特集 奨学金問題を考える


奨学金問題を考える

半数近くもの学生が、返還が必要な日本学生支援機構の奨学金を借りています。ブラックバイトが社会問題化しているのも、奨学金を借りながらバイトせざるを得ない今の学生実態の一つの現れでもあります。私どもの「学生生活実態調査」でも、親の家計が厳しく仕送りが減少傾向の中、奨学金を借りてアルバイトを行う学生の姿が見えてきます。

中央労働福祉協議会での300万筆を超える署名、国民の世論を背景に、与野党そして政府も給付型奨学金の必要性に言及し、実施に向けての検討も始まりました。  全国大学生協連全国学生委員会は5月に奨学金制度に関するアピールを出して、奨学金制度の改善と学生の金融リテラシー向上を訴えています。

今回の特集では、喫緊の課題である奨学金問題に関して、専門家へのインタビュー、奨学金受給学生の生活実態、全国大学生協連が昨秋実施した第51回「学生の消費生活に関する実態調査」報告、全国大学生協連全国学生委員会の奨学金に関するとりくみなどをお伝えいたします。

日本の奨学金制度の問題点と今後の方向性

奨学金問題での日本の専門家、東京大学小林雅之先生に、全国大学生協連全国学生委員からインタビューを行い、奨学金も含めた世界の教育費の考え方や制度の比較、日本の現状と大きな問題点、これからの制度などについて、お話を伺いました。

インタビュアー

加藤 有貴
(全国大学生協連 全国学生委員長)

升本 有紀
(全国大学生協連 全国副学生委員長)

東京大学 大学総合教育研究センター
小林 雅之 教授

1953年生まれ
1976年 東京大学教育学部卒業
1982年 東京大学教育学研究科博士課程単位取得
1983年 広島修道大学講師
1984年 広島修道大学助教授
1993年 放送大学教養学部助教授
2000年 東京大学大学総合教育研究センター助教授
2007年 東京大学大学総合教育研究センター教授

文部科学省「所得連動型奨学金返還制度に関する検討会議」主査
日本学生支援機構運営評議会委員
放送大学客員教授、華東師範大学客員教授

世界的な三つの考え方

加藤 まず日本の奨学金制度の現状と問題点、他の国の学費や奨学金について、高等教育をどのように社会が支えるかという考え方の違いからくる制度の違いなどを教えて下さい。

小林 これは奨学金だけでなく授業料とあわせて、誰が教育費を負担するかという問題ですが、世界には大きく三つの考え方があります。

一つは社会が支えるという考え方。私立大学も含め授業料は無償で、すべて税金です。スウェーデンやフィンランドなど福祉国家が典型で、生活費は給付型奨学金とローンで賄っています。ドイツもそうでフランスもそれに近い。教育は社会で支える、その代わり税金が重いのです。

次に日本や韓国、台湾など東アジアで強い、家族特に親が子どもの教育に責任を負うという考え方です。南ヨーロッパも強くはないですが近いです。自分の家族にはお金は出すが、税金として出すという発想はあまりなく、そこが大きな違いです。

もう一つが個人主義で、アングロサクソン系の国、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカなどで非常に強い、教育を受けた者がお金を負担すべきだという考え方です。学生はお金をそんなに稼げないので、一つはアルバイト一つはローンで、卒業してから返していくという考え方です。

日本は家族主義が強く、公的負担が非常に少ない、OECD諸国の中で最低水準なので、家族負担がとても重たい国です。現実には今の三類型の組合せで、イギリスはかつて福祉国家で授業料も無償でしたが、今は個人主義で日本よりも授業料が高いです。

世界的にも個人主義が強くなっています。国の財政の厳しさ、大学進学率の大幅上昇、の二つの理由から、どの国も公的負担から私的

現状の問題点

小林 所得の低い人にとってローンの負担感は非常に強いので、ローンを借りずに学費の安い大学へ行く、生活費の安い自宅から通えるところに行く、短大や専門学校のように2年で修了すれば学費が半分で済む、というようにローンを回避する現象がどこの国でも出てきています。

貸与奨学金のようなローンだけでは問題は解決しないことがはっきりしてきました。日本でも日本学生支援機構の第二種奨学金が減っていますが、やはりローンを借りると大変だということが浸透してきているのですね。皆さんはどうですか?

