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協同組合ネットいばらき

県内の協同組合などが連携し一人暮らしの大学生へ食の支援

JAや生協など県内の44団体でつくる協同組合ネットいばらきでは、コロナ禍の中、大学生に食の緊急支援を実施した。複数の組織が連携していたからこそ実現した緊急支援が、どのように行われ、現役の大学生が抱えるどのような問題を浮かび上がらせたかを取材した。

大学生の生活を直撃したコロナの感染拡大

茨城県内の協同組合など44団体で構成される協同組合ネットいばらきは、新型コロナウイルス(以下、コロナ)感染拡大の影響で経済的な困窮に陥った県内の一人暮らしの大学生を対象に食の支援を行った。

コロナは大学生のくらしをも直撃した。感染が広がった3月半ば過ぎから学生がアルバイトできる場は減り始め、4月半ばにはほとんどなくなってしまったという。保護者からの仕送りや奨学金は学費に充て、生活費は自身のアルバイト代で賄う予定であった学生の生活が成り立たなくなってしまったのだ。

4月に茨城大学が行ったアンケートでも「保護者の収入が減って仕送りがなくなった」「学業の継続が難しく退学を考えている」「家賃や光熱費が支払えず、日々の食にも困っている」といった切実な声が寄せられたという。

茨城県生協連 副会長理事の古山こやまひとしさんは支援の経緯をこう説明する。「生活が困難になり、退学を考えている学生も少なくないと聞き、何かできないかと考えたのが食の支援でした。県内の大学生は、将来の茨城県を背負って頑張っていただく若者たち。そういった皆さんの一助になればと支援を決めました」

5月20日に支援の実施をマスメディアなどで発表し、「皆さんは一人ではありません。この困難を一緒に乗り越えましょう」と呼び掛けた。

当初、茨城大学を中心に三つの大学の一人暮らしの学生や留学生、約700人を想定していたが、ネットニュースなどで知った県内の大学生からの問い合わせが相次ぎ、最終的に七つの大学、一つの短大、二つの専門学校に在学する1,715人の学生を支援することとなった。

支援物資を3カ月間で3回送付

支援は5月から7月までの3カ月間、月に一度、物資を送るというものだった。コロナがいつ収束するか先が見えない状態で、1回限りの支援では十分でないとの考えからだ。

物資は協同組合ネットいばらき加盟の44団体に加え、フードバンク茨城やいばらきコープのお取引先企業・団体59社(虹の会)、コープデリ連合会、生活クラブ連合会などからの協力を得て、学生1人につき精米2㎏にインスタント麺やレトルト食品、缶詰、菓子類などを送付することができた。箱詰めは茨城大学生協の職員が協力し、同大学の寮には直接届け、それ以外は宅配便で発送。配送料は宅配業者が活動に理解を示してくれ、通常1個800円〜1,000円の配送料を一律500円にしてくれたという。配送料は、各団体・企業からの寄付金、および共同募金会の赤い羽根新型コロナ感染下の福祉活動応援全国キャンペーンの、フードバンク活動応援の助成金で賄った。

コープデリ連合会(本部・さいたま市)の会員生協は、コープみらい、いばらきコープ、とちぎコープ、コープぐんま、コープながの、コープにいがた、コープクルコ(新潟県)。

左から、茨城大学生協 専務理事 小山浩明さん、茨城県生協連 副会長理事 古山 均さん、 JA茨城県中央会 農政広報部 卜部将彦さん、茨城県生協連 専務理事 井坂 寛さん。

想定よりも3倍近くに申し込み人数が増えたことで、誤算も生じた。寄付で賄う予定だった精米が不足してしまい、1回目は2t、2回目は1tを購入しなければならなくなった。しかし、それも回数を重ねることで協力してくれる企業や個人が増え、3回目はすべて寄付で賄うことができた。

