学長・総長インタビュー

学生を大切にする教育、社会に役立つ研究力で「実学教育と人格の淘治」の実現へ

建学の精神と 近畿大学の人材育成


中口:国際競争と言われ様々な学期制の検討などが行われている中、最近の大学の状況について先生はどう思われますでしょうか?

塩﨑:近畿大学がどういう人材を育成するのか、ということでは、東大・京大・阪大とは違う人材を育てるべきです。初代総長が言われた近畿大学の建学の精神が「未来志向の実学教育と人格の陶冶」で、これ以上のものはありません。 「実学教育」で、世の中に出て世の中の為になる、実学を身につける。例えばクロマグロの完全養殖やバイオコークス(植物性廃棄物から作るリサイクル燃料)などはまさに実学です。目に見える誰もが分かるようなものを作っていく、これが一番目の大きな目的です。「人格の陶冶」では、人間としての基礎、人格がきちんとできていないと、国際化に対応できる人間には絶対になれない。人に愛され信頼され尊敬される、という近大の教育理念に適った人づくりを行っていきます。

13学部48学科という巨大な組織、すべてのことに対応できる・学べる学部があります。近畿大学全体として力を発揮できるようにすることが私の一番重要な仕事です。近畿大学がオール近大として頑張っている例として、東日本大震災と原子力発電所の事故で被災した福島県川俣町から大学として震災復興アドバイザーを受嘱。原子力研究所が川俣町の幼稚園児から中学生全員にガラスバッジ(小型の放射線量測定器)を配布し被ばく線量を測定、また学校や人の集まる場所の空間放射線量がどれだけあるか一目で分かるような計測器の寄贈があります。更に、近畿大学は、「オール近大川俣町除染支援プロジェクト」として、各学部からのアイデアを生かして、除染・放射性廃棄物の処理、産業振興、心身ケア、法律相談の4つの項目で多くの学部が横断的に協力し、活動に取り組んでいます。昨年、「東日本大震災復興支援室」を設置して、川俣町を復興モデルの先駆けとして、例えば、除染や放射性廃棄物の減容化を原子力研究所、理工学部、薬学部、農学部、工学部、産業理工学部、バイオコークス研究所が担当し、農学部や生物理工学部、文芸学部、経営学部が川俣町と協力して特産品の創作やPRなどに取り組んでいます。

キャンパス相互の取り組みと文理融合の教養教育を強めていく

中口:今理念や建学の精神についてお話しいただきましたが、実現するための大学の改革の取り組みについてお話し下さい。

塩﨑:東大阪キャンパスに8学部と短期大学部、大阪狭山キャンパスに医学部、奈良キャンパスに農学部、和歌山キャンパスに生物理工学部、広島キャンパスに工学部、福岡キャンパスに産業理工学部と、キャンパスが西日本に分散しています。それぞれの学部が一生懸命でも、一つの大学としてまとまった力が発揮できていませんでした。お互いが何をやっているかを知る場を作れば、共同研究も出てくるし、良いアイデアも生まれます。

中口:教育でも横につながることを行うのですか?

塩﨑:1年生、2年生で履修する教養科目では、文系の学生に理系の基礎的な教養を身につけるよう科目を設定し、理系の先生が授業を担当、理系学生には文系の先生が授業をする、という取り組みをやっています。総合社会学部では既に導入していますし、来年度からは全学で実施する計画を立てています。教養をしっかり身につけることが専門を勉強する上でも大事なことです。学生へのアンケートでも、教養科目で学んだことが今一番生きている、という意見があります。人格や人間性、広い視野を持った人間をつくるためには、教養教育が大切だと思います。

キャンパスそれぞれで地域連携を強化していく


中口:マグロ、バイオコークスの他に近畿大学の特徴的な取り組みをご紹介いただけませんか?

塩﨑:本部キャンパスのある東大阪はものづくりの中小企業の集積地域です。地元との交流や連携を強化するために、昨年度は2回、近畿大学の研究紹介を兼ねて意見交換会を開催し、多くの社長さんが「近大でそんな事をやっていたのですか? それなら私たちも一緒にやらせて欲しい」という話になりました。具体的にはコンピュータを利用して金型を3Dで形状解析して作る機械のプロジェクトや、文芸学部の学生が作った色々なデザインの商品化などです。トイレットペーパーのパッケージや、附属病院の中で卒業作品のオブジェを展示して患者さんに喜んでいただいています。薬学部と工学部はセシウム除去の研究の検証を行っています。放射性セシウムが吸着した土を掘り返してどこかに置かないといけないのですが、セシウムの入ったものを単に移動するだけでは、水に流れると海に入ってしまう。汚染水をゼオライトカルシウム漆喰に通すことで、セシウムを99%以上吸着できることを見出しました。今話題のPM2・5についても、10年以上前からNASAやJAXAと共同で、大気中に浮遊している物質を測定していますし、測定器を積んだ人工衛星から大気を観測する試みにも挑戦しています。

