第9回全国院生生活実態調査 概要報告

2017年5月31日
※データの無断転載はお断りします

全国大学生活協同組合連合会(以下 全国大学生協連)は、2016年秋に第9回全国院生生活実態調査を実施いたしました。

全国院生生活実態調査は、大学院生の生活実態を調査し、院生生活を向上させるために3年に1度実施している調査です。全国規模で大学院生の生活について調べた調査は希少で、「普段どんな生活をしているかわからない」と言われることが多い大学院生の生活の実態を知る上で貴重な調査となっています。

<今回の調査結果の主なポイントとして以下の3点があげられます。>

1
奨学金問題が社会問題として取りざたされる中、奨学金を借りる大学院生は減少。借りている院生に関して、3人に2人が返済に不安を抱いているということがわかった。
2
院生の5人に1人が、「生活が苦しい」と回答。3年前と比べ減少に転じているが、学部生の回答と比べ2倍以上の差が見られた。背景としては、奨学金を利用する院生の減少、学部生と比べアルバイト収入がなく収入が落ち込むことから、支出を抑えている現状がある。
3
「悩み・ストレス」がある院生が増加。8割を超える女子院生が「悩み・ストレスがある」。その多くは、研究活動や将来の進路であり、大学院は女子構成比が低く、身近に相談相手がいないことが要因の1つと考えられる。

はじめに 調査概要とサンプル特性について

<調査概要>

調査の目的

大学院生の経済的生活、日常生活、研究生活、進路、生協事業のとらえ方などを明らかにし、結果を大学生協の諸活動や事業活動、大学院生の研究生活向上にいかす。

調査方法

Web調査。各生協の組合員名簿などから抽出し、調査回答用のURLを案内し、回答を得た。

調査実施時期 

2016年10月17日〜11月8日

調査対象 

全国の国公立および私立大学に在籍する修士課程(博士課程前期)・博士課程(博士課程後期)・専門職学位課程の大学院生

回答数 

3,855

<サンプル特性>

  • 第9回全国院生生活実態調査は18大学生協が参加、3,855名から回答を得た。
  • 前回の構成に比べ、国公立大の比率が増加、私立大の比率が減少し、文系専攻の比率が減少しているため、単純な経年比較が難しい項目もある。ただし、男女、学年、留学生の構成比については大きな変動がないため経年比較についても取り上げた。
  • 前回の構成に比べ、下宿比率と実験を行う研究スタイルの比率が増加している。
  • 今回に限ったことではないが、調査における専攻比は文系1.8:理系7.3:医歯薬系0.9となっており、調査全体の結果として理系の影響を受けやすくなっている。

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1.大学院生の経済生活

(1)1ヶ月の生活費(図表1)

※1ヶ月の生活費はサンプルによるデータのばらつきが少ない修士課程についての報告とした

収入、支出ともに3年前から減少
収入面では、自宅生は「小遣い」が、下宿生は「奨学金」「アルバイト収入」が大きく減少し、
支出面では、自宅生・下宿生ともに「貯金・繰越」が大きく減少した
「奨学金」は敬遠傾向、さらにアルバイト収入も落ち込み、将来に向けての貯金や繰越が困難に

1)自宅生の生活費

① 収入
「合計」76,830円(13年比-10,710円)、「奨学金」24,660円(同-2,410円)、「小遣い」17,880円(同-5,050円)、「アルバイト収入」20,770円 (同-310円)。

② 支出
「合計」74,230円 (13年比-11,520円)、「食費」17,180円 (同-510円)、「趣味・娯楽費」12,560円 (同+940円)、「交通費」8,260円 (同-790円)、「貯金・繰越」12,070円(同-7,770円)。

2)下宿生の生活費

① 収入
「合計」124,260円 (13年比-7,990円)、「仕送り」59,100円 (同+2,840円)、「奨学金」35,180円 (同-8,630円)、「アルバイト収入」17,870円(同-3,070円)。

② 支出
「合計」121,740円 (13年比-9,590円)、「住居費」48,050円 (同-1,910円)、「食費」29,550円 (同+560円)、「貯金・繰越」8,010円 (同-7,880円)、「趣味・娯楽費」12,470円 (同+530円)。

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(2)奨学金の受給・学費の負担(図表2〜4)