「当初は、物資が集まるかどうか不安でした。でも、学生たちのくらしが逼迫していることは確か。必要としている学生すべてに届けなければと、奮闘しました」

茨城県生協連 専務理事の井坂いさかひろしさんはそう振り返る。

米やクラッカー、焼きビーフンの素などの支援物資。

5月に公開された募集案内文。二次元コードからも手軽に応募できるようにしていた。

「コロナに負けるな!」のメッセージシールが貼付された地元土浦市の菓子。

誰一人取り残さない地域社会をつくる協同組合の使命

協同組合ネットいばらきは、2012年の国際協同組合年(IYC)で記念事業を展開する際に組織された実行委員会を母体に、44の団体でつくられた組織だ。幹事団体の一つ、JA茨城県中央会 農政広報部の卜部うらべ将彦まさひこさんは、次のように話す。

「県内の協同組合などが連携し、より発展的な活動をすることを目的に発足しました。茨城大学での協同組合論講座の開講や、被災地の子どもたちを支援する『福島子ども保養プロジェクト』などに取り組み、特に貧困問題の解消や平和活動に力を入れています」

米袋に入った30kgの米を、茨城大学生協の定時職員が小分けしている様子。

その一環として子どもたちへの「食の支援プロジェクト」を継続的に行っている。これは、貧困家庭を対象に夏休みや春休みの期間に米などの食料品を送る支援だ。給食がない長期の休みに家庭で十分な食事を取れず、痩せて新学期を迎える子どもたちがいると知り、18年の冬から約270世帯に支援をしてきた。20年はコロナの感染拡大を防ぐために3月から小中高校が一斉休校となったが、その間も支援を行っていた。また、JAや地元の農家から提供された食材を使って、生協組合員が子ども食堂を運営するなど、組織間の連携を強めている。

梱包された段ボールに、1枚ずつ手作業で伝票を貼る。

協同組合ネットいばらきが、食の支援で積み上げてきた経験が今回の大学生への支援につながった。そして協同組合が連携し、同じ思いで動いたことが大きな力となり、迅速な支援を実現できたといえるだろう。

その根底には、地域社会の担い手として「誰もが安心して暮らせる豊かな地域社会づくり」を掲げる協同組合としての使命があると話すのは、茨城大学生協 専務理事の小山おやま浩明ひろあきさん。「学生にとって身近な協同組合は大学生協ですが、地域にはたくさんの協同組合があることを知ってもらえたのではないでしょうか。食の支援を通して、協同組合が誰一人取り残さない社会をつくるために活動していること、苦しい状況でも地域を見守り、応援してくれる人たちがいて、協同組合もその一つであることを伝える機会となったと思います」

寮に直接届けられる手提げ袋に入った支援物資。

食の支援から広がり心の支援へ

大学生への食の支援をきっかけに、茨城県内で新しい活動が広がっている。

つくば市内でこども食堂を運営している団体では、筑波大学の学生を対象に9月下旬の2日間、炊き込みご飯やお菓子を配るフードパントリーを開設した。その情報を食の支援でつながった筑波大学生にメールで転送したところ、多くの学生が訪れたという。

茨城保健生協でも定期的に開催している子ども食堂の運営メンバーが、大学生に向けたカレーの炊き出しを実施した。

協同組合ネットいばらきとしても、困っている学生へのきめ細かい支援や、心の支援も行っていきたいと茨城県生協連 井坂専務理事は話す。

「今回はネットニュースで紹介されたことで多くの学生に情報を届けることができましたが、それでもつながったのは一部の人たち。本当に困っている人は、なかなか表に出てきません。そこに貧困問題の難しさがあります。特にオンライン授業が多く、孤独に陥っている学生も多いため、一人で悩まず、相談できる場所をつくれるといいかなと考えています」

コロナの感染拡大は、アルバイトに頼りながらギリギリの生活を送る大学生の経済状況を浮かび上がらせた。その改善のために、何ができるか。今後も協同組合ネットいばらきは、多くの組織が協同する多様な支援に取り組んでいく予定だ。

野菜不足を補うために、小松菜も配給した。大学職員が学生の自炊を促すため、小松菜の簡単レシピメモを作成し、食料提供と同時に配布した。

(文 筑波君枝)

食材を受け取った学生からは、以下のようなお礼のメールが続々と届いた。

「コロナの影響で父の仕事が全くなくなり、私もアルバイト先が休業してしまった苦しい中で、今回の支援は助かりました」

「この恩を胸に学業をしっかり頑張っていきます」

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