学長・総長インタビュー

特色を明確にした大学改革で地域に根ざして「三重の力を世界へ」の実現へ

特色を明確にした三重大学の改革


久松:本日は三重大学の特色と先生のビジョンを大いに語っていただければと思います。まずは最近の大学の全般的な状況認識をお聞かせいただけますでしょうか。

内田:政権が変わり、成長戦略による国家建設が言われていますが、成長というより成熟、この国をどう成熟させていくか、という中で大学がリードできる部分が多く、その為に大学改革が必要だと認識しています。

その点で大学のミッションの再定義、それぞれの大学の特色の明確化を行う必要があります。

三重大学の特色化として、中規模で地域圏にある大学、そこでの研究は、ここだけは世界トップレベルにする、というように各学部で一つか二つの特色に絞る必要があります。教育の柱である教養教育は、すでにスタートアップセミナーやPBLチュートリアルなど日本で先行する取り組みを進めてきて、さらに教養教育を充実する組織体制を2013年中に整備したいと思っています。地域貢献では、センター・オブ・コミュニティとしての役割を果たすという点で、地域戦略センターが地域のシンクタンクとして機能しています。また社会連携研究センターや地域イノベーション学研究科など、地域との連携では、他のどの大学よりも三重大学は県や市町との連携が非常に強いと思っています。

その他、大学の国際化とグローバル人財の養成、もう一つの柱として、世界一の環境先進大学を目指しています。環境の取り組みでは、スマートキャンパス実証事業を通して、学内でエネルギーマネジメントシステムを作り、発電節電蓄電を効果的に動かしてCO2排出25%削減を目指します。これができると地域コミュニティにモデルとして発信できます。

三重大学は、教員、職員、学生が一体となって取り組むという良き伝統があるので、こういう取り組みは非常に効果的と思います。

教養教育の充実から地元貢献へ

久松:中規模大学として三重大学の研究は集約していく方向とのことですが、教養教育を充実していく方向性についてもう少し詳しくお聞かせください。

内田:教養教育を統合的にできる組織を作り、できるだけ早くスタートしたいと思います。

社会に求められている人財をどのように養成するかでは、学生が学びの習慣を確立し、自分のものとして身につけて欲しい、それが社会に出た時に、一般社会の常識を身につけるもとになる、そういう学生を教養教育の改革を通して人財輩出したいと思います。

三重大学は良い人財をたくさん輩出する、と評価される、それには地域との連携も重要です。すでに地域の中で信頼される大学として、三重県の行政・産業界・県民からの信頼度は高くなってきています。今、卒業生の4割が三重県の企業や行政に就職し貢献していますが、国立大学とはいえ、三重県にある大学として生きていくというのが、これからの歩むべき道と思います。

整備してきた教育研究環境と課題

内田:スマートキャンパスなど教育研究環境のハード面では、環境・情報科学館、図書館や動物研究施設の改修が進み、整備されてきました。特に環境・情報科学館では学生のラーニングコモンズとして、周辺のコミュニティの人の参加による取り組みなど、地域との連携で環境教育など有効に機能しています

またキャリア教育の充実も評価され、キャリア教育支援センターは東海・北陸地区23校の幹事校になり、今までの成果が現れています。また樹木の多い住みやすい環境に恵まれているとともに、全学が一つにまとまったキャンパスであり、どの学部でも学生間の交流も容易で、学習環境も優れているし研究環境での学部間連携もしやすい所です。

その中で学生に対する課題の一つは、精神的な面での支援、問題を抱えている人へのサポートです。学生も授業の中で自分が努力したら効率良くできる、そういう点で学習の習熟過程でeポートフォリオを活用して、自分の選択を認識できる上で役立つ、そのように学生を指導することが精神的な問題点を取り除くことになるし、そのためにも学生総合支援センターの「学生なんでも相談室」の充実も図りたいと思います。

久松:学びの習慣について具体的にどういう教育なのか、今の精神的なサポートの具体化なども学習の動機付けにもなりますね。

内田:何にでも興味を持って、分からない事は自分で学び取ろうという姿勢を教えていこう、という事です。今の教育は何でも専門性を強調しすぎて、自分の専門以外を排除する傾向にあるので、人間形成にとってよくない、偏ってしまいます。

大学入試に合格する事がゴールで、その後のモデルが想定出来てない、それは入試の大きな問題点で、大学改革も入試改革がとても大きな要素になると思います。今の入試制度では、余計な事を考えず限られた知識で、いかに入試で良い成績を取るかです。でも社会に出ると色々とフレキシブルに対応しないと創造的なものもできないし、組織や地域の中でのコミュニケーションも取らないといけないので、今のような入試制度を変える必要性を感じています。

県内の一次産業育成に果たす役割

久松:三重県の一次産業育成という点ではいかがでしょうか?

