学長・総長インタビュー

学長としての2期目を迎え4つの「重点的取組事項」の実現へ

グローバル人材育成に最大限の努力


山崎:本日はよろしくお願いいたします。大学生協では学生が主役ですので、新潟大学生協で活躍する学生も参加してもらっています。

では、最初に下條学長が捉えている日本の大学の現状認識を、お聞かせ頂けますでしょうか。

下條:国立大学は、基盤的財政支援である運営費交付金が減額される中で、期待されている大きな使命を果たすべく懸命な努力をしています。昨今の経済情勢の低迷に加え、昨年の震災という国難を乗り越えるために、期待されている大学の使命をしっかりと果たしていかなければなりません。大学の役割は、やはり将来を担う人材の育成であることは言うまでもありません。従来にも増して質の高い教育に取り組んでいくことが求められています。

特にグローバルな人材を育てていくことは急務となっています。〝グローバル人材〟という言葉の中には深い意味があって、グローバル化する社会で正に国際的な舞台で活躍する人材ということもあるでしょうし、日本にあっても国際的な視野を持って物事を進めていくことができる人材を意味します。日本を支えていく人材を育てるために、本学では最大限の努力をして参ります。

学生の自律的な学習を可能にするエヌバス

山崎:私たちも、運営費交付金の減額によりたいそう厳しくなっているということを肌で感じています。そういった中で新潟大学として、今後どのようなことを重点に取り組んでいかれるのか、次にお願い致します。

下條:私は、2008年に学長に就任しました。その際に〝学長ヴィジョン〟として4つ掲げ、4つのヴィジョンを実現する「新潟大学アクション・プラン2009」を策定しました。そして、本年2月に学長として2期目を迎えたのを機に、本学が果たすべき機能の強化に向けて「新潟大学アクション・プラン 2012–2013」をとりまとめ公表しました。さらに、この2年間で重点的に取り組む「重点的取組事項」を4つ掲げました。

その一番目は、教育改革です。ここでは学生の学習成果を可視化し、学習過程をアセスメントする「新潟大学学士力アセスメント・システム(NBAS)」 (以下、「エヌバス」)の導入です。

本学には5000以上の授業科目があり、原則どの学部の学生であっても全ての授業科目を履修することができます。授業科目には「分野」と「水準」を示したコードが割り当てられています。また、学生は「統合型学務情報システム」により、自らの修得単位の確認や、他の学生と比較して自分の成績がどの位置にあるかを科目ごとの得点分布表で見ることができます。

それらにより、学生は自らの関心と学力に合わせて、カリキュラムをつくり、それを励みにして学習を重ねます。今までの大学では、決められた範囲でしか科目を選択できませんでしたが、本学では学生が自律的に学習できるようにその環境を整えています。

GPAでの評価は相対的なものですが、エヌバスでは一人ひとりを対象としての評価が可能となります。

このシステムは全国の大学教員の方からも関心が寄せられており、研修にいらっしゃる方も多く、11月30日には、東京の学士会館でシンポジウムを開催します。

教育の拠点として中央図書館が来年完成

山崎:自分が学んできたものを可視化し、画一的でなく、自ら学ぶ内容を決め、学んでいくと、卒業する際には個性あふれる人材に育つということですね。それでは、重点的課題である他の3つにも触れていただけますでしょうか。

下條:2つ目は、研究の高度化です。 基礎的な研究をそれぞれ高めていくと共に、先端的な研究を積極的に展開していきます。また、新潟大学として特色ある研究を重点的に進めます。新潟大学で行なわれている全ての研究を、世界標準に到達させることは難しいですので、先端的なあるいは特色のある研究を世界のトップレベルにしたいと思っています。本学には多くの研究プロジェクトがあり、大学としてはそれらを支援していきます。

3つ目は、地域との連携、世界との繋がりを強め、社会に貢献することです。これまでの大学は閉じこもりがちの側面がありましたが、これからは社会連携や社会貢献を強めていきます。また、グローバル化の中で世界との密接な人材交流や学術交流を進めます。地域貢献では、本学は医学部・病院を有しておりますので、地域の拠点病院として、とりわけ医療面での様々な貢献を果たしていきます。

最後の4つ目の重点的課題は、明るく学び、働きやすい環境づくりと大学の機能強化を図る大学運営を行なうことです。先ほども触れましたが、財政的支援が厳しい中で、いかに知恵と工夫を出して、良い環境をつくっていくかは、私共の使命だと思っています。

この点では、来年4月に中央図書館が待望のリニューアルオープンします。この図書館では、グループで学習をすすめる「ラーニング・コモンズ」を拡充します。その他にも個人学習コーナーの充実、「外国語学習支援室」、講演会などが開催できる「ライブラリーホール」、ゆったりと休憩できるカフェなどの施設も設置し、滞在型自学自習空間として学習・教育の拠点に位置付けられるもので、その完成を楽しみにしています。