奨学金受給率は3年前から減少。一方で、学部から継続しての貸与型奨学金受給が4人に1人
「返済に不安」が受給者の3分の2を占める

  1. 奨学金の受給率は全体で46.4%(自宅39.6%・自宅外50.5%)。3年前と比較し、3.8ポイント減となった。
  2. 奨学金の使途については3年前と大きな変化はなく、生活費に充てている院生が33.5%を占めている。
  3. 将来、奨学金の返済を不安に思う院生は全体の26.3%を占め、貸与を受けている院生(39.9%)の3分の2を占める。
  4. 学部生時に貸与型奨学金を受給していた院生は全体の31.5%おり、学部から大学院を通じて奨学金の貸与を受けている院生が23.0%に上る。学部・大学院両方での貸与型奨学金受給者は74.8%が将来返済することに不安を感じており、大学院のみでの受給者の不安(56.7%)を大きく上回る。
  5. また学費の負担者をみると、「親」は58.5% (自宅54.6%・自宅外60.8%)を占めているが、前回より11.9ポイントも減少している。さらに「本人(貯金・アルバイトの賃金など)」も前回より10.7ポイント減となり、自宅生(13.0ポイント減)、医歯薬系(17.8ポイント減)の減少が大きい。
  6. 研究のための拘束時間が長くアルバイトに時間を割きづらい理系・医歯薬系の影響により「本人(奨学金)」が1.7ポイント増と若干増えている。また学費の全額免除を利用している院生は1割を超えている。
  7. 無回答が全体の1割以上おり、学費負担に関する意識が薄い院生が一定数存在していると見られる。

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(3)アルバイトについて(図表5)

就労機会は増えたものの、時間・賃金は減少
進学後のアルバイトは「学業・研究が忙しく」継続が困難な院生が半数

  1. 現在アルバイトをしている大学院生は60.0%で、13年比で17.2ポイント増と増加が大きい。しかし週の就労平均時間は0.6時間減、1時間当たりの賃金も104円減、また「1ヶ月の生活費」でのアルバイト収入も減少しており、拘束時間が短く、賃金が低いアルバイトに従事する院生が増加していると見られる。
  2. アルバイトをする主な理由としては「趣味娯楽費のため」26.0%(自宅34.5%・自宅外20.8%)、「食費や住居費などの生活費を補うため」24.0%(自宅13.0%・自宅外30.0%)と住まいによる違いは見られるものの、前回調査との構成比の変化はない。
  3. 現在はアルバイトをしていないが、大学院進学後はアルバイトをしていた院生が19.4%(文系14.1%・理系21.4%)であった。辞めた主な理由として「学業・研究が忙しくなった」が11.0%(文系7.7%・理系12.0%)と半数以上を占め、近年アルバイトに前向きな傾向が続く学部生とは違い、院生のアルバイト事情には時間的、精神的な制約が大きい。

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(4)暮らし向き 学部生と院生・文系と理系(図表6〜8)

院生の「暮らし向き楽」は約4割。専攻による感じ方の違いは、学費や研究費の負担の違いか?

  1. 現在の暮らし向きについては3年前と変化はなく、「やや苦しい」+「大変苦しい」が22.5%と学部生の「苦しい方」+「大変苦しい方」8.9%に比べ2倍以上の差があり、感じ方の違いが明らかになった。
  2. また暮らし向きの感じ方は院生の中でも文理の差があり、「大変楽である」+「まあ楽である」は理系41.6%に対して医歯薬系34.4%、文系31.7%、反対に「やや苦しい」+「大変苦しい」は文系32.2%、医歯薬系27.6%に対して、理系19.5%と、理系と比較して苦しいと感じており、専攻に差が出た。
  3. 1ヶ月の生活費の構成比を見ても、文系は書籍購入費が5.1%と理系より3.0ポイント高く、理系は「趣味・娯楽費」が11.7%で、文系より3.3ポイント高く、総じて研究活動として実験やシミュレーションが多い理系に対し、論文調査が多い文系といった違いによるものが大きいと思われる。
  4. また文系は学費の負担者をみても「本人(貯金・アルバイトの賃金など)」が17.2% (理系6.3%)、「親」が49.6% (理系61.4%) と本人の負担割合も大きい。文系学部生の53.1%が「楽」と感じている暮らし向きが、院生になると31.7%にまで下がる(理系は学部生51.4%、院生41.6%)ことも、文系院生の暮らし向きの特徴として見られる。

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2.大学院生の研究生活

(1)大学院進学を決めた時期(図表9〜10)

