学長・総長インタビュー

態度教育と基礎学力の向上をはかり優れた倫理観をも兼ね備えた人材を育成

薬剤師と薬学の大学教員を社会に多く輩出

東京薬科大学
東京薬科大学

豊田:社会も大学も激動の中にあって、学長への就任おめでとうございます。では、最初に本学の紹介と現在までに果たしてきた社会的役割や本学の特徴などに触れていただけますでしょうか

笹津:東京薬科大学は1880年に東京薬舖学校として創立されました。薬学系では、東京大学薬学部が最初にできました。しかし、そこは薬を作るという創薬が目的であり、本学は創立された当時から、薬剤師を養成することを目的として設立された、私立の薬科大学では一番古い大学です。1949年に東京薬学専門学校と東京薬学専門学校女子部とを併せて東京薬科大学が設立されました。当時は、新宿区の柏木に東京薬科大学男子部があり、上野桜木町に東京薬科大学女子部がありました。ちょうど私が助手になった年である76年に、男子部と女子部を共に現在の八王子キャンパスに移転し、一つの東京薬科大学となりました。そして、94年に新たに生命科学部を開設し、拡大し発展してまいりました。
本学の建学の精神は、優秀な薬剤師、薬学研究者、生命科学の研究者、技術者を世に送り出すということです。実際に、本学はこれまで3万人以上の卒業生を出しており、現在社会で働いている薬剤師の多くが本学の卒業生です。また、他の薬科大学の教員になられている方が多く、私立の薬科大学で占める率は本学の卒業生が一番多くなっています。
現在「生命科学部」は他大学にも多くありますが、元々は本学が最初に設置したもので、研究者の養成を目的とし、約7割が大学院に進学しています。そして、2013年には、現在の2学科に加え、「生命医科学科」を設置し3学科となります。
伝統ある薬学と進化が著しい生命科学を融合させ、教育・研究領域を拡大してきています。

キャンパスに留まらず都心や海外にも向かう

豊田:大学の沿革と特徴に触れていただきましたが、やはり人の命を預かる分野に130年の歴史を持って、多くの人材を送り出しているユニー クな大学であると、あらためて認識しました。
次に、学長になられてまだ間もないのですが、ぜひ学長としての抱負も含め、笹津学長としての東京薬科大学の今後の重点的施策・展望などをお話し下さい。

笹津:私自身の願望も含めていくつか今後の課題や重点的に力を入れていきたい点をあげたいと思います。
最初に、学生の「都心回帰」への対応です。現在の八王子キャンパスは自然の環境に恵まれ、また校舎を含めてキャンパスの景観は非常にすばらしいと思います。しかし、受験生や学生は都心を目指す傾向が顕著です。そのため、できるだけ都心で学ぶ機会や体験できる機会を増やしたいと思っています。この点では、2008年に飯田橋にある東京逓信病院内にサテライトキャンパスとして「千代田キャンパス」を設置、実務実習教育、卒後教育などに活用されております。
次に、薬学部の6年制実施に対応し、構想中と言う所にはまだ至っていませんが本学附属の医療機関を持ちたいと思っています。この事により、教員にも学生にもよりいっそう「医療人」としての自覚が育まれるのではないかと思います。なお、現在は東京医科大学、杏林大学と姉妹校関係を結んでいます。
3番目には、定員問題です。本学の薬学部の定員は420名です。これは世界中でも一番多くなっています。しかし、学生の質的なレベルアップをさらに図るためには、この定員数をあらためて考えていかなければならないと思っています。
4番目に他大学との連携があげられます。現在は「大学コンソーシアム八王子」に加わり、八王子に在する23大学との連携を図ると共に、「医・薬・工」の3大学連携として東京医科大学と工学院大学とで連携を進めています。やはり、このキャンパスに留まらず、精神的にも行動的にももっと外に向かっていくことが求められていると思います。
最後は、海外の大学との提携です。本学はカリフォルニア大学や南カリフォルニア大学と長い間提携をしてきました。今後は、アジアが大切になってきますので、従来の中国中医科学院に加え、 7月25日には韓国のマンモス大学である檀国大学校とも協定を締結したところです。韓国でも薬学部が6年制となりましたので、共同研究や人的な交流を活発に進めていきます。

医療分野にふさわしい人材の輩出

東京薬科大学生協食堂
東京薬科大学生協食堂

豊田:今後の課題や方向性として5つあげていただきました。それらとも関連するとは思うのですが、東京薬科大学を卒業する時に、学生たちがどのような学生に育っていて欲しいと思いますか。本学の教育面での重点ともからませてお話しいただけますでしょうか。