ダブルホーム制がキャリア形成支援で大きな力に

山崎:教育と人材育成、そのための環境の整備などについて具体的にお話しいただきましたが、一方で学生支援に関しての現状や課題について、次にお話し下さい。

下條:学生支援については、就学支援・留学支援・キャリア形成支援・就職支援・経済的支援と多岐にわたって行なっています。

その中での本学の特徴としては、まず「輝け未来‼新潟大学入学応援奨学金」があります。これは、成績が優秀であっても家計の困窮から大学進学をあきらめる高校生を支援する制度です。入学時に必要な費用として40万円を入学手続き前に支給し、寮希望者には優先的に確保しその寄宿料を卒業まで免除、さらに入学後には授業料の減免措置ができる制度で、採用人員は50人以内としています。受験前に内定通知を出しますので、安心して進学に臨めます。

もうひとつ特筆すべき学生支援として、「ダブルホーム制」があげられます。「第一のホーム」は、入学して卒業まで所属する学部・学科です。これに加えて学部学科を横断して幅広い学生と教職員が繋がりを持って、自由に参加できる「第二のホーム」が5年前から活動しています。

第二のホームでは、教員と職員がペアで、10〜20人の学生グループに帯同し、地域での活動に取り組みます。話し合いながら多くの体験や様々な人たちと協力し交流することによって、学生たちは心を鍛え、今後困難な場面に直面しても適切に対処できる力を養い、キャリア形成や就職に役立てることができます。

現在20グループほどが活動をしており、新発田市の板山で活動しているホームは「ヒメサユリ」の保護活動や米づくりなどに取り組んでいますし、中山間地のプロジェクトに参加したホームは限界集落の現状を学び、稲作の手伝いをしながら地域の方たちと交流しています。活動を維持していくのは大変なことですが、今後も根付かせていきたいと思っています。

学生生活の基本は専攻の学問を身に付ける

生協学生委員会副委員長の佐野詩織さん(左)と委員長の白井暁洋さん
生協学生委員会副委員長の佐野詩織さん(左)と委員長の白井暁洋さん

山崎:生協の学生委員会には300人の学生が所属し、ダブルホーム制と同じく、学部も横断的で、学生の生活を良くするために活動しています。本日は、学生委員長と副委員長に来てもらっています。何か学長にお聞きしたいことはありますか?

白井:生協学生委員会で委員長をしています経済学部2年の白井です。私たちは周りの学生も巻き込んで大学を盛り上げようとしていますが、受動的な学生が多いような気がします。今の学生たちにどのような学生生活を送ってもらい、どのような学生になってもらいたいのか、学長はどのような理想の学生像をお持ちなのかお聞きしたいです。

下條:本学には生協の学生委員のような学生さんやサークルで奮闘する学生さんなど、多様な学生がいてほしいと思っています。ただし、ベースとなるのはそれぞれが所属する学部・学科の主専攻の学問をしっかり学び、卒業して幅広く活躍できる学問的な基盤をしっかり築いて欲しいですね。

現在活躍している本学のOBと話す機会がよくありますが、皆さん学生時代に様々なことを体験しているようですが、同時によく学んできたことが伺い知れます。グローバル人材ということは語学力だけでなしに、生協活動やサークル活動、さらには企業へのインターンシップや海外へのショートステイなど様々な体験や活動を通して培われるのです。勉強のみならず自分の考えをしっかりと持ってさまざまな課外活動に取り組む学生像を描いています

生協の学生委員会は 大学づくりのひとつの柱

9月にリニューアルオープンした工学部のミニショップ
9月にリニューアルオープンした工学部のミニショップ

山崎:学生にとっての良い大学とは、キャンパスライフを充実させることができる大学だと思っています。いろいろな要素があるとは思いますが、生協もそのひとつだと思います。最後に、新潟大学生協や大学生協全体に対する要望をお聞かせ下さい。

下條:多くの学生が関わり、学生の視点で生協の運営やとりくみを進めていることに感謝しています。教職員だけの視点で大学づくりを進めてしまうと、教職員だけに都合の良い大学になってしまいます。大学の主役である学生のための大学づくりにおいて、幅広い学生の声を反映しておられる生協の学生さんの存在は大きく、ひとつの柱になっている気がします。例えば、大学に入学した学生のアンケートでは、本学入学への動機付けのファクターとして、オープンキャンパスで生協学生委員の皆さんから案内を受けたことをあげる学生が少なくないことです。今後も更に活動を進めていっていただきたいというのが要望です。

もうひとつは、生協の食堂への要望です。一昨年度に実施した学生生活実態調査で、生協の学生満足度項目で食堂のみが前回の調査よりポイントが下がっていたようです。施設的な面で大学も考慮しなければならないと思いますが、価格と質のバランスをとっていただき、キャンパスの外に出て食事をとる学生がいなくなるような人気が出て欲しいですね。

山崎:生協も常にバージョンアップするよう努力して参りたいと思います。本日は大変お忙しいところ誠に有難うございました。

(編集部)

『Campus Life vol.33』(2012年12月号)より転載