いずみスタッフの読書日記 153号 P2

  • 東京外国語大学3年 三宅梨紗子 
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  • 山形大学2年 片山凜夏 
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  • 奈良女子大学 博士研究員 北岸靖子 
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  • 広島大学4年 杉田佳凜 
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  • 愛媛大学4回 頼本奈波 
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広島大学4年 杉田佳凜

10月16日(月) 夜空に蜂蜜色の満月

 いずみの原稿を出して一息つく間もなく『新アラビア夜話』(スティーヴンスン〈南條竹則・坂本あおい=訳〉/光文社古典新訳文庫)を手に取る。
 ボヘミアの王子フロリゼルを教王ハルーン・アル・ラシッド(千夜一夜物語に登場する、夜歩き好きの王様)に見立て、バグダッドならぬロンドン&パリを舞台にした連作集。本家が荒唐無稽・百花繚乱のパレードだとすれば、こちらは技巧的かつ軽妙なマジックのよう。複数の視点から語られる複雑怪奇な事件が、フロリゼルを軸に回収されて……「自殺クラブ——クリームタルトを持った若者の話」なんて章題からして面白くないはずがなかった! 秋の夜長をいいことに、今日も今日とて夜更かしが確定しそうである。
 

11月1日(水) どこからかカレーの匂い

 あれこれやることが重なって、気がつけばここ何日か本を読んでいない気が……あれ? 悲しくなりながら書籍コーナーを彷徨えば、最果タヒさんの新刊が二冊も!! さっそく買って、『もぐ(最果タヒ/産業編集センター)を少しずつ読んでいく。
 小籠包、パフェ、ちくわ天……食べ物にまつわる愛と懐疑に満ち満ちた思索が最果さんらしい感覚と文体で綴られていて、まさしく「もぐもぐ」咀嚼されて書かれたんだなぁという印象。知っているものが知っている配分で組み合わされているはずなのに、どうしてこのサンドイッチはこんなにも未知の美味しさなの?
 メニューは全25品。一品ずつは小さいから手軽につまめるけれど、一つ食べ終えるごとに心地よい満腹感が体を満たしてくれた。
 

11月12日(日) 青空にナニかが流れる

「読んだ方がいい」
 母との電話中に出てきたタイトルは『むかしのはなし』(三浦しをん/幻冬舎文庫)だった。漫画版を買おうかどうか迷っているとのことなので、原作も読むよう強く勧める。
 『むかしのはなし』はタイトルの通り、日本昔話に着想を得て書かれた短編集だ。けれど下敷きにされている昔話はもちろん他にも仕掛けが用意されていて、読み進めるごとにこの物語の世界に引きこまれていく。
「しをんさんは『舟を編む』や『まほろ』の印象が強いけど、これとか『天国旅行』の雰囲気はまた独特でクセになって……」
 語りながら思い出すのは物語の一節。
   聞こえるかい。聞いてほしい。
 “今ここ"と無数の“いつか"を物語が繋いでいく。人に聞いてほしいと思える物語に今ここで出会えた奇跡に、ふと肌がざわめくのを感じた。
 
 
 

 

愛媛大学4回 頼本奈波

雨が降り続く秋のこの頃

 中島たいこさんの本が読みたくなって彼女の作品を検索してみる。『漢方小説』(中島たいこ/集英社)のタイトルとカバーイラストの素朴さに目が留まる。漢方か……。風邪の予感がするときに、葛根湯を飲むけど漢方ってなんだろう。漢方で小説って気になるなぁ。物語の主人公みのりは、あるストレスがきっかけで胃のドキドキに悩まされる。あ、私もストレスや食べ過ぎでドキドキしたことある!なんて親近感を抱きながら、ぐんぐん読む。みのりは病院を転々とするも、病名が分からず、医者には見向きもされず。しかし諦めきれず東洋医学の扉を開いた。東洋と西洋の医学の違いや、体と心は表裏一体であることなど勉強になること盛り沢山。みのりの淡い恋も、彼女のストレートな物言いも、この本の魅力だなぁと思っていたらもう読み終わってしまった。その後の私はというと東洋医学の事が気になってしょうがない。痛みをダイレクトに治療する西洋医学とは違う、痛みや苦しみに寄り添う東洋医学が大好きになってしまった。

ちょっと寒くなってきた夕暮れ時

 バイト先の本屋で見つけた『「すぐやれる人」と「やれない人」の習慣』(塚本亮/明日香出版社)。すぐやれない人って私の事です!!と早速購入。読み進めてみると、私のための本ではないかと感動。ああすると良いんだぜ!こうやるべきだぜ!という圧の強いイメージのビジネス書は、実は苦手だったり。けれど著者の塚本さんは、自分もこんな失敗しちゃったんだ、だからみんなもこんな心持ちでやってみて、きっと上手くいくから!と言ってくれるようで親しみやすい。人の動かし方、心の持ち方、など項目ごとで分かれているから、自分に当てはまるキーワードを探して読めるのもすごくいい。上手くいかないなぁ、早くやらなくちゃいけないのに気が進まないなぁ……と思ったときに、辞書のように手に取りたい本になった。ありがたし。

izumi会議翌日の眩い初冬晴れ

 神楽坂の本屋さんのギャラリーにて、流れるような線で描かれたイラストに出会った。滑らかな曲線にうっとり見とれていると、本があった。『きっといい日になりますように』(寺田マユミ/かもめブックス)はあるパン屋さんの優しいお話がぎゅっと詰まっていた。朝早くパンをこね、お客さんに売り、マルパンをパンの妖精に分け、パン屑を小鳥にやって。悲しむ人を見れば余ったパンで良ければ……と慰めたり、恋する少女の恋のお手伝いをしたり。なんて可愛い世界なのだろうと、しばし感動の心地に浸る。購入後、ブックカフェにて姿勢を正し真剣に読み入る。そんな平和な日常に、パンがまずいと言う女性が現れる。パン屋さんは傷つき頭を下げるが、気持ちを新たにパンの改良に邁進する。愛おしいだけでなく、勇気までくれるなんて、と心が解きほぐされた。東京の町でかけがえのない本と出会えた。旅って、本っていいな。旅の記憶が丸ごと詰まった宝物が、私の本棚にちょこんと仲間入りしたのでした。
(愛媛大学4回 頼本奈波)
 
 

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