【主催】全国大学生活協同組合連合会 【協力】朝日新聞社/出版文化産業振興財団(JPIC)
学生たちの読書力向上を目的として、全国の大学生協で行われている「読書マラソン」。
出合った本を紹介する手書きの文章からは、学生たちの熱い思いが感じられる。
今回も、その本を手にしたくなるすてきなコメントが数多く寄せられた。
「読書マラソン」は「4年間(大 学在学中)で本を100冊以上 読もう!」を目標に掲げ、全国の大学生協が実施している読書推進運動のこと。各大学生協にある読書マラソンカードにコメントを書いて提出すると、1枚につき 1個のスタンプがもらえる。 10 個 たまると、書籍が割引になる生協利用券などと交換できるのだ。さらに、2005年からは、 集まったコメントの中から優秀作 を顕彰する「コメント大賞」も行われている。その選考会が、 10 月 31 日に東京の大学生協杉並会館で開かれた。
9回目を迎えた今年の応募 総数は5871点。この中から、 第一次選考を通過した265点 と、専門書を対象とした「アカデ ミック賞」候補 34 点の審査が行 われた。審査員を務めたのは、評 論家でフリーライターの永江朗 氏をはじめ、生協職員、現役大 学生など 11 人。それぞれが「内 容のおもしろさ」「紹介している本を読んでみたいと思えるか」 「コメントを書いた人が本を読ん で何を得たのかが書かれているか」など、独自の基準で作品を 選び、投票によって点数が絞られていく。何度も投票が繰り返 され、金・銀・銅賞とその他の受 賞作が選ばれた。
回を重ねるごとにレベルが高くなり、甲乙をつけるのが難しくなってきている審査。そうしたなか、文章力はもとより「インパクト」「読みやすさ」という点で優れた作品が高評価を得た。読書マラソンは現在も実施されている。読むだけではなく、コメントを書くためには本の内容を深く理解しなければならない。今後も多くの大学生に参加してもらい、本の楽しさをより味わってほしい。
大森郁枝さん(法政大学 4年)
書名『キケン』
新潮文庫/著者 有川 浩
「この本キケンです!」を3度繰り返す冒頭のインパクト。「内容の楽しさが伝わってきて、読みたいと思わせる」「短いセンテンスで歯切れがよく、コンパクトに本の内容を紹介している」など、多くの審査員から支持を集めた。
自分の作品が入賞する、それも金賞をいただけるなんて、非常に驚いています。本当にありがとうございます。
私はこの本が大好きで、その気持ちを伝えたい、誰かの大切な一冊になってほしいという思いを込めて書きました。もしもこのコメントを読んで本を手に取ってくれる人がいたら、とてもうれしく思います。
読書マラソンに参加できる時間は残り少ないですが、これからも“伝えたい”という気持ちを忘れずに、続けていきたいと思っています。
風間 茜さん(小樽商科大学 2年)
書名『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』
講談社文庫/著者 辻村深月
非常に読みやすく、読んで感じたことが素直に書かれていてしっかり帰結しているとの評価が高かった。「私も『そこにあるのは絶望じゃない。希望なんだ。』という気持ちになるために、この本を読んでみたい」という審査員も。
このような賞を頂くことができて、本当に嬉しく思っています。ありがとうございます。
本のページをめくる度、考えるのは言葉は人生であるということです。一体このすてきな言葉はどんな人生から生まれたのか、どんなきっかけでここに辿り着いたのか。どこかで見た言葉、聞いた言葉が私の心に響いて、それを私が誰かに伝えると、それは私だけのものじゃなく誰かのものになる。そうやって言葉はつながって、生きていくものだと思います。できれば、私の思いは、私の言葉で届けたいから、たくさんの文章を読み、時にはひりひりした痛みや切なさを覚えながら、「言葉」を探しているところです。「この人に出会えて良かった」と同じくらい「この言葉に出会えて良かった」と思いたくて、私は今日も本棚に手を伸ばします
