学長・総長インタビュー

長年の継続した改革とその成果を同志社教育とアイデンティティに結実

大学にとって楽観的な見通しはない

左端は生協学生委員長の山仲崇之さん
左端は生協学生委員長の山仲崇之さん

大鉢:私が生協の理事長になった2005年には、既に八田先生は学長で、当時懇談をさせていただいた際、「生協は身内のようなもの」とおっしゃっていただいて大変心強く思いました。本日はどうぞよろしくお願い致します。

では最初に、現在の日本の大学がどのような状況におかれているのか、先生のお考えをお聞かせ頂けますでしょうか。

八田:現在の大学の状況をどのように見るかについては、いくつかの視点があると思います。

一つは、グローバルの視点から言えば、国際的な教育や研究に関するランキングによる格付けの強化や、文部科学省の国際化拠点整備事業(グローバル30)による国内大学の拠点化構想、そして、その背景にある国際的な学生の争奪など、日本の大学に限らず、世界の大学は激しい国際的な競争にさらされています。今までは、国際的な交流も個々の教員に拠るところが大きかったのですが、現在は大学と大学が組織的な目的を持って、教育や研究活動での国際交流を進めるものへと変わってきています。

一方、国内的には少子化に伴う大学間の競争が激しくなっています。国公私での競争があり、私学間でも都市圏と地方にある大学との競争、そして同じ大学内においても学部間での競争があり、私はこの3重の競争状態との認識を持っています。特に都市圏の大学が規制緩和により教室の増設が可能となったため、都市圏と地方の競争が激しくなってきています。

それらの競争状態にあることに加えて、さらに状況の悪化があげられます。世界的な不況の中で、入学希望者の方たちが経済的に大変苦しく、大学に進学しづらくなってきているのです。

以上のように、大学をとりまく競争の存在、学生をめぐる環境の悪化、そして地域や社会から大学に求められる役割の拡大など、大学にとって楽観的な見通しは一つもないというのが現実だと認識しています。

そういった厳しい状況の中にあって、私立大学にはしっかりとした建学の精神があり、「こういう学生を育てたい」と明確に社会にアピールできる強みがあり、それを最大限に生かしていきたいですね。

地域の文化を大切にして大学同士が助け合う

大鉢:全般的に大学をめぐる環境が厳しい中で、近畿地方における大学の状況や方向性をどのように捉えていらっしゃるでしょうか。

八田:文部科学省が地域別の大学の定員充足率を出しているのですが、比較的いいのが東京、近畿圏、名古屋などの都市圏で、地方との格差が開きつつあるのが全般的な状況です。その中で、京都・大阪・神戸あるいは奈良というのは独特で伝統的な文化を持ち、その文化に惹かれて入学する学生が多いのです。

京都には、17万人の学生を擁し50の大学が加入している「大学コンソーシアム京都」があります。京都という共通の土壌の上に立ち、長い歴史を基盤としている大学同士が手を結び、助け合えるところは助け合い、そして余力のあるところで競争をしています。このコンソーシアムにより、学生が大学間を行き来し、単位互換も活発に行なわれています

こういったコンソーシアムが大阪と兵庫にもあり、それぞれの地域が主体的に運命共同体的に結びつきを強めています。近畿に来る学生は、この地域に何らかの魅力を感じて来るわけですから、「近畿地方」という特色を生かし相互に助け合うことが必要だと思います。

二つの拠点で共有するアイデンティティの確立

大鉢:学長はコンソーシアム京都に当初から積極的に関わられ、現在は理事長を務められており、大きな役割を果たされてきたと思います。

では、次に同志社大学のこれまでの変革と、特に今後の重点についてお聞かせ願えますでしょうか。

八田:私は、1998年の4月から13年間、学長を務めてきました。この間様々な改革や事業を遂行してきました。例えば、学部の設置では、98年では6学部でしたが、2004年に政策学部、05年に社会学部と文化情報学部、08年に生命医科学部とスポーツ健康科学部、09年に心理学部、11年にグローバル・コミュニケーション学部を開設し、現在は13学部となっています。また04年には専門職大学院であるロースクールとビジネススクールも開設しました。

そして、来年には大学院脳科学研究科を開設予定ですし、再来年にはグローバル地域文化学部も開設予定です。

直近の大きな課題としては、現在京田辺キャンパスで学ぶ文、法、経済、商学部の1〜2年生の授業を、13年度に今出川キャンパスに変更し、京田辺キャンパスに6学部、今出川キャンパスに7学部(予定しているグローバル地域文化学部を加えると8学部)を配置換えすることです。これにより、それぞれのキャンパスは縦割りとなります。

そして、そのために重要になってくることが、建学の精神、理念に基づいた同志社のアイデンティティや文化をどう求めていくかということです。これまでは、移動する4学部の1、2年生が京田辺で学んでいたこともあって交流がされていましたが、13年度以降は、二つの拠点に設置される学部が明確に分かれてしまいます。この二つの拠点の交流を活発にし、同じ同志社人としての共通する精神を身に付けてもらい人格形成を進めていくことは、同志社大学の基本的で大きな課題であると思っています。特に京田辺キャンパスで同志社を肌で感じる環境を早急に整えていかねばなりません。

