学長・総長インタビュー

東京海洋大学
岡本 信明 学長
「海」に夢を持ち続けて その実現に向けて頑張る学生を育成する

海洋大学は、先を見すえた すばらしい統合で生まれた


渡邉:本日はよろしくお願いします。
本学の歴史的統合から10年が経ち、日本における海洋分野の重要性がますます増す中での、大学改革を進めていく上で、現在東京海洋大学が置かれている状況をどのようにお考えでしょうか。

岡本:東京水産大学と東京商船大学が10年前に統合しました。非常に先を見た素晴らしい統合だったと評価をしています。

10年経った今、海洋をどう利用し保全し活用していくのか、これからの地球をどのように持続的に利用していくのか、陸上の気候も含めて、今海洋が果たしている役割の重要性が認識されてきました。  

もう一つは、技術革新が非常に進んできていることです。例えば、海中の非常に深いところまで、潜水艇が有人でも無人でもいくことができるようになりました。  

魚に非常に小型の記憶装置を埋め込んで行動を記録していく。例えば、ミナミゾウアラザシは、呼吸するときだけ海面に出て、あとはずーっとゆっくり沈んで、底まで行ったら浮き上がり、餌がいる層で止まって餌を食べ、上がってくるということを繰り返している。  

海の中がどうなっているかが、技術革新によって分かってきて、それを踏まえてこれからどのように保全・持続的な活用をしていったらいいのかということにつながってきました。それがこの10年の間のものすごい進歩だと思いますね。

人工衛星の発達で、気象情報と海表面のデータを瞬時に取って、どう海洋の中で変化しているかが分かるので、いつ台風が発生し、水温がどう上がりどう変動するかも分かります。

今見ているそのような現象から、地球そのものにどう手を打っていかなければならないのか、温暖化も、これから10年後にどのように軽減していくのか、そのための基礎データが確実に集まってきました。

10年前社会的にはまだ意識されなかった時に、「海洋は重要だ」、そこを育てて行こうという大学を作ったことは素晴らしかったと思いますね。

世界の中でも注目されている

岡本:世界の中でも、韓国や中国も海洋が大事だということで、水産系と商船系の大学がそれぞれ別の大学として、海洋についてどのような教育研究の場を作るか、人材育成を行うか、それをどの大学が担うのか、お互いの良い所を協力しあえずに、非常に激しい競争になっています。上海や大連などの大学の学長さんにお会いすると、海洋に関して「これから人材育成の教育研究プログラムを作らないといけない、新しいフロンティアで10年先に向けた夢のある分野だ、そういう点では日本の東京海洋大学は、10年前に統合して水産と商船の良い所を合わせて向かっていけるので、羨ましいですね」と言っていただいています。

そういう点でも10年前に東京海洋大学が、水産大と商船大を統合して作られたのは、先見の明があったと言えます。

「海洋」に関わる人材を トータルで育成できる大学

岡本:この10年間、水産と商船だけでなく、やはり東京海洋大学なので両学部とも確実に海洋に関することを教育の中に入れ込んでいます。例えばAUV(自律型自動潜水機)や水中ロボットの独自開発を行ったり、北極から南極までのゆっくりとした海底流という温暖化の原因に関するものの研究を『サイエンス』『ネイチャー』に出されている先生もおり、個々にそれぞれ頑張っておられます。

国の方針としても「海洋」を強化していく、その体制を整備する動きになっています。海洋基本計画法の見直しもその一部です。

その中でどこの大学が人材育成を行うのかが問われています。「海洋」は非常に夢もあるし、世界中で頑張っている。具体的に測定から資源開発までのツール開発、利用保全などを行うときに、今の人材では足りません。10年後に実際に実用化する段階になった場合に、理論から現場の応用ができる人材、理学だけでない工学だけでない人材はどこで育てるのか、といったら東京海洋大学しかない。

海洋の理学系、造船の工学系、海洋構造物など個々の分野であれば、東京海洋大学より充実している大学もあります。しかしこれから必要な人材をトータルで教育する、海を理解して活用できる人材は、東京海洋大学でこそ養成すべきです。

その人材像を『海洋大スタンダード』として具体的に示しており、今までもそうですが、現場で長靴を履いている人、行政プランを作る人、収益計算しながらその会社のトップ経営陣としてやっていく人まで、幅広く輩出する大学でなければならない。沿岸域の開発であれば、漁業権の問題もあり、実際にそこで根を張った人たちがいないと、動かない。そのような人材育成は、まさに商船と水産がやってきたことなので、そういう人材の養成を「海洋」の分野にも拡大していくことが、社会から要請され、期待されていることだと認識しています。

10年先の「海洋」の夢を 目指せる大学に

渡邉:この10年間で我々の大学で一番大きかったのが東日本大震災でした。いかに海洋が大切でその環境を守らなければならないか、それは国民にも突きつけられました。もう一つは代替エネルギーで、新しいエネルギーを海洋から得ようとしています。

