佐野 史郎さん × 山本 恭司さん インタビュー

なぜそう思うのか 子ども自身の意見を尊重して

顔写真

俳優: 佐野 史郎さん
ギタリスト:山本 恭司さん

コロナ禍で生活スタイルや価値観が大きく変化した今、どのようなことを心がけて進路を選べばよいのだろうか。また、親はどんな姿勢で子どもと関わることが求められるのだろうか。高校の同級生である佐野史郎さんと山本恭司さんに、高校生と保護者へのメッセージをいただいた。

(右)佐野史郎さん(さの・しろう) 
1955年生まれ。島根県松江市出身。高校卒業後、上京して美学校で学びながら芝居を始める。劇団シェイクスピア・シアターの創立に参加後、状況劇場を経て、1986年「夢みるように眠りたい」で映画デビュー。個性派俳優として数多くの作品に出演し、映画監督や音楽活動など様々な分野で活躍。

(左)山本恭司さん(やまもと・きょうじ) 
1956年生まれ。島根県松江市出身。15歳でギターを始め、高校卒業後、ネム音楽院(現・ヤマハ音楽院)に入学。20歳でロックバンドBOWWOWのギタリスト・ボーカリストに抜擢され、キッスやエアロスミスの日本ツアーに同行して注目を集める。その後はVOW WOWを結成し、ロンドンを拠点に海外で約4年間活動して高い評価を得る。

青春ドラマのように夢を語った高校時代

―― おふたりは松江南高校時代の同級生だそうですね。

山本:
高1の頃から音楽好きなメンバーでセッションをしていて。僕にギターのコードを教えてくれたのは佐野なんですよ。
佐野:
出会ったのが恭司が15歳のときだから、今年でもう49年になるのか。
山本:
そう考えるとすごいね。
佐野:
恭司とは高3のときに、教室の前の踊り場で「俺は俳優になる」「俺はギタリストになる」と青春ドラマのように語り合ったよね(笑)。

印象に残る学生時代の読書体験

「小泉八雲朗読のしらべ」
佐野さんが脚本と朗読、山本さんが音楽と演奏を担当する「小泉八雲朗読のしらべ」は2007年より開催。海外公演も好評を博している。

―― 学生時代にはどのような本を読まれていましたか。

佐野:
小泉八雲の怪談話は、人間の奥深くに根差した感覚が描かれていて印象的でした。八雲が日本にやってきた当時の風景を描いた『知られぬ日本の面影』は、声に出して読むと自分が明治時代に生きているかのような感覚を味わえます。その感覚を通して自分を見つめ直すと、今を生きているのがすごく大切なことだと思えるんですよね。
山本:
筒井康隆さんの作品は、「こんなことまで書いていいの?」と思えるような人の心の闇が描かれていて、固定観念にとらわれないところが好きでした。『家族八景』に始まる七瀬3部作を読んだときはかなりの衝撃を受けて、僕自身も人の心の裏を読む癖がついてしまったほどです。

何をやりたいのか考え抜くことが大切

「佐野 史郎さん
佐野 史郎さん

―― 進路を選ぶにあたって大切なのは、どのようなことだとお考えでしょうか。

佐野:
大学を目指すのであれ何であれ、「何を学びたいのか」を自問自答することが大切だと思います。「とりあえず大学に行こう」というところで思考を停止してしまうと、その先何をしたいのかが分からなくなってしまうような気がします。
山本:
僕がネム音楽院に進んだのは、ギターを弾けば弾くほどほめられる環境に身を置きたかったから。自分の能力を伸ばせるのであれば「大卒」という肩書にとらわれる必要はなくて、専門学校へ進むという選択肢もありますよね。
佐野:
僕は幻想怪奇的な世界に興味があり、自分の適性を活かしながらそういった世界を表現できる方法を考えて俳優を志したわけですが、「何をやりたいのか」「自分はどういうものに活かせるのか」を常に考えていたことが今につながっています。

コロナ禍の変化を乗り越えるために

山本 恭司さん
山本 恭司さん

―― コロナ禍で世の中は大きく変わりました。この変化をどのように受け止めていらっしゃいますか。

佐野:
思うようにいかないことも含めて、今ある状況を一旦受け止めて楽しめるといいですよね。無理に前向きに生きようと考えると、負担になってしまうかもしれないので。俳優の仕事でいえば、例えば舞台で、せりふを忘れるといったアクシデントも含めて全てが表現なんです。できないことはできないと一旦受け入れると、どんな状況でもなすべきことが見えてくるように思います。
山本:
ライブもそう。電源が止まってマイクなしで歌ったこともありますが、危機を乗り越える方法は1つだけではなくて、いろいろな切り抜け方があるもの。落ち込もうとすればいくらでも落ち込めるけれど、今の生活をすることで得られた時間や経験をどう活かしていくかを考えた方がいいよね。

「居てくれればいい」と子どもを肯定する存在に

―― 高校生と保護者に向けたメッセージをお願いします。

佐野:
高校生の皆さんは、誰かから「こうしなさい」と言われたとしても、本当にそうすべきなのかを自分で考えてみてほしい。「やらされている」という感覚は被害者意識を生み、うまくいかなかったときに他人を恨む負のスパイラルに陥りがちです。「なぜそうすべきなのか?」「自分はどうしたいのか?」と、自分自身としっかり会話することが大切だと思います。
山本:
佐野はお父さんが医者だったから「医者になれ」と言われていたし、僕も公務員の親から「地方公務員になれば間違いない」と言われていた。それでも自分がやりたいことを考えたからこそ、今があるわけだしね。
佐野:
進路に関して親子の意見が食い違うときは、「なぜこの道を勧めるのか」「なぜそれでは嫌なのか」を徹底的に話し合うことが大切。親は自分の意見を押し付けるのではなく、子ども自身の意見を聞いて、しっかりコミュニケーションをとってほしいと思います。
山本:
人は誰でもその人にしかない才能を持っているはず。だから自分にブレーキをかけちゃいけないし、親は子どもをよく観察して、その子が興味をもっていることをやらせてあげた方がいい。
佐野:
コロナ禍で改めて感じましたが、子どもが幸せに生きていてくれれば、それが親の幸せにつながります。こんな時代だからこそ、どんな進路を選んだとしても、親が「居てくれるだけでいいんだよ」と子どもを肯定できるといいですよね。