【主催】全国大学生活協同組合連合会 【協力】朝日新聞社・出版文化産業振興財団(JPIC)
「4年間で本を100冊読もう」をスローガンに、全国の大学生協が実施する読書推進運動「読書マラソン」。
今年の「コメント大賞」は昨年よりも推薦コメントが増え、読書への関心が、再び高まってきたように感じられた。
「読書マラソン」 は全国の大学生協で実施されている読書推進運動。 大学生協に置かれている専用のコメントカードに本の感想を書いて投稿すると、カード1枚につきスタンプが1個もらえ、 このスタンプは大学生協で使える割引券などと交換できる。
「コメント大賞」 では、 毎年全国の大学生協に寄せられたコメントから、 優秀なものを選び表彰するコンテスト。 今年も10月30日に、 大学生協杉並会館(東京) で優秀作の選考会が行われた。
ジャンルを問わず多かったのが、 作品のあらましや内容よりも、 作品を通して自分が 「どう感じたか」 「どう変わったか」 についてつづったものだ。 ほとばしるエネルギーに圧倒されたからか、 選考委員からは 「こんな風に感じられる感性がうらやましい」 「1行目から心をつかまれる」 といった感想が次々と飛び出した。
知らなかった世界がひらける楽しさ、 自分の常識や感じ方、 考え方が変わる面白さ……。 読書からは、 そんな感動をたくさん得ることができる。 感受性豊かな大学時代であればなおさらだ。 一 人でも多くの人に、 コメントカードを通して、 今しかない読書の感動を伝える喜びを感じてもらいたい。
森谷 円さん (弘前大学4年)
書名『斜陽』
太宰治/新潮文庫
小説の世界を「真っ赤な物語」と色で表現し、それが作品を象徴していることが、多くの選考委員の心をつかんだ。「何度も読んでいる小説だが、また読みたいと思った」という選考委員も。
この度はこのようなすばらしい賞をいただくことができ、驚くとともに、とてもうれしく思います。ありがとうございます。読書の楽しさは、作品中の表現や場面などから何を得るのも自由な点にあるのだと私は思います。『斜陽』は私に鮮烈で強い印象を残しました。その印象を一読者の感想として言葉にできていれば良いなと思います。
勝野皓貴さん (北海道教育大学釧路校1年)
書名『中原中也全詩集』
中原中也/角川ソフィア文庫
まず第一に驚きでいっぱいです。私はこの本から感じとったものを、多少主観的すぎるくらいに書いてしまったかと不安だったのですが、こうして銀賞という形で私の考えに少なからず興味を持ってくれたことに大変よろこびを感じています。この度はありがとうございました。
岡本智香さん (奈良女子大学2年)
書名『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』
フィリップ・K・ディック
浅倉久志=訳/ハヤカワ文庫SF
とてもうれしいです。信じられない気持ちでいっぱいです。
真田悠里さん (神奈川大学1年)
点が線になって、最終的に円になる。そんな物語たち。世の中ってなんて狭いんだろう!と思いながらも、人はそれぞれの場面でそれぞれの顔を持っているということに気付かされた。家族、友人、恋人、初対面の人、ネット上の知り合い……。物語を紡ぐ視点が変われば、同じ人がどこか別人のように見える。そして、どんな一面もいびつだ。人はみんないびつだけれど、それは決しておかしいことではなくて、いびつであることこそが普通なのだ。人は、互いのいびつさを認め合った時に分かり合えるのだろう。
大淺美里さん (愛知教育大学4年)
もう何年も会っていない、この先会うかどうかも分からない、どんな話をしていたかも覚えていないような友人の近況も、簡単に把握出来てしまう現代。「繋がった」友人の数は増えていくのみで、減っていくものを忘れ、私の世界は広がっていくばかりだと錯覚してしまいそう。そんな中で突きつけられた言葉。繋がりの数は増えていくものの、私の人生に本当に付き合ってくれる人はいったいどれくらいになっていたのだろうか。目に見えている状況に惑わされないで、流されないで、誰よりも私に真剣に向き合っていける「私」を大切に信じていかなければならないと、改めて考えさせられた。
西岡あゆ葉さん (北海道大学2年)
「あゆちゃん、前より何だか優しくなった気がする」
この本を読んでから、言葉を意識して使うようになった私に母はそう言った。言葉や口調を変えただけで人柄までも変わったような気がする。これは本当のことだと私は思う。映画『マイ・フェア・レディ』でも認められたように、美しい言葉を話す人間は美しく見られるのだ。日本には先人が残した柔らかい、温かな言葉が那由他ほどある。
便利だがどこか貧しくなってしまった今の時代に、私は生成りのようなこれらの言葉を使おうと思った。
赤道春瀬さん (岡山大学3年)
「読書感想文」。聞いただけで苦い顔になる人も多いのでは? 私を含め、苦手な人にとっては最後まで終わらない夏休み最強の敵……。でも「本を読まずにあらすじを読んだだけで書いた」人の話、聞いたことありませんか? おまけに賞をもらったとか……。本を読んでも書けない人がいるのに!?と長年の疑問でした。でも本書を読んで、その謎が解けました。読書感想文は、本の内容について語るものではないのです。どういうことか? それは本書を読んでみたらきっと分かるはずです。(注)本書は読書感想文の指南書ではありません。
他にも力作がたくさんありました。選考会で注目されたコメントの一部を紹介します。
吉光聖洋さん (北海道大学4年)