大学院への進学決定時期は「大学入学前」の理系と、「大学4年生」の文系

  1. 大学院修士課程への進学は22.8%が「大学入学前から決めていた」と回答しており、文系が12.5%であるのに対し、理系では25.5% (07年18.0%→10年22.0%→13年25.2%)と、大学入学前から4人に1人は院進学を決めている。
  2. 背景としては、入学案内等により理系を中心に院への進学率等が説明され、受験生にも修士進学を前提に、学部4年間に修士2 年間を加えた 6 年間を大学生活と捉えることが増えてきているためであると思われる。
  3. 進学を決めた時期で最も多いのは、全体では学部3年時の31.6%となった。しかし文理別でみると、文系は学部4年時の34.9% (理系24.0%)が最も多く、理系とは違う傾向が見られており、この傾向は3年前の調査から継続している。理系は学部3年時に研究室配属が行われ、就職か進学かの決断がなされるが、文系は就活を経たうえで大学院への進学決断となる人が多いと考えられる。
  4. 進学した動機として最も多いのは「高度な専門知識や技術を身につけたかった」(全体66.9%・文系 71.5%・理系 65.9%)で、学部より大学院の方が専門知識を身につけられるというイメージを持つ傾向が見られる。
  5. 文系と理系の進学理由の差が大きいものとして「資格を取得するため」(文系35.7%・理系2.9%)「就職に有利だと思った」(文系14.0%・理系57.0%)、「進学するのが当たり前だと思っていた」(文系4.8%・理系42.2%)、「自分の周りの人が進学した」(文系3.5%、理系21.0%) があり、文系の院生は「資格を取得するため」などの能動的な動機が多かったのに対し、理系の院生は「進学するのが当たり前だと思った」「自分の周りの人が進学したから」といった受動的な動機が多く、この傾向は3年前と変わらない。

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(2)卒業・修了後の進路(図表11)

就活時期の変更は大学院生の就活にも影響

  1. 就職活動経験者が考えている就職先には、文系と理系で差が見られ、「一般企業」は40.9% (文系13.3 %・理系 48.7%)、「公務員」が5.0% (文系 10.5%・理系 3.8%)であった。文系は大学院で研究した専門性を活かせる職業(場面)が理系より少なく、就職先に公務員が検討されることが多くなると思われる。
  2. 就職活動の進め方については、全体では「学校推薦のみ」が2.3% (10年11.2%→13年9.8%)に留まり、減少傾向が著しい。多くは「自由応募のみ」29.5%(文系29.3%・理系28.9%)と「自由応募と推薦の両方」19.7%(文系1.5%・理系25.3%)であり、そもそも枠の少ない文系ではほとんど学校推薦を用いていない。
  3. また、大学院進学が就職に有利だったこととして、「希望の職種に就ける」14.4% (文系5.0%・理系16.4%)、「推薦が得られる」9.7% (文系0.3%・理系12.8%)、「給料が高い」9.2% (文系6.2%・理系 10.2%)などが多かった。一方で「特にない」も13.2% (文系17.5%・理系12.1%)という結果も得られた。
  4. これらの結果に加え、修士課程への進学の動機で「就職に有利」が文系14.0%、理系57.0%であった結果も考慮すると、理系は大学院へ進学することが就職に直接関わる傾向が見られるが、学校推薦ではなく自由応募が多い現状から、学歴と併せて個々の能力もより問われるようになってきていると思われる。
  5. 就活期間は2ヶ月〜4ヶ月が18.7%(就活した人を100として36.0%)、4ヶ月〜6ヶ月が7.8%(同15.0%)であり、平均期間は4.8ヶ月(10年7.4ヶ月→13年6.5ヶ月)となった。16年に就活の開始時期が3月に変更となり、前回の調査と比べると2ヶ月程度就活時期が短くなり、3月から7月中旬までが平均的な就活期間であると思われる。
  6. また博士課程に進学予定の修士課程の院生は9.1%(文系18.7%・理系7.2%)となっている。一方で「まだ決めていない」修士課程の院生は4.3%(文系11.8%・理系2.9%)であり、理系の多くの院生は就職か進学かを在学時の早い段階で決めている。
  7. 修士の時点で就職する理由として、「社会に出たい」が71.4%(文系48.2%・理系75.9%)と多くを占める一方で、「経済的事情」(26.1%)、「研究に興味がなくなった」(9.9%)、「研究活動に不満がある」(6.3%)と後ろ向きな理由も見られる。

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3.大学院生の日常生活

(1)1週間の登校日数、研究のコアタイム(図表12〜15)

