学長・総長インタビュー

学生の参画を推進し優れた教員養成に全力を挙げる

教員養成の目的を十二分に達成


子安:本日はよろしくお願い致します。では、早速インタビューを始めていきたいと思います。最初に、最近の愛知教育大学の状況などをお願いします。

松田:愛知教育大学は「教員養成を主軸に教養教育を重視する大学」です。教育大学として、現在教員養成課程に約7割、現代学芸課程に約3割の学生が在籍しています。1学年約950人ですので、教員養成課程におよそ700人、現代学芸課程に250人が学んでいます。

教員養成、特に小学校教員は7、8年前までは、「計画養成」で進められていたのですが、それ以後は「自由競争」といった様相を呈しています。以前は愛知教育大学の学生が700~800人、私学で100人ほどの学生が愛知県内では小学校教員免許を取得していましたが、現在は県内私学で約1400人にまでに至っています。

そういった競争の激化の中でも、本学の教員就職率は常時全国のトップ3に入っており、正規で教員になる卒業生は350人と全国で一番多くなっています。臨時教員を含めると70%超が教員となっており、「教員を養成する」という目的は十二分に達成していると考えています。

今後は、教員となった後も生涯学び続けることのできる学生を育てる教育、単に知識だけでなく、真の教養を身に付けていける教育を大事にし、今まで以上に優れた教員を輩出していきたいと思っています。

しかし、一方で外的条件として、国立大学改革は非常に進展が急激で、しかも将来的な行方が見えずに混沌としており、戸惑うことが多くあります。運営交付金の毎年1%の削減は切実な問題ですし、一律的な国家公務員の給与削減も大学関係者に動揺を与えています。大学は日本において人材の養成を担う大きな役割がありますが、本来の教育を行う環境が悪化しており、高等教育の展望が見えにくくなっています。

教員養成に不可欠な教養教育

子安:大学教育の展望が見えにくい中で、教養教育に力を入れていくとのことですが、その点についてもう少し詳しくお話しください。

松田:「教養」とは、単に知識の広さを表すわけではなく、時代と共に変化する社会の中で、自分の立ち位置をしっかりと捉え、様々な問題に対し自分の頭で考えて答えを出していく、そういう力だと思います。

今回のオリンピックにおいて男子1600mリレー種目に、本学の中野弘幸君が出場しました。現役の国立大学の学生として陸上競技では唯一の出場です。グラウンドや練習環境などが他の選手と比べて劣る中で、大学に入ってから記録を伸ばし、出場することができました。彼は、「愛知教育大学の自由な雰囲気が良く、自分の頭で考え、試行錯誤を重ねながら工夫し、記録を伸ばすことができた」と言っていました。彼は教師を目指しているのですが、「オリンピック出場を果たした今回の経験が、教員としても必ず活かせると思う」とも言っていました。

教養とは、このように何か壁に当たったときに、他人の言うことをうのみにするのではなく、「何故?」「どうして?」と自分で考えることによって、今まで見えていなかったことが見えてくることだと思います。

そういった力を養うために、本学では、「教養教育を重視する大学」を目標としています。

現在、来年の4月に向けて教養教育の改革を検討しています。そこでは学生に身に付けてもらいたい「四つのリテラシー」を掲げたいと思っています。その四つとは、「市民的リテラシー」「多文化リテラシー」「科学リテラシー」「ものづくりリテラシー」です。これらをベースとして構成し、加えて「基本概念」「感性創造」「現代的課題」をも理解し、身に付けることが「教養」を育むと考えています。

教育大学の柱と学生参画の推進

子安:教養教育をベースにしつつも、教育大学における教育の特徴がありますが、その特徴や、今後大きな影響を受ける可能性がある最近の動向などで感じられていることがありましたら、次にお願いします。

松田:教育大学のカリキュラムには三つの柱があります。それは、「教職専門」「教科教育」「教科専門」という科目群です。この内、本学で力を入れたいと思っている科目は、「教科学」です。これは、「教科専門」と「教科教育」の二つの科目の融合を図り、教科専門を小中の教育にどう活かすかという教材化まで掘り下げて、教科の教え方に取り入れていく新たな学問分野の展開です。

また、本学では、「愛知教育大学憲章」を定めていますが、その中では「学生の学修活動を支援し、教育改善への学生参画を保証する」とし、学生と一緒になって、教育を充実させていくことを約束しています。学生も教職員と一緒になって、教育の改善をしていってもらいたいと願っており、「学びがい」「つくりがい」のある大学にしたいと思っています。

「つくりがい」のある大学とは、知的な交流を持って人と人のつながり、ネットワークづくりを促し、この大学にアカデミックな場をたくさん構築していきたいという意志が込められています。  今後、私たちの教育に大きな影響を与えると思われているものに、「教員の修士レベル化」があります。これは、文部科学省の中央教育審議会に「教員の資質能力向上特別部会」が設置されており、この8月の答申で中長期目標として出されたものです。高度専門職業人としての教員のステータスアップを図るものです。私は基本的には賛成なのですが、その財政的な裏付けもされていませんし、きちんとしたロードマップも出ていませんので、それらを明確にしていく必要があります。