橋爪志保さん(同志社大学 2年)
書名『たんぽるぽる』
短歌研究社/著者 雪舟えま
「小説の紹介が多いなか、歌集を読んだ喜びがうまく表現されている」「出だしは歌集に対する偏見から入っているが、実はそうじゃなかったということが積極的に書かれている」と票を獲得した。
このたびは素晴らしい賞をいただき、本当にありがとうございます。「心の中で宝物のように大切にできる本をもっと増やしたい」という気持ちから始めた読書マラソン。読むよろこびはもちろんですが、いわゆる「ベストセラー」や「書店員のオススメの○○」、売り場の平積みにはならないような、「自分のとっておきの一冊」の真の魅力を他人に伝えるという楽しさにも気付くようになりました。 読書の理由を問われたとき、「エンターテインメントとして物語を楽しむこと」「知識・教養をみにつけること」「将来のため」「達成感のため」などと答える人は多いようです。しかし、本には「娯楽」や「意味」を越えてしまうほどの「救済の力」があるように、私は思えてなりません。何としてもそれに触れたいのです。
大好きな作品で受賞できたことを、本当に嬉しく思います。
竹田知世さん(早稲田大学 3年)
身体にしみ入る食べものがある。 おいしいサンドイッチに、おいしいスープ。どれも素材の味を感じるごはん。亡き母の遺した町の食堂を、アキコはそんな店にした。内装も、器も、メニューも、派手ではないけれど、“気に入ったもの”を信じたお店。
脳ではなく、心で味わう。無農薬だから、栄養素が良いから…それもいいけれど、一度そんな堅いことは忘れて、舌に、鼻に、心に、任せてみる。幸せも、悲しみも、自分に素直に。
この小説を読む時の私も自分に素直に。 時々ふと目を閉じれば、優しいネコの鳴き声と、優しいスープのにおいが、私の世界の空気も優しくしてくれる。
番場桃子さん(立命館大学 2年)
正直、大学とはもっと奇妙奇天烈なものだとばかり思っていた。怪しげなサークルや秘密機関が裏で踊り狂い暗躍し、常識の枠を軽くはみ出た奇人変人が10人に1人の割合ぐらいで潜み、サークルと中央団体の手に汗にぎる攻防戦、謎に満ちたアルバイト募集の広告が掲示板を埋めつくすなど、大学入学前にこの本と出会った私は、勝手に妄想をふくらませ、期待に胸をたかならせていた。ところが実際はそんなこともなく、なんとも平和で穏やかな日常をおくる今日この頃。大学ってこんなものだったのか…?いや違う、私がまだ実態を深く知らないだけだ!と夢を捨てずに、今日も今日とて「もう一つのキャンパスライフ」にふけっていくのであった
山本航暉さん(立命館高校 1年)
おい、おい。これ、俺やん。自意識過剰かも知れないが本を読んでいる途中に私が思ったことだ。今、高校生である私から見ると目を逸らしたくなるほどの現実がここには詰まっている。学校内での格差、将来への不安、青臭くて切ない恋。大人から見たら鼻で笑われそうな、ちっぽけだけど大きな悩み。重圧と不安で押しつぶされそうになる毎日。私たちが過ごす戦場が残酷に、しかし、一縷の光をもって描かれている。これは明日も戦場へ赴く私たちの背中を押してくれる一冊だ。
橋本 慧さん(名古屋工業大学大学院 1年)
世界史上、たった2つの千年帝国であるローマとヴェネツィアを通して文明の衰亡を見る。 どちらの国にも共通するのは、国として豊かになると、社会保障にあてる国費が増加し、やがてそれが賄いきれなくなることで、社会不安が増大していくということである。 この本でも語られるように、これはモロに現代日本の抱える問題であり、恐らくそれが顕在化するのは私たちの世代だ。文明の衰亡とは、私たちの世代にとっては、決して遠いコトバではない。
上手裕紀子(早稲田大学 2年)