コアタイムなし院生の1日の研究時間は10時間と長時間におよぶ

  1. 大学院生の登校日数は週平均5.1日と、過去3回の調査結果から0.1日増加。「週7日」が7.3%と減少傾向が続いている。
  2. 「コアタイムあり」と回答した大学院生は28.5%(文系3.6%・理系33.4%・医歯薬系38.3%)。修士課程は31.3%に対し博士課程は18.5%であった。コアタイムの開始時刻は修士課程が10時台、博士課程は9時台が最も多く、平均時間は修士7.8時間、博士8.5時間と差が表れた。
  3. またコアタイムがない院生も研究平均時間は修士8.8時間、博士10.0時間で、コアタイムの有無に関わらず、研究室に長時間いる院生の生活がわかる。

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(2)悩み・ストレスについて(図表16〜18)

「研究活動」への悩み・ストレスは大きく、研究室での環境が大きく作用する

  1. 「悩み・ストレスがある」と答えた大学院生は72.3%で、3年前までは減少傾向が続いていたが、今回の調査では上昇が見られた。「悩み・ストレスがある」は男性の68.8%に対し、女性は81.3%と高い。
  2. 悩みとして最も多いものは「研究活動」が54.2%で、「将来の進路」が39.8%と続き、「将来の進路」については文系が50.1%で、理系36.5%や、医歯薬系45.5%と比較しても高い傾向にある。
  3. また男性と女性を比較すると、「政治や社会」「その他」を除くすべての項目について女性の比率が男性を上回った。特に「研究活動」「将来の進路」「学内や研究室の人間関係」「結婚・婚期に関すること」は男性より10ポイント程度上回っており、研究室における女性比率の低さや相談環境が整っていないことが考えられる。
  4. 経年の変化では、「研究活動」が上昇しており、「将来の進路」が減少傾向にある。研究活動においては複数の要因があるが、ここ数年でアカデミックハラスメントやパワーハラスメントなどの言葉が広く使われるようになり、研究室内の環境を社会的な背景から認識するようになったことも一つの要因として考えられる。また就職状況が好転していることや、大学院進学前に就職を意識するということが「将来の進路」の不安の減少に影響しているとも考えられる。
  5. 悩み・ストレスについての相談相手が「いる」大学院生は77.4%(男性73.4%・女性86.3%)で、 相談する相手(単一回答)としては「友人」が最も多く22.3%、次いで「親」16.7%、「同じ研究室の人」12.8%であった。「教員」は3.0%(男性3.3%・女性2.3%)で、学部生(全体0.7%・4年生1.4%)と比較すると多いものの、少数である。院生になり、研究面での教員との関わりは深まるが、日常的に相談する環境や関わりは少ないことも背景にあるのではないか。

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(3)日常生活(図表19〜21)

1日の時間軸は学部生より後ろ倒し。「読書」の概念は広いものの、読書時間「0分」も35.6%

  1. 起床時刻は「6時前」2.5%、「6時〜7時」9.0%、「7時〜8時」25.7%、「8時〜9時」32.4%。自宅は「7時〜8時」(33.4%)、自宅外は「8時〜9時」(34.5%)が最も多い。自宅、自宅外ともに7時までの早い時間帯が3年前から減少している。
  2. 就寝時刻は「24時〜」が91.4%(自宅89.0%・自宅外92.8%)で、自宅が13年から4.1ポイント、自宅外も4.8ポイント増であった。
  3. また食事時間においても学部生と比較すると、「朝昼兼用食」「中間食」「夜食」の3項目で10ポイント近く上回り、大学院生の生活時間は学部生より後ろ倒しになっている。
  4. SNSやメディアとの接触時間をみると、スマートフォンや携帯電話に費やす時間が3年前と比べ、1日平均22.6分増加している。13年からの大きな変化としては、SNSが急速に普及し、1日平均35.1分を費やしているため、その分がスマートフォンや携帯電話に費やす時間の上昇に関係していると考えられる。
  5. メディアへの平均接触時間に文理による差はあまり見られないが、文系は「新聞」10.6分 (理系 4.9分)、理系は「PC」70.4分 (文系65.6分)の接触時間が比較的長い。
  6. 1日の平均読書時間は、理系が25.0分、文系は92.3分と理系と文系の差が顕著に表れた。1日の読書時間が「0分」と答えた院生は学部生の49.1%を下回ったものの35.6%に上っている。また「読書だと思うもの」に対しては「趣味や関心のための書籍」が87.1%であったのを初め「教科書や参考書」も43.7%と、学部生(14年調査)と比較すると、「読書」の概念が広い傾向がある。

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