学長・総長インタビュー

大学構成員が一体となり「学生中心の大学」「地域にあって輝く大学」を推進

長期的な視野での大学運営を

山口:柳澤学長が就任された2009年4月以降は、ちょうど政権交代もあり、いろいろな方針転換もされ、大学も少なからぬ影響を受けてきたと思います。そのような点も含め現在の大学、特に地方の国立大学がおかれている状況についてのお考えをまずお聞かせ下さい。

柳澤:政権交代の影響も確かにあるのですが、一番大きな変化は、やはり04年の国立大学の法人化です。現在は、それから7年経ち第2期の1年目となっています。

以前に「法人化して良かったですか」というアンケートが各学長にされました。ほとんどの学長は「良かった」と答えています。では、どの点が良かったかというと、大学の裁量権が増えたことをあげています。それまでは、文部科学省の「出先機関」であった国立大学が、独立した経営体として出発し、いろいろな改革がなされてきました。これは日本の大学史上でも非常に大きなことだったと思います。

一方で、政権交代も影響して、運営費交付金をはじめとした高等教育への予算配分が非常に不安定化しています。本来、高等教育の施策は50年、100年を展望して立てられるべきですが、政権自体が政策を長期的に考えられなくなってきており、高等教育政策も短期的になってきています。この点について大きな懸念を抱いていますが、同時にそういった中で自らの大学の長期的な展望をもつことが求められていると思います。

愛媛大学のような地域の拠点大学は地域との関係のあり方が問われています。従来ですと、研究や教育の成果を地域に還元し、優れた人材を地域に輩出することが使命でした。これらは今後も重要な使命ですが、これからはさらに踏み込んだ新しい関係をつくることが必要になってきています。

そもそも、地域が衰退していく中で大学だけが元気であることはあり得ないですし、地域が活性化されれば大学も活気がでてきます。大学と地域は運命共同体だと思います。

特に今は、地方の疲弊が目立ち、このまま推移すれば日本の足腰が弱くなり、地方から蝕まれ、ひいては国力全体が弱まります。ですから、大学の社会的役割としても、知の拠点として地域との連携の質を高めていかなければなりません。

学部間の壁を低くし全学で共通して取り組む


愛媛大学

山口:柳澤学長は学長特別補佐、教育担当理事を歴任し、学長に就任されました。この間の愛媛大学の改革を振り返っていただき、今後に向けての新たな意気込みや構想などをお聞かせ下さい。私は現在、学長が理事時代に導入された教育コーディネーターに就任しています。この制度も愛媛大学の特色のひとつであると思いますので、その狙いと成果を お話し下さい。

柳澤:愛媛大学では、研究に関しても教育に関しても一流でありたいと思っています。研究に関しては、得意な分野で世界でもトップレベルを狙っています。この点では、「沿岸環境科学研究センター」「地球深部ダイナミクス研究センター」「無細胞生命科学工学研究センター」の3つの国際レベルのセンターが存在し、その内2つがグローバルCOEに採択され、本学の学術研究の核になっています。

教育に関しても一流を狙います。その時にポイントとなるのは、総合大学の場合、学部の壁を越えられるかどうかです。従来、国立大学では学部ごとに独立的に運営されていました。それが法人化以降、全学で共通の理念を持ち、大学の個性を発揮していくことが求められています。しかし、多くの大学はまだその点で十分な対応ができているとは言えません。

愛媛大学では相対的に学部の壁が低く、全学的なとりくみが進みました。ここに愛媛大学の大きな特色があります。

その中のひとつとして教育コーディネーター制度があります。各学部から数名が選出され全部で60名ほどが教育コーディネーターになっています。彼らは従来の教務委員などに代わって教育改革の担い手になっています。年に4〜5回研修会を開き、その年度のテーマに沿って、相互に学んだり、情報交換したりしています。こういうことが全学レベルで実施できている大学はまだ少ないと思います。

この教育コーディネーター研修や授業コンサルティング、授業スキルアップ講座などによって愛媛大学のFD活動は全国的にも高い評価を受けています。昨年3月には文科省より、「教育関係共同利用拠点」にも指定されました。

大学のネットワーク化と組織力の強化

愛媛大生協食堂
愛媛大生協食堂

柳澤:今後の見通しとして、大学間や大学と地域間の連携・協調が重要になってくると考えています。愛媛大学はさまざまな分野でネットワークづくりに貢献し、その中で中心的な役割を果たしていきたいと考えています。

