メインビジュアル

弘前大学生協

学生への経済的支援と心と体の健康維持のために「100円夕食」を提供

弘前大学生協は弘前大学から相談を受け、新型コロナウイルス感染拡大の影響で困窮している学生への支援として、「100円夕食」の提供を開始した。この取り組みは経済的支援だけでなく、学生のコミュニケーション不足や生活の不安の解消にも役立っている。

経済的に困窮した学生たちのために夕食を提供

100円夕食提供の背景について、弘前大学理事(総務担当)・副学長・事務局長の渡邊わたなべ淳平じゅんぺいさんに話を伺った。

「新型コロナウイルス(以下、コロナ)の影響で、大学は4月から全面的にオンライン授業になりました。弘前大学の学生は、約75%がアパートや寮などでの一人暮らしです。生活状況についてアンケートを行ったところ、アルバイトが減り、親の仕送りも含め経済的に厳しいことが分かりました。また、外出が難しいため引きこもりがちで、食事のバランスが悪化し、コミュニケーション不足からの不安傾向も見られました」

これらの課題に、大学としても何らかの対応が必要と考え、解決策として思い付いたのが100円夕食だ。100円夕食は夕食代約450円のうち、350円ほどを大学が負担する。100円夕食を利用することで、経済的なサポートを受けられると同時に崩れた食事のバランスも改善でき、食事をしに大学に来ることで友人たちとコミュニケーションも取れる。

学食を運営する弘前大学生協に相談すると、以前100円朝食を提供していた経緯もあり、スムーズに話が進んだ。6月5日からスタートし、当初は1日200食限定の予定だったが、好評のため300食に。

左から、弘前大学生協 専務補佐兼食堂店長の三浦貴司さん、同大学生協 専務理事の小村晃さん、弘前大学理事(総務担当)・副学長・事務局長の渡邊淳平さん、同大学 財務部 財務企画課 課長の浅利清一さん。

「毎年弘前大学基金として寄付を募っています。今年は、100円夕食の取り組みが地元のマスコミに取り上げられ、それを見た多くの方から多額の寄付をいただきました。ありがたいことに例年の10倍以上の寄付が集まり、学生を支援する活動を継続することができました」(渡邊理事)

100円夕食のポスターとメニューの一例。

夕食時の食堂が1年生の友達づくりの場になった

100円夕食の取り組みと同時に、食堂の感染防止対策に取り組んだ。換気を徹底し、テーブルを通常の半数に削減。1テーブル1席として約900あった席を260に減らした。利用者の接触を避けるために入り口と出口を別々に1カ所ずつにし、動線を決めて人の流れをコントロール。3密を避けるため利用券を17時、18時、18時30分の3回に分けて配布した。

100円夕食は栄養バランスの良い定食形式に。肉をメインにしたが「魚も食べたい」という声に応えて鮭丼やマグロ丼などをメニューに加え、野菜不足を補う小鉢もセットできるようにした。

オンライン授業の影響で、100円夕食開始前の食堂の1日の利用者は約800人。コロナ禍前の約2,600人から激減していた。しかし、100円夕食開始後は、徐々に増え、8月上旬には約1,200人までに回復。食堂の経営も100円夕食によって助けられた。

学生からは経済的な支援に対する感謝とともに、「友達と会う機会になってよかった」という声も届いた。

弘前大学 財務部財務企画課 課長の浅利あさり清一せいいちさんは、毎日学食に出向いて学生に声掛けし、悩みを聴いていたと話す。

食堂の一角に設けられた1年生専用コーナー。

「1年生は『大学の友達が1人もいない』と。それを学長に報告したところ、『1年生だけが集まれる場をつくってほしい』と指示がありました」(浅利課長)

その話を受けた生協側は、すぐに対応した。月、水、金の3回目の利用券の配布時間を1年生専用にし、食堂の一角に「1年生専用コーナー」を設けて誘導した。弘前大学生協 専務補佐兼食堂店長の三浦みうら貴司たかしさんは、
「1年生は最初1人でも、勇気を出して隣の人に声を掛ける様子が見られるようになりました。次から連れ立って来るようになり、友達づくりに役立ったと感じています」とうれしそうに話してくれた。

100円夕食が日常を回復する機会に

渡邊理事は、「学校に来られない異常事態の中、100円夕食は安くておいしい食事で空腹を満たすだけでなく、食堂に集まって誰かに会うという日常を回復する機会になりました。生協は日常的に学生と接していて、私たちより状況を把握していますし、柔軟に対応していただけて助かりました」と振り返る。

弘前大学生協 専務理事の小村こむらあきらさんは、「この取り組みは、学生にとっても、大学からきちんと目を向けられていることが実感でき、大学が安心できる場となったでしょう。それに生協がお役立ちできたのは、非常に意義があったと思います」と話し、今後は友達づくり支援の企画にも取り組む考えもあるという。

100円夕食は継続希望の声も多く、12月25日までの延長が決まった。食数を400食に増やし、うち100食は別キャンパスで弁当として提供する計画だ。

(文 野田陽子)

取材は9月24日に実施。10月15日に同大学の関係者が新型コロナウイルスに感染していることが判明しました。10月16日から100円夕食の提供は停止し、11月11日から再開しました。

学生の

2年生の
飛田とびた尚人なおとさん

在宅時間の増加により、運動不足から空腹になりにくかったので、1日3食から2食に変更しました。100円夕食は週3回利用。主菜・副菜・みそ汁などが付き、ライスのサイズを選べてありがたかったです。

今後生協にお願いしたいことは、大学や大学生協での宅配ロッカーの設置です。コロナ禍でネット通販を利用することが増えました。外出時は、自宅で受け取りができず再配達を依頼しているため、宅配ロッカーがあると非常に助かります。

1年生の
佐々木ささき華穂かほさん

入学したてで、オンライン授業の課題を話し合える友達がほとんどいませんでした。1人でどうすればよいのかと悩むことが多く、インターネットで調べながら独力で課題をこなしていました。

食堂に1年生専用コーナーが設けられたのを知り、1人でも行きやすいと思い、学食に通い始めました。自分と同じように1人で来ている1年生もいて、この境遇は自分だけじゃないと思い、安心感につながりました。

100円夕食は、副菜やサラダも付いて驚くほどボリュームがあり、うれしかったです。

一覧へ戻る