学長・総長インタビュー

九州大学

有川節夫 総長

学生支援の環境を整え、
新たな「基幹教育」を通じて 意欲的で積極的な学生を育てる

今の大学を巡る状況


矢原 今の時代の大学の役割やあり方についてお考えをお聞かせいただければと思います。

有川 政府や各種審議会、財界などから時間を区切った要望、要請が、大学に対して出されています。最近はミッションの再定義が言われていますが、国立大学の法人化後10年間で今までにないやり方での大学改革を求められ続けています。

そのような状況が、結果的に研究者の研究時間の確保を難しくすることに繋がっています。国立大学の法人化と軌を一にして、日本の論文の生産性が減り始めた、という看過できない統計データもある状況です。

何故そうなるかと言いますと、教育に関しての様々な要望、要請に対して、予算削減の中でも大学人はきちんと応えようと、これまでより時間をかけて教育を行います。さらに競争的資金の獲得など各種の申請作業、ピアレビューのための審査に係る作業、また中間評価や自己評価などの対応に要する時間が増えていき、結果的に研究を行う時間を減らさざるを得ない。こういう状況を深刻に考えています。

国の予算では、医療費などの社会保障費の伸びが毎年1兆円を優に超えています。その伸張額より、86の国立大学の運営費交付金総額の方が低く、OECD加盟国と比較して国内総生産(GDP)に占める教育機関への公的支出の割合が極めて低い水準となっています。

昨年11月26日に文科省より出された「国立大学改革プラン」では、「自主的自律的な改善・発展を促す仕組みの構築」、「学長のリーダーシップの発揮」が言われています。

また、国立大学のガバナンス改革も求められています。政財界からは、法人化されても、国立大学の組織運営は何も変わっていない、学長や学部長の選定など従来通り教授会が行っていて、法人本部が行っていない、国立大学法人法に則るべきだ、という意見が出て、中教審大学分科会から「大学のガバナンス改革の推進について」が出され、国が法令改正等を検討し始めています。

しかし、大学における教育や研究に関しては、あまり悲観的に思っていません。学生は意欲もあるし能力も高い、先生方も活発な研究を実施されています。これまで大学改革の推進のために予算が削減され続けてきましたが、このままでは閉塞感が出てきてしまいますので、今まで減らされた予算をここで元に戻していくと、大学の状況は劇的に変わると思います。

グローバル化について

矢原 グローバル化への対応についてはいかがでしょうか。

有川 就任後すぐにスタートした「グローバル30プログラム」は今年3月で終了しました。しかしながらこのプログラムをグローバル化への対応として、「国際教養学部(仮称)」構想を準備として進めてきたので、今後の対応はしっかりできます。

また矢原先生にもご担当いただいている、優秀な学生を、俯瞰力と独創力を備え、広く産学官にわたりグローバルに活躍するリーダーへと導くための国の事業である「博士課程教育リーディングプログラム」もグローバル展開のチャンスになります。それに加えて本学独自のリーディングプログラムを、小規模ながら3件ほど実施しています。これは、国のプログラムを補完し、プログラムが終わった後も恒常化させていくことにも備えたプログラムでもあります。

矢原 グローバル化では、競争が激しくなる面が強調されがちですが、九州大学の場合、バングラデシュのグラミングループと提携して、ソーシャルビジネスという新しい考え方を取り入れています。グラミングループは、競争よりはむしろ協力をうまく生かしたビジネスをやっているところで、九州大学の新しいグローバル化のあり方として注目しています。

有川 はい、これはこれからの国際社会、グローバル化を考えていく上で極めて大事な取り組みで、数年後に大きな意味を持つものと期待しています。

九州大学の「基幹教育」

矢原 国内外の大きな状況の変化の中で、九州大学は基幹教育という新しい考え方で、学生の学びに今年から本格的に取り組み始めます。その基幹教育についてご説明願います。

有川 20年程前に殆どの大学で教養部を廃止しました。その後の状況の変化の中で、大学教育の論議を尽くして、やはり教養教育は大切だ、と再認識されるようになりましたが、受け皿の組織が実質解体してしまいましたので、平成23年に新たな教養教育を実施する責任母体として「基幹教育院」を設置し、教員の選考やカリキュラムの策定など2年半かけて周到な準備を行い、今年の4月から基幹教育が始まりました。

一番大事なのは、基幹教育により「学び方を学び、考え方を学ぶ」、つまりアクティブ・ラーナーを育てることです。

「学び方を学び、考え方を学ぶ」、そういう学びの姿勢を身に付けてもらう。知識を増やすだけでなく、知識を獲得する方法を身につけてもらう。そうすると積極性が出て、知らないことに遭遇しても知らないと言わない、「今は知りませんが勉強の仕方は知っていますので、ちゃんと勉強しておきます」と学部でも大学院でも、就職して社会に出ても言えるようになります。大学はすべてを教えるところではなく、学び方や考え方を学ぶ、学びの基本的な根幹、姿勢、態度を身に付けてもらう。これが基幹教育です。

矢原 皆でディスカッションしながら学生が学ぶ力を学ぶ基幹教育ですね。正解のある問題を与えられて解決するのではなく、自分たちで見つけた問題を考えていくプロセスです。この教育で、教員はどのような教え方をすれば良いのでしょうか。

