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パネルディスカッションで、大学生活の現状を報告する1年生と進行役の4年生。
左から、奈良女子大学の金ヶ江七海さん、立命館大学の谷村優貴乃さん、京都大学の石田早侑梨さん、立命館大学の原 いこいさん、龍谷大学の三浦蒼玄さん。

京都府生協連

学生支援を考えるシンポジウムを通じて、学生のリアルな声を聴き取る

京都市の人口は約145万人で、その1割に当たる約14万人が大学生といわれてる。それが学生のまちと呼ばれるゆえんだ。新型コロナウイルス感染拡大によって、学生たちが孤立する事態が起こっている。「学生たちのために何ができるか?」を探るべく、京都府生協連が中心となってシンポジウムが開催された。

大学生たちの苦境を 京都全体の問題と捉える

新型コロナウイルス(以下、コロナ)感染拡大によって、前期は一部の大学で対面の講義が休講となった。後期になって対面の講義を再開する大学も増えたが、オンラインでの授業もいまだ多いのが現状だ。

京都府生協連 常任理事(現・全国大学生協連)の中森なかもり一朗いちろうさんは、「休講の影響を受けて、京都府にある大学生協は軒並み供給高が減少しました。食堂店舗は、前期(4月〜7月)が前年比△90%程度、一部対面講義が再開された後期も前年比△50%程度で推移しており、存続の危機に直面しています」と説明する。

キャンパスに学生がいなかった前期の状況について、中森常任理事はこう続ける。

「大学生の生活そのものがままならない状況にあります。これは生協のみならず、学生のまち・京都の問題として捉える必要があるのではないかと思い始めました。そこで、大学生協、府内の大学関係者、行政、政治家が意見交換をする場所が必要と考えたのです」

新入生たちの声から生活の現状を探る

その一環として、2020年7月14日にシンポジウム「『学生のまち』京都を生協はどうやって支えられるか?第1弾」を開催し、京都の変容や大学生の現状について共有した。さらに、10月10日には第2弾のシンポジウムが開催された。

第2弾の大きなテーマは、学生たちの生の声をたくさん聴くこと。3人の1年生がパネリストとしてステージに並び、生活の現状を話してくれた。

コロナ禍における一人暮らしの生活について、立命館大学 法学部のはらいこいさんは、「前期は、外に出るのも怖くて家にこもっていました。朝食は抜くことが多く、昼食と夕食が一緒になるなど、生活リズムは崩れました。後期になり、ようやく大学生協の学食を利用できるようになり、食生活は改善されました」と話してくれた。

左から、シンポジウム後に取材を受けていただいた皆さん。左から、京都府生協連 専務理事の高取淳さん、龍谷大学 政策学部教授の只友景士さん、京都府生協連 会長理事の西島秀向さん、京都府生協連 常任理事(現・全国大学生協連)の中森一朗さん、龍谷大学生協 専務理事の谷口一宏さん。

第1弾・2弾ともに、リアルとオンライン、双方の参加があった。第2弾は、会場に25人、オンラインで78人が参加した。国会議員や府議会議員、市議会議員の姿もあった。

4年生による、コロナ禍の大学生活に関する報告。学生たちはリモートでのコミュニケーションに長けており、パワーポイントの資料に沿って端的に補足説明をしていた。

9月になり、後期が始まってからは、対面の授業を始める大学も増えているが、京都大学 農学部 石田いしだ 早侑梨さゆりさんは、「履修している科目にもよりますが、後期は4回しか対面授業がありません」と教えてくれた。規模が大きな大学ほど、平常通りの講義には戻っていない(10月上旬時点)。

全国大学生協連が4月に実施した「緊急大学生・院生向けアンケート」の大学生の結果速報によれば、大学での新しい友達0人が2割、5人未満が1割強という状況が分かった。そんな中、龍谷大学生協が、新入生たちの交流イベントをオンラインで開催した。そこに参加した龍谷大学 国際学部 三浦みうら蒼玄あおとさんは「小グループでゲームや会話をして交流しました。どんな人たちがいるのか分かり、多少は不安が解消しましたが、その後は連絡を取ってはいません」と言う。通常のキャンパスライフが過ごせない状況の中で、オンラインだけでは、交友関係を築くのが難しい現状が見えてくる。

意見交換を通して学生の本音や要望を聴く

新入生によるディスカッション、立命館大学の学生とFYP事務局および受講生の報告の後、最後に行われた意見交換ではオンラインで参加していた学生からこんな質問が投げ掛けられた。

「高校生以下は対面授業が再開されているし、社会人も飲み会をしている人たちがいる。なぜ大学生だけが、これほど我慢を強いられるのか?学びの機会を奪われているのではないか?」

コーディネーターを務めていた龍谷大学 政策学部の只友ただとも景士けいし教授はこう答えた。

「小中高と違う点は、大学は広域のエリアから学生が通ってくるため、クラスターが発生したとき、複数の府県に拡散することです。実際に大学でクラスターが複数発生し、マスコミに報道された大学の生徒がバイトを辞めさせられるケースもあり、大学側もかなり神経質になっています。一方で、プロ野球などは、2万人前後まで観客動員を許すなど、社会の情勢と不整合が起こっているのは確か。大学は、早急な対応が求められています」

さらに、オブザーバーからの「大学生協に求めることは?」という質問に対して、オンラインで参加していた学生から「大学生協のSNSで公開される生活支援の情報が、新しい投稿が増えることで、すぐに埋もれて見逃してしまう。重要な事柄は、大学のホームページにも載せるなど、大学生協と大学が連携してほしい」という要望が出された。

シンポジウムは、大学生たちの現状を聴き取る有意義な時間となった。京都府生協連は、これらの声を生かしながら、大学や行政と連携し、「新しい生活様式に即したキャンパスライフ」を京都からつくろうとしている。

First Year Program in KYOTOの略称。大学生活を「京都」でスタートする1年生のための、グループワークと体験プログラムを組み合わせた講座。

(文 野口武)

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