内田:三重県の北西部は工業化が進んでいますが、中西・南西部は、農業・漁業・林業という一次産業が主たる部分なので、一次産業の育成、活性化に三重大学が果たすべき役割は大きいものがあります。一次産業の構造を変える事に貢献できる領域でもあります。農業ではロボットを使って収穫する、米作りは機械化ができているので、果樹園や野菜作りなど機械化ができないか、植物工場も含めて、新しい農業・漁業・林業に大学の持っているテクノロジーをどう反映できるか、そうすることで、若い人が参入できる状況を大学がどう支援できるかということです。

 三重大学の卒業生は一次産業の現場にいる人も多いので、その現場の情報を機械メーカーに伝えるなど、連携を促す、コミュニケーションを図ることを大学がやらなければいけないと思います。

卒業しても頑張る学生を

9月にリニューアルオープンした工学部のミニショップ

久松:先生から見て学生に対する教育、学生に頑張って欲しい方向性などありましたら一言お願いします。

内田:今の学生は大学時代積極性があります。組織に束縛されてないので自由度が高い、特に三重大の女子学生は前向きで積極的、環境のISO学生委員会も女子中心です。その子が社会に出て組織のしがらみの中で萎縮していくように感じます。学生時代には自由闊達ですが、一つの組織の中では自分の思い通りにならない、その中で自分の個性をどう生かしていけるか、という人間としての強さを大学時代に身につけて欲しい。そういう事が分かる教育をしたいのです。

若者の内向き思考と言われますが、私は、ものすごく前向きに取り組む子と、あまり前向きでない内向きの子との二極化だと思っています。前向きの子が内向きの子を引っぱっていけるような大学や社会になっていけば良いでしょう。

価値観の多様さを皆さんに認識して欲しい、わが国では学校の成績が良いのが偉いという面が強いですが、学校の成績が良いのもスポーツや芸術で才能があるのも、それぞれ能力で、これは一緒だという感覚を持てば社会も変わると思います。

久松:私自身の反省もありますが、そういう価値観の多様さを認める教育が大学ではあまりできていませんね。元気な子が就職すると内向きになって、意見を発信できなくなってしまいます。

内田:組織の中で自分を表現できない、個性を出す事が難しい中で、若者が苦悩しているのかもしれません。大学だけでなく社会そのものの構図をどう変えていくかです。

大学は何をしているのか? 卒業した学生が社会でどんな役割を演じているのか? が見えないので、大学の評価も問題視されますが、18歳人口の半分の50万人もが大学に入る中で、同じ世代だけでなく、もっと30代40代の社会人入学を増やすことも必要と思います。学生の勉学に対するモチベーションも上がり、色々な考え方を知ることもでき、教員も学生からの刺激が増えて意識も変わるだろうということで、もっと奨励したいですね。日本の大学全体としての制度を作る事が必要と思います。入試制度を変えることがそこにもつながります。

生協先進大学として生協へ期待する

9月にリニューアルオープンした工学部のミニショップ
三重大学カレー・学長せんべい

久松:最後に三重大学生協に期待する事をお話し下さい。

内田:生活協同組合は生活面の組織として、学生や教職員がいかに便利に快適に大学生活を送れるか、という重要な意味を持つ存在です。三重大学では特に社会貢献という点で、生協が大学と協力して、非常に前向きに取り組んでいます。三重大カレーも学長せんべいをはじめとして色々な事が、久松先生を中心として生協が十分に機能して活躍している点で感謝しています。

しかし三重大学だけではありませんが、全国の大学で生協に対する理解度が少ない、一般の教員と話していると、生協は独占企業ではないかという話が出てきます。そうではなくて、学生や教職員が円滑に大学生活を過ごすように支援している組織であり、生協は、大学にとって、学生や教職員の生活にとって、不可欠だというメッセージをもっと発信して欲しい、と思います。久松先生のように生協に関わっている人は知っていますが、それ以外の大半の生協に関わっていない人は知らないで、「生協は購買や食堂で儲けているのでは」という意識の方が強いので、そうではなくて、色々な面で大学にも還元しているし、大学あっての生協だし、生協あっての大学だという事をどんどん発信して欲しいものです。

特に三重大学は、公務員講座など教育にも、産学連携の研究や社会貢献同様、生協が積極的に支援して、総体的に三重大学生協は大学との連携を非常に前向きにやってくれています。生協のご飯もおいしいですね。

久松:環境先進大学だけでなく、生協先進大学ですね。

朴:留学生も生協の理事になり、国際交流センターの先生も理事として一緒に、内なるグローバル化にも役立てようと進めています。学長の考え方と一致しているので安心しています。国際交流も環境も一緒に経験を積んでいくことで、日本の学生も身近な所で留学生と一緒に活動することで地域に根ざし、世界に通用できるグローバル人財になります。

内田:そうですね。そういう点も含めて、三重大学生協を大いに頼りにしています。

久松&朴:本日は色々とありがとうございました。

(編集部)

『Campus Life vol.34』(2013年3月号)より転載