加藤 入学時に親と相談して、「無利子の一種が借りられなかったら借りなくていいよね」と話して、結局借りませんでした。

小林 日弁連の人が言うには、日本は親が奨学金の手続きをして返している人も結構います。本人は18歳で細かいことは分からない。そこで親御さんが亡くなると大変なことになります。督促状がきても本人は自覚がないから分からないのです。

また「情報ギャップ」の問題も深刻です。正確な情報を知るのが意外と難しく、SNSにも誤った情報が流れています。日本学生支援機構も「ウェブに掲載しています」と言いますが、普通は学生はそこまであまり見ません。

アメリカでもオバマ政権時にローンが問題となり、申請すればもらえる給付奨学金を拡大しましたが、資格者の四分の一は申請していません。一つはもらえることを学生が知らない、もう一つは手続きが面倒なので借りない学生が多いということです。日本でも授業料減免があることは知っていますか?

加藤・升本 知りません。

小林 実は国立で320億円、私立で110億円ぐらいあります。私立は二分の一補助で大学が二分の一出さないといけない。国立は授業料の11%相当までの額になっています。全額や半額などありますが、一定条件を満たして申請さえすれば授業料が免除される制度です。学生の必要性に応じるニードベースと言います。

一方大学はいい学生を集めたいので、メリットベースという業績型、勉強ができる、スポーツ特待などの基準でとります。学力と所得の相関関係も強いので、メリットベースを強めると所得の高い人に結果的にお金が流れてしまう。これはアメリカでも大きな問題となっています。

そもそも奨学金は教育の機会を拡大するためのものです。それがないと進学できない人、あるいは卒業までを助ける、アルバイトをたくさんやらなくても済むようにする、これがとても大切なのです。ローンでは負担感が重たいことが問題なのです。

背景には日本が終身雇用でなくなったことが非常に大きい。非正規の増加や、正規でも3人に1人が3年以内に退職するという不安定な就業になってしまい、返済ができなくなるという大きな不安があります。

そこで所得連動型を各国も導入しています。所得が少なければ返済も少なくてよい制度です。さらに給付型を創設する方向が日本の現状です。

大学に行くことは高卒年収250万×4年間=約1千万の所得がなくなる「放棄所得」になります。逆に高卒で働かなければいけない人は、授業料が減免されても、生活費がローンだと大学に行けない、経済的支えがないと行けない。そういう人のためにも給付型が必要です。

もう一つは入学後の問題です。奨学金を借りずに、アルバイトをやりすぎて休学する学生がどこでも出てきています。中退者の調査を行っていますが、借りている人はかなり無理して進学しています。ぎりぎりの生活なので、どこかで歯車が狂うと休学や中退に追い込まれてしまい、そこから立ち直るのはとても難しい。在学中のサポートも必要です。

さらに家計急変です。親が亡くなったりリストラに遭うと、私学の授業料はかなり高いので払えなくなってしまう。機械的に対応する大学もあれば、延納や分納でぎりぎりまで待ってくれる、また大学独自の奨学金を4割ぐらいの大学でもって、何とか退学せずにすむ大学も増えていますが、公的サポートがないのです。

これからの動きと問題点


全国副学生委員長 升本 有紀

加藤 この間の所得連動返還型の動きなど、今年から来年に向けての変化を教えて下さい。

小林 奨学金の改革はできるだけ早くやった方が良い。他の国は制度を結構変えているのですが、日本は全然変わっていない。昔は1割の人だけが借りていて返済率も高かった。今は4割の人が借りていて、返さない人も出てきて、今後の制度をどうするかが大きな問題になります。

所得連動型は一つの回答で、給付型も当然必要です。今の日本はあまりに公的支援が少ないので、それに対して導入しようと進めています。

参院選を経て安倍首相もやると言っていますが、どのくらいの規模になるのかはこれからの議論です。財務省は、「お金が無い」ので「お金を増やす」ことはどんなことでも反対します。その財源論が一番大きな問題になってしまっている。財源をどうするか、規模がどの程度かが大きな問題で、解決すべき問題がたくさん残っているのです。

奨学金を借りる人は元々所得が高くない人が多い。日本学生支援機構の奨学金は、保証人を立てられない人は保証料を払うという機関保証があります。所得連動型ですと、所得の低い人は返済期間が長くなる。人的保証ではもたなくなり機関保証になる。その分お金が必要で負担が増えるので、大きな問題なのです。