大学に入るまで、書いた文章は人の心情をいかに上手く表現できたかで評価されてきた。しかし、大学に入ると求められる文章の性質は一変した。いかに簡潔かつ正確に表現できたかで評価されるようになった。それまでの18年間で身に付けてきた作文技術は役に立たなくなり、かといって新しい作文技術を教えてもらえるわけでもなかった。提出した文章が返却された時の赤の多さに絶望していた時に、指導教員に勧められた本が『理科系の作文技術』である。レポートの書き方について極めて簡潔にまとめられており、理科系に限らず全ての学生の必携書と言える。
小野寺玲雄さん (早稲田大学1年)
「教養のある大人になりたい」という思いが私にはある。しかし、教養とは一体何たるか、教養の定義とは何か、それが分からないと教養を身に付けるための「正しい」努力ができないではないか。教養は、知識と人格との2つから成る。知識の方については、本を読めば知識は付けられる。しかし、人格の陶冶については如何なる手段を取ればよいのだろうか。そもそも人格とは何か。「やさしいので人格者」という安直な定義で良いのだろうか。人格についての本も読んでみよう。そう、これだ。1冊の本が、次の1冊へと導くのだ。
樋口 遥さん (横浜国立大学1年)
クラスの中には、いろいろな子がいる。優位に立つ子もいれば、そうでない子もクラスの中には混在する。先生は、よくできる子をほめて、できない子をできるようにするため叱ったり厳しい指導をする。“できることが幸せ"と、そう考える人が多い中、この本の著者は競争することではなく、大好きを深めていくのが学校の学びであると述べている。私は教師を目指している。教師になったら、生徒一人ひとりが様々な場面で活躍できるようサポートしたいと思う。そして私の生徒が自信をもって社会にでていけるようにしたい。
田中寿志さん (広島修道大学1年)
文学には作者の魂が宿り、私たちは読むことでその魂に触れることができる。しかしその対話の相手は作者一人に限られるのだろうか。人間は他者との関わりの中でその人格を形成する。ならば文学を通して作者の周辺の人々の心をのぞけるはずだ。この小説では芥川龍之介と菊池寛の交流がひも解かれる。芥川は菊池のことを「私の英雄」と呼んでいた。しかし芥川は自殺をした。「私の英雄」は何もできなかったのだろうか、天災の前の文学のように無用の物であったのだろうか。答えはまさに藪の中。しかし芥川と菊池の絆をたどる冒険のゴールにはとびっきりの宝物がある。それは無用・有用を越えたものだ。
渕上善夫さん (佐賀大学2年)
すさまじい熱量を持った一冊だった。犬によって構築された20世紀の虚構の世界史を加速する語りによって表現する。シェパードやアイヌ犬、さらには狼まで、さまざまな血統を持つものたちが、次々に血脈を広げ、ときには混血しながら、物語は展開する。その犬たちと人間たちとの関わりも、人間からの犬への信頼や裏切り、あるいは犬たちの反抗など多様なかたちで描き出されている。終焉へと向かうにつれて、ページをめくる指はとまらなくなり、読後、作中に登場する多くの犬たちの物語が余韻として残る。
中西聖也さん (甲南大学4年)
人生は選択の連続だ。就活の中で、「この会社を選んだらどうなるだろうか」と何度も思った。私がナミヤ雑貨店に相談するなら、きっとこれだろう。
ナミヤさん曰く、「相談者は答えを決めている」。確かにそうだなと思った。決断出来ない。勇気がでない。そんな時どうしても誰かに背中を押してほしくなる。「大丈夫、間違ってないよ」と言ってほしくなる。でも結局決めるのは自分だ。他の誰かに決められたくない。自分の悩みと向き合う。その勇気を、私にくれてありがとう。
ナイスランナー賞とは、最終選考まで残った作品の中から、上位入賞作品を除く200点の作品に与えられる賞。
評論家・フリーライター
永江 朗 氏
今年はとにかく、 皆さんが1枚のカードにびっしりとコメントを書いていた。 熱意が伝わ っ てきました。 読書体験に対してコメントする面白さや、 小さなカードに自分の思いを詰め込む興奮が、 そのまま表れていたように感じます。 SNSなどで文章をまとめることに慣れているからか、 本質をとらえつつ 「つかみ」 や 「オチ」 を意識し、 上手に表現する人が多か ったのも印象的でした。
読書傾向ですが、 インターネット発の作品、 古典と呼ばれる名作やライトノベルのコメントが多かった 一 方で、 芥川賞 ・ 直木賞の受賞作や今の純文学のコメントは少なか ったようです。 古典のような力強さを持つ純文学が発表されたら、 学生が手に取る本もまた変わるかもしれませんね。
(談)
東京大学駒場キャンパスは1・2年生がメインで、全員が教養学部前期課程に所属しています。広い視野と総合的な判断力を養うカリキュラムのためか、学生は文系・理系を問わず、自分が興味を持った本を読んでいます。私は東大生協にやってきてまだ1年ちょっとですが、東大生はいわゆる「話題の本」だけでなく、古典といわれる、高校までの教科書に載っているような本にも手を伸ばす人が多いように思いますね。
情報が簡単に収集でき、人気の小説などはすぐに映像化される現代にあって、1冊の本に向き合い、時間をかけて読むことで想像し、自分の経験にはなかったものを蓄積し、新たな発想を創造していく経験は貴重です。そして、この「想像」を「創造」に変えていく過程こそが読書のだいご味。「読書マラソン」をきっかけに、たくさんの人に体験してもらいたいです。「在学中に100冊読もう」といわれるとハードに感じるかもしれませんが、計算すると毎月2冊ちょっと。マラソンではなくて、ジョギング、あるいはウォーキングぐらいの気持ちで参加できると思います。自分の手書きのコメントを読んで、またその本を手に取ってくれる人がいる。そんなSNSとはまた違ったコミュニケーションを味わってみてください。
東京大学消費生活協同組合 駒場書籍部 店長 竹原昌樹