最近の人は誰でもスマホを持ち、twitterとかfacebookとか、本当にどうしてそこまでいつもできるの?という感じである。でもこの本を読むと少し納得する。人はそもそも定住してなかったから、退屈には対応していない生き物だったのだ。だから退屈すると不安になって、暇つぶしを一生懸命探そうとする。しかし、いくらやっても満足しないようなものばかりでは、渇望が増す一方なのである。人よ、ちょっと立ち止まって、スマホを本に持ちかえよう。料理でも、ファッションの本でも良いから、少し勉強しよう。それらを楽しむ方法を知ろう。そして待とう。一瞬でも心を満たす何かがくる瞬間を。
松本 弦さん(琉球大学 3年)
私たちはなぜ、音楽を聴くと感動する事ができるのでしょうか。芸術とは何だろう。その本質は一体どこにあるのか。この本の中では、そういった数々の疑問に対し若いニーチェが導き出した「答え」がつまっています。ギリシャ神話や当時の学問のあり方に対する批判もあり、一見してとっつきにくそうな内容ですが、その文章には読者を飲み込む圧倒的な力があります。ニーチェの「若さ」によって彩られる文体には疾走感すらあり、本を閉じた後は奇妙な余韻が残りました。目には見えない音楽の力、そして悲劇の正体にペンひとつで迫ったこの本は、まさに名作だと思います。
見立夏希(早稲田大学 1年)
キリスト教を「わかっていない度合い」は、近代化した社会の中で、日本がトップとまえがきにある。なるほどな、と思う。日本人にとって、日本の神様は仲間のようなものだが、一神教のGodは全知全能、そしてGodを信じるのは守ってもらうため。宗教が安全保障だなんて、島国の人間にはあまりピンとこない。けれども、ヘーゲルの弁証法は三位一体説を下敷にしているとか、近代的民主主義は宗教の産物であるなどと説明されてみると、「わからない」ではすまないと思う。西洋の中核にあるキリスト教を理解しなければ、今地球がぶつかっている困難をのりこえるのは難しいようだ。
ナイスランナー賞とは、最終選考まで残った作品のなかから、
上位入賞作品を除く200点の作品に与えられる賞。
その中から5点を紹介します。
西尾夏央里さん(広島大学大学院 1年)
『ギムレットにはまだ早すぎる』という言い回しはこの本が元である。カクテルも少しは飲むようになったし…とこの本を手に取った。甘かった。何が甘いか、というのは自分の心構えのことだ。本の内容については苦い。それもくせになる苦みだ。ストーリーはいかにもな探偵もの。主人公は一匹狼だが情に厚い。それ故に友人絡みの事件に関わっていく。まとめるといかにもという感じだが、チャンドラーの手にかかると苦く、そして甘やかな描写となり、私の心をしめつける。そして上質なお酒を飲んだ時のように酩酊してしまう。悪酔いはしない。けれど全てを味わえてもいない。もう少し寝かせて、また読もう。そう思った。
野田村悠加さん(同志社大学 3年)
「ブラジルで一匹の蝶が羽ばたくと、それがテキサスでトルネードになる。」あのときの何気ない出来事が、何らかの形で今につながっている。これは「つながり」の物語である。誰にでも、何かしら持っている「つながり」を見つけ、思い出す話である。旧友に久しぶりに会いたくなった。会って昔のことを話して、当時の羽ばたきが今どんなトルネードになっているのか確かめたくなった。反対に、ずっと先、自分がもっともっと大人になった時には、もしかすると今起こった出来事が全く別のところでつながっているかもしれない。あのとき始まったことのすべては、そうやってきっと、いつかの自分に返ってくるのだろう。
近藤香奈子さん(愛知教育大学 4年)
大切なあなたへ
そばにいる時は、話をしなくてもいいって思うのに、いなくなってからもっと話をしておけばよかった、また会いたいって思うのは勝手でしょうか。だから、現世と天国をつないでくれる幻想的な郵便局̶登天郵便局̶が近くにあったらいいなとすごく思うのです。あなたは消えてしまったのではなくて、どこかで見てますよね。自分の恥ずかしい姿を見せないように今を大切に生きていきます。
登天郵便局さん、この想い、届けてください。
辻友里恵さん(東京薬科大学 5年)
