いずみスタッフの読書日記 152号 P2

  • 三重大学2年
    内山めぐみ 
    M O R E
  • 北海道大学4年
    大川 陸 
    M O R E
  • 東京外国語大学3年
    服部優花 
    M O R E
  • 東京外国語大学3年
    三宅梨紗子 
    M O R E

 

東京外国語大学3年 服部優花

試験期間の真っただ中に

 7月に入り試験も目前の日曜日。梅雨明けを待ち望みながら、鬱々とした気分を晴らしてくれる1冊に出会った。『村上海賊の娘』(和田竜/新潮文庫)である。戦国時代、織田信長によって危機に瀕した大阪本願寺を救うべく、天下一とうたわれた村上海賊の長武吉の娘景が大暴れする歴史長編だ。戦場となった船上で、泉州の海賊長と大立ち回りする終盤は息つく暇もなく一気に読み切った。海賊らしい剛勇と荒々しさをもって己の信念のままに戦う景に感嘆した。彼女に力をもらい、テストなんぞどうにでもなれ!という誤った方向に思わず舵をきってしまった。もう心は夏休みである。

 試験期間に突入し、ようやく山場を越えた水曜日。帰宅後、なにもしたくないなあ……という気持ちで読み始めたのが『和菓子のアン』(坂木司/光文社文庫)である。デパ地下の和菓子店「みつ屋」で働くアンちゃんの、仕事場でのあれこれを描くミステリーだ。博打大好き店長の椿さんをはじめ、乙女系男子立花さんや元ヤンの女子大生桜井さんといった濃いメンツに囲まれて働くアンちゃん。途中からは恋の予感も気になりはじめ、疲れた心がウキウキ弾み出した。繊細で美しい和菓子の描写と所々に挟まれるトリビアを読んでいると、どうしても和菓子が食べたくなる。まだ明日の試験までには時間があるから、と言い聞かせて近くのスーパーまで自転車で走ったのだった。

夏休みだァっっっ!!!
 ようやく存分に夜更かしができると腕まくりをしていたある晩、リビングの本棚で『ステップファザー・ステップ』(宮部みゆき/講談社文庫)を見つけた。最近父がツタヤで百円の本を買ってきて読むのにハマっているのでその中の一冊だろう。ひょんなことから双子の中学生の面倒を見ることになったプロの泥棒が、巻き込まれた様々な事件を語る形式で話が進む。ステップファザーとは「継父」のこと。本当の親子ではないこの泥棒と双子との軽妙なやり取りに笑い、垣間見える互いへの信頼に涙する。ああこの本を読み終えるまでは寝られない、と不健康に拍車をかける夏の夜だった。
 
 
 

 

東京外国語大学3年 三宅梨紗子

移動中のお供はやっぱり

 7月7日、学生の(もしかしたら人生最大の)モラトリアム期に突入。
 部活動に所属している私は、約3ヶ月ある夏休みの中でも、始まりの1週間のみがオフ期間だ。この1週間を利用して旅行をした。

 始まりは大阪。新幹線の中ではゼミの学習のため、『爪と目』(藤野可織/新潮文庫)を読み返す。初めて読んだときは、語りの難しさと味わったことのない後味に、頭の中は「???」その後何度か読み返し、細部の工夫に気がついたときは、この作品が芥川賞を受賞した所以が分かったような気がした。
 

 2日間の大阪旅行を終え、9日からは実家のある岐阜県へ。
 帰省をすると必ず、父は集めている東野圭吾一覧を紹介してくれる。
  「また増えたやろ、みてみー」
そんな父の影響もあり、東野圭吾さんの作品はよく読む。本について父と話しているときには、少しばかり大人になった気分だ。
 今回は『白銀ジャック』(東野圭吾/実業之日本社文庫)を読むことにした。以前読んだ『疾風ロンド』(東野圭吾)がその続編と言われている。真夏にスキー場が舞台の本に浸り、妄想避暑をしようとする魂胆だ。
 

 その後は妹とともに韓国へ。
 妹にとっては初めての海外旅行。航空券、ホテルの予約から現地での道案内は姉の役割。中部セントレア空港から直行便で約2時間。新幹線で行く東京〜名古屋間とほぼ同じ。近い!
 手持ち鞄に本を忍ばせることを忘れた私は、空港の本屋で一冊買うことにした。かねてから気になっていた『舞台』(西加奈子/講談社文庫)。主人公は単身、ニューヨークに行くが、初日にカバンを盗まれる(ドイツで財布を盗まれた記憶が蘇る……)。海外旅行のワクワク感と、孤独感、その中で感じる小さな喜び。他人の目が気になって仕方がない主人公に「分かるわ〜」と何度も言ってあげたくなる。
 

 1週間の旅行を終え、一旦東京に戻る。
27日からは、ゼミ合宿のため秋田へ。東海道新幹線は何度も乗っているが、東北新幹線は初めて。「こまち、かっこいい!」
 『星やどりの声』(朝井リョウ/角川文庫)を片手に、揺られること約3時間。田沢湖駅へ到着。宿泊したペンションでは、ほろほろのお肉が入ったビーフシチューをいただいた。喫茶店を営む早坂家の物語である『星やどりの声』には、看板メニューのビーフシチューがしばしば登場する。普段の生活で経験することが、「あぁ、あの本にも出てきたなあ。」なんて本の中の世界とつながることは楽しい。

 そんなこんなで7月は移動時間も長く、本とゆっくり向き合うことができた。移動中も旅行の思い出の一つ。旅が始まる前の期待感と、旅を終えた充足感を本と共有してみてもいいかもしれない。
 
 
  前のページへ  


ご意見・ご感想はこちらから

*本サイト記事・写真・イラストの無断転載を禁じます。

ページの先頭へ