学長・総長インタビュー

北星学園大学

田村信一 学長

キリスト教主義教育をコアに、自主的な活動を通じて 社会で活躍できる学生を育てる

私学が支えている 日本の高等教育


大原 今の日本全体の大学の状況をどう認識されていますか?

田村 大学の教育改革が大きな話題であり、入学試験のあり方も中央教育審議会や教育再生会議などで大きく取り上げられ、日本の大学全体として大きな曲がり角にあると思います。

日本の大学はグローバル化への対応が遅れているので、追いつかなければいけないと言われています。また、上位層の大学の研究力や教育力が落ちているといわれ、文科省も力を入れています。しかし800以上ある大学すべてでグローバル化を指向するのかどうか、研究や教育を含めて日本の高等教育の方向性について様々なレベルで模索が行われている状況です。

他方、高等教育を経た多くの人々が健全な市民として日本の社会を支えています。このような中で、社会全体が発展していくためのバランスの良い高等教育がどうあるべきかという視点で、高等教育全体を再考する時期に来ているのではないでしょうか。

学生数の80%を占める私立大学に対して、国はもっと関心を寄せていただきたいと思います。補助金も非常に少ないために、親の教育負担が極めて高く、もう限界に来ています。歴史的に見れば、日本の高等教育は、少数の拠点大学に国費を投入し、先進国へ追いつき追い越せでやってきましたが、現在も、そこから、なかなか転換できていないのではないでしょうか?

一方で、大多数の私立大学が頑張っている。だからこそ日本の社会は教育格差が少ないですし、安全でいい社会となっていると思います。

そのような私立大学の高等教育におけるパフォーマンスをもっと認識、評価すべきだと思います。

真面目で優秀な人材を 戦前から輩出してきた

大原 私学の日本全体への貢献が認知されていないというお話でしたが、北海道もしくは北星学園大学としてはいかがでしょうか?

田村 北海道の特徴は、第一次産業中心の地域のため、高等教育卒業者への需要が少なく、大学・短大進学率が、全国平均が60%近いのに40%と低いところにあることです。そのために大学の規模も小さく、また、学生の就職志向も道内企業中心になっていますので、各大学の棲み分けがはっきりしているのではないかと思います。

北星学園大学は1962年に誕生し、一昨年開学50周年を迎えました。前身のミッションスクール「スミス塾」(のちの北星女学校)から数えると、道内で最も古く125年以上の歴史を持ちます。

大学は文学部英文学科・社会福祉学科でスタートしました。もともとネイティブ教員による英語教育には定評があり、航空関係会社や学校に英語能力の高い人材を輩出し、また福祉施設などに有能な人を送り出してきました。その後、経済学部が設置され、社会福祉学部が独立し、さらに短期大学と合併して現在に至っています。これによって航空、学校、福祉施設以外に企業や行政機関に就職する学生も多くなりました。

北星学園大学は、もともと規模が小さく地味な印象を持たれますが、道内を代表する私学としての地位を占め、優秀でまじめな学生を輩出していると評価されていると思います。特に英語教員の数は道内トップです。

日本の良いコンテンツ発信も 大切な「グローバル化」対応

田村 日本はこの20年間、経済的停滞の中で、アニメーションや料理、スポーツなどが盛んになってきています。オリンピックの金メダルもロンドンが過去最高ですし、日本のノーベル賞受賞者もバブル崩壊後の方が圧倒的に多いのです。

経済一辺倒から日本がある程度成熟してきているからこそ、大学を卒業して活躍できる場面は広がっていると思います。  北星はミッションスクールの伝統を引き継いでいることから、道内私大では最も国際交流が盛んな大学として知られています。昨年スペインの大学と提携したのですが、大学スタッフも学生も、日本への関心が高く、皆『クレヨンしんちゃん』を知っていました。その大学から日本に来ている3人の学生もアニメに興味を持っていて、日本の文化への関心が高いです。

 

国際交流は、こちらから学びに行くことも大事ですが、向こうから学びに来る留学生が増えている中で、受入側として何をどう教えるのかも考えなければなりません。

 

「グローバル化」では、外国に行く、外国で学ぶことも大事ですが、もっとこちらから発信できる教育が必要ではないでしょうか?「英語で授業」も大事でしょうが、それよりも日本の良いコンテンツをどう発信していくのかというところまで視野に入れた教育が大事であると思っています。

自主的な活動を大事にして 社会で活躍する学生に

大原 北星学園大学は、人間性、社会性、国際性という三つの目標を掲げていますが、学長として今後何を重点として大学を運営されていきますか?