結局どちらも理学と工学を融合していかないといけない問題です。  2つのキャンパスは近くありませんが、先生も学生もお互いに足を運んで違う分野に入っていく努力が必要です。組織上は別々でも、教育研究上は一つの部分を徐々に増やすべきかと思います。

岡本:そうですね。全国の国立大学は学生の質を上げていかないといけない。私どもでもグローバル人材育成プログラムを行っていますが、グローバル化、英語力をつけて、就職のモチベーションを高めて、研究レベルを上げて、世界と伍して闘える大学に、どこの国立大学もならなければならない。

一方で私どものミッションとして、社会のどこに責任を負って、どういう人材を出していくのか、という場合に、東京海洋大学は、水産と海事と海洋の3つに責任を持つ、以前のように水産と海事の2つだけではない、そこは整理して自信を持ってやっていくことが重要です。

もう一つは、これからの海洋に関する新しい分野は、まだ十分な産業がありませんが、夢やポテンシャリティはあります。その実現を目指して入学する学生の就職を含めての親身な世話を続けていかないと、10年先の産業に結びつかない。日本の海洋における教育研究の基軸となる大学として、人材育成を行っていくことです。

今注目されている栽培漁業も最初は就職が無かったが、食品会社等の関連産業が学生の就職を支えてきた。10年たって研究もどんどん進み産業化できるようになった。近畿大学のマグロもそうだと思います。  まさに正夢になりうるようなものに向かってどう人材を養成していくか。10年後に出てくるだろうというのを立ち上げて向かっていく産みの苦しみを行うのが東京海洋大学でありたいと思っています。

「海洋」は国としても絶対に必要ですので、海洋大における人材育成に期待が集まっていると思っています。

渡邉:この前の大学生協のセミナーで、立命館大学の総長先生が、学生が夢をもつ教育・研究をやらなければ、大学は死んだも同然だ、とおっしゃっていました。立命館では、学生の夢を国際化ということで、立命館アジア太平洋大学を作った。  

我々も「海洋」という夢を目指しやすい大学になっています。企業の方にとっては、海洋大はユニークな学生が多くて、就職もいい。そこは大切にしたい、夢を持って入学してきたら、膨らませた夢を持って卒業して社会に出て行く、そういう大学に向かっていくべきと思います。

志をもって、粘ってこそ 夢を実現できる

岡本:国立大学に課せられた使命の一つに、国を引っぱるリーダーを出せる大学、きちんと学問を行い汎用性をもった学生を出せる大学というのがあります。

「何とかする力」の涵養が大切です。入学式の式辞でもお話しましたが、学問をベースに総合力や気力をもって物事に立ち向かうことです。

渡邉:「粘る、あきらめない」これもいいですね。私も学生に、あきらめるな、と言っています。

岡本:「志は気の帥なり」と言うように、高い志を持って向かっていって初めてできる、価値を創造する次元の高いもの、人々の幸福や社会の善のために尽くす、そういうものを持って物事に当たれば、気力の元になります。

海洋大学の使命を果たすために、また次の社会の幸福のために、学問をしっかりやって、果敢にチャレンジしていくことが必要です。

海洋大での生協は こうあって欲しい

渡邉:生協へのご要望もお聞きしたいのですが、先生は震災復興にも力を入れられていて、先生のおかげで銀鮭のメニューを食堂で売りました。

岡本:一番大事なのは、具体的に復興支援メニューなどがいつも生協メニューとして出続けていることだと思います。

できればキャンペーンは年1回ぐらいで、普段はさりげなく真ん中に置き続けてある、というのが風化しないためにも重要だと思います。

渡邉:生協でも復興に携わり続けるために、学生委員会が被災地のお菓子を生協で売ろうと、1年がかりで海鷹祭で実現するのですが、気仙沼の「ホヤぼ〜や」というキャラクターで、海洋環境学科の女の子がデザインした箱に、パイナップルクッキーを入れて店舗で販売します。〝We love kesennuma”とも入れてあります。

岡本:生協があることは、大学にとって重要です。堅持してほしいのは、悪い事はしないというイメージをずっと持っていて欲しい。

また生協が取り組んでいる事をもっと知らしめた方が良い。今はネット社会で商品のコメント情報など入っているけれども、本当にそうなのかリスクが高い。生協独自の情報、読んで欲しい本など、生協としてのおすすめ情報をもっと出した方が良いと思います。

大学は、地域の中心、コミュニティセンターの役割も担えるのではないか。開かれた大学として、地域の人がどんどん入ってきてくれる。大学生協もその一翼を担えるのではないか。大学生協は全国にある。

それから、些細な事も大切にして欲しいです。例えば自転車の空気入れも生協にお願いをして置いてもらっています。学内放置自転車は単に空気が抜けただけのものが多いのです。生協が扱ってくれたらと思うものは他にもたくさんある、とも思っています。

渡邉:本日は、ありがとうございました。

(編集部)