広島キャンパスの工学部はマツダ自動車と産学協同で自動車部品の共同開発を行っていますし、福岡キャンパスの産業理工学部では文理の枠を超えた特色ある学部づくりを目指し、毎年多額の補助をいただいています。和歌山キャンパスの生物理工学部も、和歌山県と多くのプロジェクトで協力しています。地域と密着した研究の推進も近畿大学の強みの一つです。

学部が分散してコミュニケーションが取りにくいという弱点はありますが、近畿大学の隠れた財産や能力は驚くほどです。

近畿大学の研究力

塩﨑:民間企業からの受託研究では、平成23年度の実績で、近畿大学が日本の大学の中で一番件数が多い、東大・京大より早稲田・慶應よりも多いです。但し研究費の金額では日本で5番目です。

国際的な研究力評価として、例えばURAP(2012~2013)大学世界ランキングでは、東大が10番、京大が25番、阪大が46番ですが、近大は日本の私立大学で6番目、慶應・早稲田・日大・東京理科大・順天堂・近大。論文の数や質で評価されますが、関西の私立大学の中では1番に位置づけられています。

知的財産の出願件数は、平成22年度実績では、関西で4番目、京大・阪大・大阪府立大・近大、神戸大・立命館。隠れたいい研究も多いです。アピールをしっかりとしていく必要があります。 

「うめきた」の近大マグロ提供のお店(グランフロント大阪に2013年4月26日オープンの「近大卒の魚と紀州の恵み 近畿大学水産研究所」)は、我々と和歌山県とサントリーのまさに産官学の結集したもので、大学主導で出店したのは日本で初めてです。 

その他、中小企業中心ですが本学出身の社長の数は関西では一番多い。また和歌山キャンパスの生物理工学部でマンモスを再生しようとする話もあります。

学生を大事にする教育は

中口:教育面についてですが、学生に対して、どんな所に力を入れていこうと思っていますか。

塩﨑:学生を大事にする教育をしていきたい。一番は就職だと思います。どういう人材を社会に送り出しているかは、大学4年間でどういう人材を育てているかの裏返しだと思いますので、就職には力を入れています。結果的に我々の教育に反映しますので、学生に良い出口を保証することが一番大切です。その為には豊かな人間性を持つことが最も重要であり、卒業時にどれだけ世の中の役に立つ、しっかりとした人間性、人格をもった人間に育てていくか、どういう教育をやっていくのかが大切です。一言でいえば学生を大事にする教育です。

中口:先ほど教養教育を見直そうということでしたが、やはりバランス感覚、専門的な知識だけでなく、善悪の区別がつく。

塩﨑:人の気持ちが分かる。

中口:建学の精神で、「愛される人」というような人間形成を引き続きやっていくということですね

塩﨑:そこが近畿大学の強みです。まさに国際化やグローバル化に対応できる人材というのは、英語ができるだけではダメなのですから。

学生への支援やケアは

中口:最近保護者の収入があまり増えないので、学生生活が苦しい、下宿生で仕送りをもらっていない学生が1割いる、あるいは生活費も仕送りが過去最低になっているという現状があるのですが、近畿大学としてそのような学生に対する支援はどうでしょうか?

塩﨑:奨学金制度は充実していますが、成績が良いなど貰える人は限定されています。途中で退学や休学していく人の半分以上は経済的な理由ですね。努力して頑張っているのに学費が払えないと辞めないといけない、休学も長くできない。我々には46万人を超える、OB・OGの集まりの校友会があります。校友会を中心に、必ずしも成績は良くなくともこの人にはきちんと教育を受けさせてやりたい、という支援を大学も一緒にやっていきたい。優秀な学生で金銭的な問題だけで大学に来られない人にはできるだけサポートしてあげたい。難しいことですが、是非実現したいと思います。中口 最近心に悩みを持った学生が多い、発達障害やうつ病など多いと感じていますが、そういう学生へのケアはどうしていますか?塩﨑 全学部で1年次に開講している基礎ゼミで、学生生活の悩みをいち早く把握し、担当教員が相談にのり悩みを解決しています。解決がむずかしい場合は保健管理センターに常駐している専門のカウンセラーが対応して悩みを解決しています。

近畿大学生協について


中口:近畿大学生協や全国的な大学生協に対してのご意見やご要望があればお伺いしたいと思います。

塩﨑:これだけ規模の大きな近畿大学としては、生協施設の規模は決して大きいとは言えないと思います。私もこっそり買い物に行くのですが、やはり狭いと思います。職員の方の対応はとても良いですね。学長と知らずに対応していただき、組合員ですかと聞いて下さり、書籍は割引で購入できますし、お弁当の容器を返却したらお金を返してもらえるなど、リサイクルにも積極的に取り組んでいて評判が良いと聞いています。

中口:競合もあるのですが、300円ぐらいの弁当で安いです。

塩﨑:キャンパス内の食堂が1カ所では大変です。色々な所で複数箇所あるのがありがたいですね。

中口:近畿大学も生協の拡張をぜひお願いします。

中口:総合大学として、近畿大学の学生に対する思いがよくわかりました。今日はお忙しい中をありがとうございました。

(編集部)

『Campus Life vol.35』(2013年6月号)より転載