田村 現在古くなったC館を建て替えていますが、それ以外に、管理棟だったセンター棟の内部を改修し、学生の自主的な活動の場として開放したいと考えています。たとえばカフェやラーニングコモンズ、さらに、仮称ですが、高度な学習支援の場としてアカデミック・アドバンスメント・センターを作りたいと構想しています。〝学生がやりたいもの・こと〟を伸ばしてあげるために、ピアサポートも含め組織的に対応したいのです。

北星の特徴は、サークル参加率が70%ととても高いことです。しかもボランティア系サークルには、学生4千人の内、5百人以上が参加しています。朝日新聞出版の2012年度版『大学ランキング』で、東日本大震災の後で、「社会への関心が高くなった」という項目で、北星は1位になりました。

北星は社会に関心を持っている学生が多いですし、学生が持っている潜在的なエネルギーを吸い上げ、それを学問と結び付けて、積極的に社会と関わろうという人たちを育て輩出したいのです。

単位互換で留学も積極的に

田村 北星は、すでにお話ししたように、道内でも国際交流が盛んな大学です。正規の交換留学だけでなく、短期や長期の私費留学も、生協を通じてたくさんの学生が経験しています。

現在、私費留学も正規の単位として認定できるよう考えています。例えば、1年間の私費留学を単位認定して4年で卒業するにはどうすればいいか、今の提携校に正規派遣留学ではなく、語学留学で行っても単位認定できないかなどを検討し始めています。

もう一つはダブルディグリーです。今、イギリスのマンチェスターの大学に女子学生が留学中ですが、向こうの経営学のディグリーと英文学科のディグリーがダブルで認定できる制度がスタートしました。

面談中心の支援で 高い就職率を実現

大原 北星のキャリア支援は?

田村 道内でトップクラスです。この学生数で就職支援課に12人配置しています。これは相当分厚い体制と自負しています。

北星では1年次からキャリア教育科目を開講したり、キャリアデザインプログラムを実施していますが、何といっても「直接面談」が基本でしょう。

大原 私も何度も行いました。

田村 昨年の就職内定率は96%です。本当に1年中何回も学生と面談を繰り返します。学生の多くは、最初は就職に対して漠然と考えていて、実際に就職活動が始まると現実は非常に厳しく、挫折したり活動を止めてしまう学生がいる。そういう学生のお尻を叩く意味でも、ゼミの先生にも面談していただいています。就職支援課と教員が連携して、本人の就職希望先を考えながら何回も面談して、最適な就職先を紹介しています。

また、地元の優良企業から突然の求人案内があることもあります。そんなときにも、北星の就職支援課は普段から学生の志向を把握しているので、相応しい学生の携帯電話に直接連絡して情報を伝えるという即座の対応ができます。そのような通年のコンタクトで就職内定率96%を実現していると思います。

一方で、社会に出る前段として、3〜4年の専門教育で働くことの意味などを教えることも必要ではないか、と思っています。また、就活が終わった時期には、労働法や有給、年金、保険の制度などについて教えても良いでしょう。

北星らしい キリスト教主義の教育

田村 人間には、勉強して具体的な目標に向かって行くという認知スキルと、その根底にある人間性、つまり真面目さ、自己規律、他人との関わる力などの人格スキルがあると言われています。初等から中等、高等までの教育でも一番大事なのは、本当は人間性なのです。

日本人は他者に優しく接する、困った人を助けるという精神を持っています。それは日本人の宗教的伝統とともに、明治以降日本にキリスト教主義の学校ができ、そのような学校での教育の影響がプラスに出ているのではないかと考えています。

北星はキリスト教主義に基づく大学です。他者に優しい姿勢や隣人愛といった精神を持ち、困った人を助けるという発想ができる人間を育て、社会に送り出そうとすることは、キリスト教主義の大学として絶えず考えなければなりません。北星の教職員にはこれをベースに教育する意識を持って欲しいと思います。

また、先ほどボランティア系サークルに所属する学生が多いと紹介しましたが、震災直後から始めた震災ボランティアも、応募人数が募集定員を上回りながら継続しています。今は、震災後に入学した学生の関心が高くなっており、〝北星ネット〟というスミス・ミッションセンターのグループにかかわる学生が、調整やコーディネートなどすべて自主的に行っています。

大原 それはやはり北星らしさの一つですね。

生協について

 

大原 2年後に50周年を迎える生協を、学長はどう思われていますか?

田村 私は学部が法政大学ですが、1年生の時に、友人に頼まれて総代をやりました。大学紛争期でしたので大変でした。

今は、書籍の購入や食事なども生協です。外に出る時間がもったいないですし、生協は学生や大学にとって一番身近な場所だと思っています。

食事はほぼ毎日生協です。時々フェアをやっていますが、400円前後で食べることができ、とても楽しみです。

要望としては、教員なので、書籍の充実です。社会科学の専門書だけでなく、人文社会や教養関係も充実して欲しいです。

大原 今の学生はあまり本を読まなくなりましたよね。

田村 でも大学生は、教養としても、勉強でも、何でも本を読むことが基本ですよね。初年次教育で、本の読み方を啓蒙するのも大事かも知れません。

専門書だけでなく、話題になっている本、推理小説でも文芸賞受賞作でも、あるいは新聞の書評に載っている本など、大学生協が積極的に取り上げても良いと思います。

大原 面白い、ドキドキする、話題になっている、そういう本を生協に置いて、それを手にしてもらう工夫が必要ですね。読まないから置かないということではなく、積極的に、ですね。

今日はありがとうございました。

 

(編集部)