書評合戦”ビブリオバトルが大学を中心に広がっています。
10月21日には、全国の予選を勝ち抜いた学生が集う「首都決戦2012」も開催されます。
今回は、ビブリオバトルの考案者である谷口忠大先生(立命館大学准教授)に、大学生協の姜政孝読書推進担当が、誕生のきっかけから現在までをインタビューしました。
ビブリオバトラー(発表者)たちが、おすすめ本を持ち合い、一人5分の持ち時間で書評した後、バトラーと観客が一番読みたくなった本「チャンプ本」を決定する、ゲーム感覚を取り入れた新しいスタイルの「書評合戦」です。
「ビブリオ」はラテン語由来の言葉で、書物などを意味します。
1978年、京都府生まれ。2001年京都大学工学部卒業。2006年京都大学工学研究科博士課程修了。2008年立命館大学情報理工学部助教就任。2010年同准教授に就任、現在に至る。
姜:最初に、ビブリオバトルを始めたきっかけをお話し下さい。
谷口:それまで行っていた勉強会や輪読会に疑問を感じたことがきっかけでした。発表者は本を読んでレジュメを用意してきますが、他の人は本も読まずに聞いているだけ。レジュメが出ていると発表者はその報告に留まり、他の人は後で読めば良いということもあって、寝ている場合もあります。また、その分野で名著として確立されている本の場合はその本を読めばいいのですが、先達がいない分野での勉強会を開く場合、どの本を選ぶかでその勉強会の内容までも左右されます。
どうしたらそれらの問題を払拭し、皆が納得できる本を決められるかという仕組みを、勉強会の中に作る必要があったのです。
そして、皆が本を持ち寄り、全員が発表者となり、レジュメを準備しないでディスカッションを通し、1冊の本を決めるという現在のビブリオバトルの原型に辿り着いたのです。
それは、私が京都大学の情報学研究科の片井研究室(当時)に所属していた2007年当時です。
姜:なるほど。きっかけは勉強会の問題を解決するために実施されてきたということですね。その後ルールが整えられていったのですか?
谷口:そうですね。ただ現在の「4つのルール」(別掲)は、ほぼその時に作られていました。この4つのルールには、様々な狙いが包含されています。
例えば、「チャンプ本をみんなで決める」というルールには、“競う”というゲーム性を導入することによってバトラーの「勝ちたい」という意欲を刺激し、同時に勝つために他の人の共感を得られるような本をより厳選してくるようになります。
また、聴衆もチャンプ本を決める1票を持つことでより真剣に聞きますし、そこに集っているコミュニティの参加者であるという実感を持ちます。
谷口:持ち時間5分で紹介」というルールには、本に「人と人を繋げるメディア」としての役割を持たせています。
5分の内、最初の3分はおおよそ本の内容が紹介されます。そして、残りの2分で、その人が何故その本を選んだのか、その人がどう読み込んだのかなど読書後に派生したことを話すことが多いです。ビブリオバトルの面白さの一つが、この2分間にあります。
一般的には、本に書かれていることこそが情報であると捉えられがちですが、加えてその本に書かれている内容をどう解釈し、どう意味づけるかは人によって違っており、その解釈が発信され共有されてこそ、本の価値がさらに生かされると思っています。それがこの2分間の役割です。
これまで本は著者と読者を繋ぐメディアに留まっていましたが、ビブリオバトルによって読者と読者を繋げるメディアになったのです。
5分間で発表します
姜:本好きの学生の間でも本について語ることが少ない現在、本も知ることができ、人のことも知ることができるビブリオバトルは、大変貴重な場であると共感しました。
その、ビブリオバトルが広がってきた経緯などを次にお聞かせ下さい。
谷口:私は08年には立命館大学の助教として移動しましたが、片井研究室では引き続き実施され、ブログなどにアップされていました。その後、09年に大阪大学のサークル「サイエンスルー」が開始し、月1回の定期開催をスチューデントコモンズを中心に行うようになったと聞いています。これがイベント型のビブリオバトルの最初です。ここから大学生協や紀伊国屋書店が関わり始め、徐々に広がっていきました。
翌10年に私の信頼している方の助言もあって、本格的にビブリオバトルを社会に広めていく決意をして、「ビブリオバトル普及委員会」を結成しました。その委員会メンバー中心にホームページを立ち上げたりして進めていきました。
そして、そうこうする内に読売新聞の方とつながり、その読売の方が東京都に提案をされて、第1回の「ビブリオバトル首都決戦」が大々的に開催され、そこからまた各地に広まっていきました。ここまで広まるまでには、それぞれの地域にキーパーソンがいて、貢献していただきました。
姜:今年も「首都決戦」が開催されますが、最後に今後の方向性や抱負をお話し下さい。
谷口:現在ビブリオバトルが行われている大学はおおよそ50校ぐらいとなり、メディアでも頻繁に紹介され、だいぶ知られるようにはなってきています。ただし私が目標としているのは、フットサルやドッジボールのように、草の根の活動・遊びとして定着することです。
ビブリオバトルは、人と人が情報共有できる場を提供する手法で、その普及は公益性が高いものです。大学だけでなく、中学や高校、企業での研修、あるいは高齢の方などの福祉施設でも有効性が高いと思われます。
あらゆる場で、しかも一過性のブームとしてではなく、草の根的に広まることを願っています。
姜:大学生協においても、弘前大学・横浜国立大学・立命館大学・山形大学の生協が進めています。この11月には首都決戦へ向けての予選会も実施する予定です。
今後も、ビブリオバトルをぜひ広めていきたいと思っています。
本日は有難うございました。
(編集部)
日 程 | 2012年10月21日(日) |
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場 所 | ベルサール秋葉原1F・B1F |
主 催 | 東京都 財団法人文字・活字文化推進機構 |
協 力 | ビブリオバトル普及委員会 、読売新聞社 |
★大学生協会館でも予選を開催
日 程 | 2012年10月14日(日) |
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場 所 | 大学生協杉並会館B1F |
主 催 | 大学生協リーダーズネットワーク ビブリオバトル首都大会実行委員会 |
協 力 | 読売新聞社 |
年に一度のビブリオバトルを楽しむ大学生・大学院生の祭典です。
様々な大学から予選会を通過したビブリオバトラーが集い、究極のおすすめ本を書評し合い、みんなが一番読みたくなった究極の「チャンプ本」を発表者と会場の皆さんで選び抜きます。
『Campus Life vol.32』(2012年9月号)より転載