学長・総長インタビュー

「ひとに学び ひとに生かす」を礎に内向きな若者の殻を破る

内向きな若者と大学に求められていること

伹尾:少子化など、昨今、大学を取り巻く様々な状況が顕在化し、厳しさも増しているように感じます。そのような状況の中で、山添学長が、現在の日本の学生や大学をどのように捉え、また大学には何が求められているのかなどを、まずお聞かせ下さい。

山添:少子化とも関係しているのかもしれませんが、私としては、日本の若者が非常に内向きになっているのではないかという問題意識があります。例えば、アメリカへの留学が中国や韓国に抜かれたということもありますし、大学への進学に当たって地元志向が強くなっていることもその表れだと思います。このことは、国立私立、あるいは共学や女子大に関らず、全ての大学の学生に指摘できることだと思います。

一方で、そういった内向きの若者が多い中で、保護者や学生本人が就職を確実にしたいと強く思っており、その期待に応える大学経営が私たちに求められています。この点では、文部科学省も就業力のアップを大学教育に義務付ける様になりました。

そこで問題となるのが、内向きであることと、就業力や就職率をアップさせていくことは、相反していることです。このことを解決し、学生や保護者の期待に応えていくことは、大学にとって非常に難しい課題となっています。

この課題を果たすことにおいて、ボランティアやインターンシップなど将来の就職に結びつくような社会体験を、どのくらい多く学生に経験してもらうかが不可欠だと思っています。詳しくは、また後ほど触れさせていただきますが、学生たちが社会に接して元気になり成長するために、「オフキャンパス」での教育を充実させていくことを、本学もそして私自身も基本的なポリシーとしています。

神戸の女子大学の特徴と女子大学の存在感

神戸親和女子大学
神戸親和女子大学

伹尾:次に、その中での女子大学全般をめぐる状況や特徴、あるいは、もしあるようでしたらで結構なのですが、東日本と比べての西日本の女子大学の特徴などに触れていただけますでしょうか。

山添:私自身の感触として、東日本の女子大学の関係者は、女子大学は何らかの改革が必要であり、特に共学化の必要性を強く意識しているようです。これに対して西日本、あるいは神戸と言ったほうがいいかもしれませんが、女子大学がわりと堅調ということもあり、あまり共学化の必要性を感じていません。

この差には文化の違いもあるのかもしれません。東京では男女平等がより強く求められ、それが全面に出る教育が必要とされる背景がある。一方、関西では男子がいると女子のリーダーシップが育ちにくくなり、親の期待としても、女子大において女子の間で磨かれ、社会に出て行く訓練をしていって欲しいとの期待があるようです。私はそのように推測しています。

大学が共学で、男女の学生がいる教育的な意味は、そもそも社会は男性と女性で成り立っており、共生的な面が育まれる点にあります。それに対して、女子大学では、女性におけるアイデンティティのモデルが豊富に提供され、女性としてのコアなパーソナリティが育てられる点にあります。女性として学びやすく、成長しやすい環境が整い、社会に出るにあたっての主体性を育てるには、女子大学のほうが有利であるとも言えます。

「引きこもり」は男性が圧倒的に多いなど、男性のコミュニケーション力が問題になっています。男性同士が相互に磨きあうことが少なくなってきている中で、女性同士は互いに刺激し合い、「女子力」を付けてるように思います。

面倒見がよく学生が育つ大学

伹尾:様々な面から大学の存在意義が問われている中で、女子大学の存在はますます大きくなっているということですね。

では、その女子力をさらに育んでいくために本学がこの間大切にしてきたことや特長などをあげて下さい。

山添:神戸親和女子大学の社会的な評価は“面倒見のよい大学”と言われています。“面倒”とはトラブルとか“しんどい仕事”ということですから、そういったややこしいことも含めて教職員がていねいに対応する大学という評価です。

 もうひとつの特長は、卒業生からもよく言われるのですが、学生と先生の距離が近いことです。施設面の充実がハード的なこととすれば、ソフトウェアとしての人的な関係が良く、学生たちの満足度が高くなっています。先生との関係がよく、学生にとって信頼できる人が大学にいると、学生たちは安心して「外」に出て行けるようになります。ここで言う「外」とは空間的なこともありますが、自分が今まで持っている可能性以外にもチャレンジして、その一歩を踏み出すことも意味しています。
信頼する先生から押されることによって、頑張ろうとの力も湧いてきます。