これは人ではなく、狸の話。人と天狗と狸をめぐる三つ巴のお話だ。阿呆ばかりが出てくるが、阿呆であることこそが良きことに思えてくる。ついふきだしてしまうような阿呆っぷりに、とても愉快な気分になってくる。かと思えば、父の偉大さ、母の慈愛の深さ、兄弟の有難さが胸にしみ、ほろほろと泣けてくる。おもしろい おもしろい!と読んでいると思ったら、号泣している自分に驚く始末。家族とはこんなにも良いものなのだなあ……とあたたかな思いにさせてくれる。私は一度読んだ本を読み返すことはほとんどない。けれど、こればかりは、肩の力を抜きたいときにまた読みたい。懐しい思い出と家族のあたたかさに浸るように。
有田香奈さん(明治学院大学 2年)
「一に止まると書いて、正しいという意味」。高校生の時にこの言葉に出会えたことは私にとって大きなことだったと思う。どうしても、人は前に進みたがる。それは決して悪いことではないし、間違っていることでもない。しかし、ずっと走り続ければ、疲れてしまうし、見えなくなってしまうこともある。一度立ち止まってみることができる人こそ本当の強さをもっている人ではないだろうか? 一止さんに出会ってそう考えることができた。 「一に止まると書いて正しい」一度止まってみることも正しいことだと、この本とそして、一止さんと出会って思えることができた。そして、大切な人が前に進むことだけを考えて疲れてしまっていたら、私は声を大にしてこう言いたい。
「一に止まると書いて正しい」という意味なのだ!!
評論家・フリーライター
近畿大学非常勤講師
永江 朗氏
審査員として今年で4回目になりますが、年々コメントの水準が高くなっていると思います。的確な言葉を使って、的確に伝えることができていますね。最近の若者はスマホに夢中で本を読まないといわれていますが、忙しいなかでもちゃんと読んでいる。朝の読書運動を小中学生の頃に経験してきた世代が大学生になっていますし、子供の頃に親と一緒に絵本を読んだという学生が多いのです。
それに、単に読むだけではなく、読んで書くトレーニングを中学高校時代から受けています。我々の学生時代に比べると、書くことによるコミュニケーションを重視している学生が増えていますね。フェイスブックやツイッターなどで日常的に文字によるコミュニケーションをとっていますし、大学の授業も文章をたくさん読ませてたくさん書かせるかたちに変わってきています。そうしたことがコメントの水準を高くしている理由だと思います。
読みやすくて比較的若い作家の作品について書かれたものが多くありました。欲をいえば、もう少し幅広いジャンルのコメントを読みたかったです。就職してしまうと、仕事に必要な本以外を読む時間が少なくなってきます。時間の制限が少ない学生時代に大量の本を乱読して、それを残りの人生のなかでどう読み返していくのか、ということがすごく大事。10代後半から20代前半の10年間でどんな本をどれだけ読んだかで、その後の一生が決まるといえます。学生時代には、古典や海外文学、それに私たちが知らないようなものなど幅広いジャンルの本をたくさん読んでもらいたいですね。 (談)
愛知教育大学は、将来教員を目指す学生さんが多く、読書が好きな方も多いように感じています。読書マラソンの参加者は今年で720名を超えました。コメントカードの掲示の他に、読書推進サークル「きしゃぽっぽクラブ」の学生さんが中心になって、お店の読書マラソンコーナーを作っています。毎月届くコメントは30~40通。その中から学生さんの目線でいくつかの本を選んでもらい、職員と一緒に仕入れて展示をしています。他の学生さんも、よく足を止めて見てくださっています。
また、毎年全国の募集に合わせて「コメント大賞学内賞」を実施しており、12月には表彰式と合わせて作家さんにお越しいただきトークショー&サイン会を実施しています。定員100名がいつも満席になるほど、多くの方に参加していただいています。
本を読むと、新しい世界が広がります。これからも読書の楽しさを多くの人に体験してもらえるように、学生さんと一緒になって、「新しい本との出会い」ができる場を用意していきたいと思います。(愛知教育大学生協:小西真穂)