「人は、様々な人と関わり合い、支え合いながら生きている」
言葉にしてみるとどこかで聞いたことのあるような、極々当たり前のことのように聞こえますが、そのことを改めて実感させてくれる作品でした。
この本は中学駅伝をテーマとした作品で、メンバー集めから大会当日までの物語を、各章で駅伝メンバーそれぞれが語り手となり、それぞれの視点から当日までのストーリーが描かれるといった構成となっています。
駅伝メンバーは全員が陸上部というわけでもなく、陸上部部長で誰からも一目置かれている桝井、同じく陸上部で内向的な設楽、桝井に憧れている陸上部の後輩の俊介、中学校一の不良の大田、クールで超然とした雰囲気の渡部、誰からも好かれるお調子者のジロー、そして陸上の知識が全くない美術の先生の上原が顧問をしているといった、いかにも寄せ集めのチームです。
それぞれの視点から同じ場面が何度も語られることで、言動とは裏腹にそれぞれが悩んだり葛藤していたり、他の人が知らないところでお互いが支えとなっていたり、時には考えていることがかみ合っていなかったりといったように、いくつものドラマが重なり合い、一つのストーリーが出来上がっていきます。想いや言葉が襷を通して繋がっていきます。
もちろんドラマの重なり合いも見所ですが、各章で駅伝メンバーが成長していく過程にも注目してほしいです。常に気丈でカリスマ的な桝井でさえも、悩みを抱えながら日々の練習に励んでいる姿が人間っぽさを感じさせてくれます。それぞれが違う悩みを抱えながら日々を過ごしており、時には失敗しながらも「自分」と向き合っています。「あと少し、もう少し」と日々を懸命に生きている姿は、忙しい日々で忘れてしまっている大切なことを感じさせてくれます。
神戸大学 清水竜