様々な学生の自主的な活動を支援

子安:学生にとっての大学の在り方として「学びがい」や「つくりがい」は大切であると思いますが、現在実践されていることで、松田学長が評価しているアイディアや試みがありましたらご紹介下さい。

松田:本学には、教育の改善や学生支援の改善を進める、「教務企画委員会」と「学生支援委員会」があります。そこでは、学生と院生の代表に参加してもらって自由に意見を言ってもらっています。また、以前は大学の全構成員参加による「全学会議」を開催していましたが、現在はより学生参加を促進し、発言しやすいように、「キャンパストーク」と改名し、大学の運営や現状について発言してもらっています。これをきっかけに学生の自主的な活動として「愛教大こんなんで委員会」がつくられ、教員と一緒にFDの改善を進めるという成果も現れてきており、大学にとって大事なものとなってきています。

また、震災との関係ではボランティア活動に取り組み、この夏にも子どもたちの学修支援として、3チームが宮城県の小・中の学習支援に参加します。その他、春と秋に行われ大学では恒例となっている「子どもまつり」は43回目となり、千人もの子どもたちが参加していますし、「科学ものづくり」では学校に出かけていって実験などを行っていますが、これにも200人ほどの学生が参加しています。

それと、生協の学生委員会も新入生歓迎会をはじめ様々なとりくみを自主的に進めており、大学や学生に貢献していると思います。

大学としては、これらの学生の自主的な活動を大いに支援していきたいと思っています。

学生支援 大学と生協の共存共栄

愛知教育大学生協・生協食堂
愛知教育大学生協・生協食堂

子安:これまで学生への教育について主に話をしていただきましたが、学生自身や学生生活も大分変化してきていると思います。

例えば大学生協の調査では、不況の影響で親からの仕送りが減っていることが指摘されていますし、自宅生でもバイトに追われ学業に支障が出てきているのではと感じる時もあります。

その他、そういった経済面だけでなく、学生や、その生活に関して感じてらっしゃることを、お聞かせ下さい。

松田:リーマンショック以後だと思いますが、奨学金の希望者は増えていますし、授業料免除を申請する学生が特に増えており、全学生の20%を超えています。また、日常生活では自転車通学が増えており、やはり学生の経済面は苦しいのだろうと推測しています。

大学では、先ほどの授業料免除や入学料免除などの支援を行なっていますが、今年は女子の学生寮を1棟新設し、格安で利用できるようにしました。また、学生の経済状況によって、寮費を半額にするなどの支援をしています。

ふだん直接学生と接する機会が少なく、できる限り彼らと話す機会を得るため、様々な機会に学長室で学生諸君と食事をしながら懇談するように心がけています。

今の学生を見ていて感じることは、3、4人でのグループでの行動が多く、集団での行動が苦手なことですね。また、教養教育とも関連しますが、人の言うことをあまり疑わず、そのまま受け入れる傾向があると思っています。社会には正解は何かがわからないことも多数あります。そこで、自分の力でベター、ベストの解に迫れる力を付けてほしいと願っています。

子安:授業である問題を出した時に、いろいろな解き方があるにも拘わらず、唯一の方法を教えてほしいという傾向は確かに強くなっていると、私も授業をしていて感じています。

では、先ほど学生委員の話もされていましたが、最後に生協への期待やご注文をお願い致します。大学生協では、キャリア形成支援や経済的支援を行なっているところもあり、愛知教育大学においても大学と生協の価値ある協力や協働が進めば良いと思っています。そのような点も含めてお願いします。

松田:私は、基本的に大学と生協は共存共栄だと以前より言っています。大学の福利厚生面は、国立大学がいくら法人化されたとは言え、大学がすべてをやっていくことは無理ですので、大学と生協が強く連携をして、学生の生活サポートをしっかり行なっていくことが必要です。学生のことを良く理解して、学生の視点でサポートしていくことと、利益目的で大学の場を使用するのとでは、まったく次元が違います。大学生協は、学生や教職員が長年培ってきた協働の力を発揮して貢献していただきたいと思います。それが大学生協の原点ではないでしょうか。その点で現在の生協が、そのことをよく理解して、実践しているかというと、まだまだ不十分な点を感じることもあります。

生協の学生委員は、大学と生協が連携を進める際のフロントに位置して、奮闘していると思います。愛知教育大学生協として、そういった学生を大事にし、大学を卒業していく時には、成長して優れた教員や社会人になれるようにしてもらいたいし、そういった学生を毎年数十人も輩出できることは大学にとっても価値あることです。

愛知教育大学生協としても、ぜひオリジナリティも保ちつつ、学生生活のトータルなサポートの実現を果たしていただきたいと思います。

子安:生協への期待も充分感じましたし、今後いっそう学生に貢献できるようその役割を発揮していきたいと思います。本日は大変お忙しいところ誠に有難うございました。

(編集部)

『Campus Life vol.32』(2012年9月号)より転載