学長・総長インタビュー

小樽商科大学

和田健夫 学長

「実学・語学・品格」の理念をもとに 同窓会とともに、
グローカルな人材育成を進める

日本の大学の状況認識

石黒 最近の日本の大学についての状況認識等をお教え下さい。

和田 高等教育機関の大学は大きな曲がり角、新しい転換点に来ていることは確実です。  

特に、教育や人材育成面で大学の役割が問われています。今までも大学は教育や人材育成をやってきましたが、改革でも何でも、とりくみを振り返って自分たちの成果を確かめて、次にどうするのか、というPDCAサイクル的な考え方が大学には欠けていました。  

特に国立大学は税金の比率が高い分責任も大きい。人材育成も自分たちのとりくみをきちんと踏まえて、いつも見直しをしながら次に進んでいく、それが今非常に強く求められていることだと認識しています。  大学は多すぎると言われます。大学進学率が50%と高まる中、少子化で大学生になる数が減っていますが、大学の数は依然として同じままで減ることはない。すると大学はこんなに必要なのか、特に私学と競合する国立大学の文系学部は、国立でやる必要があるのかとも言われます。  

しかし今の日本の状況では進学率50%でもまだ少ない。中教審も言うように、もっと進学率は高まっていい。特に北海道は進学率が非常に低いので、高等教育を受ける機会をもっと若者に与えるという大学の役割も残っています。その中でも時代に則した大学の意義や役割を考えて運営していかなければいけないと思っています。

社会的役割を果たす

石黒 若者の人口減もありますが、生涯学習と言われている点はいかがでしょうか?

和田 専門職大学院の数少ない成功例として、社会人の再教育を目的としたビジネススクールでしっかりやっています。

本学の毎年の入学者は道内比率が約96%に達し、北海道の若者を育てる大学になっています。出身地では7割近くが石狩で札幌が多いですが、それ以外の道内のいろいろな地域から受け入れています。経済的に困窮している学生を夜間主コースで受け入れています。

多様な入学者選抜で、商業高校からの受け入れ、夜間主コースの推薦入試など、北大とすごく違うところで、きっちり受け入れて、特に北海道の文系学部として、社会に必要な役割を果たしていると思っています。

小樽商科大の理念


石黒 大学運営にも関わりますが、本学の理念についてお話下さい。

和田 教育・研究のモットーは、「実学・語学・品格」です。  まず「実学」ですがこれには独特の意味があり、単に役立つ知識を集めるだけでなく、深い専門知識と、それを支える幅広い分野の知識を持った人間、いわゆるT型人材を育成します。学んだ知識・理論を用いて社会に生起する様々な課題の解決に取り組む意欲と能力を持った人間です。  

さらに、通り一遍の産業人ではなく外国語の能力に長け、品格をもった人材の育成を目指すという本学の前身・旧制小樽高等商業学校初代校長渡邊龍聖の方針で、伝統的に語学教育を重視し、品格の育成の一つとして教養教育にも非常に力を入れてきました。

単なるビジネスの商学でなく、商学以外の専門分野、人文・社会科学・自然科学も教え、語学教育では7外国語を学ぶことのできる多言語主義をとっています。  また学科の垣根も非常に低く、他学科の単位も取れる。ゼミも非常に柔軟で、他学科でも、語学の先生のゼミでも行っていい。自分の興味があるゼミ、一般教養のゼミなど自由です。ゼミではその分野を2年間深く極めるのですが、それ以外にいろいろな分野の勉強もでき、教養教育語学教育もきちんとやるリベラルアーツ的教育です。そこが総合大学の経済学部や商学部との大きな違いなのです。  

現在多くの大学で課題となっているアクティブラーニングは本学は実学教育のなかで以前からずっとやってきたのです。本学が伝統的に行ってきたようなリベラルアーツ的な教育は、今の時代の人材育成に非常に重要だと思っています。これをさらに時代に合わせて必要なところは変えていき、発展させていくのが本学の道であり、使命だと思っています。

グローカル人材育成

和田 本学は、平成25年度の「地(知)の拠点整備事業」(COC事業)に採択され、先代の山本学長が「№1グローカル大学宣言」を行いました。その具体化として今年4月より、「グローカルマネジメント副専攻プログラム」がスタートしたのです。

他大学のグローバル教育と違うこのプログラムの特徴は「グローカル」です。グローバルな視野を持った上で、常に自分の置かれている周りのことを中心にものを考えていく。自分の住んでいるところをどうやって発展させようかというような発想ができる人間を、マネジメント、経営やマーケティングなどの商学の分野を中心に育成するという、かなり特化した、小樽商科大らしさを出すプログラムです。

