大学生協の保障制度

【対談】保護者は子どもの前を歩かず、後ろ姿を見守って

大森美湖先生(東京学芸大学准教授)×馬渕麻由子先生(東京農工大学准教授)

心身ともに健康な大学生活を送るために、高校生はどのような心構えをしておくべきか。そして、保護者は子どもにどう関わっていけばよいのか。大学生のメンタルヘルスサポートを行っている大森美湖先生と馬渕麻由子先生に話を聞いた。

東京学芸大学 保健管理センター
大森 美湖先生

おおもり・みこ 東京学芸大学保健管理センター 精神科医・臨床心理士。大学生をはじめとする思春期疾患治療・教職員のメンタルヘルス・家族療法などを行っている。

東京農工大学 大学教育センター
馬渕 麻由子先生

まぶち・まゆこ 東京農工大学大学教育センター 特別修学支援室 カウンセラー(臨床心理士)。心身の障害や病気を抱える学生への修学や就職の支援を行っている。

環境変化やストレスに対処する方法を今のうちに見つけておく

――今どきの大学生からは、どのような相談が多いのですか。

大森
新入生の場合は、大学に入学したけれどイメージが違った、一人暮らしでホームシックになったといった話が出ることがあります。以前に比べ、新しい環境に適応しにくい人が増えているという印象を受けます。
馬渕
入学当初から就職のことを心配している学生も非常に多いですね。いつ頃から就職活動を始めればいいのか、とか。それと、対人関係に関する相談はやはり多いです。

――高校生が心身ともに健康に大学生活を送るために、
  今から心掛けておくべきことはありますか。特に生活面で。

大森
1つの行動パターンしかとれない人はストレスへの対処が上手ではないように感じます。ですから、受験勉強中でも合間に運動や散歩をするなど、意識して行動や生活のパターンを変えてみてほしいんです。そうすると大学に入って生活が変わっても、過度なストレスを抱えにくくなるのではないでしょうか。
馬渕
確かに、勉強ばかりで身体を動かしていない学生は、睡眠のリズムが崩れたり、気持ちのコントロールがあまり上手くないことがあります。
大森
あとは、ストレスを解消する方法が複数あるといいですね。例えば食べることが唯一の解消法だと、過食で体重が増え、さらにストレスを抱える場合も。いろいろ試して自分なりの解消法を見つけてほしいと思います。

保護者は過干渉せず子どもの後ろ姿を見守ってほしい

――保護者は受験期の子どもにどう関わるべきでしょうか。

大森
保護者の方にぜひ伝えたいのは、子どもの前を歩いてレールを敷かないでほしいということです。実は、自覚のないままそうしている方が非常に多いんです。子どもに失敗させないためにとか、子どもによかれと思うあまり、こうしたほうがよい、ああしたほうがよいと言ってしまう。それで子どもがメンタルヘルスの問題を抱えてしまうケースも少なくありません。
馬渕
私は受験生やその保護者と話す機会も多いのですが、特に子どもの中学受験を経験した保護者に、当時と同じ気持ちで大学受験をサポートしてあげたいという方が多いんです。でも、中学受験をした6年前と大学受験をする今とでは、子どもの心の発達具合は大きく違います。保護者が転ばぬ先の杖になるよりも、子どもに前を歩かせ、決めさせたほうがうまくいきますよ、という話はよくします。
 また、「子どもに何をしてあげればよいか」とよく聞かれますが、特別なことをしてあげなくても見守るだけで十分だと思います。それだけで子どもには、「あえて勉強しろとか頑張れとか言わず、黙って自分を見守ってくれているんだ」ということがしっかり伝わりますから。子どもは意外と保護者の言葉を聞き、態度を見ているものです。
大森
子どものタイプを見極めることも大切です。私たちのところに相談に来る学生は、自己主張が苦手な人が多いんです。だから、保護者が前に出過ぎると保護者に合わせてしまう。その結果、子ども自身の力がどんどん削がれてしまうんです。自己主張ができない子どもほど、保護者は前を歩かず、本人が言いたいことを言える雰囲気を作ってあげてほしいと思います。
馬渕
大学受験でも大学生活でも、うまくいかないことはあるはずです。でも、逆にそれをバネにして成長していく学生を、私はたくさん見てきました。失敗することは必ずしも悪いことだとは限りません。だから、怖れずにいろいろなことに挑戦させてあげてほしいと思います。
大森
そして、もしもそれで子どもが悩んだり苦しんだりしていても、保護者にはその姿を後ろから見守っていてほしいですね。ところで、こうした過保護ともいえる保護者がいる一方で、子どもに無関心な保護者もいます。
馬渕
こちらも問題です。やはり保護者と子どもの対話は多いに越したことはないので。
大森
対話することによって答えが出てくるし、子どもは保護者が自分に関心をもっていることを感じられますしね。
馬渕
たとえお互いの意見がぶつかっても、子どもが自らを発信する経験をしておくことは大切です。こうした力は、特に大学に入ってから求められます。

心の悩みは一人で抱えず必ず誰かに相談を

――もしも、大学入学後に心の悩みを抱えてしまった場合はどうすればよいでしょうか。

大森
重要なのは、悩みを自分一人で抱え込まないことです。友達や保護者、教員など、自分が一番話しやすい相手に、まず相談してほしいと思います。
馬渕
最近は多くの大学が、私たちのようなカウンセラーがいる相談窓口を設けています。メンタルヘルスの問題などと聞くと身構えてしまうかもしれませんが、進路や友達関係の悩みなどちょっとしたことでも相談できます。また、保護者の方も、子どもにどう対応すべきかわからないといった場合は、遠慮なく利用してほしいと思います。

『保護者のための大学生活入門』より転載


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