今年の卒業生の中で、進学高校で不適応を経験し、入学してきたときは最下位に近い成績であった学生が、東京の難関私学の大学院に入学しました。彼女はコンプレックスの塊だったのですが、本学のある先生から認められ、自分の可能性に気づき、留学も経験し、自分なりの勉強方法も身に付けていきました。その結果、在学中にTOEICスコアが650点もアップしたのです。

教師との信頼関係から自分の可能性に出会い、自分の殻から脱したのです。神戸親和女子大学は、“学生を育てる大学”とも言えます。

阪神淡路大震災での支援から学んだこと

神戸親和女子大学生協食堂
神戸親和女子大学生協食堂

伹尾:1994年に名称を「神戸親和女子大学」に改めて以来、本学は新しい学科や学部の開設を始め、多くの改革をしてきました。その改革は常に社会状況や社会的な精神に沿って行ってきたような気がします。
その点でのお考えをお聞かせ願えますか。

山添:新しい学科や学部を開設するに当たっては、当然のことながらその前提として、その学科や学部などの理念が明確になっていなければなりません。

その理念の根本に、本学のスローガンである「ひとに学び ひとに生かす」があります。

このスローガンは、95年の阪神淡路大震災後に生み出されました。「ひとに学び」は当然のことですが、学んだことを「ひとに生かす」ことが、人間にとって本質的なことなのではないかと思っています。

震災の際は本学でも学生が亡くなり、建物にも被害がありました。小さいときに被災した卒業生や在学中の学生も沢山います。私自身も、母親の里が被災し、11名もの親族が亡くなりました。本当に震災は非常に不幸なことです。

ただ、この震災に遭って、大学周辺の方をはじめ多くの方々に助けていただいて、その事態や精神的苦痛を乗り越えられたことにより、貴重なことを学ばせていただきました。そのひとつが「ひとに生かす」です。

以前、「愛さえも金で買える」と言った企業家もいましたが、ひとの幸せはお金では買えず、人と人が信頼しあい、つながりながら親切にしたり親切にしてもらったりという中に幸せがあると思うのです。このことを私たちは震災から学びました。

ですから学ぶことも、自分の利益のためだけに学ぶのではなく、「ひとに生かす」ことが必要です。

地域と社会で学び学生は殻を破る

伹尾:「ひとに学び ひとに生かす」は校祖による校訓にも通じます。それでは最後に、それらを礎に、今後山添学長としてどのような方向性をもって、大学を運営していかれるのかお話下さい。

山添:最初に触れたように本学では、「オンキャンパス教育」と「オフキャンパス教育」を融合させた教育を進めてきました。オンキャンパスは、大学の中での授業や講義により、知識や技術を得てもらう教育です。それに対して、オフキャンパスは大学を離れた地域や学校、あるいは企業の中で、社会体験をしてもらいながら学んでもらう教育です。

例えば、保育士や先生を志望している学生には、実際に学校や子どもたちがいるところに行ってもらい、子どもたちと関わる力を付けてもらうようにしています。そして、現場でうまくいかなかったときは、そのことを大学に戻って先生に相談し、どうしたら良いかを学ぶ。それを何度も繰り返して成長していってもらっています。人間は知識や技術を学ぶだけではダメで、人格形成やその変化を遂げていかなければなりません。それをオフキャンパスで実践しています。今後もこの教育システムを充実させていきます。

もうひとつは地域からも信頼を得るということです。近江商人の考え方で「三方良し」というのがあります。これは、商売をするときに「売り方」と「客」だけが満足するというだけでなく、それを囲む地域でも信頼されるという考え方です。この関係は大学も同じだと思います。大学は真空の中に存在しているわけではありませんので、教員や学生だけが満足するだけでなく、やはり、大学がある地域からの信頼も得なければいけません。

最後になりましたが、大学内の厚生施設に触れますが、今後は学生がゆっくり快適に過ごせる施設を充実させたいと思っています。その際は生協と共に考えてやっていきたいと思います。同時に、生協の食堂のメニューも充実させていただければとも思います。

伹尾:本日はお忙しいところ誠に有り難うございました

(編集部)