グローバルな視点を養うために、多言語教育を行うほか上級外国語や言語コミュニケーションなどの授業科目を配置して異文化理解を進めるほか、英語教育では、オンラインによる自習と対面授業をブレンドしたブレンディッドラーニングという新しい教育方法を取り入れています。加えて、マーケティングやビジネス、マネジメントの科目を英語で行うところが特徴です。

さらに重要なのが留学です。本学は、給付型で返還不要の奨学金により学生の留学を支援します。本学OBで元日本オラクル会長の佐野力氏の寄付による「佐野力海外留学奨励金」を設置し、「グローカル・マネジメント副専攻」の履修者のうち毎年60人に給付する予定です。

交換留学ではなく、提携校の語学研修や留学先のプログラムに参加する。ニュージーランドのオタゴ大学、マレーシアのマラヤ大学、ウィーン経済大学などビジネス関係のプログラム、アメリカの大学等、いくつか選択肢があってそこに短期間行きます。

またこのプログラムのもう一つの特徴は、グローカルなので、北海道についてのいろいろな知識、能力や認識、情報の共有、郷土を愛する心を育てる授業もやっています。

本学がもつ地域やOB、社会人卒業生のネットワークや人脈を、単に産学官連携だけではなく、学生の教育のために活かすことを、今まで以上に進めて行く。単に授業に講師として話していただくだけでなく、地域や企業の人たちと話しながら、どのような教育でどのような人材育成を図るのかなど、いろいろな意見交換をしながら授業設計もしていく。このような密接なネットワークは本学しかないので、それを活かして、グローカルとして地域密着の教育を伸ばしていける、これも大きな特徴です。

同窓会の応援が力に

石黒 商大のもう一つの特徴が、力強く支援してくれる同窓会ですね。

和田 ビジネススクール発足や寮建設にかなり大きなご支援を頂きました。今の大学の状況や将来について、普段からコミュニケーションを取って、同窓会と結びつきが強いのは、恐らく国立大学でも一、二でしょう。

本学の前身は、戦前の官立高等商業学校ですが、これらは、戦後の新制大学設立の時に、他の高等教育機関と合併して総合大学の経済学部・経営学部になった。そのため、同窓会は一学部の同窓会となって大学との結びつきが弱くなった。ところが、本学は、単独で大学になったために、同窓会も大学全体を支えるかたちとなって結びつきを強めたのです。

石黒 「最近の学生は留学や外国に関心がない」と言われるのですが、商大では留学は多いですね。

和田 留学はお金がかかるのです。親の経済力が高くない中では、留学が認められても、費用負担ができずあきらめてしまう。逆に財政的支援があれば、結構行きたい学生はいるのです。

石黒 そこでのOBの支援は大きいですね。 和田 学生支援の一つとして、交換留学中心に、同窓会からの基金から支援しています。それもあって、今の国際交流につながり、本学からの派遣留学も多いのです。

アクティブラーニング


和田 今実学教育で力をいれているのは、アクティブラーニングです。学外に学生を出して、グループディスカッション、プレゼンをさせるだけがアクティブラーニングではない。必要な知識や理論を学習した上で行わないと、教育効果は上がりません。座学や講義も必要で、それらの組み合わせなのです。先生それぞれの分野、歴史学、経済学など、科目によってもいろいろなやり方があるので、それを追求して研究開発していこうとしています。

さらに我々のやり方が効果的で役立つのか、自己検証だけでなく、外部の方に意見を求めて、他大学の方とも協力して、アクティブラーニングの普及拡大を考えています。いろいろな大学と共同で研究をするし、我々の施設や授業を見てもらい、情報交換することもやっていきたい。

英語教育であるブレンディッドラーニングも、語学教育の一つのアクティブラーニングの手法です。他大学への普及とともに、高校、中学、小学校などの英語に、我々の手法が役立つのであれば、自己満足ではなく、生徒のレベルにあわせて、初等中等教育にも普及していく。全国ではめずらしい特徴的な取り組みですので、社会科学系大学としてお役にたてる社会貢献として進める方針です。

生協に対して

石黒 生協には何かありますか?

和田 学生委員会が頑張っていますね。オープンキャンパスは、生協学生委員会に全面的にご協力いただき、本来大学がやることもやってくれていて、本当に助かっています。

また図書館と連携してデジタルサイネージに、「今食堂が空いていて、すぐ食べられますよ」など混雑具合を掲示するなど、新しいサービスもあると面白いですね。

確かに学生は本を買わなくなっています。生協の書籍売り場もあまり広くありません。しかし高等教育機関である大学の図書館も生協も、読書推進の取り組みは継続して進める必要があります。

インナーゼミナール大会が年に1回、各ゼミの発表を行なう場となっていますが、学生は報告が終わると帰ってしまいます。何か大会やゼミを盛り上げるイベントができると良いですね。

大学としては、大学を盛り上げることは生協と一緒に取り組みたいと思っています。

石黒 本日はありがとうございます。

(編集部)