有川 学生には入試やオリエンテーションでも〝学びのモード〟を変えると言っていますが、当然、〝教えのモード”も変わることになる、とも言っています。教え方には二つのことが大事だと思っています。
一つは今評判のMOOC(ムーク)のようなもので、授業を受ける前に自宅などで勉強できる教材や資料を予め指定して、事前学習をすれば、授業でも理解度が増し、さらに事後学習も行うようにします。そうすれば、日本人は学習時間が短いとよく言われていますが、それに対する積極的な解決になります。反転学習的なものを含めて行うというやり方です。

もう一つは、自分たちで回答のない問題を考えたり、課題自体を見つけたりすることに対しては、あまり多くの個別的なことを教えないことが重要だと思います。

物理系の学生が良い例です。彼らは本来専攻ではない分野についても自ら学びその答えを導き出します。ブラウザも物理系の人が開発したものです。「習わなくても調べればよいのでしょう」と、教えないことによる応用力の強化が見られます。

たくさんの中から一つ一つ教えるというよりも、ある種の体系化、一つ上の概念を教え、現存の目の前のものはそれの一つの実例としてある、それを幾つか触れておくと全体が分かる、そういう教え方ですね。物理の分野では無意識にそういう良い教育を行っており、そこにヒントがあると思っています。

九州大学の学生支援

矢原 私は学生に、実は今一番いい時なんだよと話しているのですが、学生は高齢化社会などいろいろな問題が情報として入ってきていて、どんどん時代は悪くなっているように思っているところがあります。

学生たちに生協としてはできるだけいろいろな支援をして、どんどん夢を持って羽ばたいていって欲しいと思っているのです。

学生がこの新しいキャンパスで生活していく上でのライフサポートにどう取り組まれていますか。

有川 ライフサポートについては、「キャンパスライフ・健康支援センター」で行っています。学生も大人も精神面で昔ほど頑健でないと言われていますので、そこを充実させていきます。

一方でスポーツメンタルは非常にポジティブな側面もありますので、伊都キャンパスでは、初期の段階から体育館やグラウンドを整備して、柔道場や最近では野球場も建設しました。

九州大学には、創立百周年記念事業の一環として寄附金等を原資とした「九州大学基金」があります。初代総長の名を冠した「山川賞」は優秀な学部学生を支援し、また若手研究者の経済支援、海外渡航支援を主要な柱として、年間予算は約2億5千万円です。

「山川賞」は年間10名程で、学生の可能性に対して支援し、審査を経て2年もしくは3年生から卒業まで、年間100万円が奨励金として支給されます。先日山川賞を受賞した学生に対して授賞式を実施し、学生と直接話す機会がありましたが、それは皆さん元気がいいんですね。彼等や21世紀プログラムの学生なども見ていると、学生が内向きだなんてとても思えない。

学生たちには何か新しいことにチャレンジしたいと思ったら、まず教職員に相談したり、本学のHPを見てもらいたいと思います。本学はそのような取り組みに対する支援プログラムが充実しています。例えば海外渡航支援もありますし、先生に随行して学会発表に行く、そういうことがしやすい環境を整えていますので、ぜひ活用していただきたいのです。また何か問題が起こったら、先程のキャンパスライフ・健康支援センターを尋ねていただければと思います。

生協への期待

矢原 九大生協では、いろいろな学内の取り組みで積極的に活動している学生のネットワークを作れればと思い、体育会の総務、『九大ウォーカー』制作グループ、パソコン講座グループなどの、リーダー格の学生に理事になってもらい、そこで横のつながりを作ろうと努力しています。また生協の取り組みもいろいろ課題を抱えておりますが、最後に総長から九大及び全国の大学生協に向けて、期待も込めてコメントを頂けないでしょうか。

有川 大学生協の取り組みは非常に着実であり、ユーザーの側に立っていると感じます。箱崎キャンパスでは学生と一緒に生協で食事をしていましたが、メニューは健康に十分注意していただいており、コスト面も考慮していただいているので、学生たちは安心して利用できるのだと思います。栄養士さんもいらして、カロリーなどもちゃんと表示されています。そのことは、健康なときはなんとも思わないでしょうが、やはり少し体調が悪く、食生活が気になったりすると、それを見て非常に有り難く思うでしょう。

一つの方向としては、「常に学生の皆さんを見ていますよ」、「皆さんのために生協はありますよ」、というメッセージを出していただければ、非常にうれしいと思います。これは本学だけの事ではなく、常に生協ほど学生の事を考えているところはないのだという感覚で付き合っていただくと良いのではないかと思います。

もう一つは、学生が主催する懇親会やパーティーなどについても、学生のために内容や料金を考慮した上で、対応していただければと思います。

この本学伊都キャンパスでは食事に関しては、イタリアンレストラン、中華レストラン、ベーカリーなどもあり、選択肢が沢山あることはいいことだと思いました。学内だけでなく、学外からも人が来てほしいと思います。そうすると平日と違った人の流れができ、その結果公共交通機関が充実するわけです。学生だけでなく、「一般の方もどうぞ」というような感覚があれば良いと思います。生協の場合、組合員である必要があると思いますが。

矢原 ありがとうございました。