(柚木麻子/実業之日本社文庫)、君に決めた。テーマは女子中のクラス内でのヒエラルキー闘争。と書くと「ドロドロ」した、「女は怖い」言説を連想させるものがあるが、そんな単純なものじゃない。成長過程の10代の女の子たちにはそれぞれ悩みがある。それが擦り合わないから人間関係のスペクタクルが繰り広げられるのだ。柚木さんはそんな女の子たちの闘争をちゃんと希望に結びつけていく。連帯することの可能性を感じさせてくれる本である。はあー。小説、楽しい! もう一冊行っちゃいましょう。
 

特別に空が澄んだ日

 星を見るのが好きだ。私が地球の一点からみあげた星は、小さくか弱く瞬いている。でも本当は、私が理解できないような遠さの向こうでしんしんと燃えている巨体だ。そう思う瞬間、私の意識は小さな悩み事を離れ、宇宙の大きさに感嘆させられる。
 今日も冬の星々が宴を繰り広げている。そんな夜だから、寝る前のお供に『活版印刷三日月堂 星たちの栞』(ほしおさなえ/ポプラ文庫)を積ん読タワーから選び出す。星が散りばめられた表紙がずっと気になっていたのだ。今をときめく活版印刷をきっかけに人がふれあい、心が通じあっていくエピソードの数々。さくさく読めるのに、深くて沁みるいい本だ。活字においては一つひとつの文字が金属のスタンプである。印刷する文字の一文字一文字を「拾って」、順番に型に当てはめてインクに押す。印刷した文字一つひとつに重みがあり、職人さんは微調整を重ねて綺麗に作る。さらっと読んでいた文字の向こうに、そんな重さがあるなんて。外で見ていた星たちのようだ。夜の静けさをバックに、一人圧倒されながらも眠りは訪れる。
 
 
 

 

愛媛大学2回 河本捷太

1月Ⅹ日

 今日は僕がまだ読めていなかった森博嗣さんのミステリィ、Xシリーズ第一弾、『イナイ×イナイ PEEKABOO』(講談社文庫)を読んだ。久しぶりに森さんの本を読めたということもあり、読んでて楽しくて楽しくて仕方がなかった。物語の舞台は都心にある広大な旧家。そこに住む佐竹千鶴は椙田探偵事務所に「私の兄を捜していただきたいのです」と依頼する。事務所で働く小川と真鍋は調査を始める。舞台が屋敷であることや探偵が登場することなど少しレトロな雰囲気を感じさせるミステリィとなっている。
 森さんの物語に登場する人物は個性的なキャラクターばかりで、好きなキャラクターができることが多い。僕はこの本に登場するおそらく主人公であろう真鍋瞬市という人物がお気に入りだ。彼は美大生で、外見はオタクっぽいらしいが、このお話では探偵役となる。また彼は、よくしゃべり、しゃべりながら考えるタイプの人らしく、なんだか僕と似ているかもしれないと勝手に親近感を抱いたのだ。好きなキャラクターができるとより一層本を読むのが好きになると思うから、他の人にも是非好きなキャラクターを見つけてほしいなとふと思った。
 

1月Ⅹ+4日

 先日、『イナイ×イナイ~』を読んで以降、Xシリーズにドハマりした僕は一日一冊のペースでこのシリーズを読んでいる。このシリーズはもともとノベルスで出版されており、それが文庫化されたものを僕は読んでいる。今日は文庫化されているうちの最新刊、Xシリーズ第5弾にあたる、『サイタ×サイタ EXPLOSIVE』(講談社文庫)を読み終えた。椙田探偵事務所改めSYアート&リサーチの小川と真鍋は匿名の依頼を受け、ある男の尾行をしていた。その同時期に連続爆発事件が起きていたが、そこには意外な関係があった。
 この物語の特徴は何といっても尾行のシーンがあり、緊張感などがリアルに伝わってくることだ。特に張り込みの際に車の中で行われる議論は興味深い。
 このシリーズを含めて、森さんのミステリィを読み終えた後は、決まっていつも自分がちょっとだけ賢くなった気分になって勉強がはかどるのだ。森さんのミステリィでは結局理由が語られないようなことがあったりしてモヤモヤするのにどうしてだろう。もしかしたら登場人物の明晰さや思考を読書によって疑似体験することでそのような気持ちになるのかもしれない。実際、シリーズに最低一人は明晰な探偵役がいる。だから僕は本を読んだ後はいつも勉強する。そうだ、今から勉強してこようかな。
 
 

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