学長・総長インタビュー

励ましのメッセージを送りつづけ全被災学生の学業継続を実現

安全に寝られる場所と食糧などの確保

尚絅学院大学生協店舗
尚絅学院大学生協店舗

片山:本日は、東日本大震災の発生より1年を迎えようとしているこの時期に、被災地にある尚絅学院大学の震災当初より現在までの大学の様相や対応をお聞きし、また今後の課題・展望などもお伺いしたいと思っています。

では最初に、震災発生時の大学の状況、その後の初動対応や危機管理に関してお聞かせ下さい。

佐々木:震災が発生した3月11日の2時46分、私は大学で会議に出ており、その会議が終わりかけていた時でした。強烈な揺れが長く続きました。大学は春休み中でしたが、課外活動などで少なくない学生と教職員が登校しており、すぐにケガ人がいないか、大学の建物などの被害はどうかなどの確認をしました。

幸い大学内での人的な被害はなく、施設の被害も軽微でした。しかし、停電が続き、その影響もあり交通機関が全てマヒし、約40名ほどの学生が帰宅困難となりました。私も、副学長、事務長をはじめ10数名の教職員と泊まり込むこととなりました。

大学としては、これらの方たちの安全を確保し、食事や寝られる場所などの確保に追われました。全員を多目的ホールに集め、クラブの合宿所から毛布や布団などを集め、食糧は附属の幼稚園に水・乾パン・レトルトカレーなど備蓄されていたものを配布しました。大変心強かったのは、生協の店舗に食品や飲料、電池などがあったことです。山の上にあり、近隣に店舗がないこのキャンパスで、1週間は耐えられるメドがつきました。

多目的ホールでは、重油で動く発電機によって、テレビを見ることができました。大きな津波が押し寄せている映像や海岸沿いに多数の遺体が確認されているといった情報が繰り返され、大変なショックを受けました。この時、海沿いから通学している学生たちは「自分の実家がどうなっているのか」と、私たちでは想像できないほどのつらい時間を過ごしていたと思います。

学業継続を願い現金支給や授業料免除

佐々木:多目的ホールには結局2日間泊まりました。3日目となって、道路事情も分かってきましたし、何よりも親が心配しているだろうと思い、学生は教職員などの車に分乗してなんとか大学より離れました。

の3日間では、帰宅している教職員を含め安否確認も手分けしながら進めました。通信手段が遮断されている中で、「UNIPA」という独自の通信網が威力を発揮し、1週間ほどで、確認出来ました。

片山:震災発生当初の大学の状況がよくわかりました。

学長は、3月22日に、大学のホームページにメッセージを発信されています。このメッセージは感動的なもので、私も含め多くの人たちが励まされたのではないでしょうか。私の身を心配して連絡をくれた友人たちも、このメッセージに強い感銘を受けたと伝えてきました。

海岸沿いから通っている学生や教職員において、被災した方たちも多かったと思います。あらためて、大学や大学関係者の被災状況と、その後の対応や支援についてお教え下さい。

佐々木:この震災による直接的な大学の被害は約850万円、附属の中高含めた尚絅学院の被害総額は約4千万円となりました。そして、痛恨の極みですが学生二人が津波により亡くなりました。保護者が亡くなった学生や家を流された学生も多数います。また、そういった被害に遭わなくても、職場が無くなったり、原発からの避難で、保護者の収入が断たれた学生もいます。

こういった事態に直面し、まず大学として考えたことは、被災した学生が学業をやめたり、休学したりすることを防ぐことでした。その対応は素早く行ないました。

まずは、物資に困窮している状況において、全壊・半壊問わずに現金で25万円を131人に支給しました。これは経済面での支援であると共に、何よりも「大変ではあるだろうけれども学業の継続を願っているし、大学は親身になって支援する」というメッセージを伝えるもので、大変効果があったと思います。

次に、後期授業料の全面的な免除と減免でした。「保護者を亡くされた」「収入を断たれた」「実家が全壊した」学生は全学免除とし、「実家が半壊した」学生は減免とし、171名にその措置をしました。ほとんどが全額免除です。これは2012年度も実施する予定です。

メンタル面の支援では、親や兄弟、家などをなくされ、絶望感に陥っている学生もいると思われたので、4月から5月初旬まで、学生相談のホットラインを設けました。これはカウンセラーや教員がチームを組んで取り組みました。  それと、在学生に留まらず、祖父母や同窓生で被災された方を励ますために、"オール尚絅"を掛け声に、尚絅学院関係者全員で助け合う募金を提起し、1人5万円を支給しました。これも、私たちは繋がっているとのメッセージを被災された方たちに届けたかったからです。

大学生協が取り組んでいただいた被災学生へのお見舞金支給も有り難いものでした。本学では70名の学生が頂いています。その学生たちからのメッセージも拝見しましたが、彼らが全国の学生や大学関係者からの支援に、大変励まされ、感謝していることが読み取れました。