ネットワークの例としては、08年に結成された「四国地区教職員能力開発ネットワーク」があげられます。これには四国の大学、短大、高専33校がすべて加盟していて、愛媛大学がその代表を務めています。FD・SDプログラムを共同で開発したり、4日間かけたフォーラムなどを開催したりしています。地域内の教職員が広く交流するという点でも有効なとりくみです。

大学運営上では、組織力の強化を考えています。法人化以降、教職員は評価を受け、その評価によって処遇が決められるようになりました。これ自体は悪いことではないのですが、下手すると競争という側面ばかりが表にでてしまい、組織的な運営がうまくいかなくなるおそれがあります。個人を評価するからには、それと並行して支援する仕組みが必要です。教職員の能力開発のとりくみ を充実させることはその面からも大事だと思っています。

授業や学生リーダー層の育成とキャンパスの活性化

愛媛大学学内風景

山口:愛媛大学は法人化以降に「学生中心の大学」というモットーを掲げています。この間いくつかの点で学生に関わる環境の整備なども進んでいます。今後も続いていくとは思いますが、教育や学生支援についてお話し下さい。

柳澤:愛媛大学では、「学生中心の大学」を強く意識しながら学生支援を進めています。キャンパス環境の整備や施設の改善だけでなく、学生の能力開発などソフト面でもいろいろなとりくみを行ってきました。

 その中のひとつに、「リーダーズスクール」があります。これまで学生支援というと、問題を抱える学生層への支援が主流でした。その支援の重要性は変わりませんが、愛媛大学ではリーダー層を意識的に育てる目的でこの「リーダーズスクール」を始めました。教育・学生支援機構の教員と研究員が中心となり学生の自主的な参加で年2回3ヵ月間の集中コースとして実施しています。

このコースでは、リーダーになるためのスキルなども学びますが、「クリティカル・フレンドをつくれ」と強調しています。最近の学生たちは批判し合うことを避けるので、あえて批判し合える友達をつくり、濃い人間関係にも耐えられる、打たれ強い人間になることを期待しています。1回の参加者は、20〜30人ほどで多くはないですが、修了後に学内でイベントなどを自主的に企画したりして、大学の活性化に貢献してくれています。

それと、8年前から「スチューデント・キャンパス・ボランティア」の活動も続いています。こちらは、四国遍路の「お接待の心に学ぶ」をモットーとして、学生同士のサポート活動を展開しているもので、学習支援、障害学生支援、留学生支援活動などで9団体約250名の学生が参加しています。

「愛媛大学の学生は元気だ」と、他大学の方や地域の方から評価していただいくことが多くなっています。従来の体育会系・文化系サークルに加え、このような団体の存在が影響していると思います。

実は、これらの団体に先駆けて活動を続けてきたのが、愛媛大学生協の学生委員会です。学生委員会には常に百人以上の学生が参加し、新入生の履修相談やスポーツ大会など、さまざまな活動を続けてきました。

これらは、「スチューデント・キャンパス・ボランティア」の源流にもなっており、大学内のコミュニティづくりに大きな貢献をしてきたと思います。

大学と生協の密接な連携

山口:生協の学生委員会に触れていただきましたが、彼ら学生たちの活動も含め、大学生協への期待や求められる役割について、最後にお願いします。

柳澤:愛媛大学では、特に法人化以降、キャンパス環境整備に関して生協と緊密に連携してきました

例えば、一昨年に開館した大学ミュージアム内にカフェ(「ミューズカフェ」)を設置して、その運営をしてもらっています。また、昨年に建設した校友会館の中にイタリアン・レストラン(「セ・トリアン」)をオープンしてもらいました。また、大学のブランド品や附属の特別支援学校の生徒が作成したグッズなどを販売するショップ(「えみか」)も生協が運営しています。

ミュージアムも含めてこれらの施設ができたおかげで、市民の方がキャンパスにやってきて、2時間ぐらいはキャンパスで憩うことができるようになりました

山口:私も時々子供を連れてくるのですが、以前は研究室にいるしかなかったのですが、最近はミュージアムやお店に行けるようになりました。今後も大学とはビジョンを共有し生協運営に当たりますので、よろしくお願い致します。

本日はお忙しいところ誠に有り難うございました。
(編集部)