笹津:薬学部は2006年に6年制に移行しましたが、その前後に私立薬科大学や薬学部新設が急増しました。一番多い時の薬学部の入学定員は1万3千人にまでなりました。以前、文部科学省で話が出たのですが、「現在の年間の出生数は120万人ですから、このまま推移すれば生まれてくる子どもの100人に1人が薬剤師になることになります。そんなことはまずあり得ないので、大学として薬学部の問題をこれから全国的に考えていかないと困るのではないか」とおっしゃっていました。そういう状況ですから、薬学部の入学希望者は希望すればどこかの大学に入れるような状況にあります。
こういった環境に本学も無縁ではなく、卒業生などから学力のレベル低下に対する危惧が寄せられております。従って、本学のこれからの教育の重点は、薬剤師あるいは生命科学研究者としてふさわしい基礎学力を学生に身に付けてもらうことです。そして、それに加え社会人として恥ずかしくない人格を確立できるよう「態度教育」も強めたいと思っています。このふたつの側面を満たし、医療分野で通じる人材を輩出していきます。
このことを実現するために、具体的には少人数教育が必要になってきます。それぞれの個々の学生のレベルにあったきめ細かい教育ができる体制をとり、進んでいる学生はさらに伸ばし、遅れがちな学生にはきちんとサポートできるようにしてます。

被災学生への支援と独自の奨学金の充実

豊田:今医療分野に従事するには、やはり人間性も問われますので、ふたつの側面からの教育重視というのは非常に共感できるところです。では、学生が勉学に集中できるように学生生活への支援を行なっていますが、その点についてお聞かせ願えますか。

笹津:私が学長に就任する直前の3月11日に「東日本大震災」が起こりました。ちょうど引き継ぎがされていた頃で、その対応は難しいものがありました。幸い本学の学生や教職員での被災者はおりませんでしたが、ご家族の被災、実家の全壊、福島原発の20キロ圏内のための避難などに遭った方が少なからずいらっしゃいます。本学の関係者を含め、今回の震災で被害を受けた方たちに心よりお見舞い申し上げます。本当に残念だったと思います。
本学としましてはこの震災に当たり、被災学生のためへの義援金を募り、共に「被災学生緊急奨学金」を設けました。義援金には様々な方たちよりご協力をいただき、短期間で2千万円を超える額となりました。既に多くの被災学生の方にはお見舞金をお渡しし、奨学金の給付も8月に行なわれました。
通常での学生への経済支援としても、本校独自の奨学金の充実を進めています。昨年11月に「創立130周年記念奨学基金募集委員会」をスタートさせ、在校生によりいきとどいた奨学金の実現をしてきています。また、卒業生による同窓会である「東薬会」からも奨学金が支給されています。

学生の希望に沿った就職支援

笹津:一方、学生支援でも重要になってきている就職支援では、3万人に及ぶ卒業生の力が発揮されています。学生の就職先の希望は企業(製薬会社、開発支援会社)や病院であり、あるいは官庁や薬局などですが、そういったところにも本学のOBがいます。これまでも、「ある地方のあるところに就職したい」との希望が学生から出されれば、該当するOBに連絡を取りサポートをお願いしています。また、公募していない機関や会社などの求人情報も入手でき、学生に紹介することもできます。それらのことを全教職員も行なっています。
6年制に変更されたためこの2年間は卒業生が出ていないのですが、それまでの卒業生は、そういった強みもあり希望に近い就職先に就きましたし、就職率はほぼ100%です。

学生が頼り切る生協

豊田:確かにどこに行っても本学のOBがいることは、就活中でも、また就職した後も安心できますね。
学生支援のひとつとして、福利厚生も位置づけられます。本学では昨年の130周年記念事業のひとつとして、全国でも屈指の施設となった学生会館をオープンしました。大学生協の調べでは、本学学生の生協の利用や満足度は全国でもトップレベルとなっています。現状の東京薬科大学生協へのご認識や今後への要望などをお願い致します。

笹津:本学の生協の品揃えやメニューは充実していると思います。特に、他の書店にはない薬学や医療の本が充実している書籍店舗の存在は有り難いですし、今後も維持していって欲しいと思います。
その書籍店舗をはじめ、学生が大学生活を送る上で、生協の店舗や食堂を頼りきっていますし、大学にはなくてはならない存在と認識しています。今後の要望としては、さらに学生の生活にリンクしていくことを望んでいます。

豊田:当生協の優れている点として、もうひとつ、利用者の意見をすぐ反映して実現するという点もあげられています。今後も大学や学生の要望をお聞きし運営していきたいと思います。
本日はお忙しいところ誠に有り難うございました。

『Campus Life vol.28』(2011年9月号)より転載

(編集部)