高度な学術研究を学部教育に活かす

大鉢:そうですね。私の研究室も京田辺ですので、文系の学生さんが移られることを少し寂しい思いをしています。それでは、次に今おっしゃられたことと重なるかもしれませんが、同志社大学の教育の方向性についてどのように考えていらっしゃるのかお聞かせ頂けますでしょうか。

八田:今後二つのキャンパスに明確に分かれますので、それぞれのキャンパスの特徴を活かしていきたいと思っています。京田辺は、「先端技術」、生命、健康、情報、文理融合といったキーワードで括れるキャンパスにし、今出川は、リベラルアーツ、国際、言わば「文系」のキャンパスとしての特色を強調し、それぞれに応じた教育・研究を進めていきます。

それと、今後も同志社大学の目指す教育の基本はリベラルアーツですが、高度な学術研究も進め、大学院での研究を積極的に強化していきます。その大学院での成果を学部教育に活かし、魅力的な学部とし、全国から優秀な学生さんに来てもらいたいと思っています。

そして、先ほど触れた同志社大学のアイデンティティを持続し、高めることです。今大学をめぐっては、偏差値や就職に関して、あるいはアメニティなど様々な評価軸があります。私が大切にしたいのは、卒業生がお子さんをどれほど同志社に入れていただいているか、です。自分が受けた教育を自分の子どもにも受けさせたいと思っていただける大学にしたいですね。今でも他大学と比べても高いとは思っていますが、さらに高めていきたいと思っています。

学生の人格形成も同志教育の柱

同志社生協・新町校舎食堂同志社生協・新町校舎食堂

大鉢:なるほど、今後の同志社を左右するのは「アイデンティティ」の共有や高揚なのですね。では、先ほどアメニティという言葉も出ていましたが、同志社大学の学生生活や勉学への支援に関するお考えをお聞きできればと思います。

八田:同志社の創設者である新島襄は、精神的な豊かさを重視する心の教育が必要であると強調されています。私も、同志社大学は様々な知識を享受する場ではありますが、もう一方では、人格を形成していく場でもあると思っています。大学で得た知識を社会や人類の進歩に活かすかどうかは、どのような人格を形成するかに拠ります。同志社大学ではこの二つの使命を強く意識しています。

高度な教育については教員や職員の方々がやられています。しかし、人格形成は単に教室で教えられるものではありません。先生とはどのような話をしたのか、友達や先輩・後輩とどう付き合ったのか、どのサークルに入っていたのか、どこに住みどのようなものを食べていたのか、など人格形成には大学生活の全てが大なり小なり影響しています。ですので、同志社大学において、学生に寄与している個人や組織は全て学生への同志社教育に関与していただいていると思います。

その点で、同志社生協も学生の生活に寄与されており、直接間接的に学生の教育に関与されていますから、同志社教育の一端を担っている組織だと思います。その意味では、生協は教育組織の一つだと言えます。

今出川の新施設での食堂と店舗運営

重要文化財指定のクラーク記念館重要文化財指定のクラーク記念館

大鉢:現在、同志社生協では多くの学生委員が活動しています。そのようなことも含めて今後の同志社生協への期待や注文をお聞かせ頂けますでしょうか。

八田:生協は教育組織ですので、今後も学生の生活への関与を強め、いっそう学生を巻き込んだ企画や事業を展開していってもらいたいと思います。また、大学は地域の一員でもあり、生協も地域との関わりや貢献を広げて欲しいと思います。

そして、京田辺からの7千名の移動に伴い、来年2012年の10月には今出川での新しい講義棟として新施設が完成します。この新施設の食堂と店舗は生協にお任せしており、苦労もおかけするとは思いますが、しっかりと運営していただけるよう望んでいます。

大鉢:新施設を生協に任せていただき大変ありがたく思っていますし、大学や学生さんからの期待をひしひしと感じています。必ずご期待に応えたいと思います

さて今日は、同志社生協の学生委員長である山仲崇之君も同席していますので、最後に一つ質問をしていただきます。

山仲:今日はいろいろな話をお聞きし、“同志社人”ということが印象に残りました。先生も同志社大学のご出身ですが、どのような大学生活を送り、それがどのように現在に影響しているかお聞きしたいと思います。

八田:私の学生時代は70年代の学生運動が高揚していた時期で、大学も封鎖され、卒業式も行われないような時代でした。しかし、それだからこそ「正規の授業を大切にしたい」「学生への教育はこうあるべきだ」など、私の同志社大学を運営していく原点は、学生時代の4年間の生活や体験にあると思っています。

大鉢:本日は大変お忙しいところ誠に有難うございました。

(編集部)

『Campus Life vol.29』(2011年12月号)より転載