以上のような支援により、震災を理由とした休学や退学は一人もおらず、学業を途中で放棄することを防ぐことができました。

ボランティアセンターの運営を任され仮設住宅でのサポートも

片山:本学には学生のボランティア団体はありませんでしたが、今回の震災では、震災発生直後から学生自らが支援に向かい、大変感心しました。学生たちの支援活動について、次に触れていただけますでしょうか。

佐々木:今回の震災で大きな被害にあった閖上地区より本学に通っている学生は多く、被災した学生も少なくありません。そういった学生たちが、翌日から被災地で地域のために率先して自主的に活動を開始しました。これは驚くべきことであり、心打たれる行動でした。

そして、その後は、名取市の職員が被災地などの諸事に追われボランティアセンターに力を注げない中で、本学の学生たちが名取市のボランティアセンターの運営をも任されるようになり、ボランティアの受付・保険への加入の徹底・活動への配置などを行なっていました。この時期は、新学期開始が5月初旬まで延び、時間的にも恵まれていたことも幸いしました。

大学の授業が開始されてからは時間にも制約され、ボランティアセンターは遠かったので、大学としてもタクシー代を補償するなどして、応援をしてきました。

8月以降に仮設住宅が設置され始めましたが、本学の学生たちは、現在二つの仮設住宅のケアや支援を受け持っています。仮設住宅内でのまとまりやコミュニケーションを円滑にし、また映画の上映なども行なって仮設の生活での潤いの場や機会の提供を進めています。

こういった活動を進めている中で、千葉県の敬愛大学や「大学コンソーシアムひょうご神戸」からの申し入れに応え、学生ボランティアを受け入れました。他大学の学生や大学との交流が進んだことも貴重な経験となりました。

減災への意識と取り組み復興へのリーダーの養成

尚絅学院大学キャンパス
尚絅学院大学キャンパス

片山:今までのお話で尚絅学院大学としての震災の振り返りはほぼされたと思います。では、間もなく震災発生より一周年を迎えますが、震災に関わるところでの今後の課題をどのように考えていらっしゃるのかお教え下さい。

佐々木:年が過ぎようとしている今、尚絅学院大学としては、キャンパスでの以前の喧噪も戻り、学生や教職員も研究や勉学あるいは課外活動にと、関心やエネルギーが向かっていると思います。

しかし、被災した学生たちは多かれ少なかれ心に傷を負っているでしょうし、これからの生活に不安も抱えていると思います。大学としては、一番にそういった学生を励まし続けることが大切だと思っています。また、授業料の減免や奨学金などによって、経済面での支援を続けていくことが必要とされています。

また、今後も大きな地震が起こることが、かなり高い確率で予想されています。

大学としては、やはり大学構成員の減災の意識を促進させ、食糧などの備蓄やマニュアル整備、あるいは情報網の確保など、具体的なとりくみを進めていかなければなりません。

そして、これからは被災から立ち上がり、希望を持って復興に向かうリーダーを養成していくことが大学にも求められていると思います。この点では、本学も参加している「学都仙台コンソーシアム」が「復興大学」を開校することとなりました。これは、土曜日と日曜日に講義があり、私も授業を受け持ちます。学生たちにもなるべく通ってもらいたいと思っており、交通費などの援助を考えています。

他者を思いやるキリスト教の精神

片山:震災との関わりでの課題をあげていただきましたが、“絆”や“助け合い”といった時に、本学の教育のモットーである「他者との交わりに生き、共に生きることをよろこぶ」と共通していると思うのですが、その点についてはいかがでしょうか。

佐々木:震災の時だけでなく、学生たちが自分の生活ばかりを考えるのではなく、他の人や社会のことも考えることは、キリスト教の精神に沿ったものです。

本学はキリスト教主義の大学として、一般教養と専門教育に加えて、「他者を思いやる、共感する」精神を身に付けていって欲しいと思いキリスト教教育を実践しています。

本年度からは、「尚絅学」という科目をスタートさせました。これは本学の建学の精神である「キリスト教精神によって裏打ちされて、地域の人々のために働き、地域の人々と共に生きる人間の育成」などをいっそう学んでもらいたいがために開講しました。そして、今年の秋には、礼拝堂も新しく完成します。

生協の学生委員会は尚絅学院の象徴

生協学生委員会「アリスクラブ」生協学生委員会「アリスクラブ」

片山:では、最後に今後の尚絅学院大学生協への期待などをお聞かせ願えますでしょうか。

佐々木:生協の学生委員会である、「アリスクラブ」はオープンキャンパスや新入生歓迎などで、常にボランティアとして活動しており、尚絅学院の温かさを象徴しているように感じています。そこのスタッフの学生はその活動を通じて成長しており、生協の教育的な役割も大切です。

また、生協職員と学生とのコミュニケーションがうまくとれており、“互いに支えていく”という点でも生協の必要性が感じられ、非常に大事な組織だと思っています。

片山:生協の学生委員と職員も大いに励まされると思います。本日は大変お忙しいところ誠に有難うございました。

(編集部)

『Campus Life vol.30』(2012年3月号)より転載