尾木直樹さん —新入生・保護者へのメッセージ—

山崎直子さん-「伝えたいこと」を探すプロセスを見守って-

 従来の価値観が通用しない社会の大転換期に、高校生の保護者は子どもの進路選択にどう向き合えばよいのか。「尾木ママ」として広く知られる教育評論家の尾木直樹さんに、保護者へのアドバイスを語ってもらった。

(文・安永美穂)

きちんとした 時代認識を持って

我が子の大学選びについて、親にとって一番重要なポイントは、偏差値という輪切り的な価値観で捉えないことです。偏差値のみで比較して、「合格の可能性が75%もあるのだから、偏差値の高いこの大学を受けてみたら。どうして低いほうを受けるのか」などと言う親がいますが、「高い」「低い」は禁句ですよ。また、「お父さんの時代は、その大学は誰でも入れた」なんて、絶対に言わないでほしい。

子どもが大学選択を考える際に必要なのは、「何を目指しているのか」、「どういう学びやスキルを求めて大学に行くのか」、あるいは「どんなキャンパスライフを送りたいのか」といった目的です。親としては、それらについて一緒に話し合ったり、子どもが自分で考えて決めるのを支援したりする。大学選びでは、それが大前提になります。

親が大学を偏差値で判断してしまうのは、時代認識ができていない証拠です。安定した学歴社会が続いているというのは幻想で、それはとっくに終わりました。高度経済成長や右肩上がりの社会があり得ないと頭ではわかっていても、我が子の大学進学になると、「偏差値の高い大学に入れば一流企業に入れて幸せになれる」という感覚からまだ抜け切れていない親が多いのです。

まずは親が今という時代をきちんと認識し、さまざまな話題、ニュースに対して自分の見解を持つことが大切です。例えば集団的自衛権のことでも、親が少し学んだ知識を受け売りで話したところで、子どもには響きません。親が自分の見解をしっかりと言えるのが理想ですが、それが難しければ「お父さんもわからないから、一緒に勉強してみるよ」という姿勢が大事。そのほうが、子どもが安心して進学のことも相談しようと思いますし、むしろ尊敬されるかもしれません。

一人一人が主役の 時代を生き抜く力

子ども自身も、いろいろなニュースに興味を持ち、グローバルな視点で情報をつかみとる力や発信していける力を身につける必要があります。さらに重要なのは問題解決能力です。今の時代は、経済も社会の面でも物事が単純ではなく、正解が一つではない状況を迎えています。一つしかない答えを速く出すのは全部コンピュータがやってくれるので、人間には、幾通りもの柔軟な答えを導き出せるような深い洞察力、いわゆる問題解決能力が求められているのです。

それらを身につけるには、日ごろから何事にも「なぜ」と疑問を抱くこと。常に問い続けて、パソコンを駆使するなどして情報収集し、自分なりの答えを探求する。そのような主体的な姿勢が不可欠です。

これまでの教育の基本姿勢は適応主義で、大学でも学生に、社会に適応する力、社会で求められる力を育むような教育が行われてきました。しかし、大転換を迎えた激動期の今、従来のような安定した社会の枠組みは無くなっているのです。「リーダー」に頼ってついていけばいい時代ではなく、一人一人が主役なのです。「社会についていく」と考えるのではなく、主役として、自分の人生や社会を切り開いていく。親としては、子どもにその力をどう身につけさせるか、つまり自立させるか。我が子の幸せは、そこにかかっていると言えます。

同時代を生きる 仲間として

この複雑な現代をどう生きていくのかというのは、子どもの課題と同時に、親自身の課題でもあります。

例えば今50歳だったら、今後、命がなくなるまでどういうことを重視した人生を切り開いていくのか。安定した枠組みが無い状況で、それは大きな課題だと思います。

単純な価値観でなく、歴史観や社会観といった深い部分まで親が世の中の動きに目を向け、自身を塗り替えていく必要があります。価値観も多様化・複雑化する現代で、子どもに一方的に生き方などを教えようと思っても、なかなか難しい。だからこそ同じ時代を生きる仲間として、パートナーシップで向き合う姿勢が重要です。そして、それは先生と生徒との関係でも一緒。そうすることで、お互いに力を十二分に出し合えると思いますよ。

おぎ・なおき 

1947年滋賀県生まれ。教育評論家、法政大学教職課程センター長・教授。 中学、高校での20年以上の教員生活を経て、教育評論家に転身。現在も教壇に立つ傍ら、主宰する臨床教育研究所「虹」では、子育てや教育に関する、現場に密着した調査・研究に取り組む。近年では教養番組をはじめ、情報・バラエティ番組、CM等にも多数出演し「尾木ママ」の愛称で幅広い世代から親しまれている。『尾木ママの子どもを伸ばす言葉 ダメにする言葉』(成美堂出版)など著書も多数。

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