まず最初に言いたいのは、この作品は恐ろしく月9向きだろうということだ。しかしこの作品はミステリー小説である。
私がこの作品に出会ったのは、大学受験が終わってすぐのころだった。私の通っていた高校は他校と比べて卒業式が遅く、また、自由登校という制度のないところだった。受験勉強から解放されたあと、持て余した時間をひたすら読書にあてていた。いくつか読んだ気もするけれど、その中で一番印象に残っているのが、この作品だ。卒業するまでの間に3回も読み返した。なぜ3回も読んだか。文章が難しかったわけではない、そこは安心してほしい。どんでん返しがすごすぎて、振り返りたくなったのだ。
『偽恋愛小説家』という作品は、連作集の形をとっている。プロローグ、いくつかの短編、エピローグの流れで進み、メインの登場人物は2人。いずれもすべての話に登場する。片方は新人「恋愛」小説家。男性。片方は新人編集者。女性。各短編は変わり者の小説家が披露する、極めて現実的で、幻想など一切ないおとぎ話の解釈とリンクするように謎が解かれていく。一冊を通して横たわるのは小説家が書いた、大ベストセラー「彼女」。これが『偽恋愛小説家』という作品をつなぐ鍵であり、一番大きな謎である「小説家の秘密」を解く鍵となるのだ。
小説家の持つ秘密が明かされるとき、この作品全体の仕掛けも明かされる。きっとあなたも、少なくとも一回は読み返すことになるだろう。
ここまでミステリー小説としての側面をひたすら押してきたが、最後にもう一度、ここを強調したい。この作品は、恐ろしく月9向きである。そう、つまりこれはミステリーの要素とともに恋愛の要素も多分に含んでいるのである。ミステリー好きにも、恋愛小説好きにも、ぜひ読んでほしい一冊だ。
関西学院大学
宮岡 知世