さらに大きいのは、圧倒的に借りている人が多い第二種での利子問題です。所得連動型ですと、返済期間が長くなり利子が大きくなるので、低所得の人はかえって返済総額が大きくなってしまう。従って他の国の所得連動型は大体無利子が基本です。

三世代にわたって

小林 今の学生が親になったときに、個人主義に移ることは、大きな教育観の変化ですが、あまり議論されていない。日本は家族主義で、結婚する時に夫婦とも奨学金を借りていると、二人で何百万も背負ってどう返すのか。自分の教育費を返済しながら、あわせて子どもの教育費も払わないといけない。三世代問題にもなりうることです。教育問題にとどまらず、家族や福祉の問題にもなる幅広い問題なのです。

升本 全国高等学校PTA連合会の事務局長にお話を聞く機会がありました。子どもの大学進学を考えている親御さんも、本当にお金がなく、将来どうなるか分からない、でも大学進学には奨学金を借りざるを得ない。労福協の調査で34歳以下の人で奨学金を借りたことのある人が5割以上いるとなると、もう三世代問題になるという不安があります。

小林 家族の中でファイナンシャルプランができるか、正確な情報をどうつかまえるかです。一つは高校での教育が大きい。先生によって違いがあるし、文科省の人は「高校家庭科でローンの話は教えています」と言っています。それだけでいいのか? 現状が厳しいのなら、厳しいと正確に伝えた上で、どういうプランを作るのかが必要なのです。

例えば「日本学生支援機構の奨学金は3%の利子で高すぎる、民間ローンは2・何%だから借りました」と言う方がいますが、現実的には日本学生支援機構の最高利率は3%で、実際の今の利子は民間ローンよりも低い。間違った情報を鵜呑みにしてしまうケースが非常に多いのです。

もう一つ深刻なのは家族問題です。奨学金を親が使ってしまうケースがとても多い。生活費に使ってしまい、子どもの授業料が払えない。大学や高校がどこまで関われるかもとても難しい。中退調査でも、親は4年間しか授業料を払わない約束だったのに、留年してしまった。親は一切払わないと言ってケンカになってしまい、中退になった。この場合も大学の関与はとても難しいのです。

正確な情報を学ぶには

升本 正確な情報を伝える、学ぶということで、私たち全国学生委員会が作成した「奨学金制度の充実に向けたアピール」の三つ目に、金融リテラシーの学び合いをすすめることを掲げていますが、どこから始めたらよいでしょうか?

小林 大学に通うにはいくらお金がかかるかを、正確に把握することです。生活費、下宿ならアパート代金、自宅ならどうなるか。その次にはお金の調達にはどういう手段があるか?日本学生支援機構、都道府県、地方公共団体、大学自身がやっているものもあります。

郊外の大学で大学のそばにアパートを借りると、アルバイトするのに時間をかけて行かないといけない。大学によっては学内バイトを結構させていて、学生もアルバイト経験ができる。それが分かればある程度安定した生活を送れる。

休学の場合、国公立は授業料は不要だけど私立は結構払う大学が多い、などいろいろな情報を知ることがとても大切です。生協はそういうことを伝えられる立場にあります。大学生協の「学生生活実態調査」もそのためにやっていますよね。

学生への期待


全国学生委員長 加藤 有貴

加藤 最後に学生への期待を教えて下さい。

小林 学生のネットワークも結構あって、私にコメントを求めることも結構あります。東大にも学生ネットワークがあり、また奨学金に関心のある中学生がインタビューに来ます。問題意識のある学生はそれなりにやっています。それが学生全体にはなかなか広がらない。でも大きな問題だし若い人もやっと関心をもってきているので、それがまず大事です。

お金を出さない財務省があって実際いくらの制度になるのか。家族主義が強い中、自分の子どもにはお金を出すが、社会が教育に出すようにはなっていない、その日本国民の考え方を変えていかないと変わりません。

一方孫の教育資金は1500万円まで非課税の贈与制度ができて、それが1兆円にもなります。自分の子や孫のお金を社会の教育に使えば、例えば1兆円の1%でも100億なので、とても大きいのです。そういう仕組みを考えないといけないし、意識もしていく。それには考えを柔軟に変えられる若い人から、考え方を変えていくことが重要ですね。

加藤・升本 本日はありがとうございました。

(編集部)


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